2005年12月27日(火)「しんぶん赤旗」

共産党員差別やめます 新日鉄が約束
大阪高裁 労働者と和解


 新日本製鉄(三村明夫社長、本社・東京)が日本共産党員であることを理由に人権侵害や賃金差別を行ったのは不当として、広畑製鉄所(兵庫県姫路市)の労働者五人が是正を求めていた争議が二十六日、大阪高裁で和解しました。このなかで新日鉄は、反共労務政策や差別が断罪された神戸地裁判決を真摯(しんし)に受けとめ、思想信条による差別をなくすと約束。原告側の画期的な勝利となりました。

 同裁判をめぐっては昨年三月、神戸地裁姫路支部が判決を出しました。新日鉄が一九六〇年代から系統的な反共労務政策をとり、さまざまな差別・人権侵害を行ってきたことや、八九年の「第四クラフト」への配転は共産党員の隔離が目的であると認定しました。昇給面でも「最低レベルの処遇」であるとし、慰謝料の支払いを命じました。
 新日鉄は不服として控訴。原告と支援共闘は、三度の「全国総行動」を実施しました。新日鉄全事業所から、百七十四人の従業員・元従業員が自らも人権侵害・差別を受けたと社長へ要請書を提出。争議解決は新日鉄全体の問題だと主張してきました。
 和解後、原告団・弁護団が和解内容を報告。(1)会社は地裁判決の趣旨を真摯に受けとめ、今後、思想信条を理由とする差別的な処遇がないよう、憲法、法律、基本的人権を順守し、すべての従業員を公平、公正に処遇することを改めて約束する(2)約束が守られない場合、社員の相談を受けつけるために会社が〇三年に設置した「コーポレートライフ(内部監査体制の充実)相談室」を活用する―を報告しました。
 原告団長の井原達雄さん(68)は「会社が一審判決を受け入れて、人権侵害があったと認めたのは感慨深いことです。長年のたたかいがようやく報われました。この勝利は私たちだけでなく、あらゆる差別に苦しむ新日鉄で働く仲間みんなのものであると確信します」と喜びを語りました。

 ▼新日鉄広畑争議 世界有数の鉄鋼会社、新日鉄の兵庫・広畑製鉄所で働く共産党員五人が九八年に提訴しました。同製鉄所では六〇年代前半から、職場の野球チームや懇親会からの排除など日本共産党員への差別を行ってきました。エスカレートしたのは八九年。無法なリストラ反対と運動の先頭に立っていた共産党員らを“隔離職場”に強制配転。党員が四十年勤めて定年退職する際も送別会やあいさつすらさせないなど、異常な差別、人権侵害をくり返してきました。


2005年12月27日(火)「しんぶん赤旗」

“夢かなった”満面の笑み 新日鉄広畑争議 勝利和解
家族・仲間・共産党のきずなが力に


 新日鉄が日本共産党員への差別をやめ、従業員を公平、公正に処遇すると約束した新日鉄広畑争議。半世紀近くにもおよぶたたかいとなった原告たちの胸の内は…。(兵庫県・塩見ちひろ)

(写真)勝利報告集会で乾杯する原告と弁護団=26日、大阪弁護士会館

■原告の加藤雅巳さんの思い
 「世界の新日鉄を負かすのは夢のまた夢。それが今日、かないました」――勝利和解が成立した二十六日、原告の加藤雅巳さん(64)に、満面の笑みがこぼれます。
 加藤さんは十八歳で新日鉄に入社しました。以来、クレーンの運転士、検査工、オペレーターとまったく異なる職種を経験しますが、人一倍の努力で、高度な技術と専門知識を身につけ、一目置かれる存在になります。

