2006年4月26日(水)「しんぶん赤旗」

住金の女性 差別に勝った 「処遇に配慮」明記
大阪高裁 一審上回る和解内容


 女性というだけで賃金や昇進で差別されていると住友金属工業(大阪市)を相手取り、社員・元社員の四人が差額賃金などの損害賠償を求めていた裁判は二十五日、大阪高裁で、同社が四人に総額七千六百万円を支払うなどの内容で和解が成立しました。女性側勝利の大阪地裁判決(昨年三月)を上回る内容での勝利解決となりました。

 井垣敏生裁判長は和解勧告で「企業内に賃金、処遇等での男女格差が適正に是正されたとは言いがたい現実がある」とし、「大企業で意識改革への取り組みがすすむことは社会的にも大きな意義をもつ」と指摘。和解条項に、改正均等法の趣旨を踏まえ、在職の三人を含む女性労働者の処遇に十分な配慮をすることが盛りこまれました。
 四人は支援者がつくった、「誇り」の意味を持つ深紅のバラのコサージュを胸につけて記者会見。「地裁判決を上回ってうれしい」(井上千香子さん)、「女性の歴史を一歩すすめた」(笠岡由美子さん)、「男女格差の是正にただちにとりくんでほしい」(黒瀬香さん)とほほを紅潮させて思いを語りました。
 「大企業を相手に原告の女性が歴史的大勝利をおさめられたのは言葉で言えないうれしい内容です」と涙ぐんだ北川清子さん(九九年定年退職)は、「たたかいぬいたことを誇りに思っています」と満面の笑顔。踏みにじられても春には力強く芽をだす若葉の色に女性のたたかいの歴史を重ね、もえぎ色のジャケット姿でこの日を迎えました。
 地裁判決は、男女格差が、女性を学歴や仕事に無関係に最低ランクに処遇する、従業員に隠した「闇の人事制度」によるものであり、違法と断罪。総額約六千三百万円の支払いを命じましたが会社側が控訴していました。
 住友金属は和解について「差別の実態はいっさいないが、大所高所にたって紛争解決を図ることが望ましいと判断した」としています。


2006年4月26日(水)「しんぶん赤旗」

いつも最低ランクに評価され… たたかい10年余扉をこじ開けた
住友金属の女性たち


 大阪地裁判決が昇進・賃金の男女差別を違法と断罪してもなお「女性差別はない」としてきた住友金属工業が、ついに差別を認めた判決を受け入れました。「女性というだけで差別されるのは許せない」とたちあがった四人の女性たちの十年以上におよぶたたかいが、日本を代表する大企業を追い詰め、歴史的な勝利解決をかちとりました。
(大阪府 小浜明代)

 「『絶対にあきらめない』という思いで、思いつくあらゆることをしてきました」。訴えた女性の一人、北川清子さん(66)=一九九九年定年退職=は、配った何十種類ものビラを広げながら、たたかいを振り返ります。
 訴えていたのは高卒で事務職採用された北川さん、井上千香子さん(56)、笠岡由美子さん(51)、黒瀬香さん(49)。

証拠を隠し
 同社では同じ高卒事務職採用でも、男性は勤続二十三年目までに約九割が「管理補佐職」に昇進します。一方、女性は勤続三十年でも四ランク下の「専門執務職」どまり。
 北川さんの場合、年収格差が同期の男性とくらべ、五百万円、退職金で千三百万円にもなります。仕事が評価されて役員賞や部長賞をうけた年でさえ、能力評価は普通以下の「C」や「C+(プラス)」。「女性はみんなC評価だよ」という人事室長の言葉は許すことのできないものでした。「気がつくと仕事を教えた男性が上司になっていた」と笠岡さんもいいます。
 「こんな差別は許せない」と労働省大阪婦人少年室(当時)に調停を申請したのは一九九四年。全国初の調停開始となりましたが、調停案が会社の言い分をそのまま認めるものだったため、九五年に大阪地裁に提訴しました。
 裁判では、差別を裏付ける「闇の人事制度」が明るみに出ました。事務職を「イロハニホ」の五段階に分け、女性は仕事や学歴に関係なく「ホ」の最低ランクの処遇に押し込めるという「制度」です。しかも、その事実を隠すために会社が不利になる証拠を隠していたことも発覚。〇五年三月二十八日の大阪地裁判決は男女格差は「闇の人事制度」によるものであり、違法と断罪しました。

