2005年12月14日(水)「しんぶん赤旗」
“安易な賃上げは禍根” 大企業は増益のなか 春闘、抑制の方針
日本経団連
日本経団連(奥田碩会長)は十三日、財界の〇六春闘の対策方針となる「二〇〇六年版経営労働政策委員会報告」を発表しました。景気が回復に向かい、トヨタ自動車など大企業各社が軒並み増収増益で内部留保をためこみ続けているにもかかわらず、「安易な賃金引き上げは将来に禍根を残す」などと厳しい姿勢を示しています。
経労委報告は、これまで「ベースダウンも労使の話し合いの対象」(〇四年)、「賃金引き上げの余地はほとんどない」(〇五年)と抑制姿勢をとってきました。
今回の報告は「企業の競争力を損ねることなく働く人の意欲を高める適切な舵(かじ)取りが望まれる」とのべ、個別労資に賃金決定を委ねるかたちをとっています。
これは企業利益が拡大し、労資協調路線に立つ大企業労組も、賃上げを要求しないと労働者の納得を得られない状況になっていることを踏まえた対応といえます。
同時に、報告は「横並びで賃金水準を底上げする市場横断的なベースアップは、もはやありえない」と断言して、「安易」な賃上げを戒めています。そして「賃金決定に際しては、総額人件費をもとに判断する」とのべ、短期的な成果は「賞与・一時金に反映する」と一貫して抑制の立場をとっています。
さらに定期昇給制度を見直し、成果主義賃金制度への移行を急ぐべきだと強調しています。
2005年12月14日(水)「しんぶん赤旗」
長時間労働・派遣の急増… これが「正しく強く」なのか
日本経団連の経労委報告
「経営者よ 正しく強かれ」。十三日に日本経団連が発表した経労委報告(経営労働政策委員会報告)の〇六春闘に向けたスローガンです。
「正しさ」とは、オープンでフェア(公正)に競争し、企業の社会的責任を果たし、経済の発展と人類の幸福に貢献するという「志」を持つことだと指摘。「強さ」とは、「人間尊重」と「長期的視野に立った経営」に対するゆるがぬ信念のもとに、自ら新たな価値の創造に繰り返し挑んでいく不屈の「気概」をもつことだといいます。日本経団連は、この「正しさ」「強さ」を持ち合わせているのでしょうか。
日本の大企業はこの数年間、「人間尊重」とはまるで無縁の雇用破壊をすすめてきました。管理職を含む中高年労働者への激しいリストラと新規採用の抑制で、正規雇用を切り捨て、派遣やパート、業務請負など不安定雇用への置き換えを強行。若者の二人に一人が不安定雇用で、極端な低賃金と無権利状態に置かれるという異常な働き方に陥れられています。
■空前の利益
トヨタ自動車の連続一兆円をはじめ、大企業各社がバブル(泡)期を上回る空前の利益をあげる一方で、労働者の賃金水準は連続ダウンし、貧困と格差の広がりが社会問題になっているほどです。フェアどころか、アンフェア(不公正)このうえない大企業中心主義がもたらしたものです。
長時間残業をさせて、時間外手当を払わない、れっきとした企業犯罪であるサービス残業について、根絶のためのまともな努力をせず、違法な労働者派遣や業務請負の急増にも目をつぶっています。この派遣先の多くは大企業です。こうした企業の犯罪、違法行為で多くの労働者が苦しんでいることに、もっと目を向けるべきです。
こうした違法行為を是正する姿勢もないまま、公正な競争をするという「正しさ」も、「人間を尊重」する「強さ」を叫んでも、白々しくなるばかりです。
経労委報告は、若者雇用について、「企業の社会的責任を果たす」ことを強調し、「企業もできるだけ既卒者を含む若年者に対して、長期的な雇用と能力開発の機会の提供を拡大」せよと唱えています。しかし、正規から非正規への置き換えをすすめてきた自らの責任には何らふれず、財界の無責任ぶりを象徴しています。
経労委報告はまた、景気が回復基調になってきたことを受け、国際競争力を強める「攻めの経営戦略」を掲げています。
そのために、労働者にはすべて犠牲を押しつける、いっそうのリストラ・人減らしを促進する構えを打ち出しています。
このなかで、とくに強調しているのが、労働分野での「規制緩和」と民間開放のさらなる徹底です。
■“民は滅ぶ”
労働者派遣法で、派遣期間の制限(三年)、製造業の派遣期間制限(一年)を早急に延長すべきだと強調しています。
何時間、何十時間働こうが残業代がつかず、青天井でホワイトカラー労働者をこき使うホワイトカラーイグゼンプション制度(労働時間の適用除外)の導入を昨年同様に主張しています。
日本経団連は、今年五月に具体的な提言を発表し、年収四百万円以上のホワイトカラーを対象にするといっています。
また、「企業が本来の力を発揮してより自由に活動できるようにするため、規制改革、行財政改革による民間への一層の機会拡大(市場化テストなど)や、公務員制度の改革を急がなければならない」と訴えています。
「正しく」「強く」との財界の報告は、“大企業栄えて民滅ぶ”という手前勝手ないい分です。労働者・国民との矛盾を広げるばかりです。職場には、賃金、労働時間、雇用をめぐって労働者の不安、不満がうっ積しています。
大企業が空前の大もうけを続けるなかでの〇六春闘で、労働者の正当な要求に背を向け続けるなら、企業のエゴとして社会的批判は免れません。(名越正治)
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