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2006年10月14日(土)「しんぶん赤旗」

偽装請負 市田書記局長が違法告発 首相「厳格に対応」 受け入れ企業の責任重大
参院予算委


 「ワーキングプア」と呼ばれる劣悪な労働条件で働く人々が激増している背景に偽装請負問題がある――日本共産党の市田忠義書記局長は十三日、参院予算委員会で、派遣大手「クリスタルグループ」の受け入れ企業の新資料を提示。受け入れ企業が直接雇用の努力義務を順守するなど厳しく指導するよう迫りました。安倍晋三首相は「法令に反しているのであれば、厳格に対応していかなければいけない」と答弁しました。

(写真)質問する市田忠義書記局長。後ろはパネルに注目する他党議員=13日、参院予算委員会

 市田氏は、自動車、電機など日本の代表的企業の生産現場が、懸命に働いても苦しい生活から抜け出せない派遣、請負労働者で支えられている生々しい実態を示し、安倍首相の認識をただしました。首相は「ワーキングプアを前提にコスト、生産の現状が確立されているなら大変な問題だ」とのべ、企業側の責任にふれました。
 市田氏は、とくに偽装請負について、派遣労働の場合に受け入れ企業側に生じる労働安全衛生上の責任や、一定期間以上継続して働いた労働者を直接雇用する努力義務を避けるための身勝手な違法行為だと批判しました。「労働者を食い物にして、派遣会社も受け入れ企業も利益をあげる法違反の『人入れ稼業』そのものだ。企業は働く人を部品のように扱って恥じない」とただしました。
 市田氏が偽装請負の具体例として告発したのが、クリスタルグループの業務請負会社「コラボレート」(本社・大阪市)の事例です。今月三日、大阪労働局から、悪質な偽装請負で行政処分を受けています。労働者を受け入れていた企業名の公表を求めたのにたいし、厚生労働省は拒否しました。市田氏は「あまりにも無責任だ」と批判。独自に入手したクリスタルグループが百人以上の労働者を派遣している事業所の一覧を示しました。この中には、松下電器、キヤノン、ソニーなど大企業グループが入っています。
 「一見華やかな製造業の現場では、これだけの数の派遣、請負労働者が、まるで『女工哀史』を思い起こさせる前近代的な劣悪な労働条件で働いている」。市田氏は、受け入れ企業は違法な働かせ方で不当な利益を得ていると指摘し、「いまある法律を厳正に活用するだけで、ワーキングプアを安定した生活に戻せる。メーカーに対し、直接雇用への働きかけを厳格にすべきだ」と迫りました。安倍首相は、「厳格な対応」を約束しました。

規制緩和で偽装激増
 事態の背景には政府の後押しがありました。市田氏は、製造業への派遣を解禁した二〇〇四年の労働者派遣法の改悪実施以後、製造業への派遣を行う事業所が〇六年三月までの二年間で十三倍の八千十六カ所に激増した事実を政府に明らかにさせました。「政府自身がかつて懸念していた通り、製造業への派遣解禁で、偽装請負がまんえんすることになった。誤りがはっきりしたのだから、元に戻すべきだ」とのべ、労働分野での規制緩和路線を転換するよう求めました。

終了後から続々と反響
 質問終了後から日本共産党本部などには、「すばらしかった。これからも日本の進路を正して活動してください」「働くものの実態をとりあげてくれて、とても感動した。共産党だからできる内容だと思った」などの感想が多数寄せられました。


2006年10月14日(土)「しんぶん赤旗」

主張
再チャレンジ
雇用の深刻なゆがみの是正を


 政府は景気の拡大期間が戦後最長の「いざなぎ」景気に並んだとしています。しかし、多くの国民に、そんな実感はありません。
 矛盾は政府の統計にも表れています。今回の「景気拡大」の五十七カ月間に、現金給与の総額が下がるという前代未聞の異常事態です。
 総額人件費を引き下げて利益の拡大を図る財界・大企業の雇用・賃金戦略と、それを強力に後押しした小泉内閣の「構造改革」路線がもたらした大きなゆがみです。
 安倍内閣が「再チャレンジ」を看板に掲げるなら、雇用を取り巻く深刻なゆがみを直視すべきです。