■スパイを強要
 ところが、加藤さんが民青同盟と日本共産党に入った途端、差別が始まりました。賃金は、同期同学歴との差は年二百万円にものぼります。
 一九七〇年からは、足かけ三年にわたり、会社の保安課からスパイを強要されました。会社は、尾行や待ち伏せをくり返し、「将来がどうなってもええんか」と脅迫し、「奥さんの実家は専業農家やろ」と攻撃の矛先は家族にもおよびました。
 しかし加藤さんは節を曲げません。「自分への攻撃とたたかえないで、世の中をよくするためにはたたかえない」
 これらの事実を職場の日本共産党員たちがビラにして門前で配り、果敢に立ち向かいました。
 九二年、会社は加藤さんを“隔離職場”の「第四クラフト」へ強制配転します。そこで待っていたのは、過酷な塗装の仕事と卑劣な日本共産党員への人権侵害でした。
 「“隔離職場”に配転することで、長年培ってきた仕事の技術も、働くものの尊厳もふみにじられました。まるでおりのない牢獄(ろうごく)でした」
 労働組合に救済を訴えましたが、取り合ってくれません。「このままでは広畑の労働運動が失速してしまう」。加藤さんは翌九三年、強制配転の是正を求めて、兵庫県地方労働委員会に救済を申し立てました。

■実態次々告発
 「無謀や」「勝てるわけがない」と周囲の声。しかし加藤さんは新日鉄の人権侵害の実態を次々告発し、ついに会社は九七年、名目上、“隔離職場”を解体しました。
 地労委への申し立てのさい、加藤家では家族会議が開かれました。
 娘は「そんなことしたら、表を歩かれへん」と猛反対。決め手は、「僕がその立場やったら、やるかもしれへんな」という息子の一言でした。「うれしかったですね。家族の応援がなければ、裁判はできなかったな」とほおをゆるめます。
 「右も左もわからない」状態から始まった争議を勝利へ導いたのは、関西電力など長期争議の経験を学び、新日鉄の全九事業所の結束したたたかい、そして全国からの草の根の支援でした。
 「人間は弱いものです。でも、仲間、家族、日本共産党という強いきずなが最後までたたかい抜く力を与えてくれました。これからは争議で勝ち取った財産を生かして、いただいた支援を少しでも返していきたい」

■勝利した主な思想差別争議
1988年3月 党京浜製鉄委員会と34人が日本鋼管(現JFEスチール)と横浜地裁で和解。15年ぶり。
1995年12月 東京電力で働く1都5県の労働者165人が東京高裁で和解。19年ぶり。
1997年11月 中部電力の128人が名古屋高裁で和解。90人の原告とともに非原告も対象。22年ぶり。
1999年12月 関西電力人権裁判4人(95年最高裁で勝利)を含む101人が大阪地裁で和解。28年ぶり。
2004年3月 石川島播磨重工業の8人が東京地裁で和解。会社は約40年続けてきた思想差別を謝罪。
2005年4月 クラボウで働く2人が和解。二十数年ぶり。03年5月大阪地裁で勝利、大阪労働局が会社・役員宅を捜査、05年2月に書類送検。
2005年12月 新日鉄広畑製鉄の5人が大阪高裁で和解。四十数年ぶり。

■21世紀に思想差別通用せず

■解説
 二十六日に和解した新日鉄広畑争議は一九六〇年代以降、半世紀近く続いた日本共産党員や支持者を“企業破壊者”と敵視する反共労務政策が完全に破たんし、崩れ去ったことを意味します。
 日本の大企業の多くは「職場に憲法は通用しない」といって、日本共産党員への迫害や差別をてこに労働者支配をすすめてきました。

■マニュアルで党員リスト作成
 新日鉄は「厚生施設管理マニュアル」と題した極秘文書を作成し、日本共産党員や支持者とみなした者をリストアップ。「思想偏向者の把握」「特定新聞」「思想偏向者対策」「活動家の転向指導」などの項目で自治会や組合役員選挙、各種サークルでの活動、「しんぶん赤旗」などの購読について把握し、変節させるやり方まで記述しています。
 広畑の職場でも、上司が「党員をやめろ」とマニュアル通りに変節を強要。職場の野球チームから退部するよう勧告したり、仕事に必要なクレーンやフォークリフトの免許を取らせないなどの人権侵害がまかり通っていました。がんで医師から就業制限を受けて入退院をくり返していた党員に夏の炎天下に草むしりを命令。この人が亡くなると、工場長や職制を除いて、党員や支持者以外の同僚は誰一人として通夜も葬儀も参列しないという異常な事態でした。
 新日鉄は、円高不況を口実に八七年から大量の人減らし「合理化」を推進し、五次にわたるリストラで四万人を削減。広畑製鉄所では、労働者の半数以上、三千人強の人員を削減しました。労資協調を方針とする組合幹部を育成し、労働組合(鉄鋼労連加盟=当時)はことごとく「合理化」に賛成してきました。
 これに対し、日本共産党員たちは、会社の横暴勝手な「合理化」に反対し、雇用と地域経済を守れと訴えてきました。

