私がこのペンソンに出入りするようになったのは、独居老人調査の初期の頃だった。その時は、一階と二階に住む特定の人だけを担当していた。彼らは自分で部屋代を払っているので、割合、よい部屋をもらっていた。ところが、援協のクライエントは部屋代も安いため、下のポロンに入っている。
 ブラジルに来て一年。かなりの惨状にも驚かないくらいの自信はついたはずだったが、このポロンの中へ入った時のショックは大きかった。牢屋のように鉄格子の入った小窓が、明かり取りのように開いているだけ。身をかがめて入った中にはベッドが四つ。出入口はボロ布で仕切ってある。手前に二つ小部屋があるが、そこも頭を低くしないと入れないような所で、窓は皆無。裸電球がわびしい。真っ暗な食堂で、このポロンの住民が共に食事をするのだが、そこにも、ベッドがぽつぽつと置かれ、人がゴロゴロと毛布にくるまってじっと寝ている。
 住人同志に会話はなく、三食付のペンソンなので、食べては寝るという生活らしい。一日中この穴ぐらの中にいたら、どんな正常な者でも少し気が変になるのではないかと思う。まだ少し気力のある者は、努めて外へ出ようとしているようだ。ある者は知人の家へ、ある者は仕事探しと称し、ある者は散歩へと出かける。


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