2005年10月4日(火)「しんぶん赤旗」

シリーズ 労働契約法制 非正規への置き換え加速
「試行雇用」で使い捨ての危険


 職場から正社員がいなくなっています。二十四歳までの若い世代では、非正規で働く労働者が45%にもなっています(二〇〇四年、総務省「労働力調査」)。
 UFJ総合研究所の調査では、平均年収(十五―三十四歳)は、正社員三百八十七万四千円に対し、パート労働者は百五万八千円。非正規で働く若者の72%が正社員になりたいと考えています(〇三年、内閣府「若年層の意識実態調査」)。
 労働契約法制研究会の報告は、低賃金と不安定な身分で働く労働者の願いに応えているでしょうか。
 リストラにより、全産業分野で常用労働者の不足感が拡大し続けています(〇五年八月、厚生労働省「労働経済動向調査」)。
 一方、大企業は史上空前の大もうけで八十二兆円もの余剰資金をためこんでいます。仕事もお金もあります。
 ヨーロッパのように、正規雇用が当たり前で、有期雇用(期間の定めのある労働契約)は例外であり、正当な理由がなければ契約できないというルールが必要です。

■理念を示すだけ
 報告は「有期労働契約は労使双方のニーズに応じて様々な態様で活用されているものであり、その機能を制限することは適当でない」と現状を容認。「有期雇用とするべき理由の明示の義務化」は必要ないとしました。
 「正社員との均等待遇」についても、「均等待遇が図られるべきこと」と理念を示すだけです。
 研究会では、“『均等待遇が確保されるべきこと』と定めると、同一労働・同一賃金原則に近い重い意味を付することになるから言葉遣いを慎重にすべきだ。就業の実態が同一であれば直ちに均等な待遇をするわけにはいかない”という、とんでもない議論がされています。(第二十六回研究会配布資料)
 報告は、これまでの裁判の判例を覆す「雇い止め」の合法化など、いくつかの提言をしています。なかでも重大なのは「試行雇用契約」です。
 「常用雇用となる契機となって労使双方に利益をもたらす」といいますが、実際は“正社員になれるかもしれない”というだけの有期雇用です。

■本採用願っても
 報告は、この制度の運用について、差別的理由や「試行雇用契約」をした労働者の正当な権利の行使(有給休暇の取得など)を理由にした「本採用の拒否はできないこととする」といいます。
 ところが、本採用されるわけではありません。違反した使用者へのペナルティーは、不利益を受けた労働者が「損害賠償を求めることができる」ことだけです。「本採用をしなければならない」と書くと、使用者への強制になるからだと、わざわざ断っています。
 使用者の無法は、“金で解決”、本採用を願う労働者は“門前払い”という制度が、労働者のためのものでないことは明らかです。
 しかも、適格性を判断するには長い期間が必要だから「期間の上限を定めない」としています。
 正社員になれることを期待して、低賃金・長時間労働に耐えてがんばっても、さんざん働かされたあげくに使い捨てにされる危険があります。こんな制度ができたら、正社員を初めから採用する企業はなくなります。


2005年10月4日(火)「しんぶん赤旗」

青年ら力合わせ労組結成 松下電器・請負会社の労働者
12時間労働 食事は5分 正したい


■富  山
 「いままで、ぼくらは会社の手のひらで踊らされていた。このままではいけない。生活を守っていくためには、みんなで会社と交渉していかなければ」―。富山県魚津市にある松下電器の半導体生産工場で長時間労働と低賃金に置かれている請負会社の青年たちが話し合って労働組合を結成したのは、八月初旬のこと。それから二カ月。二十代を中心に十数人の青年たちは、職場環境の改善を求め、「会社の不当な扱いを正したい」と力を合わせています。(酒井慎太郎)
 約千人の社員と六百人前後の請負労働者が働いている松下魚津工場。そこに約六十人の請負労働者を送り込んでいるアウトソーシング社(本社・静岡市)で、建交労富山合同支部アウトソーシング分会が誕生しました。
 「身を削るような過酷な勤務実態で、入れ替わりの激しい職場なんですよ」。勤めて三年半と最も長く、職場のリーダー的存在の村田智さん(40)は、こう指摘します。

■違法状態
 勤務形態は、朝九時から夜九時までの日勤と、夜九時から朝九時までの夜勤の二交代です。
 二回ある休憩時間の計一時間半を除いて、実働は十時間半。日勤で四日続けて勤務し、二日間の休み。次は夜勤を四日続けて、二日休む…。
 このような昼夜逆転の“四勤二休”が交互のサイクルを年間を通じて繰り返しています。
 この“四勤二休”体制が一時期にとどまらず続くため、労働基準法が定める一日八時間・週四十時間の上限を週で十二・五時間、月に約五十二・五時間も超える違法状態です。労働時間を労使の合意で延長する三六協定(労基法第三六条に定める時間外協定)を結んだ場合でも、協定の限度時間を超過します。松下の社員は法定内に収まる“二勤二休”体制です。
 アウトソーシングが魚津工場に送り込む請負労働者は、多いときで百人を超えます。北は北海道から南は沖縄まで全国各地からやってきますが、大半が厳しい労働に耐えられず、一週間程度で去っていきました。
 村田さんは独身で、秋田市内のガソリンスタンドの所長を務めていた三十五歳のとき、収入を増やしたいと請負労働に転職。富山県黒部市のYKK工場で二年働き、新聞の折り込み広告から今の請負会社に応募し、同工場に転職してきました。

