2005年2月21日(月)「しんぶん赤旗」

日歯連ヤミ献金 1億円授受の料亭に橋本、野中、青木氏 なぜ起訴されない?
「いただいた」「ありがとう」


 封筒から1億円小切手をとり出して見る橋本龍太郎元首相。その小切手受け取りをすすめた野中広務元自民党幹事長。元首相から「1億円」と聞き、礼をいった青木幹雄同党参院議員会長…。日本歯科医師連盟(日歯連)から自民党旧橋本派(平成研究会)への1億円ヤミ献金事件を裁く東京地裁の公判で、1億円授受などをめぐるなまなましい新証言が相次いでいます。現場にいた3人の政治家はなぜ起訴されなかったのか。ますます疑問が強まっています。

内田被告、生々しく証言 「不起訴不当」審査会は議決

公判での証言をもとに1億円ヤミ献金授受現場でのやりとりを再現すると…。イラストの写真は左から青木、橋本、野中、内田、臼田の五氏

 日歯連1億円ヤミ献金授受の現場は、東京・赤坂の高級料亭「口悦」。そこにいたのは前出の政治家3人と日歯連前会長・臼田貞夫、前常任理事・内田裕丈両被告の5人でした。
 日歯連側の2人は起訴されたのに、政治家3人は「記憶がない」といい続けています。橋本元首相は証拠を前にしても「事実だろうが、記憶にない」という苦しい論理で“弁明”しました。残る2人はいまだに料亭の1億円授受現場にいたことさえ認めていないのです。
 政治家が封印する秘密のベールをはがしているのが前出の日歯連側被告と1億円ヤミ献金を処理した滝川俊行・元平成研会計責任者=有罪確定=でした。
 なかでも1億円授受のもようを同席者として初めて証言(17日)したのが内田被告。身ぶり手ぶりも交えながらの証言でした。

 ――2001年7月2日の料亭「口悦」。臼田被告と内田被告が部屋で待っていると、野中元幹事長、橋本元首相が入ってきた。食事前に臼田被告が元首相に1億円の小切手が入った封筒を手渡した。

 ――元首相は封筒から小切手を出し、金額を確認し、野中元幹事長に見せた。元首相は「ありがとうございました」と礼をいい、元幹事長に渡そうとしたが、「どうぞ。どうぞ」と受け取りをすすめられ、自分の背広の内ポケットに入れた。

 ――遅れて青木参院議員会長が到着。元首相は小切手を見せながら小声で「歯科医師会から1億円の献金をいただいた」というと、青木氏は「ありがとうございました」と礼をいった。

 1億円を渡した側の1人がここまではっきり覚えていたのです。
 1億円ヤミ献金事件では、旧橋本派の会長代理だった村岡兼造被告だけが政治資金規正法違反(不記載)で起訴されました。1億円を受け取った現場にいた前出の3人は、当然1億円授受を知っていたはずなのに不起訴でした。
 この検察の対応にたいし、有権者から無作為に選ばれた人たちで構成する東京第2検察審査会は「国民の間では通用しない」と「不起訴不当」の議決をしました。
 常識的な判断から検察の対応に疑問を呈したのですが、「その判断には根拠があった」と見るのは、審査申立人代理人の1人である政治資金オンブズマン共同代表・阪口徳雄弁護士です。
 阪口弁護士は「審査会の人たちは内田被告らの調書を読むことができる立場にあるはず。だから、『十分な取り調べを行わず、不起訴処分にしているということは、検察の機能を十分に果たしているとは言えない』とまで指摘したわけで、その判断は重い」といいます。
 問題の1億円は検察側の冒頭陳述でも「今後、日歯連盟から歯科医療政策の陳情などをするためには、平成研の幹部との関係を修復しておく必要があると考え」、渡したもの。旧橋本派を味方に引き入れる“わいろ”の性格があり、政治資金規正法違反にとどまらない疑惑の金です。

「他にも裏金 数億円」 滝川証言
 公判では、1億円ヤミ献金事件以外の乱脈な政治資金の実態も明らかになりました。
 滝川元会計責任者は、さる1月の公判で、2001年7月の参院選で、政治資金収支報告書に記載していない裏金での選挙資金が数億円あったことを告白しました。2月の公判では、資金集めパーティーの売り上げのうち、現金分は収支報告書に記載しない裏金としていたことも明らかにしました。

