『養鶏現場からの新型コロナウイルス猖獗騒ぎへの考察』

   

  鶏の伝染性呼吸器疾患の代表的なものとしてはニューカッスル病と気管支炎があります。

 ニューカッスル病は戦後昭和26年に弱毒のアメリカ型が埼玉県入間地方で発生しワクチンはあったものの不活化静注型だったそうです。一方の気管支炎は同29年に関東地方で大流行しました。その後しばらくは無事でしたが昭和40年代にかけてアジア型ニューカッスル病の猖獗に続いてコロナウイルスによる鶏気管支炎が大流行しました。

 気管支炎には当時サルスベリーのコネチカット型、オランダデュファのマサチュセッツ型の生ワクチンがありましたが、呼吸器型、腎炎型など変異も激しく対策に苦労しました。最後には当時、家衛試におられた椿原先生に教わって野外毒からワクチンを自制したりしました。そして昭和40年代に入って植物の方でウイルス同士の競合排除を利用したワクチンが作られるようになり当場でもH120株を使ってスプレーのよる野外毒の競合排除をはかってきました。ことほど左様に養鶏現場ではコロナウイルスとのお付き合いは長いわけです。

 まあ人間の方でもインフルエンザ以外のウイルス性の風邪の大半はコロナウイルスだと聞いていましたからサーズ、マーズの例こそあれこんなに世界的な大騒ぎになるとは思いませんでした。次なるパンデミックは鳥インフルエンザだろうと決めていましたから。

 それにしてもPCRなどによる検査体制が日本でこんなにも抜け落ちているなんて思いませんでした。もっとも人間様と違って鶏の場合は総て皆殺しのジェノサイドですから、われわれ鶏飼いにとってはあれだけの大騒ぎでも政治家は痛痒を感じなかったのでしょうね。

 思い返せば昭和29年の鶏気管支炎の流行も北関東でしたが今回の新コロナに先立つ風邪の流行が当地方で昨年秋にありました。(鶏の場合はアウトブレイクの前に必ずプレ流行があり、その点クラスター発症をつぶしていったのはいい作戦だと思ったのですが如何せん遅すぎた感じでした。)で私も家内もその時かなりこっぴどくやられました。もっともその免疫を期待して居るわけではありませんが今のところはまだ無事でいるようです。

 それにしても今度の新コロナウイルスは頭が良さそうですね、宿主の細胞の防御反応であるインターフェロンを味方につけて自分を活性化するふしがあるとかで、それがほんとだと自然免疫力の強い若い人の方がサイトカインストームにやられる事が多くなりそうです。年寄りは自然免疫力が弱い代わりに特異抗体はできやすい。若い人の3倍くらいあるのが普通です。大正7年からのスペイン風邪で2度目の流行では若い人の方がやられたのはそのせいだったのかもしれませんね、まだ仮説とはいえ今後の参考になりそうです。


令和 二年五月七日 記



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