■半地下の部屋
 クリーンウエアをまとい、「窓のない半地下のような部屋」で半導体基盤づくりの暗室での作業に携わる村田さんは、作業が休憩時間にずれ込む忙しさで、食事も五、六分ですますほどです。
 「常に動きまわり、止まっている暇もなく、疲れます。十キロ以上は歩いて、体重も三キロは落ちました」といいます。
 工場から車で約五分の距離にある、請負会社が借り上げたアパートで暮らしています。「夜勤はつらい。昼に寝たって、夜は眠い。疲れていても眠れません」。昼夜を交互に働く長時間の“四勤二休”のため、工場外の地域とのかかわりも、なかなか築けません。「県外から来て地元に縁がなく、休日はパチンコに行くぐらい。知り合いは会社の人間だけです」
 労働組合づくりが始まったきっかけは、解雇された請負労働者から、富山県労連の労働相談センターにかかってきた一本の電話でした。結成の当日にも、四人の労働者が加入。その後も数人の組合員を迎えています。
 相談の電話を受け、支援にあたっている同センター所長で、建交労県本部の辰口光萬書記長は話します。「多くの請負労働者は地元につながりがなく、労働実態は明らかになりにくい。『こんな働き方は許せない』と実態を告発し、大本の松下電器の社会的責任にまで迫っていかなければ」

■交渉を続行中
 村田さんは「請負会社は契約書や給料の不透明さや間違いなど、やり方のすべてがいいかげんだ」と指摘します。月に最多で十二回ある夜勤の深夜勤務手当は、定額の一万円から二万円しか支払われず、勤務実態に合わない手当です。
 労働組合は、違法な長時間労働の是正や、労働実態に即した賃金の支払いを求めて交渉を続行中です。村田さんは「学習を重ね、職場の請負労働者すべてを視野に、要求と組織を前進させたい」と語っています。
 ▼請負会社 メーカーなどの製造ラインや営業業務を一括して受託し、自社で業務遂行責任者を負うアウトソーシング(外部委託)型のビジネスをする企業。


2005年10月4日(火)「しんぶん赤旗」

子連れで求職 気兼ねなく
厳しい復職 女性を支援


■マザーズハローワーク厚労省が予算概算要求
 子育て中に復職を目指す女性の就職活動を支援しようと、厚生労働省は「マザーズハローワーク(仮称)」をスタートさせる方針を決めました。全国十二カ所ある「両立支援ハローワーク」の名称を新しくするもので、このため二〇〇六年度予算概算要求に十二億円を計上しました。候補地の一つ、しぶやワークプラザ(東京都渋谷区)で就職事情を聞きました。(大谷 直)

 渋谷の中心部、センター街から少し離れたオフィスビスに構える、しぶやワークプラザ。明るく清潔感あふれるフロアに入ると、ずらりと並ぶパソコン端末機が目に飛び込みます。

■遊び場も隣接
 そこから少し離れた一角にある、畳二枚ほどのこぢんまりとした「チャイルドルーム」。ベビーカーと本や積み木など遊び道具がそろうこのスペースは、子どものそばでも求人情報を見られるよう二〇〇一年に作られ、二台の端末機械も設置しています。同室長の平野國利さんは「訪ねてくる求職者の多くは気が張っている。子連れの方に情報を気兼ねなく見てもらい、ほかの人の迷惑にもならないよう配慮した」と話します。
 都心のターミナル駅近くという場所がら、在職のまま転職先を探す人が多く、六割は女性の利用者です。子ども連れの女性は、一日平均で二人から三人程度です。開庁時間を延ばした土曜日には、夫と子どもの三人連れで来るケースもあります。昨年、相談窓口で就職先を紹介した三万四千人のうち、実際に就職したのは三千三百四十三人と一割にとどまり、再就職が厳しいことがうかがえます。幅広い年齢の相談者に、「転職を迷う人の背中を押したり、逆に中高年には現実の厳しさも伝え、とどまらせたり。よろず相談」と平野さん。フロア全体には五十六台の端末機、相談活動を支えるスタッフ二十人のうち、半分が非常勤職員です。

■座席ゆったり
 厚労省がマザーズハローワークをスタートする背景には、女性の社会進出が進むなかでも、一人目の子どもを出産する際に離職する女性は67%にのぼり、「仕事と子育ての両立」が依然として難しい現状があります。〇六年度概算要求では、相談態勢などの強化を盛り込み、一施設につき相談員(非常勤)二人を増員。「毎回、人が変わる」などの苦情があったとして相談員には担当制を導入します。さらに、子どもと一緒に座れるよう相談スペースにゆとりを持たせるなどレイアウトを変え、地方自治体と協力して保育所の空き情報なども充実させる予定です。
 ワークプラザの現状は、子育て中の女性のほとんどが、自分で預け先を確保してからハローワークに来て就職先を探すといいます。平野さんは、「働く母親を支援するには、企業や保育所を所管する自治体などと横の連携を強める必要がある」と指摘します。
 マザーズハローワークが設置されるのは、札幌、仙台、千葉、東京、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸、広島、福岡、北九州の十二カ所。利用は無料で、〇六年四月スタートの予定です。


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