「魔のバイオリン」の魅力について 高野 獨源 ヴィオリーネ(伊)、ガイゲ(独)、バイオリン(英)、ヴィオロン(仏)、提琴(日、ただし明治時代)。 この楽器は三百年ほど前、突如として現在の形になって現われ、そのまま変わっていない…といっても過 言ではないだろう。確かにヴィオールと言って大きさに違いがあった時期もあるが、ずっと後の時代にな って、チェンバロやスピネットから、クラヴィコード、ハンマークラヴーア、ピアノフォルテと変遷した ピアノに較れば、「早くに完成した楽器」と呼んでも良いのかも知れない。 それにしても、弾く人によって、また楽器によって、随分と音の違う楽器でもある。その個性ある音の 持ち主が、曲によって異なるが、一つのオーケストラの中で、20〜30人が集まって、バイオリンパー トを形成する。オーケストラの中の最大パートであるのは言うまでもない。たいてい、第一バイオリンと、 第二バイオリンの二つにパートが分かれるが、それぞれのパート内でさえ、プルト(譜面台)の左右や座る 場所によって違う音を弾く場合も多い。まあ、両パート合わせて良くハモるバイオリンパートを目指さな くては行けないだろう。 弦は、低い方から、ソレラミと言う音程で調弦する。ビオラのドソレラより五度高い。弦は、昔は羊の 腸(ガット)そのままだったが、現在では、アルミが巻いてある。また、ナイロン・アルミ巻き弦、スチール 弦も多くなった。また、現在でも使わない人もいるが、顎当て、肩当ては、割と最近の発明らしい。パガ ニーニの頃には無かったと聞いている。それで良くも弾けたものである。と私などは思う。私も四年間肩 当て無しで頑張った事もあるが、無駄だった。序でに言ってしまうが、パガニーニの頃は、弦も今よりず つと細かったらしい。G弦は現在のD弦程度、D弦は現在のA弦程度の細さで、E弦にいたっては、糸 の様だったと言う事だ。きっと当時は、バイオリンの音量は今より小さかったのだろう。きっと弦もすぐ 切れてしまったに違いない。 バイオリンの値段について。これは良く言われているように、ピンからキリまである。ピンはストラデ ィバリ、ガルネリなど億単位である。安いのは、1万9800円の通信販売で教材まで付いてくる。教材 ビデオまで付いてくる事もあるようだ。ちょっと本体の品質が心配でもある。 しかし、値段はどうでも良い、と私は思う。せっかく良い楽器でも、その良さを発揮できない人もいる だろうし、安い楽器を美しく鳴らす達人もいる。自分の個性に合った楽器を探すべきだろう。えっ、君は 幾らのを使っているかって?…へっへっへ。白状すれば、約100万円位した。妻はもっと高いのを使っ ている。弓は30万円くらいである。「えっ。100万!走りもしないのに良く買ったね。」と車好きな友 達に言われたが、何と言っても耐用年数が長いのだから減価償却費は安い訳である。私のバイオリンは、 ドイツ南部のミッテンヴァルトで1791年に作られたものだ。これってモーツァルトが亡くなった年な のですね。ベートーベンはまだ20歳だった。頑張って、あと200年はもたせようと思っている。ただ 自分自身の方がそこまで持つかが問題である。 バイオリン原産地で有名なのは、何と言ってもイタリアのクレモナである。ストラディバリもガルネリ もクレモナでバイオリンを多数製作した。ドイツでは、ミッテンヴァルトが有名である。その他、フラン ス、ハンガリー、チェコ、そして我が日本などでも、良いバイオリンが製作されているようである。私も 作ってみようかと思った事もあるが、練習する方が先だと気付いてやめにした。 「魔のバイオリン」。個々のバイオリンは、それぞれ不思議な魅力を持っている。ぜひその一台一台に耳 を傾けて頂きたい。(終わり) この文章は、江東フィルハーモニー団報第27号(2000年6月発行)に楽器紹介として掲載された。