タイトル



第13話    サスケのサヨナラ
 初めて経験する肉親の死。入院してから僅か5日で逝ってしまった「父」に私達は動転していま
した。カミサンは入院する父をサスケと「いつものサヨナラ」のように見送ったのが最後だったんで
すからね。父の亡骸は、その日のうちに帰ってきました。仮通夜の祭壇の前に棺に入って眠って
います。すぐに大好きだったサスケを父に見せたくて連れて行こうとするのですが、どうしても家に
入ろうとしないのです。「どうした、サスケ?お前の大好きなお父さんだぞ。」と、いくら言い聞かせ
ても足を踏ん張って入ろうとしません。仕方なく私が抱いて父の棺のところへ連れて行きました。
「ほら、サスケ。お父さんだよ。」と父の顔を見せようとするのですが絶対に見ないのです。腕の中
でバタバタと暴れ出しました。後にも先にも、こんなサスケを見たのは初めてです。叔母が言いま
した、「犬は好きな人の死に顔は見ないんだってよ。」その言葉で今まで押さえていたものが吹き
出したように、止めど無く涙が出たのを覚えています。いつもなら外に繋ごうものなら「中へ入れろ
!」と大騒ぎするサスケもこの日ばかりは、大人しく外に繋がれていました。憔悴する母の代わり
に葬儀の手はずを叔父とともに進め、気がつくと時間は日付が変わっています。「あなた達、朝ま
で少し休みなさい。」周りの言葉に「ああ、サスケも寂しがってるだろうな。」と思い出し、カミサン
とサスケを連れ仮眠しようとしました。私はソファ−に横になり、カミサンは布団に入りました。とこ
ろがサスケが私のいるソファ−に上ってきて、しきりに私を追出そうとするのです。こんなサスケも
初めて見ました、自分の場所から動こうとしない事はありましたが私をどかそうとするなんてありま
せんでした。「なんだよサスケ!何かあるのか?」サスケがお気に入りのボ−ルか何かがあるの
かと思ったのですが、それは間違いでした。私の寝た場所は「父のいつもの居場所」だった
のです。私がどいた後、サスケは父の匂いの染み付いた枕とタオルケットを大事そうに抱えて泣き
出しました。「くぅ〜ん・・・きゅ〜ん・・・」と、こんな泣き方をするサスケもあの時が初めてでした。サ
スケの泣き声は一晩中続きました。あれが父に対するサスケの「サヨナラ」だったのでしょう。


 

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