「価値観の変化」とは
 この五年間の給与所得の動きを見ると、年収三百万円以下の人が百八十五万人増えるとともに二千万円超の人も三万二千人増加し、中間の所得層は軒並み減少しました。小泉内閣の間に、多数の国民を低所得層に追いやる一方、少数の富裕層を生み出してきたという、貧困と格差拡大の実態が浮かび上がっています。
 その中で、働いても働いても生活保護水準を下回る暮らしから抜け出せない「ワーキングプア」が、深刻な社会問題となっています。
 安倍首相は、参院予算委でこの問題への認識をただした日本共産党の市田忠義書記局長に、将来の格差拡大につながるから注意が必要とのべつつ、「価値観の変化もある」と答弁しました。若者の価値観が変わったから、つまり若者が望んで不安定雇用が増加したという認識です。
 市田氏が指摘したように、好きで不安定雇用を選ぶ若者が大勢いるかのようにいうのは、信じがたい暴論です。政府の意識調査でも、不安定雇用の若者のほとんどが正社員となって働くことを望んでいます。
 若者を「ワーキングプア」の境遇に閉じ込めているのが、規制緩和によって急増した派遣や請負などの雇用形態です。とりわけ小泉内閣が、それまで禁止されていた製造現場への労働者派遣を解禁して以降の三年間で、製造業に労働者を派遣する事業所は十六倍の約八千に増えました。それと軌を一にして違法な「偽装請負」が広がっています。
 実態は派遣なのに請負であるかのように偽装するのは、派遣の場合には派遣先企業が負わなければならない使用者責任、一定期間の派遣継続後に生じる直接雇用の申し出義務を免れるためにほかなりません。
 しかも、こうした働かせ方によって、正社員を雇った場合の時給(福利厚生費を含む)三千五百円程度と比べ、製造企業は千円の人件費をカットできます。派遣会社は千五百円のもうけを得て、労働者にはたったの千円しか残らない仕組みです。
 あまりにもひどい“ピンはね”です。重大なのは、このような雇用の実態が少数の例外ではなく、日本経団連の役員企業をはじめ、広く製造業全体にまん延していることです。

規制緩和を元に戻せ
 日本を代表する大手製造企業が、使用者が当然負うべき責任と負担を逃れ、若者を「ワーキングプア」にしばりつけることによって、空前の利益を計上する―。これこそ弱肉強食の非人間的なゆがみです。
 市田氏の追及に、安倍首相も「違法行為にはしっかり対応する」と答えざるを得ませんでした。
 派遣会社の違法行為摘発はもちろん、派遣先企業に対しても厳格に対応し、直接雇用に切り替えるよう働きかけるのは当然です。「偽装請負」をはびこらせる原因となっている規制緩和は元に戻すべきです。


2006年10月14日(土)「しんぶん赤旗」

市田質問 その時、委員会室は
傍聴席から「ホー」


 それまで私語などを交わしていた委員たちの目が、質問者と答弁者を代わる代わる見つめるようになりました。十三日、参院予算委員会が開かれた第一委員会室。日本共産党の市田忠義書記局長が派遣労働者の実態を詳しく紹介したときでした。
 「手取りわずか十万円。発熱で倒れたらクビになった…」
 市田氏が派遣会社大手「クリスタルグループ」オーナーの経営方針を読み上げます。「『プロは違法行為が許される、境界線で勝負する…』」。思わず「へー」「ホー」という声が傍聴席から聞こえます。
 さらに、市田氏が、パネルを使って、派遣元と派遣先が労働者から利潤を吸い上げる仕組みを解説します。
 身を乗り出した民主党の女性議員に、隣席の男性議員がパネルの内容を身ぶりをまじえて説明しています。別の民主党男性議員は、傍聴していた日本共産党の井上哲士議員の方を振り返って「あの資料、配布してくれないの」。
 市田氏は、違法な派遣で利益を上げた受け入れ企業名を明らかにするよう迫りますが、厚労省は「個別企業にかかわる情報なので」と拒みます。
 市田氏がクリスタルグループの資料から作った受け入れ事業所のリストを示すと、委員会室はふたたび「おー」というどよめきに包まれました。(安)


2006年10月14日(土)「しんぶん赤旗」

なぜ偽装請負なのか “人員調整”“費用が割安” 働く者に責任負わず
市田質問で明らかに


 偽装請負とは何か、そのもとで労働者はどう苦しめられているのか――。十三日の参院予算委員会での質問で、日本共産党の市田忠義書記局長は、そもそもから政府に問いただしました。浮かび上がったのは、労働者を食い物にした驚くような実態です。(山田英明)

(写真)ワーキングプア、偽装請負問題について質問する市田忠義書記局長=13日、参院予算委

派遣・請負とは
 派遣とは、派遣会社が他社と契約を結んで労働者を「貸し出す」形態です。派遣先の企業が派遣期間内であれば雇用責任を負わずに労働者を指揮し、使うことができます。派遣先企業は、労働者にたいして労働安全衛生にかかわる使用責任が生じ、さらに労働者の派遣期間が一年(二〇〇七年三月からは三年)を超えた場合には労働者を直接雇用する責任を負います。
 一方、請負とは、請負会社が発注元企業から業務の一部を任されて完成させる働き方です。労働者にたいする雇用責任を負い、労働者を指揮するのは請負会社。派遣と違って発注元企業は指揮できません。
 問題は、こうした派遣、請負がなぜ広がるのかです。市田氏は、パネル(図)を示して、その背景を明らかにしました。
 製造業者にとって、労働者を一人雇えば年金、健康保険料の福利厚生費を含めると時給で約三千五百円がかかります。
 これに対し、派遣会社から派遣してもらう場合は約二千五百円ですみます。受け入れ先の製造業者には約千円のもうけが発生するわけです。では、派遣会社はどうか。労働者に千円しか払いません。これによって、派遣会社にも千五百円のもうけが発生します。
 つまり、受け入れ先の製造業者と派遣・請負会社の双方にもうけが出るのが派遣、請負です。厚生労働省のアンケート調査では、大半の企業が派遣、請負を使う理由に「人員をすばやく調整できる」「費用が割安」をあげています。
 こうした仕組みを悪用し、実際は派遣なのに請負を装い、受け入れ先企業の負担を軽減することで、実績をあげようとするのが偽装請負です。
 市田氏は「自分の工場に働いている人間に対して何の責任も負わない。ただ、部品のようにモノのように働く人を扱って恥じない、これはモラルハザード、ローハザードの極みだ」と労働者の思いを代弁しました。