 ――裏金として処理したのは年に1億数千万円。01年の参院選では、これらを含め4億3千万円を裏金として出した。

 ――裏金分は幹部会にも報告した。橋本元首相や青木参院議員会長、村岡被告に伝えた。

 旧橋本派幹部だった久間章生自民党総務会長は滝川証言をうけ「あの通りだったと思う」と発言しました。これでは政治資金規正法違反をなかば公然と認めるようなものです。
 一億円ヤミ献金事件の裁判でここまで明らかになった新事実。橋本元首相らの国会証人喚問を拒否する政党の政治姿勢がいよいよ問われます。そして検察当局は、徹底した再捜査のうえで政治家に厳しく処する責任があります。

東京第2検察審査会が不起訴処分を「不当」とした議決のポイント

 ▼橋本元首相 会食の席で1億円の小切手を受領した事実は、日歯連役員らの供述で明らかであるにもかかわらず、この会食を全面否定している被疑者橋本にたいし、十分な取り調べをおこなわずに、不起訴処分にしていることは、検察の機能を十分に果たしているとはいえない。
 ▼青木参院議員会長 1億円を受領した会食に参加したこと、収支報告書不記載を決めた平成研幹部会の幹部の一員であり、当然、責任がある。
 ▼野中元幹事長 野中は、滝川が虚偽の収支報告書の提出をするにあたって指示を仰いだ幹部の1人であるので、滝川と共謀したと考えられる。村岡が、起訴されていることを考えれば、被疑者・野中も起訴すべきである。



経団連  労働時間規制撤廃求める

 ”労働者を長時間働かせても、残業代を支払わずにすみ、健康官理義務も負わず、雇用責任なしに必要なときに必要なだけ働かせられる制度を"日本経団連(会長・奥田碩トヨタ自動車会長)が、こんな主張をまとめています。11月に政府へ提出した規制改革要望書に盛り込んだもので、来年2月に決定する規制改革・民闇開放推進本部(本部長・小泉純一郎首相)の対.応方針に反映させるねらいです。
 畠山かほる記者

 雇用・労働分野の要望は22項目で、長時間労働やサービス残業(ただ働き)を野放しにすること、派遣労働を限りなく拡大することに、その中心がおかれています。
 労働墓準法や労働者派遣法などの法改悪だけでなく、「通達等の行政立法による過度に厳格な運用を慎むべきである」として、通達など行政立法による規制を撤廃するよう求めている点が特徴です。
たたかいの成果に矛先
 日本経団連が撤廃・見直しを主張する通達など行政立法は、横行するサービス残業や過労死するような長時闇労働を是正する内容です。労働者や家族、労働組合の告発とたたかい、それと結んだ日本共産党の国会論戦によって、規制や行政指導が強化され大きな成果となったものばかりです。
 その一つ、労働時間官理を使用者に義務付けた”サービス残業根絶"通達は、2003年度までの3年間で427億円(2201社)もの是正をさせる大きな力となっています。管理・監督者の範囲を定めた通達は、残業代支払い義務から逃れようとした大企業に支払いを命じました。
 事実上無制限の残業を許してきた時間外協定の「特別条項」は、適用期間を一年の半分以下としました。大企業を中心に横行してきた年間1000時闇もの超長時間残業を抑える歯止めと首っています。過重労働による健康障害防止措置も同様です。
 日本経団連の要望はまた、裁量労働制の大幅な緩和や労働時間法制の適用除外者の拡大など、労働基準法の改悪を求めています。

労働者派遣の解禁・自由化
 労働者派遣法の改悪では、労働者派遣の全面解禁・自由化ともいえる内容を要望に盛り込んでいます。法による禁止業務(医療、建設、港湾、警備など)の解禁どともに、派遣制限期間が過ぎた場合など派遣労働者への雇用契約申し込み義務、製造現場への派遣期間制限、労働者を特定する行為(事前面接など)の禁止といった各規制の撤廃を主張しています。
 ほかに、企業が金銭によって解雇できる制度の導入や、有期雇用契約期闇を一律5年とすることもあげています。
 日本経団連によると、要請をうけた村上誠一郎規制改革担当相は、「実現にむけて全カでとりくむ」(「日本経団運タイムス」11月25日付)と発言したと報じられており、小泉内閣の今後の姿勢が問われます。


