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2005年5月19日(木)「しんぶん赤旗」

利潤だけ追求する企業とたたかう 独与党党首 発言に反響
大企業経営者は驚き ■ 労組・知識人から支持


 ドイツで今、シュレーダー政権与党、社会民主党(SPD)のミュンテフェリング党首の「資本主義批判」発言が大きな反響と論議を呼んでいます。当初の発言から1カ月以上たった現在もメディアなどに取り上げられています。その議論の内容を紹介します。 (夏目雅至)
 ミュンテフェリング氏は、四月十三日、ベルリンで開かれたSPDの新綱領策定のためのシンポジウムで、「利潤だけを追求する企業活動は民主主義の持続性を損なう」と発言しました。さらに、大衆紙ビルト日曜版同月十七日付のインタビューで、国際投資家の行動を古代エジプトの「イナゴ災害」に例えて辛らつに批判を加えました(要旨別項)。
 ドイツでは、シュレーダー政権が経済の再活性化をはかるとして打ち出した労働市場改革政策「アジェンダ二〇一〇」の可否が問われようとしています。雇用創出効果を意図した企業減税にもかかわらず、失業率は12%、五百万人にのぼり、同時に、同政権の社会福祉・社会保障の切り捨ての政策には国民の批判が高まっています。

雇用に関心なく
 ミュンテフェリング氏の「資本主義批判」は主に、ヘッジファンドといわれる国際投資会社に向けられたものです。しかし、政府が税制上で優遇措置をとっているにもかかわらず雇用の創出に関心を払おうとしないドイツ大企業の経営者に対するいらだちともなっています。
 この発言に驚いたのは、ドイツ大企業の経営者たち。「結果としてドイツには投資が行われなくなり、雇用が創出されなくなる。経済活動の環境全体が毒される」(製薬企業アルタナのニコラス・シュバイカート社長=五月三日、フランクフルトでの株主総会で)などの発言が続きました。
 しかし、他の政治家や各界からもミュンテフェリング発言を支持する声があがっています。
 たとえば、ツィプリース法相は「政府は資本主義の弊害を規制しなければならない。経営者には社会的な責任がある」(ビルト日曜版五月十五日付)と語り、大企業役員はその報酬額を公表すべきだと主張しました。
 ドイツ労働組合総同盟(DGB)のゾンマー議長は五月一日、南西部の都市マンハイムで行われた中央メーデーで、ミュンテフェリング発言を支持し、「企業が工場を海外に移転し、ドイツの税金逃れを行っている」と告発、政府は「こうしたグローバル化した資本主義に直面するなかで、労働者の権利を擁護するためにたたかうべきだ」「資本主義批判は実際に教訓が生かされたときに有効だ」と強調しました。
 またノーベル賞作家ギュンター・グラス氏も、論議に加わりました。同氏は、週刊紙ツァイト五月三日付で、「銀行や大会社のロビイストが民主主義を上回る力を行使している」と述べ、「議会が株式市場の付属物になっている」と、市民に「資本の力」に抵抗するよう呼びかけています。
 ロイター通信は、この一連の論議を、「ドイツの戦後の『社会的市場経済モデル』の将来に対する不安を反映している」と分析しています。

国民の58%支持
 公共放送ZDFが四月二十六日から二十八日までに行った世論調査では、58%の国民が、ミュンテフェリング氏の見解を支持しています。また世論調査会社フォルザが五月二、三の両日、ニュース専門テレビN―TVのために行った世論調査によると、93%のドイツ国民が「企業は社会的責任を果たすべきだ」と回答しています。
 今月の二十二日には、ドイツ最大の人口を抱えるノルトラインウェストファーレン州で州議会選挙が行われます。
 SPDは三十九年にわたって同州の政府を握ってきました。しかし、失業率の増大などによりシュレーダー政権への批判が高まり、野党のキリスト教民主同盟にリードを許しています。この選挙結果は、来年に三期目をかけた総選挙を控えたSPDの今後に大きな影響を与えそうです。
 ボン大学の政治学者フランク・デッカー氏は、「州議会選挙後に党の方向をめぐって激しい論争が起きるだろう。社民党が敗北すれば、左派への転換が起きるのは必至だ」(ロイター通信)とみています。

ミュンテフェリング氏の発言
 何の制約もルールもないように振る舞っている経済界や国際金融市場の人々と私はたたかう。多くの金融投資家は、彼らが職をなくす人々のことをまったく考慮せず、名を隠し顔も見せないで、イナゴのように企業を襲い、食い尽くして、去っていく。こういう資本主義の形態とは断固たたかう。
 ドイツ銀行のヨセフ・アッカーマン頭取は株式配当率25%を目標に掲げ、増益のために6400人の人員整理を発表した。これは民主主義体制への信頼を失わせるものだ。経済は人間のためにあるのであって、その逆ではないことを知るべきだ。(ビルト日曜版4月17日付インタビューから)
「アジェンダ二〇一〇」  シュレーダー現政権が二〇〇三年三月、失業を減らし財政赤字を改善、経済を立て直すとして提起した政策。失業給付期間の短縮化、失業援助金の引き下げ、小規模企業の解雇規制緩和など国民生活を困難にする内容が含まれています。これまでにこの政策実行のためのいくつかの法案が成立しています。政府は今年三月、同政策を補充するとして、法人税減税、青年雇用などに関する政策を提案。しかし失業増のなか政府の政策への批判が強まっています。


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