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2006年12月25日(月)「しんぶん赤旗」
ズバリわかる 派遣・請負・偽装請負(上)
労働者を“モノ”扱い
「偽装請負」という違法労働の広がりが社会的な大問題になっています。松下電器やキヤノン、日立製作所などで相次いで発覚したように、日本を代表する大企業に違法がまん延しているところに特別な深刻さがあります。「偽装請負」とは何? どうして増えるの? 派遣労働とどう違うの? こういうさまざまな質問が編集局に寄せられています。どう理解したらいいか、ともに考えてみましょう。(畠山かほる)
なぜ増えてきたのか
偽装請負と派遣労働には共通する特徴があります。雇用主と実際の使用者が異なる「間接雇用」だということです。実はここにさまざまな問題が発生する原因があります。
戦後、日本では、正社員や契約社員、パート、アルバイトなど正規・非正規の違いはあっても、雇用主と使用者が同じ「直接雇用」という働き方が基本原則でした。
「間接雇用」は、職業安定法が労働者供給事業として罰則付きで禁止してきたのです(四四条)。
これは、戦前横行した「組請負」など人材供給業者による中間搾取や低劣な労働条件、身分・身体的拘束などの人権侵害から、社会的弱者である労働者を守ること。同時に、労働力を使って利益を得る者に雇用者としての責任を負わせるという意義をもちます。「労働は商品ではない」と高らかにうたった「国際労働機関=ILOの目的に関する宣言」(一九四四年)に基づくものです。
憲法は、基本的人権の柱の一つとして「勤労権」(二七条)「団結権」(二八条)を明記し、労働者が不当な扱いをうけることなく働く権利を保障しています。そのための労働法を定めています。
当然ながら、労働者を雇用すれば、企業は労働基準法や労働安全衛生法、労災保険法、雇用保険法、労働組合法など、さまざまな法的責務を負わなければなりません。
しかし、間接雇用の場合は、実際に労働者を使う企業がこれらの雇用責任を負わずにすみます。企業にとっては、人件費コストが安く必要な時に必要なだけ労働者をモノのように使うことができる都合のいい形態です。このため、大企業の製造現場や情報通信業界などでは取り締まりをかいくぐって活用してきました。さらに財界は、それを既成事実として合法化を政府に強く迫ってきました。
その結果うまれたのが、一九八六年施行の労働者派遣法です。厳罰をもって禁止した労働者供給事業のうち、一定の要件をつけて例外として間接雇用を認めることにしたのです。この法律によって、直接雇用の原則がくずされ、派遣労働が合法化されることになりました。
労働者派遣とは
労働者派遣は、派遣会社が雇用する労働者を企業に貸し出すしくみです。労働者は雇用関係のない企業で仕事の指揮命令をうけて働きます。
そのため、労働条件や解雇・雇い止めをめぐるトラブルが起こりやすく、雇用がいっそう不安定になります。労働者を貸し出す業者から中間手数料が差し引かれますから、賃金も直接雇用より低くなりがちです。
労働者と企業の間でトラブルが起きた場合、労働者は雇用主の派遣会社と交渉することになります。派遣会社にとってユーザー企業は大事な顧客。労働者の立場に立って派遣会社が企業に是正を求めることは期待できません。いいなりになるのが通常です。
こうした問題が予想されたので、派遣労働を法律で認める際の理由になったのが、「派遣的形態で働く労働者の保護」でした。あくまで限定的な働き方として専門的な十三業務だけに認められました。専門業務ならば、賃金低下や正社員が代替されるおそれが少ないとの考えです。しかし成立した同法は、仕事が入った時だけ雇用契約を結ぶ登録型派遣を容認するなど、労働者保護には程遠い内容でした。
その後、度重なる法「改正」で対象業務は拡大されつづけ、一九九九年には原則自由化されました(別法で禁止する建設・港湾業務、政令で定めた医療・製造業務を除く)。これを機に派遣料金の低下が起こり、今日ではアルバイト賃金と変わらなくなっています。二〇〇三年には、製造業務も解禁されました。