屈辱的日々
 同社は以前から結婚・出産後も働き続ける女性には徹底的に嫌がらせをしてきました。
 北川さんは結婚し、子どもを産んでも働き続けた女性の第一号。産休明けで出勤すると上司に、「犬猫でも自分で子どもを育てる。君は犬畜生にも劣る」とののしられました。一年半ものあいだ仕事が与えられなかったり、職場八分にされるなどの屈辱的な日々を強いられました。他の女性も新婚旅行からかえってくると自分の机が地下の廃棄物倉庫に捨てられていたり、「壁のシミはいらない」とセクハラ発言をされた人も。たくさんの女性が泣く泣く辞めていきました。つらい思いをした女性たちが当時を証言し思いを伝えてくれました。
 二年前に発足した「勝たせる会」は月一回ビラを発行。毎月、大阪市内にとどまらず、東京本社前などでも宣伝し、要請はがきや政府、国会議員などへの要請行動に取り組みました。

「耳疑った」
 国会では日本共産党の石井郁子衆院議員がとりあげ、南野法相(当時)が「耳を疑った。女性を応援しなければ」と答えています。大阪府議会では日本共産党の阿部誠行府議の質問に、太田房江知事は「それが事実ならば許されない」とのべました。
 北川さんはいいます。「私たちは結婚という第一の扉、出産という第二の扉をこじあけてきました。そうしたたたかいの歴史があったからこそいまがあります。勝利解決を次の世代に引き継ぎ、女性も男性も希望の持てる職場と社会の実現にむけ、これからも歩み続けていきたい」


2006年4月26日(水)「しんぶん赤旗」

均等法「改正」案 転勤条件に昇進差別
政府 対象として検討せず


小池質問で明らかに
(写真)質問する小池晃議員=25日、参院厚生労働委

 日本共産党の小池晃議員は二十五日、男女雇用機会均等法(均等法)「改正」法案について審議している参院厚生労働委員会で、全国転勤を昇進の条件にしているなどさまざまな要件を課して間接的に女性差別をしている例をとりあげ、法案の不備をただしました。
 小池議員がとりあげたのは、全国社会保険診療報酬支払基金の例です。「支払基金」では、係長から課長への昇進の際の条件として「全国転勤要件」が課せられ、女性の課長への昇進が阻まれています。四十五―六十歳平均で一人当たり千三百万円の賃金差となり、退職金や年金の格差にもつながっています。
 小池議員は、「昇進にあたって、転勤経験を要件としている企業がどれだけあるのか」と質問。北井久美子雇用均等・児童家庭局長は、調査をしたことがないことを明らかにしました。
 審議されている均等法案は、こうした「間接差別」について省令で、(1)募集・採用における身長・体重・体力(2)総合職の募集・採用における全国転勤(3)昇進における転勤経験の三つに限定して禁止するとしています。
 小池議員は、募集・採用時の全国転勤要件と、支払い基金がとっている昇進との際の全国転勤要件の違いはどこにあるのかをただしました。北井雇用均等・児童家庭局長は「法案は募集・採用時の要件で、全国転勤が昇進の要件である支払い基金の場合とは異なる」と答弁しました。
 小池議員は「募集・採用という雇用の入り口か、昇進時かの違いだけで、どちらも明確な『間接差別』ではないか」と批判。北井雇用均等・児童家庭局長は「昇進時の全国転勤要件は、労働政策審議会において、議論がなく、そのため対象としなかった。今後の省令の検討見直しにおいて、この件を、検証の対象としていきたい」と答弁しました。また、北井局長は、支払い基金の調査を約束しました。
 小池議員は、「こんな大事な問題を議論がなかったですませるのか。重大問題だ」と至急に検討することを要求しました。さらに「限定列挙ではなく、例示列挙にすべきだ。間接差別をできるだけなくすという法の趣旨からも、法案の重大な問題点として修正を求める」と要求しました。


