2006年4月4日(火)「しんぶん赤旗」

日本IBM 56歳で雇い止めも  60歳以後も働きたいのに
JMIU支部 希望者全員の延長を


 改正高年齢者雇用安定法が四月施行され、六十歳以後の雇用継続が義務付けられました。コンピューター大手の日本IBM(東京都港区)では、「六十歳以後も働けると思っていたら五十六歳で雇用の打ち切りもある」と不安の声が上がり、労働組合が見直しを求めています。

業績評価で選別採用
 雇用継続は、年金支給開始年齢が六十歳から六十五歳へ段階的に延長されるのに伴うものです。
 事業主は、(1)定年の引き上げ(2)継続雇用制度の導入(3)定年の定めの廃止――のいずれかを実施しなければなりません。
 日本IBMは「シニア・エキスパート」と呼ぶ継続雇用制度を導入。五十五歳または五十六歳で定年退職し、その後一年契約の社員として再雇用することにしました。
 しかし、六十五歳まで働ける保障はありません。契約社員には五段階の業績評価があり、最下位の評価を受けたり、四位の評価が二年続いた場合は契約更新されません。五十六歳で雇い止めとなる危険性さえあるのです。
 「会社の発表を聞いてまさかと驚いた」
 こう語るのは、事務部門で働く五十代の男性。
 「六十歳定年だったのに逆に早く辞めさせられることになりかねない。二人の子どもが大学にいくので金がかかる。六十歳まで働くつもりだったのにひどい話です」
 勤務日数は「週三日から五日」とされており大幅な減収は必至。「今ある継続雇用は45%減収だから、それぐらいは減るはず」と話す労働者も。
 そもそも、この制度は応募段階から厳しい基準が設けられています。直近二年間の業績評価が三位以上(五段階評価)で「バンド7」と呼ぶ係長クラス以上でないと応募さえできないのです。
 五十代の社員は「上位の評価をもらう割合は決まっていて、年をとるほど補助的な仕事が増えるのでいい評価は難しい。五十五か五十六で辞めてくれというに等しい」。

厚労省 原則は全員雇用
 全日本金属情報機器労働組合(JMIU)日本アイビーエム支部のアンケート(回答者六百二十八人)では、49%が同制度を「不満足」と答え、43%が「分からない」と答えました。希望者全員の雇用延長を求める人は63%にのぼっています。
 同支部は、希望者の全員雇用と六十五歳までの「安定した」雇用の確保という高齢者雇用安定法の原則に反するとして、撤回を求めてきました。
 従業員代表を選ぶ選挙では、同支部推薦候補十五人が平均26・5%の得票率を獲得。神奈川県・藤沢事業所内の一つの選挙区では当選しました。
 本紙の問い合わせに会社から説明はありませんが、全員雇用の原則について会社は労組との団体交渉で「会社と従業員でルール作りをしなさいということ。こうあるべきということを示していない」と認めていません。
 六十歳前の雇い止めもあることは「低評価をして社員を減らそうと考えていない」とし、五十五歳での募集は「節目に人生設計について考えてほしいということ」と問題はないとしています。
 この問題で厚労省高齢者雇用対策課は「一般論として希望者全員の雇用が原則。基準を定めれば対象者を限定できるが、法改正の趣旨に反するものは認められないし、労使で十分に協議する必要がある」と話します。
 同省発行の「Q&A」では、IBMと同じように、五十五歳以降は一年更新の有期契約にするケースをとりあげ、「六十五歳までは、希望すれば原則として契約が更新されることが必要です」としています。
 同省マニュアルではこれまで、採用の「望ましい基準」として「過去3年間の勤務評定がC(平均)以上の者」などの具体例をあげていました。
 しかし、「『希望者全員の原則雇用』の趣旨に反し、選別雇用を指導するものだ」との労働組合からの批判を受けて、具体例を削除しました。
 日本アイビーエム支部では「本人が希望しても毎年、契約を打ち切られる人が出る仕組みだ。六十歳から五十六、五十七歳への事実上の定年の引き下げであり、法改正の趣旨に反している」として、継続雇用の採用を五十五歳から会社の判断で決めるのではなく、六十歳定年後、希望する者については全員の雇用延長を保障するよう求めてたたかっています。