さらに、当初一年間だった派遣期間の制限は、専門二十六業務が無制限に、九九年に解禁の一般業務は三年間に延長されました。製造業務は来年から三年間に延長されることがきまっています。
大企業の人件費削減要求にこたえた一連の法改悪により、派遣労働者は急速に増大しています。
一方で派遣労働をめぐるトラブルが顕在化し労働者側の強い批判をうけて、二〇〇三年の国会では不十分ながら一定の法規制がされました。派遣期間の制限を超えた場合や同職場で労働者を直接雇用する場合は、派遣労働者を優先的に雇用する義務規定などです。
今日、厚生労働省は財界の要求を受けて、このわずかな規制すらなくすことを検討しています。
(つづく)
2006年12月25日(月)「しんぶん赤旗」
底流 ほん流
団交権のはく奪を狙う
財界代表を中心に構成する政府の規制改革・民間開放推進会議は、二十五日に出す「最終答申」に、労働組合の団体交渉権について「組織率が一定割合以上の組合に限定する」ことを盛り込もうとしています。憲法に保障された労働者の基本権を奪おうとするもので労働者・労働組合全体にかかわる大問題です。
憲法28条で保障
団体交渉権は、団結権、団体行動権とともに憲法二八条によって労働者に保障された基本的権利です。弱い立場に置かれている労働者が団結して交渉、行動することで使用者と対等の関係を築き、賃金や労働条件の決定にかかわることができるようにしたものです。このために労働組合法が制定されています。
使用者は、その権利の保障を義務づけられています。組合員が少数であっても、企業内に複数の労働組合がある場合でも、その大小にかかわらず使用者は、対等に団体交渉に応じなければなりません。
最高裁判決も「各組合は、その組織人員の多少にかかわらず、それぞれまったく独自に使用者との間に労働条件等について団体交渉を行い、その自由な意思決定に基づき労働協約を締結し、あるいはその締結を拒否する権利を有する」と明言しています。(日産自動車事件、一九八五年四月)
組合員が少数だからといって、団体交渉権を奪うことは許されないのです。団体交渉権のはく奪は、団結権や団体行動権の侵害にもおよびます。団結権を事実上、禁止した戦前への後戻りです。
日本の大企業は、雇用形態を正規から派遣、パートという非正規に置き換えてきました。この結果、労働組合への参加率は次第に減り、二割を切りました。
しかし、職場で横行するサービス残業(ただ働き)、偽装請負など違法行為の是正を求める労働者のたたかいは新たな展開をみせています。
派遣やパートで働く労働者がJMIU(全日本金属情報機器労働組合)や首都圏青年ユニオンをはじめとした労働組合に参加し、団体交渉権を使って使用者側と交渉、労働局などにも申し立て、直接雇用や正規雇用への道を切り開いています。残業代の支払い、解雇の撤回もさせています。
見直される労組
労働組合の役割が見直され、組合に参加してたたかおうとの機運をうみだしています。労働運動総合研究所の調査では、未組織労働者の20%が労働組合の参加を考え、38%が労働組合への関心を示していました。
財界は、こうした労働運動の新たな高まりを恐れ、労働者のもつ団体交渉権、ひいては団結権や団体行動権をはく奪しようとしているのです。少数組合だけに向けられた攻撃ではないことです。
「労働ビッグバン」と称し、雇用のルール破壊を主張している八代尚宏国際基督教大学教授(経済財政諮問会議委員)は「労働者全体の二割に満たない労働組合が『労働者の代表』として、労働政策審議会等の場で雇用規制の維持・強化を主張している」と非難し、労使の代表が参加する労働政策審議会で審議することをやめるよう求めています。(『週刊東洋経済』十月十四日号)
労働者の代表を審議会から追い出すことまでいいだしています。審議会の労働者代表は、加盟組合の代表ではなく、労働者全体の利益を主張する役目を負っています。組合員数を理由に排除することなど許されません。
数でいうなら、日本経団連に加盟する企業は千数百社足らずで、従業員数で見ても圧倒的少数派でしかありません。
労働者代表もいない規制改革会議や経済財政諮問会議が、憲法に保障された権利のはく奪を議論することこそ問われるべきです。
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