2005年9月14日(水)「しんぶん赤旗」

「労働契約法制」 財界は何狙う

 労働者をより安く便利に使えるように、財界、厚生労働省が労働法制全体の見直し、改悪に本腰を入れています。労働契約法という新しい法律をつくる動きはその一つ。十二日に、法律の内容を検討していた研究会が最終報告をまとめました。その中に盛り込まれた財界のねらいを見てみます。

■労基法を邪魔もの扱い

■ゆるいルールに
 いまなぜ労働契約法なのか。成果主義による賃金・労働条件の個別化、非正規雇用の増加、労働組合の組織率の低下など、働く環境がどんどん悪くなっています。この状況に対応して、労働者が会社と対等な立場で、自由意志で労働契約を結ぶシステムをつくることは重要な意味があります。
 労働組合などからは、契約内容についての最低基準をつくれという要望も出ています。
 ところが最終報告は、労働者の採用から労働条件の明示、変更、出向、転籍、解雇にいたるまでの考え方を書いていますが、労働者を守ろうという立場はまったくありません。
 基本にすえているのは、いかにして労働者を労働基準法の保護の下から切り離して、企業に都合のいい「ゆるいルール」の下に移すか、という考えです。
 報告は、労働契約法制の基本的性格について、消費者契約法などと同様の「民法の特別法と位置付けられる」として、労働基準法とは「別の法律として定める」とのべています。
 労働者保護の立場にたつ労働基準法は、これに違反する企業への罰則や監督指導が厳しくて、財界にとって労働者を思い通りに使えない迷惑な法律。サービス残業が各地で摘発されていることを逆うらみして、労働基準法への攻撃を強めています。そこで労働基準法の重要な部分を、罰則や監督指導がないゆるやかな民事の契約に性格を変えることが、契約法制の最大のねらいです。
 日本経団連は、労働契約法制について、「たとえ違反に罰則がともなわないものでも、法律による規制の追加は労使自治、規制緩和の動きに逆行する」(二〇〇五年版経営労働政策委員会報告)と注文をつけていました。

■労働者の解雇「自由化」

■裁判に負けても
 「保護」から「契約」へ、性格を変えたい大きな問題の一つは、労働者の首切りを「自由化」することです。
 最終報告は、この点を露骨に主張しています。労働基準法の解雇を規制する条項は「罰則になじまず」「新たに定める労働契約法制に移すことが適当である」と、そのものズバリです。
 小泉内閣と財界は、二〇〇三年の労基法改悪のさい、原案に「解雇できる」という項目をもりこみました。これに労働組合、法曹界、日本共産党などが猛反対し、結局、国会提出前にこの項目の削除に追い込まれました。そして逆に、客観的に合理的な理由がなく、社会的通念からみて相当だと認められないときは、解雇を「無効とする」という項目がもりこまれました。
 このいきさつから政府、財界は、なんとかしてこの規定を骨抜きにしたいと考えています。最終報告は、自由に解雇できるようにするために二つの制度の導入を提言しています。
 一つは、解雇の金銭解決制度です。裁判で、解雇無効の判決が出ても、金さえ払えば解雇が有効になるというものです。もう一つは、賃下げなどの労働条件切り下げを一方的に通告し、いやなら解雇か裁判かを労働者に選ばせるという制度です。
 裁判を選ぶと、労働条件の切り下げを受け入れたうえで、働きながら会社と裁判をたたかうことになります。現に働いている会社を相手にどれだけの人が裁判に踏み切れるでしょうか。裁判費用や時間、労力を考えるとなおさらです。

■労働時間は企業の勝手

■残業代払わない
 「保護」を「契約」に移したいもう一つの重要なテーマは労働時間規制です。
 この問題について最終報告は、労働者の「自律的な働き方」への対応として、「労働契約法制を制定する際には、併せて労働基準法の労働時間法制についても基本的な見直しを行う必要がある」とのべています。そして「労働時間を含めた労働契約の内容」を労使で決定できるようにするといいます。
 労働時間規制の見直しは、いま財界が中心にすえている主張です。
 “ホワイトカラー・エグゼンプション制度をつくれ”と、繰り返し政府に要求しています。
 “事務系労働者を労働時間規制の対象から除外し、際限なく働かせ、残業代を一円も払わなくてもいい”というものです。
 六月に発表した日本経団連の「ホワイトカラーエグゼンプションに関する提言」は、年収四百万円以上で同制度の対象者になるとしています。
 この意向に沿って、厚労省が、労基法に“ホワイトカラー労働者を労働時間規制から除外する”という条文を入れるための準備をすすめています。
 最終報告が主張している労働時間規制の「見直し」は、まさしく日本経団連の提言の方向で、罰則がうるさい労働基準法から労働時間規制を切り離して、企業の勝手にできる労働契約法制に移そうという考え。ずるいにもほどがあります。

■日本経団連の労働行政批判
 「最近の労働行政は、企業の労使自治や企業の国際競争力の強化を阻害しかねないような動きが顕著である」(日本経団連『二〇〇五年版経営労働政策委員会報告』)


◆e-mail address: ご意見・コメントは下をクリックして下さい

『スパーク』へ意見・コメントを送る