2006年4月4日(火)「しんぶん赤旗」

青年の解雇規制緩和  独でも批判噴き出す
連立政権内で矛盾


 フランスでの青年の解雇規制緩和に反対する学生・労組のたたかいが隣国ドイツにも波及しています。
 ドイツでは昨年の選挙で成立したキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と社会民主党(SPD)の二大政党が連立政策綱領で新規雇用労働者の解雇規制緩和で合意していました。しかし、ここにきて、労組、経済界の左右から批判が相次ぎ、ミュンテフェリング副首相兼労働社会相(SPD)は三月に法案として審議開始する予定だった解雇規制緩和案の「凍結」の可能性を打ち出しました。
 二大政党の連立綱領の解雇規制緩和は、新規雇用者の「見習い期間」を現行の六カ月から二十四カ月まで可能とする一方で、この期間内であれば企業の都合により自由に労働者を解雇できるとするもの。フランスで大反対運動が起こっている「初採用契約」(CPE)に比べ、年齢制限はないものの同趣旨の政策です。
 独労働組合総同盟(DGB)のゾンマー議長は「フランスでたたかわれているようにわれわれもたたかう計画だ」と述べています。統一サービス産業労働組合(ベルディ)は「大企業は大きな利益を上げながら、同時に人員削減し、解雇の脅しをかけている」「(解雇規制を緩和するのではなく逆に解雇規制を強め)企業が利益を上げている場合は企業都合の解雇は禁止すべきだ」と主張しています。
 これに対し、経済界も連立綱領案を逆の立場から批判しています。
 CDUの連邦議会議員でもあるドイツ経営者団体連盟(BDA)のゲーナー事務局長は、(1)二十四カ月の「見習い期間」中の解雇を障害者や事業所評議会(職場を代表する労働者組織)委員にも適用すべきだ(2)労働協約により解雇可能な見習い期間のさらなる延長も可能にすべきだと主張。メルケル内閣を揺さぶっています。
 ミュンテフェリング副首相は三月二十九日、解雇規制に関し「現状のままでの凍結」を主張、連立二大政党で構成する政策綱領委員会での検討を提起しました。
 連立政府では、シュレーダー前政権から引き継いだ原発の二〇二〇年までの廃止の方針についても対立が表面化。保守の側からは原発廃止期限を延長せよとの要求が強まっています。  メルケル連立政権は一つの転機を迎えています。(片岡正明)


2006年4月4日(火)「しんぶん赤旗」

公務員削減 国民の安心・安全どこへ
「行革推進」法案 塩川議員の質問


 「公務員削減先にありきで、最低限の国の役割さえ放棄するのではないか」。三日の衆院行政改革特別委員会での、日本共産党・塩川鉄也議員の質問は、「行政改革推進」法案による公務員削減が国民生活に密着した行政サービスの低下を招くことを明らかにしました。

(写真)地方公務員削減について質問する塩川鉄也議員=3日、衆院行革特別委

地方公務員を削減するために「行革推進」法案は「地方公務員の配置に関し国が定める基準を見直す」としています。
 塩川氏は「国が定める配置基準とは、国として最低限の公共サービスを保障するために定めた人員配置の基準だ。国民生活に直結した福祉、教育、安心、安全の分野が対象になっている」とただしました。