2006年4月26日(水)「しんぶん赤旗」

“あなたを忘れない”
JR西脱線事故1年 犠牲者を追悼


 「あの日を忘れない」―百七人が死亡し、五百五十五人が負傷したJR福知山線脱線事故から一年目の二十五日、福知山線沿線の各駅では「思いをつなぐ連絡会」の人たちがメッセージボードを設置し、「あの日の澄み渡っていた空」をイメージした手作りの「空色のリボン」を配りました。犠牲者を出した各大学や、現場に近い兵庫県尼崎市内では、追悼のコンサートや「夕べ」が開かれました。
 事故発生時間の午前九時十八分。ほぼ同時刻に現場を通りかかった電車は、警笛を長く響かせました。献花台の前では喪服の人々が頭を下げて黙とうします。
 献花台を訪れる人は途切れず、若者が目立ちます。中学校の同級生で事故で亡くなった佐々木麻美さんに、看護学校の二年生(19)は「患者さんをまかせてもらえるようになったよ」と献花台で近況報告しました。一緒に来た友人の男性(19)は、「今日また夢で脱線事故が起きて目がさめました。事故のことを考えると頭が真っ白になる」と言葉少なです。
 龍谷大学二年の男性(19)は、高校の同級生で当時、神戸学院大一年だった片瀬朗さんに、「一年たったけど、天国で楽しくやってる?」と話しかけました。「事故の一週間前にみんなと一緒に焼き肉を食べたのが最後になりました。『大学どう』と聞いたら『友達がやっとできた。楽しくなりそう』と言っていたのに…」
 現場から離れた尼崎駅前のメッセージボード。「ずっと友達だよ。何年たっても何十年たっても友達だった私をおぼえていてね」「あなたの優しい笑顔、忘れません」「これからも君と生きたい」。びっしりと書きこまれているのを見た若い女性が、花束を手に泣き崩れました。
 「今日一日胸につけることで、事故を覚えていてほしい」…。尼崎駅の改札前では喪章を付けたJR職員が深々と礼をするなか、「空色のリボン」が配布されました。出勤途中のサラリーマンなどが次々と受け取ります。
 「あの日にかえりたい。沿線に住むすべての人たちの思いです。今日は悲しい一日です」―新たなメッセージがボードに書き加えられました。


2006年4月26日(水)「しんぶん赤旗」

あの子、なぜ居ないの JR西脱線事故1年 遺族は納得してない
娘はまだ安らかに眠れない


 娘は、なぜ死ななければいけなかったのか―。JR福知山線の脱線事故から一年。一人娘の中村道子さん(当時四十歳)を亡くした藤崎光子さん(66)=大阪市在住=が抱える喪失感、JR西日本への怒りは今も変わりません。

被害者ネット結成 藤崎 光子さん
 JR福知山線の伊丹駅前、二十五日、午前九時十八分。追悼の鐘が鳴り響くなか、黙とうをささげました。
 事故で人生が「完全に変わってしまった」という藤崎さん。事故後、被害者や遺族のつながりをと「4・25ネットワーク」を結成しました。これまでに集まった遺族は六十家族。遺族や被害者への呼びかけと交流、JR西日本との交渉をつづけています。
 道子さんと二人で運営してきた印刷会社を閉め、ネットワークの活動に没頭しています。家族や仲間の支え、名も知らぬ全国の人たちの激励のなかで、「何とか乗り越えてきた」一年でした。
 今でも、「なんであの子が居ないの?」と思い、言葉にならない寂しさにおそわれます。眠れない夜は、ネットワークの予定をあれこれと考えることで眠れるといいます。
 「娘はまだ安らかに眠っていない」。JR西日本の対応に、「遺族は納得していない。亡くなった人たちも、なぜ自分が死ななければいけなかったのか、納得していないはず」といいます。
 JR西日本は、ネットワークが要求しつづけている事故原因の説明にはいまだに応じていません。明らかになっていない真相。ミスや事故も減りません。
 「亡くなった人への責任とともに、安全という社会への責任も果たしてほしい」。人生の残りの時間は、鉄道の安全のためにささげると決めた藤崎さん。「疲れても、しんどくても、くじけたらいけない。娘の死を無駄にしたくない」
 伊丹駅前に設けられたメッセージボードに思いをつづった藤崎さん。澄み切った青色のボード。百七人の命が奪われた一年前の空色に、ハトが羽ばたきます。「JRは安全第一の企業になって」と。
(芦川章子)

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