■“隔離職場”でつづけた監視
 運動の広がりを恐れた新日鉄が設置したのが、“隔離職場”でした。
 八九年、製鉄所内の塗装や解体、製缶の仕事をするクラフトセンターに「第四クラフト」をつくり、共産党員たちを生産ラインからはずして、押し込めました。「第四クラフト」は、他のクラフトから詰め所も作業場も離れ、徹底した差別と監視を続けました。
 思想差別は、大企業職場で要求実現の先頭に立つ日本共産党員たちを排除し、労働者の団結を破壊して、自由にものがいえない職場をつくり、労働者全体の支配を強めるのがねらいです。
 昨年三月の神戸地裁判決は、新日鉄が共産党員の隔離を目的とし、系統的な反共労務政策をとってきた事実を認め、「共産党員であることを理由とする差別的な取り扱い」だと断じました。
 大阪高裁も、新日鉄が今後、思想信条を理由とする差別的処遇をしないよう憲法、法律、基本的人権を順守し、すべての従業員を公平、公正に処遇せよと勧告しました。
 新日鉄の職場はいま、極限までの人減らしによって重大災害・事故が続発し、大きな社会問題になっています。原告らが昨年六月に実施した「全国総行動」では、製鉄所を抱える、ある連合の地域組織幹部も勝利判決を喜び、激励しました。

■反共主義消滅が世界的な流れに
 世界をみても、国際労連(WCL)との統合を来年、予定している反共・労資協調主義を基本路線にしてきた国際自由労連(ICFTU)が、現行規約に明記している反共主義を意味する「あらゆる全体主義に反対」するという規定を削除。統合後の新国際労働組織の「基本原則」から、反共主義が消滅することになります。これは、労働組合が統一と団結をめざすのであれば、反共主義が原則となりえないことを示しています。
 自民党と民主党が競い合って改憲の動きを強めるもとで、思想差別をやめさせるたたかいは、国民の基本的人権と思想・良心の自由、法の下の平等、個人の尊厳を保障した憲法と労働基準法に依拠すれば勝利することを改めて証明しました。
 “前世紀の遺物”ともいうべき野蛮な思想差別の根絶と人間らしく働くためのルールを職場に確立するためにも、憲法を守るたたかいがますます重要となっています。(名越正治)


2005年12月27日(火)「しんぶん赤旗」

来年見直し 男女雇用機会均等法 間接差別・出産理由の不利益…
どう改善されるのか


 男女雇用機会均等法(均等法)がつくられて20年。しかし職場の女性差別は依然、根強く続いています。来年、均等法の2回目の見直しがおこなわれる予定で、審議会での検討が大詰めを迎えています。どんな内容で、問題点は何でしょうか。Q&Aでみてみました。

 問い どんな見直しが検討されていますか?
 答え 厚生労働省の労働政策審議会雇用均等分科会で検討されている内容は、▽間接差別の禁止▽妊娠・出産を理由とした不利益取り扱いの禁止▽男女双方に対する差別の禁止▽ポジティブアクションの効果的推進▽セクシュアルハラスメント対策などです。
 均等法ができてからの二十年間に、女性管理職は2・7%増えただけ、管理職に占める割合も一割以下にとどまっています。賃金は正社員でも男性の68%にすぎません。また妊娠した女性にパートへの転換や退職を迫るケースが増え、セクハラも、厚労省の雇用均等室に年間八千件近い相談が寄せられるほど深刻です。こうした実態を是正する実効ある改正が必要です。