政府の後押し
 もともと労働者派遣は、戦前、これによって労働者が劣悪な環境におかれていたことの反省から、職業安定法で禁じられてきました。
 自民党政治は、一九八五年に労働者派遣法を制定したのをはじめ、労働法制の規制緩和を相次いで実施してきました。〇四年には、それまで禁止されていた製造業への派遣を解禁しました。
 市田氏は偽装請負増加などの背景に「企業の要求だけではなく、政府の後押しがあった」と強調。人間らしい働き方のルールの確立、いまあるルールを厳守させることこそ「政治の責任だ」と訴えました。


2006年10月14日(土)「しんぶん赤旗」

安倍政権下の経財会議始動
財界本位の「改革」へ


 安倍晋三首相の下で、新しい経済財政諮問会議が発足し、活動を開始しました。安倍首相が「構造改革のエンジン」と位置付ける諮問会議。財界・大企業直結政治の「エンジン」スタートです。(金子豊弘)

 諮問会議の狙いを同会の議事進行役に就任した大田弘子経済財政担当相がこう指摘しています。
 「予算編成の主導権を財務省から官邸に移すことであり、諮問会議もそれが最大の眼目」(大田弘子著『経済財政諮問会議の戦い』)
 官邸で行われた経済財政の政策決定。問題はだれが主導したのかです。諮問会議では、財界・大企業代表ら四人連名の「民間議員ペーパー」といわれる文書が節目節目で出され、議論の方向性を示しました。諮問会議は、民間議員の意向を受け、政策決定のスピードアップや数値目標、工程表も提示。従来の審議会のような単なる議論の場ではなく、政策の実行に重点がおかれるようになりました。実際、大企業向けの一兆円を超す企業減税や郵政民営化を決定する舞台となりました。
 大田経済財政担当相は記者会見で、民間議員の役割を特に強調しました。「諮問会議の場合は民間議員が自由な発想で高めのハードルを掲げて改革をけん引するという持ち味があります」
 今回、民間議員に選ばれたのは、キヤノンの御手洗冨士夫会長(日本経団連会長)、伊藤忠商事の丹羽宇一郎会長の大企業・財界の代表者です。
 御手洗経団連会長は奥田碩経団連前会長に続き選ばれました。「諮問会議は経団連会長の指定席に」(財界関係者)なった感があります。丹羽会長は、二〇〇三年五月から〇六年五月まで経団連の税制委員会共同委員長を務め、現在、日タイ貿易経済委員会の委員長です。
 さらに伊藤隆敏東大大学院教授、八代尚宏国際基督教大教授の学者二人が起用されました。
 今回、拡充された首相補佐官の中で経済財政を担当するのは根本匠議員です。補佐官を支える官邸スタッフも強化しています。官邸と諮問会議が重層的に経済財政運営を担うことになります。
 安倍首相が掲げるのがイノベーション(技術革新)戦略です。これは経団連の御手洗会長が掲げる「イノベイト日本」と同じ。政権と財界の一心同体ぶりに、証券界からも「政治のトップと財界ヘッドの概念・スピーチが、これほどクロスオーバーしたのは記憶に無い」(三菱UFJ証券のリポート「『イノベーション』による成長路線を選択した安倍政権」)と驚きの声が上がるほどです。
 今後、諮問会議は安倍政権が掲げる大企業本位の「経済成長戦略」や庶民負担増となる歳入・歳出「改革」の推進などを課題にしようとしています。

新メンバー
 経済財政諮問会議の新議員は次の通りです。
 安倍晋三首相(議長)▽大田弘子経済財政担当相▽塩崎恭久官房長官▽尾身幸次財務相▽甘利明経済産業相▽菅義偉総務相▽福井俊彦日銀総裁
 民間議員は次の四氏。御手洗冨士夫キヤノン会長(日本経団連会長)▽丹羽宇一郎伊藤忠商事会長▽伊藤隆敏東大大学院教授▽八代尚宏国際基督教大教授

民間議員の語録
格差は活力の源/意欲欠ける者は解雇

 御手洗冨士夫 キヤノン会長(日本経団連会長)
 「一見優しく見える制度は、子々孫々への負担の付け回しでしかありません。社会保障給付につきましては、少なくとも現在の経済の身の丈にあった水準にまで合わせ込んでいくことが必要」「格差は問題というよりも、むしろ経済活力の源」(2006年5月24日の日本経団連第5回定時総会でのあいさつ)

 丹羽宇一郎 伊藤忠商事会長
 「経済成長を維持しないと日本の未来はない」「公共投資など政府の資金で経済を活性化するのではなく、民間企業の技術開発や人材教育を、税制などで後押しする必要がある」(「読売」9月27日付)

