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2006年1月29日(日)「日曜版」

大企業の違法 負けられない
立ち上がる 請負青年



解雇を撤回させ光洋シーリンクテクノに直接雇用を要求する請負労働者たち=徳島県藍住町

 トヨタ自動車の部品や松下電器のプラズマテレビを生産してきた請負の青年労働者が、解雇の脅しに屈せず、直接雇用を求めてたたかっています。いまや若者のふたりにひとりが非正規雇用。そのなかで立ち上がった青年たちの思いは。  岡清彦記者

組合加入ホヤホヤも

トヨタ孫会社
徳島

 徳島県の吉野川は、ブイが並び、青ノリ養殖の真っ最中です。
 吉野川の北側に、トヨタの孫会社、光洋シーリングテクノ(藍住町)の工場があります。記者が同工場で働く請負労働者を訪ねるのは、「労組結成」(04年9月)、「春闘で時給10〜30円アツプ」(05年3月)につづいて3度目です。
 仕事を終えたばかりの岡西稔(おかにし・みのる)さん(29)は、正月明けに労組に加入したばかりです。
 「年末に僕を雇っている請負会社から"解雇"を通告されました。みんなが団結してはねかえそうとしている姿を見て加入を決めたんです。しかも、テクノに直接雇用を求めている。そんなことができるなんて考えもしなかった」

 報復の通告

 テクノでは、変速機の潤滑油が外に漏れないようにするオイルシールなどを生産しています。勤務は、午前7時から午後2時51分までの昼勤、午後2時39分から午後10時30分までの2交代制。時給は111O円程度。正社員の3分の1です。契約期間は3ヵ月。契約の長い黒坂和也さん(25)は、6年間で契約を21回も更新しています。
 昨年末の28日、請負会社トップ、クリスタル系のコラポレートは、全労連・JMIU(全日本金属情報機器労組)の組合員20人をふくむ68人に解雇を通告。コラポレート分会代表の矢部浩史さん(40)はいいます。
 「テクノとコラポレートは、10年間にわたって違法な"偽装請負"をつづけてきた。解雇通告は、労組が厚生労働大臣や徳島労働局に、『テクノは直接雇用せよ』との申告をした直後のことで、報復ともいえるものです」
 請負は、派遣と異なり、請負会社が労働者を直接、指揮・命令して働かせることが必要です。しかしテクノは矢部さんらに指揮・命令して働かせていました。違法な偽装請負です。
 労働者派遣法の「改正」で、04年3月から製造部門への派遣も可能になりました。派遣法では、同一職場で労働者が1年以上働いている場合は、派遣先(テクノ)が労働者を直接雇用する義務が生じます。矢部さんらもこのケースに当てはまるため、派遣法にもとづき直接雇用をテクノに求めたのです。

交渉で撤回

 あごひげをそってさっぱりした顔の黒坂さんは、仕事ぶりを認められ"リーダー職"です。「正社員に負けずに仕事しているのに、なぜ解雇されるんだ!こんなの許せん、とみんなで、怒りをぷつけた」
 テクノは、解雇で穴があくために部課長ら事務部門の労働者に現場応援に入るよう指示。緊迫したなか、1月13日の団体交渉で、コラポレートは、解雇を撤回しました。
 安宅徹さん(25)は、テクノで働いて3年。「とりあえず解雇を撤回させた。次は、直接雇用ですよ」
 労粗で最年少の大西真一さん(23)には、2歳の長男がいます。「陽人(はると)に、『こんな仕打ちに、とうちゃんは負けんぞ』といってやりたい」
 直接雇用を求められているテクノは、「当社は一切関与していない」といって団体交渉を拒否しています。
 徳島労連の森口英昭事務局長は語ります。「直接雇用への道を開くかどうかは、日本の請負労働者の未来がかかった大きなたたかいです」


地域労組で団体交渉

松下プラズマ 大阪
1月末の解雇は不当と裁判でたたかう松下プラズマの吉岡力さん=大阪府茨木市の工場前で

 松下プラズマディスプレイ(大阪府茨木巾)で働く吉岡力さん(31)も、偽装請負を大阪労働局に告発し、昨年8月から直接雇用を実現しました。
 ところが、今年1月末までの期間雇用でした。昨年末、松下は1月末で解雇すると通告してきました。
 吉岡さんは、昨年11月11日、「期間限定は不当で、期間の定めのない就労を」と大阪地裁に提訴しました。
 吉岡さんは、約10年間、請負労働者として企業を転々。03年1月から請負会社、パスコから松下プラズマディスプレイで働くよう命じられました。
 昼勤(午前7時45分〜午後8時)、夜勤(午後7時45分5午前8時)を交互に繰り返し、時給は1180円という劣悪な労働条件でした。
 労働条件が下がるコラポレートヘの移籍を迫られたとき、大阪の「派遣110番」を知り、偽装請負の実態を教えられました。
 吉岡さんの申告で大阪労働局は、松下を指導。松下は、請負から派遣に切り替えました。さらに、吉岡さんを期間限定の直接雇用にしました。吉岡さんは、時給が1600円にアップしましたが、多くの労働者から隔離され、ひとり作業をさせられています。
 昨年12月16日の第-回口頭拝論で吉岡さんは、こう陳述しました。
 「松下の偽装請負という運法行為にふつふつと怒りがこみあげてきます。期間の定めのない契約にし、元の職場にもどしてください!」
 大阪労運の地域労組に加入している吉岡さんは、1月20日に解雇撤回を求めて松下と団体交渉。松下は解雇撤回を明言せず、28日に再度、交渉することは約束しました。
 緊迫したなかで吉岡さんは、「絶対に負けられません」と強い口調で語っています。 


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