日本経団連の雇用・労働分野の主な要望内容
【労働時間関係】
*時聞外労働の上限規制の緩和
 (現行法規)残業の労使協定(36協定)の「特別条項」を適用できるのは、「1年の半分以下」。
 (日本経団連の主張)個別労使が決定できるようにすべきだ。需要への生産対応が困難となり、新技術・新製品開発の遅れが生じるなど、企業経営上の影響が大きい。
*過重労働による健康障害防止措置の見直し
 (現行)時闇外労働が月45時間を超えたときは、産業医の指導を受ける。
 (主張)「めど」として位置付け、個別企業の'自主的運用に委ねるべきだ。
*企画型裁量労働制のさらなる緩和
 (現行)企画、立案、調査、分析のすべてを含む業務を担い、大幅な裁量をもち、必要な知識・経験がある労働者など、詳細な要件が定められている。
 (主張)営業職を含め、ホワイトカラー労働者の業務全般に広く適用すべきだ。対象者の労働時闇(深夜、休日労働)規制の除外を行うべきだ。
*“サービス残業根絶"通達(労働時問規制)の緩和
 (現行)労働時間管理は使用者に責任があり、みずから確認するか、タイムカード・ICカードなど客観的な記録による確認が必要。
 (主張)一律的な管理方法は現実的で律なく、労使合意でとりきめるべきだ。
*ホワイトカラーイグゼンプション(労働時間法制の適用除外)制度の導入
 (現行)導入されていない。
 (主張)労働時間規制の適用を完全に除外する制度を導入すべきだ。
*1労働時間規制の適用除外者の範囲の拡大
 (現行)管理・監督者は労働時間法制の規制から除外される(深夜業は対象)。'管理・監督者とは、労務筥理(労働条件の決定その他)について経営者と一体的な立場にあり、重要な職務と責任を有し、労働時間の規制になじまない者をいい、名称にはとらわれない。
 (主張)'管理・監督者の対象範.囲を拡大すべきだ。
*労働時闇規制の適用除外者への割増賃金支払い義務の見直し
 (現行)深夜(午後10時から午前5時)働いた場合は、割増賃金が必要。
 (主張)深夜の割増賃金支払い義務を撤廃すべきだ。

【雇用・派遣関係】
*有期労働の契約期間の緩和
 (現行)原則3年以内。特例として、弁護土など専門的な知識、技術または経験を有し高度なものとして、厚生労働大臣が定める労'働者は、5年以内。
 (主張)原則5年以内とすべきだ。
*解雇の金銭解決制度の導入
 (現行)和解により労働者が選択する以外は認められていない。
 (主張)早期導入を図るべきだ。
*派遣禁止業務の解禁
 (現行)港湾運送、建設、警備、病院等での医療関係(紹介予定派遣を除く)の各業務は、禁止。
 (主張)解禁すべきだ。とくに医療関係業務は早期に解禁すべきだ。
*労働者派遣の期間制限の撤廃
 (現行)製造業務は2007年2月末事で1年以内、同年3月以降最長3年まで可能。一般業務は最長3年まで。(専門的26業務は制限なし)
 (主張)期間制限のある業務は早期に撤廃すべきだ。製造業務も早期に撤廃すべきで、少なくとも早期に他の業務と同様の扱い(3年)とすべきだ。
*派遣労働者への雇用契約申し込み義務の廃止
 (現行)派遣制限期間が過ぎても労働者を使用する場合、期間制限のない業務は3年を過ぎて同一業務に労働者を雇い入れる場合、派遺労働者に雇用契約の申し込みをしなければならない。
 (主張)」雇用契約申し込み義務を廃止すべきだ。
*派遣労働者を特定する行為の禁止
 (現行)派遣先企業が派遣労働者を選別するための事前面接や履歴書送付などは、できない。紹介予定派遺を除く)
 (主張)解禁すべきである。年齢や性別を特定する行為とすることを改めるべきだ。



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