 八代尚宏 国際基督教大教授
 「意欲に欠ける者をペナルティーとして解雇することも必要」「賃金に見合わない、生産性に見合わない賃金をもらっている人は、手続き法をベースにして、転職してもらう」(季刊労働法200号、2002年)

 伊藤隆敏 東大大学院教授
 「生産性が低い農家には退場してもらわないといけない」(「日経」10月12日付)


2006年10月14日(土)「しんぶん赤旗」

無法一掃、人間らしい働き方 ルール確立が政治の責任 市田書記局長の総括質問(大要)
参院予算委


 日本共産党の市田忠義書記局長が十三日の参院予算委員会で行った総括質問(大要)は次の通りです。

市田書記局長 年収300万円以下の労働者が5年で185万人増。原因は
安倍首相 働くことの価値観も変わってきた
市田書記局長 希望してワーキングプアになる者はいない。雇う側に原因がある

格差社会の根本問題の一つ――ワーキングプア

(写真)質問する市田忠義書記局長=13日、参院予算委員会

市田忠義書記局長  日本共産党の市田忠義です。いま、雇用を取り巻く状況は、かつて経験したことのないような異常で深刻な事態であります。これが格差社会の根本問題の一つにもなっているわけですが、まじめに努力して、働いても働いても、貧困から抜け出せない、そういう人が大量に増えて社会問題化している。いわゆる「ワーキングプア」といわれる存在です。
 総理にまずお聞きしますが、ワーキングプアとはいったいどういう状況の人々のことで、総理としてどういう認識、対応を考えておられますか。

 安倍晋三首相 先般、確かNHKの番組だったと思いますが、ワーキングプアの特集の番組がなされまして、大きな衝撃を与えたというふうに聞いております。つまり、一所懸命頑張って働いているけれども、給料が大変低い水準にとどまっているということだと思います。近年、このワーキングプアと呼ばれる人々が増加をしているという指摘があるわけでありますが、給与所得三百万円以下の者の数が平成十七年度で千七百万人であるとの報告を受けています。そうしたなかには、近年増加している非正規雇用者が相当数含まれているのではないかと。
 これはやはり、近年の非正規雇用者の増加というのは、経済・産業構造の変化や、また場合によっては価値観の変化ということもあるのではないかと思っておりますが、いずれにいたしましてもフリーターなど若者を中心に低所得の非正規雇用者が増加していることは、これは将来の格差の拡大につながっていくわけでありますので、十分に注意が必要であると認識しております。そのために、ワーキングプアといわれている若い方々が、非正規雇用から正規雇用に移っていく可能性をもっと拡大をしていく環境をつくらなければならないと思っております。
 具体的には、フリーター二十五万人常用雇用化プラン等により、正社員への転換を推進して、二〇一〇年までにフリーターをピーク時の八割までにしたいと思っております。また、ハローワークにおいて正社員としての就職を積極的に支援していきたい。また正規、非正規の労働者の均衡待遇に向けて、法的整備を含めて検討していきたいと考えています。

市田 国税庁に確認しますが、年収三百万円以下というきわめて低い賃金の労働者が、この五年間でどれだけ増えましたか。

 富田茂之・財務副大臣  国税庁が実施しております民間給与実態統計調査の結果によりますと、一年を通じて民間企業に勤務した給与所得者で年収三百万円以下の人数は、平成十二年(二〇〇〇年)は千五百七万人でありましたが、平成十七年(二〇〇五年)は千六百九十二万人であり、百八十五万人の増加となっております。(グラフ1)

市田 この五年間で百八十五万人増えた。全労働者の四割近くになったわけですが、改めて総理、どうしてこういう低所得層が急激に五年間で増えたのかお答えください。
 首相 確かに増えてはいるわけでありますが、その以前からそういう傾向はあったわけでありますが、先ほど申し上げましたように、経済・産業の構造が変わっているということも一つ大きな要因でありますし、またもう一つの要因というのは、働くことの価値観もずいぶん変わってきたのではないかと思っております。

安い給料で必要なときだけ雇い、昇給も昇格もない

市田 働き方の価値観の違いと(いわれた)。希望してワーキングプアになりたい人がどこにいますか。私は、現実を見ない暴論だと思います。不安定雇用の若者がどういう働き方を望んでいるか。二〇〇六年の「国民生活白書」はどうのべていますか。
 内閣府・西達男国民生活局長 平成十八年(〇六年)版「国民生活白書」におきましては、正社員を希望するパート・アルバイトを中心に転職希望者は増加していると指摘しておりまして、具体的には転職希望者は一九八七年から二〇〇二年の十五年間で百二万人増加したが、現職がパート・アルバイトである転職希望者の増加――九十二万人増により、そのすべてが説明できると指摘しています。
 なお現在、パート・アルバイトで将来正社員になりたいと考えている人は多いと指摘しておりまして、これは具体的には内閣府で行いました「多様な働き方に関する意識調査」をもとに指摘しておりまして、例えば現在パート・アルバイトとして働いている二十代男性のうち、85%が十年後に正社員として働くことを希望しておりますし、十年後もパート・アルバイトとして働くことを希望している者は0%となっているところです。

