●井上メルマガ('06/07/24) 薄っぺらな本
井上さとしです。
次期の総理の最有力候補とされている安部晋三氏が総裁選挙に向けて発刊した、『美しい国へ』と題する新書を読みました。この種の本はハードカバーの立派な本が多いなかで、新書版という薄い本にしたのは、国民への普及を意識したのでしょう。しかし、内容まで「薄っぺら」なのはいただけません。
「美しい国」と聞いて皆さんは何を連想するでしょう。この間の自民党政治により、この国の美しさはずいぶんと壊されてきました。荒れ果てた農地、崩壊する伝統的町並みや商店街…。それだけではありません。日本社会から「美徳」も失われ、「弱肉強食」がはびこり、お年寄りや障害者への思いやりは政治から感じられなくなりました。「美しい国」というならば、こうしたことへの反省が少しはあるだろう、と思って読み始めました。ところがこの本にはこうした問題は何一つ触れられていません。
本の大半は、国家の自立やナショナリズムのあり方や日米同盟のこと。六歳の頃に、「アンポハンタイ」のデモ隊に取り囲まれた祖父(岸信介)の家に新聞社の車にそうっとのせてもらって入ったというエピソードも出てきます。親米は幼い時からの筋金入りだということがいいたいのかも知れませんが、私には、結局、庶民の暮らしを知らないままに育った人だという印象が残りました。
最後の第七章は、「教育の再生」。ここで書かれるのも、要するに競争です。その重点として全国学力テストをやり、「結果も公表すべきだ」としているのには驚きました。文科省をはじめ推進派も、結果の公表は過当競争と差別を招くとして否定的なのに、結果が悪く、改善されない学校は教員の入れ替えを強制的にできるようにすべきとまで語っています。
この第七章の中に、「格差社会」問題が出てきます。その程度の扱いです。しかも、それほど格差は広がっていない、再チャレンジができるようにすることが大事だという話。自らが小泉政権の中枢に座り続けてきて、格差を作り出したことも、国民に痛みを与えたこともまったく自覚がないようです。
安部氏にとっての「美しい国」はあっても、国民にとっての暮らしの未来は見えてきませんでした。
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