最低基準さえ引き下げ 保育
 一歳、二歳児は子ども六人に保育士一人以上が基準です。同じ基準だったゼロ歳児は、子ども三人に保育士一人以上に基準が改定されています。
 その理由を聞かれて厚生労働省の担当者は「中央児童審議会の意見具申を踏まえ定められた」と答えました。
 一九六八年の同意見具申は「抱いたりあやしたりして乳児と一緒に遊ぶことが情緒の発達を促し、人間関係に興味を持ち、社会性の基礎をつくるものである」から「一人の保育者の受け持つ乳児の数については、最も重要な問題として考慮しなければならない」「保母一人あたりの担当乳児数は三人までとする」と明確に述べていました。
 国がみずから定めた最低基準さえ投げ捨ててしまえば、保育環境の悪化をまねくおそれがあります。
 塩川氏は「保育や教育で上乗せ措置をとっている自治体が多くある。基準は最低限であり引き下げは現状に逆行する」と指摘しました。
 小泉純一郎首相は「時代が変わり基準を設けなくてもサービスができるのではないか。公務員でなくてはいけないのかどうか。配置基準は見直しがあってもいい」と答えました。塩川氏は「保育所の保育士配置など、基準は官も民も同じ。配置基準の見直しは民間のサービスも後退させることになる」と批判しました。

35人学級計画見送りに 教育
 塩川氏は「『行革推進』法案が国民の要求をおさえこむ実害として現れている」として、教員定数の問題をとりあげました。
 日本の四十人学級基準は欧米と比べて立ち遅れています(表)。

 昨年の文部科学省の調査研究協力者会議では「三十人学級は国民的悲願だ」という声も出ました。文科省はこうした声も踏まえ、小学一年生では三十五人学級も可能とする「第八次教職員定数改善計画」を昨年夏に立案しましたが、実施は見送られました。
 見送った理由について小坂憲次文科相は「その後の行政改革の重要方針(昨年十二月閣議決定)に鑑み」と答弁。重要方針を受けて「行革推進」法案では教職員の削減を明記しています。
 塩川氏は「三十五人学級をせめて小学校一年生でやろうという計画があったのに『行革推進』法案ができたことで取り下げた」と告発しました。

いまも25%の人員不足 消防
 地方自治体の仕事である消防について国が基準を定めている理由を塩川氏が尋ねたのに対し、消防庁の担当者は「国民の安全の保障は国家としての基本的責務だから」と答えました。「行革推進」法案はその基本的責務を後退させようとしています。
 消防ポンプ車や救急車の配置基準は火災発生件数や人口規模・密度に応じた科学的な根拠で決められています。消防士もそれに対応して決められています。しかし実際には消防士は基準の75・5%しか満たされていません。塩川氏は「消防の現場で話を聞いてきたが、少ない人数で体を張った仕事をしている」と述べ、法案は達成されていない最低限の基準さえも壊そうとするものだと訴えました。

日本は公務員が少ない
 塩川氏 日本の公務員は国際的に見て、多いのか少ないのか。
 中馬弘毅行政改革担当相 必ずしも多いとは言えないと思う。
 政府も認めるように、日本はすでに「小さな政府」を実現しています。にもかかわらず、「行革推進」法案は国・地方の公務員削減を最大の目玉としています。国家公務員は五年間で5%以上の純減、地方公務員は五年間で4・6%以上の純減の目標を掲げています。
 塩川氏はパネル(グラフ)を示して「日本の公務員は国際的に見て少ない人数で公務、公共サービスを担っている」と指摘しました。

行革いうなら談合にメスを
 塩川氏は、公共工事の相次ぐ談合事件を示し「行革というなら、ここにこそメスを入れるべきではないか」と迫りました。
 この間、防衛施設庁の官製談合事件をはじめ、橋梁(きょうりょう)談合事件、汚水処理施設談合事件、水門工事談合事件など枚挙にいとまがありません。
 橋梁談合では受注総額が二千三百六十億円ノのぼり、公正取引委員会は三月二十七日に係争中の数社をのぞく四十四社に課徴金百二十九億円を命じました。
 九五年以降に複数の談合事件を起こした企業には三菱重工(経団連副会長)、日立製作所(同)、東芝(同)をはじめ、松下電器、石川島播磨重工、三菱電機などが名を連ねています。
 塩川氏は「日本経団連の役員企業が談合の常習犯だ」と指摘。「談合を繰り返す企業には発注しない、献金を受け取らないことを宣言すべきだ」と強調しました。


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