新聞に載った関連記事



トヨタで何が・・・・リコール急増 今年110万台
走行中エンストの恐怖


2006年9月3日号「しんぶん赤旗」日曜版より



 「トヨタ車が5回もエンストしました。事故寸前でぞっとしました」(新潟県の女性)、「ついにわが家の車もリコール対象になりました。恐怖です」(奈良県の男性)ーー。読者から編集部にこんな手紙やメールが相次いで寄せられています。世界一の自動車メー力ーへ駆け上るトヨタで何が起きているのか。激増するリコールの脊景を追いました。 岡清彦記者





読者の手紙

幹線道で事故寸前

加藤さんが通勤に利用しているヴィッツヴィッツがエンストした片側3車線のバイパスを指さす加藤さん=新潟市


 「このバイパスでエンストしたんですよ。幸い、追突されなかったけれど、本当に怖かった」
 新潟市内の病院で働く加藤芳江さん(54)=仮名=が指さす栗ノ木バイパスは、片側3車線の市内有数の幹線道路。車は時速60キロ前後で走り抜けていきます。
 この場所でエンストが起きたのは、今年の2月22日午前7時50分ころ。出勤途上で、加藤さんは、トヨタの「ヴィッツ」を運転していました。
 じつは前日の21日も駐車場で2回、道路上で1回、合わせて3回エンストしていました。
 「ディーラーへ修理してほしいと電話すると、『明日は休みでできない』という返事でした」
 やむなく翌22日、加藤さんは、恐る、恐るヴィッツで出勤しましたが、道路上でエンスト。エンジンを7〜8回掛けてやっと動きました。
 「後続車がズラリとならび、あせりました」
 その5分後に、先の栗ノ木バイパスでエンストしたのです。
 「後方の信号が赤で、後続車がなく追突はまぬがれましたが…」
 ディーラiの休み明けの23〜24日に修理してもらいました。ところが夜勤明けの25日、今度はエンジンが掛かりませんでした。
 「あきれました。修理したぱかりなのに」
 修理に3日間かかったといいます。その時のディーラーの診断書にこうあります。
 「クランク・ポジション・センサーが劣化していました」
 エンジンにつながるセンサーに問題があり、エンストするというのです。
 トヨタは7月、ヴィッツなど12車種、26万台のリコールを発表。ヴィッツのリコール内容は、加藤さんのエンスト原因と同じで、加藤さんの車も部品交換されました。
 トヨタのリコールは、01年の6万台から05年の188万台へと急増。今年も8月までに110万台にのぼっています(グラフ)。ほとんど毎月リコールされ、しかも、あらゆる車種に広がっています。(表)
 ヴィッツの不具台についてトヨタは、「製造部品が原因だった」(本社広報部)といいます。
 しかし、熊本県警がことし7月、トヨタの品質保証部長ら3人を書類送検した「ハイラックスサーフ」の欠陥車隠し事件は、強度実験をしていないという設計上の問題でした。
 実際、国土交通省の調査では、リコール原因の7割が設計にあるとしています。なかでも「設計自体」に問題があるのが56%も占めています。トヨタの設計現場は、どうなっているのか。



リコール 自動車メーカーの責任による欠陥などが見つかった場台、メーカーが国士交通省に届け出て公表し、無料で回収・修理する制度

トヨタの今年のリコール
1月19日RAV4L,RAV4J   1万8257台
2月23日ラクティス2WD車  2万5847台
3月28日セルシオ、クラウンなど6車種  67台
4月4日救急車、グランビア、レジアスなど10車種  7万6248台
5月16日ランドクルーザープラド  10万7767台
5月30日ウィッシュ、アイシスなど9車種  56万5756台
7月4日ハイエース、レジアスエース4WD車  2万4236台
7月18日コースター、ダイナ、トヨエース(以上は改善対策)4545台
7月18日ダイナ、トヨエース4WD車  570台
7月18日ヴィッツ、カローラなど12車種  26万8570台
8月22日ダイナ、トヨエース  9069台
(改善対策は、保安基準に不適合ではないか、安全上、公害防止上放置できないもの。無料修理されます)



(上部)休日の土曜日夕方。トヨタのテクニカルセンターの窓には明かりがともっています

(下部)午後10時、まだ明かりがともったトヨタのテクニカルセンター前でバスを待つ技術者たち=豊田市トヨタ町1番地

(線画はヴィッツの欠陥部分)