市田 数字は明確だと思うんですね。非正規労働者というのはいま千六百万人。そのうちの八割が年収百五十万円以下なんですよ。しかも、不安定な働き方を強いられている人のほとんどが、正社員で働きたいという希望を持っている。ところが、そういう希望がなかなかかなえられない。どうしてか。原因は雇う側にあります。働き方の多様性じゃないんです。できればみんな正社員になりたい。
 安い給料で、必要なときだけ雇って昇給も昇格もない。いつクビを切っても平気。企業にとってこれほど使い勝手のいい労働者はいない。自動車や電機など日本を代表するような企業でも、実際に工場で働いている人というのは正社員は少なくて、派遣だとか請負だとか契約社員、入り乱れて働いているというのが現状であります。
 総理に改めてお聞きしますが、派遣や請負で、大企業の工場に送りこまれている労働者がどんな働き方をさせられているか、知っておられる範囲で結構ですからお答えください。

 首相 詳細については厚生労働大臣からお答えをさせますが、いわゆる大企業の製造業の現場についてのお話なんだろうと思います。もちろん、製造業の現場では大企業の正社員の方々も働いておられると思います。同時に請負の方々が、いわゆる協力会社的な立場で働いていると思います。そのなかで近年、いわゆる偽装の請負の問題が摘発、指摘されたところです。

手取りは10万円程度、倒れたらクビ。ホームレスになった例も

市田 現実をもっと直視していただきたい。NHKの「ワーキングプア」をご覧になったのだったら、どういう感想を持ったかというのを自分の言葉で語っていただきたかったと思うんです。あれは、派遣や請負で働く人々に共通する姿であって、例外ではないのですよ。
 例えば、神奈川県内の自動車メーカーで派遣労働者として働いていた人。時給は千二百円。工場のラインで塗装の傷やほこりを点検する仕事。昼間は八時から十七時まで。夜は二十時から翌朝の五時までの勤務が一週間おきに組まれる。時差ぼけから疲れが取れない日々が続いた。仕事が遅い人は容赦なくクビです。
 月収は二十万円。何か一見高いようにみえるけれど、派遣会社が管理している3LDKの寮に三人で共同生活をしている。給与から寮費が五万円引かれる。布団代、共同使用の洗濯機、冷蔵庫、テレビの利用料で一万円引かれる。水光熱費で一万円引かれる。そして所得税や社会保険料を引かれると、手取りはわずか十万円です。
 ある日、四〇度の熱で寝込んだら、派遣会社から「マスクをしてでも仕事に行け」、そういわれた。ついに倒れたら「もうお前はいらない、寮から出ていけ」と。新たにアパートを借りるお金もなくて、この人はホームレスになった。日本を代表する大企業の生産現場で、こういう働かせ方が広がっている。総理は異常だと思われませんか。

 首相 基本的にもちろん労働基準法に違反する働き方をさせているのであれば、ただちにそれは法の執行をしなければならないと思うわけであります。いずれにいたしましても、いわゆるワーキングプアといわれる人たちを前提に、いわばコストあるいは生産の現状が確立されているのであれば、それは大変な問題であろうと思います。
 いわば非正規の方々も、正規へ、常にチャレンジができるという状況をつくっていくことにおいて、企業も積極的に向かい合うことによって、むしろ中長期的には企業の信頼感も高まり、また基本的に活力も高まっていくのではないかと思います。

市田 こういう事態を異常と思わないかと聞いたのに、どう認識されているんですか。異常と思うのですか。いかがですか。

 首相 いまおっしゃったような例が、特定の企業で続発をしているということであれば、それは異常だと思います。

市田 偽装請負とは労働者を食い物にして派遣・受け入れ企業の双方がもうける「人入れ稼業」
 首相 人間を物品と考えるのは間違い

違法のデパート――請負大手「コラボレート」

市田 私がいま紹介したのは、極端な例ではないのです。氷山の一角なんですよ。だから社会問題化しているわけですよ。そういう認識では、私はいまの実態を改善できないと思うのです。
 こういう働かせ方を可能にしているのが、派遣や請負、そして偽装請負です。わが党はこの間、偽装請負問題で、この予算委員会をはじめ、いろんな委員会でも繰り返して追及してきました。今月三日、ついに大阪労働局が、派遣会社を偽装請負で行政処分しました。何が問題で、誰を処分しましたか。

 柳沢伯夫厚労相 ただいまご指摘の大阪労働局による処分の対象会社につきましては、労働者派遣法に違反する請負を継続していたこと、労働者派遣法第五〇条に基づく報告徴収に対して正しくない報告を寄せていたこと、平成十七年六月にすでに業務改善命令を発出していたにもかかわらず、順法体制が十分確立されていなかったことが明らかになりました。
 このため本年十月三日、大阪労働局長はこの企業に対しまして、企業の姫路営業所については一カ月間、その他の事業所については二週間の事業停止、これは新規の契約を排除するというものでございますが、そういうことを命ずるとともに、請負事業の総点検と是正、違法な労働者派遣の再発防止措置、順法体制の整備等を内容とする事業運営の改善命令を発出したところでございます。

