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2006年12月22日(金)「しんぶん赤旗」

残業代ゼロ再び提案
労政審に厚労省 労働側、削除強く要求


 厚生労働省は二十一日の労働政策審議会労働条件分科会で、何時間も働かせて残業代も払わない「ホワイトカラーエグゼンプション」の導入などを盛り込んだ最終報告案を、労働者委員の削除要求を無視して、改めて提案しました。労働者委員は、二十七日のとりまとめからエグゼンプションなどを削除するよう強く要求。最終報告は大きなヤマ場を迎えています。
 この日の会合で厚労省は、エグゼンプションの対象者を「管理監督者の一歩手前」とし、年収要件を「管理職の平均的な年収水準を勘案して審議会で決める」と提案しました。広範な労働者を時間規制の外に置く害悪は変わらないものです。
 一定時間分の残業代しか払わない「企画業務型裁量労働制」について、要件緩和(中小企業への拡大や労働基準監督署への労働時間などの定期報告の廃止)も前回と変わらず。労働者が反対しても「就業規則」を変えれば、賃下げなど労働条件を改悪できる条項も変えずに盛り込みました。
 金さえ払えば解雇が自由にできる「解雇の金銭解決制度」や、整理解雇(経営上の理由による解雇)をしやすくする条項については、「設ける」から「検討する」に修正されました。
 労働者委員は「エグゼンプションは、残業代も払わず、二十四時間働けという制度だ」「労働者の同意なく就業規則による労働条件変更は『原則できない』とした判例法理に反する」と批判しました。
 使用者側委員は「過労死、長時間労働は各企業でただせばいい」と開き直り、「裁量労働制は中小だけでなく全企業に緩和すべきだ」といっそうの改悪を求めました。

解説
崩れている導入の根拠
 「 規制を外して長時間労働が減るのか。助長するだけだ」と労働者委員が批判すると「長時間労働は事実だがそれだけ見るべきでない」と苦しい弁明をする使用者委員。二十一日の審議会でも労働側が圧倒しました。
 意見の違いではなく、使用者側がまともな説明もできず根拠は崩れ去っており、エグゼンプションはじめ改悪条項は削除する以外にありません。
 最終報告案には、長時間労働根絶のため残業割増率引き上げなど規制強化を盛り込むべきです。労使対等で結ぶべき労働契約法に、企業が就業規則で一方的に労働条件を変更できる条項を盛り込むことも許されません。
 使用者側は「労使自治に委ねるべき」として法的規制の撤廃を主張しています。労働法は、労働者保護のために使用者の横暴を規制するものです。それをなくせというのは“無法地帯で自由にさせよ”という身勝手な論理でしかありません。
 労働法制の根幹を突き崩す使用者側に屈して改悪条項をごり押しするのか。労働者を守るためにあるはずの厚労省の姿勢が問われています。
(深山直人)


2006年12月22日(金)「しんぶん赤旗」

主張
残業代取り上げ
「企業競争力」は根拠にならず


 日本社会が力をあわせてサービス残業の根絶にとりくんでいる最中に、こともあろうに、その先頭にたつべき厚生労働省が、残業代を取り上げる制度の導入を打ち出しています。来年の通常国会に、制度導入のための労働基準法改悪案を提出する方針ですが、到底容認できません。
 厚生労働省が諮問機関・労働政策審議会労働条件分科会に提示している「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について」(報告案)は、「自由度の高い働き方にふさわしい制度の創設」を盛り込んでいます。

労働者の多数を対象に
 一定の要件を満たすホワイトカラー労働者について、「労働時間に関する一律的な規定の適用を除外する」としています。どんな制度なのか。衆院厚生労働委員会(十二日)で、日本共産党の小池晃参院議員の質問に、厚生労働省の青木豊労働基準局長は、「労基法三七条の規定が適用されない」と答えました。労働基準法三七条は、使用者が、時間外労働、休日労働または深夜労働をさせた場合には通常の賃金に一定率(時間外・深夜は25〜50%、休日労働は35%)以上の割り増しをして賃金を支払わなければならないと定めています。
 これが適用されないということは、いくら働いても残業代が支払われない制度だということです。
 審議会でも労働側委員が、この制度の導入に反対を表明しているのは当然のことです。
 対象となるホワイトカラー労働者は、専門的・技術的職業従事者、管理的職業従事者、事務従事者、販売従事者をあわせ約二千九百六十四万人で全労働者の約55%を占めます。製造業で働く事務労働者も対象から除外されていません。
 多くの労働者にただ働きを強いる制度を、労働者がのぞむはずがありません。いったい誰が要求しているのか。小池議員の質問に、労働基準局長は、「日米投資イニシアティブ」「日本経団連」「在日米国商工会議所」をあげました。日本と米国の双方の財界・大企業、米政府からの圧力で、残業代取り上げの制度を導入しようとしていることは明白です。
 報告案は、制度の対象となる労働者の要件を、「年収が相当程度高い者」などとしていますが、年収が高いからといって残業代を取り上げる理由にはなりません。
 しかも、日本経団連は、「年収要件等の規制が強く、必ずしも広範な普及が期待できない内容にとどまっている」といっています。対象となる労働者の要件を法律で定めず、「広範な」ホワイトカラーの残業代を取りあげろといっているのです。
 日本経団連は、労働時間規制を外す理由に、企業の競争力をあげています。しかし、日本経団連もいっているように、「従業員の心身の健康の維持は、健全な企業経営の遂行に欠くべからざる課題」(二〇〇七年版経営労働政策委員会報告)です。現行法で残業代が支払われない管理職のなかから、過労死や過労自殺、メンタルヘルスの障害を多く生み出している実態を直視するなら、「従業員の心身の健康」を守るために、労働時間の規制が必要です。

