2005年3月1日(火)「しんぶん赤旗」
主張
過労死の防止 健康守る責任なぜ後退させる
労働安全衛生法や労働時間短縮促進法など4つの法律の「改正」案を、政府は、一括して国会に提出しようとしています。しかし、働く人たちの命と健康を守る企業の責任を後退させる内容になっています。
過重な労働による健康障害を防止するため、長時間残業する人に医師の面接指導を受けさせるといいます。といっても、企業が義務を負うのは、残業が月100時間を超え、本人が申し出た人だけです。これは、過労死防止の行政の後退を意味します。
医師の面接指導が必要
2002年に出された過労死防止の通達は、残業が月45時間を超えれば事業者が医師の助言指導を受ける、月100時間を超えるか2―6カ月間に月平均80時間を超えれば、労働者に医師の面接指導を受けさせることを義務づけていました。
それを、申し出た労働者に限定すれば、過労死予防は有名無実となります。成果で競わされる労働者が、申し出るには勇気がいります。
最高裁判決でも「使用者は…労働者の心身の健康を損なうことがないように注意する義務を負う」と明確にされています(電通過労自殺事件)。健康の確保は企業の責任です。通達を後退させず、長時間の残業を削減し、過重な労働をした人に医師の面接指導を義務づけるべきです。
労働時間を年1800時間に短縮する目標を掲げた時短促進法の廃止も重大です。労働時間の設定を「多様な働き方」に対応したものに改善する法律に改めるといいます。
04年の労働時間は年1806時間ですが、これはパートを含む平均です。一般労働者は2040時間で、10年前よりも長くなっています。不払い残業もまん延しています。
週50時間(年間2600時間)以上働く人は28%に達し、欧米など主要13カ国中、日本が一位です。国際公約としてきた時短目標を廃止する理由はどこにもありません。
労働者が健康を保持し、介護、育児の責任を果たせるようにするために、最も重要なのは長過ぎる労働時間の短縮です。
時短目標を放棄すれば、長時間労働がさらに横行することは目に見えています。過労死の不安をなくし、少子化傾向を克服するためにももっともっと時短に力を注ぐべきです。
なぜこんな形で労働行政を後退させようとするのか。そこには働く人たちの健康や家庭は眼中になく、企業の利潤しか考えない財界の身勝手な要求があります。
日本経団連は「過重労働による健康障害防止措置の見直し」を求めてきました。面接指導を義務づける厚労省の原案に反対し、交渉して「本人の申し出などがあったケースとされた」(「日本経団連タイムス」1月13日付)とのべ、圧力をかけて変えさせたことを認めています。
時短目標も「時代にそぐわなくなっている」と審議会で主張してきたのが財界代表です。
人間らしい働き方を
過労死や過労自殺が社会問題となる日本の労働現場は異常です。労働者の健康と安全は働く上での根本条件です。人間らしい尊厳ある働き方を意味する「ディーセント・ワーク」がいまや世界の労働基準です。ILO(国際労働機関)が21世紀の中心的な目標としているからです。
日本の労働安全衛生法も、労働条件の改善を通じて「労働者の安全と健康を確保する」ことを企業の責務と明記しています。
労働者が健康で人間らしく働けるようにすることは政治の使命です。
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