市田 何という企業ですか。

 厚労相 株式会社「コラボレート」が対象です。

市田 コラボレートが派遣していた受け入れ先の企業はどこですか。

 厚労相 この会社は、一つの企業グループのメンバー企業でございまして、そのグループ会社の名称は「クリスタルコーポレート」かと存じます。

市田 聞いていることがお分かりになっていないんじゃないですか(議場から失笑)。コラボレートというのは、労働者を派遣した会社なんです。受け入れた企業はどこですか。(「大臣知らないのか」の声)

 厚労省・高橋満職業安定局長 ただいま大臣がお答えしました処分事案にかかわっての、株式会社コラボレートが派遣をいたしました事業所・企業にかかわる情報ですが、これは個別企業にかかわる情報でございますので、お答えを差し控えさせていただきます。

市田 そういう姿勢だから、問題がなくならないんですよ。どうして企業名を公表できないのか。問題があるから調査に入ったんでしょう。だめですよ。

 職業安定局長 派遣事業におきましては、許可の対象になっておりますのは派遣元事業所でございます。当の事案で申し上げれば、株式会社コラボレートでございまして、ここの許可事業所にかかわっての行政処分ということでございますので、そのようにご理解いただきたい。

市田 何という情けない姿勢かということが浮き彫りになったと思うんです。
 コラボレートというのは、クリスタルという人材派遣グループの中核的な企業ですが、このコラボレートは、実際は労働者派遣であるのに、請負を装っていた。労働者派遣と請負では、労働者を実際に働かせているメーカーにとって、どこが違うのか。柳沢大臣、もう少し簡潔に分かりやすく、テレビをご覧になっている方に説明してください。
 請負契約というのは、委員もご承知の通り、ある一つの仕事を完成するということを請け負う、それが債務上、契約上のサインです。そういうものでございますが、他方、労働者派遣法というのは、一人ひとりの労働者を雇用している先から派遣先に派遣をさせるというものです。一番端的にいえば、そういうことです。

市田 まったく質問を聞いておられないんですかね。ユーザー、それ(労働者)を受け入れた企業にとってはどう違うのかと聞いているんです。ちゃんと質問予告しておきましたよ。

 厚労相 これは、受け入れた企業においては、ある一つの仕事、たとえばメーカーであったらこん包などの部門が請負で下請けに出されることが多いわけですが、そういうことは専門のこん包会社がやるのが効率的である、こういうようなメリットがあるということです。それから、派遣の職員の場合は、通常、そういう特別のいろんな知見を持っているような労働者を、必要なときに必要な期間使うことができる。こういったことが、原則的に受け入れ先のメリットだろうと思っています。

市田 まだ分かっておられないと思うのですが、派遣の場合は、労働安全衛生にかかわる使用者責任が、メーカー側には発生するんです。一応ね。ひどい働かせ方をさせられているけれども。そして、一年以上派遣が継続した派遣労働者に対しては、メーカー側は、直接雇用いたしますという申し入れを労働者に対してしなければならない義務を負うんです。
 請負はそういうことは一切いらないんですよ。労働安全衛生にも、何の責任を持つこともいらないし、どういう期間働かせようが、正社員になりますかということを申し入れる必要もない。ほかにもいろいろ違う。社会保険に入っているか入っていないか。一番大事なポイント、いま一番問題になっていることを、全然お答えになってないんですよ。
 クリスタルは、請負を装うことで、受け入れ先である電機や自動車などの製造会社の負担を軽くしてやるというやり方で、急速に業績をのばしたという会社なんです。このグループのオーナーが系列会社に徹底している「人生観と経営姿勢」、私は読んで驚きました。こう書いてあります。
 「大競争に勝ち残り業界NO1になるには、プロは規制規制(ママ)の違法行為が許される。境界線で勝負する」「第三者に迷惑をかけない違法、嘘(うそ)は許される」。違法のすすめそのものであります。
 このクリスタルグループは、以前、日本共産党の大門(実紀史参院)議員が予算委員会で質問しましたが、給与の前借りをした労働者から、返済利子をとることまでやっていた。当時厚生労働大臣は予算委員会の尾辻(秀久)委員長でした。尾辻委員長はそのときに、どう答えられたか。「労働基準法違反は許されない。しっかり調べる」。そう答弁されました。調べましたか。

 厚労相 私は、市田委員の質問を真正面から受け止めているんです。どういうことが受け入れ先のメリットかといったら、私がいま言ったようなことがメリットだという、まず第一にそれを答えるのは、私は当然だと思います。
 調べたかという質問に対しては、調べて、先ほど私がふれたような業務改善命令等を発出した。なおそれが十分に矯正されないということのもとで、今度のような処分につながったというふうに私は理解しています。

