「百円玉をおとして」 SEI

「チャリー―ン・・・・」
ふと僕はその音のした方向を振り返った。
そこに落ちていたのは百円玉だった。
さきほどジュースを五百円玉で買ったときに
ズボンのポケットにいれてあったのがどうやら落ちたらしい。
ここは新築の一軒屋が立ち並ぶ住宅地の路地で、
僕は家に帰る途中だった。
高校の授業をさぼり今日は親が家にいないので
たまには家で昼寝もいいかなんて考えていたときだった。
歩みを止めて百円玉を手に取りながらふと昔のことが頭のなかをよぎった。
小学生のときのことだった

僕はその日とても不幸な日だった。
学校へ向かう朝
どぶに落ち
学校へ行くと
女子に下着泥棒と間違えられ
そしてその帰り道 百円玉を落としたのだった。
幼きころの僕には百円玉は大金で
一日におこずかいとしてもらう十円を
一日一日と十日間ためお母さんに百円玉と交換してもらったのだ。
それがその前の日のことだったので
僕はとてもうれしく、
学校にお金をもっていってはいけないことをしりつつも ポケットにいれていたのだった。
友人達は一日百円が普通だが
僕の家はそのとき家計がくるしく
やっとの思いで僕におこずかいをくれていた。
だから百円玉を落としたときずいたときすごく焦った。
一日中歩き回って捜した。
そのうち夕焼けになって、五時のチャイムが鳴り響いた。
僕はしかたなく家に向かい始めた。
家に着いたとき、あたりはもう真っ暗だった。
母は帰るなり
「学校から帰ってきて、カバンを置きもせずにこんな時間まで何やってたの」
と 怒鳴り
その隣りで父は寝転がりながら
「まあまあ、男の子なんだしいいじゃあないか」
とにやにやして言った。

そんな一日も今ではいい思い出になっている。
その後、僕の家は父が出世し 以前よりずっと裕福になった。
しかし 母はお金のことや自分の服のことなどしか考えなくなって
父は仕事が忙しく家にはあまり帰らなくなった。
そして僕は家族とはほとんど会話をしていない。

あの不幸だと思ってた日は本当は幸せだった?

父も母も僕も自分以外のことを今よりずっと考えていた。

しかしそう考えたときある事にきがついた。
あの日も今も自分が不幸だって思っているだけで本当は幸せなんだ。
ただ自分がそう見ているだけで、ちがう方向の見方もできるってことを。

今、僕はようやくあの頃から歩み始めた。

さっき拾ったポケットに入っている百円玉を握り締め

僕は進む

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