 問い 主に何が問題になっているのですか。
 答え 焦点の一つは間接差別をどう規制するかという問題です。間接差別とは、一見「女(男)だから」という理由ではない基準や慣行だけれど、結果的に一方の性の労働者に不利益を与える差別のことです。直接差別を禁止した均等法ができて表立った差別は少なくなりました。でも男女の格差や差別をつくる仕組みが残されたり、新しくつくられたりしました。
 大企業を中心に広がった「コース別管理制度」などがそうです。全国転勤できるかどうかなどで、賃金も高く管理職になる総合職と、低賃金で昇進・昇格が限られる一般職などのコースに分けます。全国転勤が条件では、将来の結婚や子育てを考えると、多くの女性が総合職の選択をためらってしまいます。男性の十分な家事・育児参加が望める状況ではなければ、なおさらです。そのため総合職の女性比率は5%だけです。
 間接差別を禁止することは、国連の女性差別撤廃委員会からも繰り返し求められています。間接差別の禁止を法の上で明確にするのは当然のことです。ところが、財界が法に盛り込むことに反対したこともあって、審議会の案では、実効性が不十分なものになっていることが問題です。

 問い 具体的にはどういう内容ですか。
 答え 審議会の案は、間接差別として禁止する対象を▽募集・採用時に身長や体重を条件とする▽コース別・総合職の採用時に全国転勤を条件とする▽昇進における転勤経験を条件とする、の三つだけに限っています。
 そのうえ、この三点も企業の業務の上で必要だなどの判断がなされれば、禁止にならないというのです。例えば支店や支社が一つもない会社が、全国転勤の基準を用いてコース別で採用する場合は禁止されるが、そうでない場合は認められることになります。これでは現実に役立たないものになりかねません。対象を限定しないで、間接差別の禁止を明記すべきです。

 問い 差別の是正に大事なことは何ですか。
 答え 企業はもうけのために、いろいろな差別の仕組みをつくりだしてきます。最近では、コース別もやめて女性の多い一般職を派遣に切り替えたり、家庭責任を理由に女性が低く評価されがちな成果主義を導入したりする動きも強まっています。そうした事実上の差別に効果を発揮できる規制が必要です。
 そのためには、気軽に相談できる窓口を広く設置し、権限をもつ救済機関がすぐに差別を改善できる仕組みをつくること、企業側が差別でないというのなら、企業側に資料の提出や差別でないと証明する責任をもたせることなどが必要です。
 また前回の均等法改正(一九九七年)時に、女性の残業や深夜労働など労働基準法の保護規定がすべて廃止され、女性にも長時間労働や健康破壊が広がっています。家庭・生活との両立を難しくする長時間労働の改善や、働く女性の半数を超えたパートや派遣で働く人たちの平等な待遇確立も欠かせません。(日本共産党女性委員会事務局 米沢玲子)

 ▼男女雇用機会均等法 企業の募集・採用から配置、昇進、教育訓練、退職までの女性に対する差別を禁止した法律。一九八五年制定。当初は採用や昇進等が事業主の努力義務にすぎませんでしたが、九七年の改正ですべて禁止規定になりました。その際あわせて労働基準法の女性の時間外、深夜労働等の規制が撤廃されました。


2005年12月27日(火)「しんぶん赤旗」

大型店の郊外進出規制強化 経済財政諮問会議
経団連会長ら横やり


 二十六日の経済財政諮問会議で奥田碩トヨタ自動車会長(日本経団連会長)など四人の民間議員が「大型店の立地規制について」と題する意見を提出しました。まちづくり三法の見直しに関連し、政府・与党内で都市計画法の改定が、大型店の郊外進出を規制強化する方向で検討されていることに対し、「構造改革に逆行する」として異論を唱え、「改正法案の提出には慎重な判断が必要」と法改正の動きをけん制しました。
 大型店出店自由化を正当化する根拠となってきたまちづくり三法のもとで、周辺商店街だけでなく駅前などの中心市街地までが疲弊し、全国の商工業者や自治体関係者が同三法の見直しを強く求めていました。経済産業省の審議会合同会議が提言した同三法の見直しは、国民の意見公募も経て得た結論です。
 財界代表ら民間議員が、大型店の立地規制について「諮問会議、規制改革会議に関係なく、物事が決まりつつあるのは問題だ」などとして、横やりを入れるのは、国民的な論議を無視するものです。
 小泉首相は民間議員の意見を受け、同会議の場で与謝野馨経済財政担当相に対し、「大事な問題だから、場を設けてきちんと議論しなさい」と指示しました。


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