市田 ということは、金貸し業までやっていたことが明らかになりました。クリスタルグループというのは違法のデパート、そう言ってもいい名うての問題企業。ですから、今度の行政処分にもなったのですが、ただここで問題なのは、そのコラボレートを使って偽装請負の一番の恩恵を受けていたのは誰かというと、労働者の供給を受けている製造業者なのです。
 そのメーカーの側でもコラボレートからの労働者の受け入れが法律に違反する偽装請負だということは十分認識していたはずなんです。偽装請負というのは、労働者を食い物にして派遣会社も受け入れる企業も双方が利益をあげる、いわば法違反の「人入れ稼業」そのものであります。
 パネルを出してもらいましたが、受け入れる企業は正社員を一人雇えば、ここに書いてあるように、年金や健康保険料などの福利厚生費を含めると時給で大体三千五百円ぐらいかかる。これを派遣会社から派遣してもらうときは、二千五百円でいけます。ここで製造業者は千円もうける。派遣会社は労働者に千円しか払わない。ここで千五百円もうける。ここ(製造業者)ももうかるし、ここ(派遣・請負会社)ももうかる。一番損するのはここ(労働者)なんです。直接雇用すればこう(三千五百円に)なるのに。こういう仕組みが派遣・請負の仕組みなのです。
 自分の工場に働いている人間に対して何の責任も負わない。先ほど具体的な事例を紹介したように、ほとんど前近代的な労働条件に置かれている。そのことにも何の関心もユーザー側は示さない、社会保険に入っているかどうかも、本来自分たちが責任を負わなければならない自分の企業内で働いている人の安全と衛生にも全く関心も責任も持たない。ただ、部品のようにモノのように働く人を扱って恥じない。私はこれはモラルハザード(倫理欠如)、ロー(法)ハザードの極みだと思う。総理、そう思いませんか。

 首相 それはいろいろな例があるだろうでしょうけれども。もし経営者がまるで働いている人間を部品のように考えているのであれば、それは間違いだと思います。

市田 厚生労働省に聞きます。コラボレートから労働者の供給を受けていた企業はどこか。また、どれぐらい受けていましたか。

 厚労相 われわれが処分をしたのは株式会社コラボレートでございまして、その労働者派遣なり請負の事業の現場がどこであったか、どの企業の中にあったかということについては、私どもとしては将来の行政の正しい運営を考えるなら、細目にわたってご説明するのは差し控えさせていただいているところであります。

松下・キヤノン・ソニー…日本の製造業全体をむしばむ

市田 あまりにも無責任だと思います。私はクリスタルグループが一体どれだけのメーカーに何人労働者を供給しているかを示す資料を入手しました。それによると全国で千九十一の事業所に、およそ四万三千人の労働者を供給している。決して例外的なことじゃなくて、日本の製造業全体を深くむしばんでいる実態が明らかになりました。
 クリスタルグループが労働者を供給している企業には、当然クリスタル以外の他の人材派遣会社からの供給もある。その数は十万二千七百三十二人にも及ぶということが入手した資料のなかで記されている。一見華やかな日本の製造業の現場では、これだけの数の派遣や請負労働者が、まるで女工哀史を思い起こさせるような前近代的な劣悪な労働条件で働いている。私はクリスタルグループから百人以上の労働者の供給を受けている事業所を抽出してみました。これがそのパネル(左図)ですが、百一事業所もあるんです。しかもその大半が請負なのです。
 松下グループが二千七百一人、キヤノングループが三千三十三人、ソニーグループが千四百八十五人、東芝グループが八百五十五人であります。いまの製造現場の実態からして、メーカーの側の指揮監督なしで労働者を働かせることはできないわけですから、純粋な請負などは製造現場、ラインではないのですね。ほとんどが偽装請負であることは明白なのです。
 派遣事業者はもちろん、その業者から派遣や請負労働者を受けている製造業者も違法な働かせ方で不当な利益を得ているわけですから、受け入れている製造業者にたいしても厳正な指導が必要だと思いますが、いかがですか、総理。

 厚労相 これは法に基づいて私どもは行政を展開し、また必要に応じて司法的な手続きの発端をつくっているということでございますので、そのようにご理解をお願いしたいと思います。

市田 偽装請負と認定されたということは、実態は派遣だったという認定を受けたということなんですね。だから、製造業に一年以上派遣した場合には、受け入れたユーザー、いわゆるメーカーの側に新しい責任が生じますね。どういう義務が生じますか。

 職業安定局長 一般論でお答えいたしますが、派遣を受け入れた事業所におきまして偽装請負という派遣法違反の事案が生じました場合には、派遣元のみへの指導のみならず、派遣先への指導ということも先ほど大臣の答弁がありましたようにやっているわけでございます。指導の結果として十分に派遣先の対応がなされない悪質な場合については、派遣法に基づきまして、勧告というものができることになっております。

市田 製造業者に一年以上派遣した場合にはメーカー側にどういう義務が生じるかと聞いたのです。

 職業安定局長 いわゆる派遣労働者の雇用の安定を図るという意味で、一年を超えて派遣が行われる場合、派遣先の雇用、直接雇用ということに対する努力義務が生じてくることになります。同時に一年以上というのは努力義務ですが、同時にそれぞれの業務について派遣期間が制限期間がある場合の業務につきまして最高三年まで認められておりますが、最高三年を超えて派遣を受けたいという場合につきまして、これは同時に申し入れをしなければいけないという規定になっています。

