●井上メルマガ('06/09/08) 薄っぺらさと危険さ
井上さとしです。
いよいよ、その危険性がむき出しになってきた――安倍官房長官の記者会見を読んで、そう思いました。安倍氏は、日本の「植民地支配と侵略」に「おわびと反省」を明確にした村山総理(当時)の戦後五十周年談話について、「歴史的な談話」だとして、新政権でこれを踏襲することを明言しませんでした。 そして自らの歴史認識について問われると「歴史的評価は後世の歴史家にまか せるべき」とし、「植民地支配と侵略」を欠落させた認識しか示しませんでした。
靖国参拝を繰り返した小泉総理ですら、昨年のアジア・アフリカ首脳会議でこの村山談話を踏襲した発言をしてきたことからも、大幅な逆戻りとなります。安倍政権で、村山談話と河野官房長官談話(従軍慰安婦への軍の関与を認めたもの)を葬り去りたいというのが、靖国史観派の狙いだとマスコミなどで言われてきましたが、安倍氏の昨日の発言は、その道への大きな一歩を踏み出したといえるでしょう。それはアジアで孤立し、アジア外交をいっそう行き詰まらせるのみならず国際的な大問題になります。
その背後にある歴史認識はどのようなものか。かつて、このメルマガで、「薄っぺら」と書きましたが、先日、安倍氏についてのCSテレビのインタビューを受けるに当たり、改めて『美しい国へ』という著書を読み返し、様々な報道を読んでみて、その感をいっそう強めました。
安倍氏は、憲法の前文の「われらは、平和を維持し…国際社会において、名誉ある地位を占めたい」という部分を「連合軍への侘び証文」であり「いじましい文言」だと切り捨てています。そこには、2000万人ものアジアでの犠牲者を出したことへの反省も、亡くなった人々とその家族の痛みへの共感もありませんし、2度の世界大戦を通じて国連憲章に謳いあげられた紛争の平和的解決という人類史の大きな流れへの認識もありません。
しかも、小泉総理が、この部分を引用してイラクへの自衛隊派兵を決めたのを忘れたのでしょうか。イラク派兵はアメリカの歓心をかうためのいじましい行為だった、ということになるではありませんか。嗚呼、悲しいほどのご都合主義。
「余りにも薄っぺらで、危険」――私が感じたことは、安倍氏の実像を知る人の中では流れになりつつあります。たとえば、マスコミの中では、「3K政治家」という言葉もささやかれているそうです。つまり、「軽い、危険、空疎」な政治家だというのです。
一つだけ紹介しましょう。東京新聞のコラムでは、「一国の宰相に必要な条件は何か。政策遂行能力の高さだけでは済まない。独自の政治哲学、思想的・文化的な識見を兼ねそなえることも厳しく求められる」「しかるに…アメリカ大統領の家族の前で、歌手の物まねをする現宰相の姿は、国民の前にどう写ったか」「最有力候補の新著を読んでみた。美しい国とは何であるか判然としないし、おのずから滲み出てくる教養の香気がかけている」と手厳しい。
安倍氏のインタビューが行われた7日、志位委員長は日本共産党の党首として初めての韓国訪問の最中です。日本共産党が、日本の植民地支配とたたかった党として、朝鮮の愛国者とは、いわば「同志」であることをのべると、初対面の韓国の有力政治家や識者たちと、短時間に心が通じ合う様子が現地の報道から伝わってきます。特に、韓国国会の林議長は、志位委員長の発言にたいし「日本がこういう立場をとるならば東アジアの緊張が緩和し平和がすすむでしょう」と述べられました。
薄っぺらな歴史認識でアジアの緊張の道を歩むのか、たたかいに裏付けられたたしかな歴史認識でアジアとの共同と平和の道を歩むのか――臨時国会で正面から挑みます。
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