“過労死促進”は撤回を
 グローバル化も労働時間の規制緩和の理由になりません。グローバル化のもとで二十四時間対応しなければならない社会だからこそ、使用者が労働時間の管理を行って、労働者の命と健康を守る必要があります。
 残業代を取り上げ、過労死を増やす労働時間の規制緩和は撤回するよう求めます。


2006年12月22日(金)「しんぶん赤旗」

労政審 長時間労働野放し案
“奴隷的だ” 労働者委員削除を要求


 労働時間と労働契約法にかんする最終報告案を議論した二十一日の労働政策審議会。「ホワイトカラーエグゼンプション」(労働時間規制の適用除外制度)導入や裁量労働制の規制緩和(中小企業が対象)など労働時間規制を突き崩す報告案に対し、労働者委員は職場の実態を示して批判し削除せよと求めました。

 「なぜホワイトカラーエグゼンプションが必要なのか説明がない」。小山正樹JAM副書記長はこう切り出しました。
 「多様な働き方に対応できる制度は、裁量労働制、フレックスタイム、変形労働時間制がある。なぜ新たに必要なのか」
 「対象は管理監督者の一歩手前というが、管理職でも裁量などなく、長時間労働を助長するだけだ。時間規制をしないと健康は守れない」

「24時間働け」
 厚生労働省が示した年収要件(管理職の平均年収を考慮する)にも「使用者は四百万円を主張している。高めに設定しても変動するのは目に見えている」とのべました。
 「二十四時間働けという制度になる。何のために労働時間制度があるのか。奴隷的働き方だ」。こう畳みかけたのは、長谷川裕子連合総合労働局長。「ホワイトカラーエグゼンプションは大企業で、裁量労働制の緩和は中小企業向けだ。両者はセットで、長時間労働をさせて残業代を払わずにすむ制度をつくる」
 これに対し使用者側は「長時間労働や過労死は事実だ」と否定できず、「ネガティブ(否定的)な考え方をしないで」と反論にもならない弁明を繰り返すだけでした。
 田島恵一・自治労全国一般評議会幹事は「管理監督者の範囲が広げられ問題になっているが、合法化するために範囲を広げるもの。不払い残業が問題になっているが、それを一掃するために時間規制を取り払おうというものだ」とのべました。

最低限の基準
 企画業務などに従事する労働者に限定されている企画業務型裁量労働制について、中小企業には「主として従事する」場合でよいと緩和します。
 石塚拓郎基幹労連事務局次長は「中小企業だけ緩和するのは二重基準をつくることになる。数では圧倒的多数の中小企業が例外とはおかしい」と指摘。小山氏も「本当に裁量を持つ人がどれだけいるのか。こんなあいまいな基準で拡大したら裁量の意味がない。全面的に削除すべきだ」と迫りました。
 窮した使用者側委員が「労使自治にまかせるべきだ」と弁明。これについても、田島氏は「労使自治にまかせたらダメだから労働基準法ができたのに、いらなくなってしまう」と批判しました。
 長谷川氏はこう締めくくりました。「エグゼンプションと裁量労働制の緩和で、年収四百万円以下しか残らなくなる。人間らしく生き働くために最低限の基準を定めたのが労働基準法だ。それをずっと緩和して何が起こったのか考えるべきだ。全面的に削除すべきだ」

最終報告案の修正部分
 厚労省が示した最終報告案のうち、前回(八日)の報告案から修正された主な個所は次の通りです。


 ◆自由度の高い働き方にふさわしい制度の要件(追加)
 対象労働者としては管理監督者の一歩手前に位置するものが想定されることから、年収要件もそれにふさわしいものとすることとし、管理監督者一般の平均的な年収水準を勘案しつつ、かつ、社会的に見て当該労働者の保護に欠けるものとならないよう適切な水準を当分科会で審議した上で命令で定めることとする。

 ◆休日確保について(追加)
 確保しなかった場合には罰則を付すこととする。

 ◆長時間労働者にたいする割増賃金率の引き上げ(一定時間をこえた時間外労働にたいする現行より高い一定率による割増賃金の支払い=追加)
 「一定時間」「一定率」については、労働者の健康確保の観点、企業の経営環境の実態、割増賃金率の現状、長時間の時間外労働に対する抑制効果などを踏まえて引き続き検討することとし、当分科会で審議した上で命令で定めることとする。

 ◆整理解雇(全文修正)
 経営上の理由による解雇が「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」に該当するか否かを判断するために考慮すべき事情については、判例の動向も踏まえつつ、引き続き検討することが適当である。

 ◆解雇の金銭解決(全文修正)
 解雇の金銭解決については、労働審判制度の調停、個別労働関係紛争制度のあっせん等の紛争解決手段の動向も踏まえつつ、引き続き検討することが適当である。

 ◆期間の定めのある労働契約(追加)
 有期契約労働者については、今回講じる施策以外の事項については、有期労働契約が良好な雇用形態として活用されるようにするという観点も踏まえつつ、引き続き検討することが適当である。

 ◆労働基準法関係(追加)
 労働基準法第三六条等の「過半数代表者」の選出要件について明確にすることとし、その民主的な手続きについて引き続き検討することが適当である。


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