政府として直接雇用の働きかけを厳格に

市田 そういう義務が生じるんです。だから偽装請負だったというのは派遣だったわけですから、そういうことがわかったら(派遣期間が)一年以上になった場合には「正社員として働く意思がありますか」と申し入れる義務が生じるんですよ。
 総理は「再チャレンジ」とたびたび言われます。働いている人にそういうはっぱをかける前にいまある法律を厳正に活用するだけでも数万、数十万という単位でワーキングプアといわれている劣悪な環境に置かれている若者を安定した生活に戻すことができるんです。
 私は総理に言いたいんですが、メーカーに対して直接雇用への働きかけを、それこそ厳格にやるべきだと、本会議での私の質問に、「そういう場合は厳格に、厳正にやります」とおっしゃったわけですから、メーカーに対しても直接雇用への働きかけを厳格にやるべきではありませんか。

 首相 いま委員がご指摘のいわゆる偽装請負等につきましては、法令、労働基準法に反しているのであれば、適切に厳格にこれは対応していかなければならないと思っています。

市田 不安定雇用の広がり―政府の後押しがあった
 首相 法令違反にはしっかり対応

製造業への派遣拡大、法施行後13倍に

市田 受け入れた企業やメーカー側にも厳正な指導をやるということを総理は言われました。確認しておきたいと思います。
 次に、こういう事態が日本中に広がったのは、企業の要求だけではないんです。政府の後押しがあった。とくに二〇〇三年の労働者派遣法の改定で、それまで禁じられていた製造業への労働者派遣が認められることになった。そのことが一気に製造現場での派遣・請負の拡大を加速した。
 厚生労働省にお聞きしますが、製造業への労働者派遣を行う事業者は、〇四年三月時点ではいくつ、〇五年三月、〇六年三月それぞれいくつかお答えください。

 職業安定局長 お答えいたします。製造業務に派遣を行う旨の届け出を行っている事業所の数でございますが、それぞれ三月時点で申し上げますと、〇四年におきましては六百十三事業所、〇五年におきましては四千三百三十七事業所、〇六年におきましては八千十六事業所とあります。(グラフ2)(「ほう」の声)

市田 〇三年に労働者派遣法の改悪があって、製造業にも派遣労働者を雇い入れていいと(なりました)。〇四年から施行されたんです。そこから急激に増えている。実に十三倍ですよ。この大本をたださない限り、いくら総理が「再チャレンジ」を叫んでも、いま起きている異常な事態は決して改善されない。
 一九八五年に労働者派遣法がつくられたときもその後の改正でも、〇三年までは製造業への派遣は認めていなかった。その理由はなんだったか。一九九九年四月二十八日衆院労働委員会の当時の渡辺(信)職業安定局長のその部分の答弁を読み上げてください。

 職業安定局長 平成十一年四月二十八日の政府委員の答弁です。
 「製造業におきます派遣の適用につきましては、特に製造業の現場にこれを適用することについて、強い懸念が表明されたところであります。…改正法案におきましても、こういった意見に留意をいたしまして、製造業の現場業務につきましては、当分の間、労働省令においてこれを適用しないこととするというふうにしておるところであります。これは、特に製造業において、今委員が御指摘ありましたように、いわゆる偽装請負というふうなものがまだ存在するのではないか、こういった懸念があるために、今回もこういった措置になったというふうに理解しております」

市田 政府自身が懸念していた通りの結果が出たわけであります。製造業への解禁で、偽装請負が減るどころかいっそう蔓延(まんえん)することになっていた。やってみて心配した通りの誤りがはっきりしたんだから、もとに戻すべきではありませんか。

 首相 いずれにいたしましても、法令に反した行為が行われているのであれば、それは断じて許すわけにはいかないのでありますから、法令に反した行為に対しては政府としてしっかりと対応してまいります。

ほとんどの会社が違反で労働局から是正指導

市田 製造業にも派遣を認めた。その結果、どういう事態が起きているか。去年東京労働局の調査で、派遣会社の法令違反と、業務請負会社の法令違反はどれだけありましたか。

 職業安定局長 お答えいたします。東京労働局が二〇〇五年度に行いました指導監督状況でございますが、労働者派遣事業にかかわります八百七十五の事業所のうち、73・7%、また業務請負にかかわります百七十五事業所のうち、84・6%。合わせますと75・5%の事業所で労働者派遣法等の違反が見られたことから、是正指導を実施したところです。(グラフ3)

市田 法令違反が減るどころか、ほとんどの会社が法令違反だったということをいまの答弁で認めたわけです。非人間的な働かせ方が横行しているのは自然現象ではない。その土台に、労働法制の規制緩和があったということは、事実が証明している。
 政府はまったく政治の責任を感じていない。この問題は非正規で働いている人だけの問題ではないのです。家族も深刻なんです。では正規労働者が恵まれているかというと、もっと下の人がいるからあなたたちも我慢しなさい。長時間労働、低賃金、成果主義賃金を押し付けられて、心の病の人が大変増えている。
 しかも社会保障の支え手を土台から崩すことにもなる。技術の継承もできない。ものづくりにも否定的な影響を与えるし、日本社会と経済の発展にとってもゆゆしき事態です。
 人間らしい働き方のルールをきちんと確立する。そしていまあるルールをきちんと守らせる。それこそ政治の責任だということを強く指摘して質問を終わります。(拍手)

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