コスト削減、相次ぐモデルチェンジ

不安訴える設計者

 ミン、ミン、ミン…。
 午後10時30分。トヨタ本社のある豊田市トヨタ町一番地は、夜更けなのにセミしぐれにつつまれます。
 まだこうこうと明かりがともった15階建ての巨大な「トヨタテクニカルセンター」。バスやマイカーで帰宅する技術者たちが次々と出てきます。
 セミしぐれを後に、愛知県豊田市駅行きの最終バスが発車しました。つり革にぷら下がった多数の技術者たち…。
 同センターを中心に技術棟が立ち並んでいます。1万数千人といわれる技術者。そのひとり、青年技術者の半田晃さん=仮名=は、技術派遣会社との契約で、同センターで2年間働いてきました。
 「ヴィッツの外国向けの設計変更の仕事でした。(コンピューターで設計する)統合CAD(キャド)を使って仕事するんです」
 半田さんは、8人が机を並べた一角にいます。トヨタの上司らをのぞくと3人が派遣社員です。半田さんの賃金は、時給換算で1200円余り。
トヨタの正社員の3分の1程度です。こうした低賃金の派遣技術者がトヨタを支えています。
 車は、企画→設計→試作車づくり→実験車でくり返し実験ーーをへて生産に移行します。
 半田さんは、「設計作業で考えるのは、まず安全確保で、次はコスト削減、さらに車の重量を減らすことと教えられました」といいます。
 実際には、「トヨタのグループリーダーらは、コスト削減に血眼になっていた」と指摘します。
 "乾いたタオルを絞る"とまでいわれるのがトヨタです。2000年から30%のコスト削減をめざした原価低減運動、「CCC2l」(3カ年)をスタートさせていました。設計、製造部門や下請け会社で猛烈にコスト削減がすすめられました。
 5回エンストした前出の加藤さんのヴィッツは、このコスト削減中の01年に生産されたもの。
 半田さんは、「一番不安だったのは、コスト削減で試作車が減らされたことです」といいます。
 「設計通りに試作車ができているのか?設計図と試作車が違うことはしぱしぱあります。この手で車にさわりながら、設計図の通りかを確かめます。試作車がないことが多かった」

見切り発車
 トヨタ最大の部品メーカー、「デンソー」から出向した技術者の桜田浩さん(41)=仮名=は、リコール激増の背景について語ります。
 「車の技術はバイブリッド車にみられるように、高度化する一方です。車を制御するコンピューターソフトもぼう大で複雑です。分担して設計しているので、隣の技術者がなにを設計しているかも知らない。しかも、車全体のシステムを見られる技術者が少ない」
 リコールされたヴィッツの図面を見ながら続けました。
 「設計変更はしばしば行われますが、設計を変更しても安全は十分なのか。こうした評価が十分に行われなかった可能性があります。部品の品質のバラツキも考えられます。あらゆる走行条件を考えて設計、試作、実験をしなければならないのに、そうした余裕は技術者にはないのです」
 桜田さんは、「仕事が終わるのは毎日、早い時で午後10時ころ。午前1時すぎまで働いたこともしばしばあった」といいます。年間の残業時間は千時間を超えました。
 トヨタの車種は60種類を超え、相次ぐ新車、モデルチェンジで、設計労働者は連日、仕事に追われています。
 トヨタのグループ会社で、トヨタの車を3割生産している「ダイハツ」の技術者、柴田外志明さん(56)もトヨタに応援にいった経験者です。
 「リコール増大の根本は人件費をふくむコスト削減です。設計期間の短縮もその一つで、技術者は、不安をかかえたまま、見切り発車せざるをえない」と指摘します。
 たとえば、"試作車レス"といって、金のかかる試作車をつくらず、コンピューターで安全確認をするケースが多いといいます。

方針変えず
 リコール増大への利用者、世論の批判に危機感をいだいたトヨタは、8月に、「私がつくるトヨタ『考』動指針」を社員に配布。「『環境・安全・品質・原価』の四つの観点でお客様本位の優れた商品を提供します」などを盛り込んでいます。
 しかし、これまでの方針をどう変えるのかー。
 堤工場(豊田市)の労働者、酒丼俊一さん(56)がいいました。
 「生産現場では、引き続き原価低減の柱であるカイゼンやQC活動などをすすめ、それへの労働者の参加率をアップさせることを求めています。リコール激増の背景にメスを入れることが必要なのに、ますますコスト削減を求めている」



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