2005年9月29日(木)「しんぶん赤旗」
シリーズ 労働契約法制 嫌なら解雇か裁判か 労働条件変更に新制度
厚労省の研究会報告
労働契約法制研究会が報告で提言した「雇用継続型契約変更制度」にも批判が高まっています。
耳慣れない制度ですが、具体例でいうとこうなります。
―ある日、使用者が「パート勤務に変わってもらいたい」とか「勤務地を変えてほしい」と、個別の労働条件変更を労働者に申し入れます。一定期間、両者が話し合いましたがまとまりません。
そこで使用者は再度、労働条件変更を通告し、「嫌なら解雇」と予告します。労働者は「熟慮」期間の後、次の三つの選択肢で態度を決めます。
(1)労働条件変更に従う(2)解雇を選ぶ(3)一応、変更に従うが、納得がいかないので労働条件変更は無効という裁判をおこす。
裁判を選ぶと、切り下げられた労働条件で働きながら会社と争うことになります。
■導入反対が多数
同研究会の意見募集では、導入反対が圧倒的に多数でした。
「労働条件の不利益変更か解雇かの選択を労働者に求めることは、あまりに経営者を優遇し、労働者に過酷な道を押しつける。労働者が労働条件変更を認めないことを理由とする解雇を禁止すべきである」などです。
報告は、このような批判に耳を貸さず、使用者からの労働条件切り下げ提案に伴う解雇、紛争が多発しており、在職のまま裁判できるようにすることが労働者保護になると強弁します。使用者からの一方的な労働条件切り下げを認めることを前提にしています。「嫌なら解雇」は、解雇の自由化につながります。
■裁判になったら
同研究会はこの制度導入にあたり、ドイツの解雇保護法を参考にしています。
しかし、ドイツの法は名前の通り「解雇法」であり、前記(3)のケースでの裁判では、第一段階で、解雇が社会的に正当かどうかが判断されます。
仮に解雇が有効でも、第二段階で、使用者は、労働条件変更が労働者が甘受しなければならない範囲であることを立証しなければなりません。使用者が裁判に勝つことは困難です。(参考=鴨田哲郎「ドイツにおける解雇訴訟の実務」・労働弁護団『季刊・労働者の権利』二百六十号)
これに対し報告は、労働契約の変更に応じれば雇用を存続してもよいと認めているから、解雇問題ではないという立場です。裁判では、第一段階の解雇の正当性の審査は行わず、労働条件の変更が法的に有効かどうかだけが争われます。
ヒルトンホテル事件では、大幅賃下げか解雇かを迫られた労働者が「争う権利は放棄しないが、会社の示した労働条件をとりあえず承諾する」と会社に通知したところ、“本心の同意でない”と解雇されました。東京高裁は、経営状況の関係で労働条件の変更はやむをえず、雇用を義務づけることは使用者に酷であるとして、解雇を有効としました。
報告の提言は、このような不当判決を労働契約法にとりこみ、労働者が嫌でも労働条件の切り下げを受け入れざるをえなくなる制度をつくろうとするものです。
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