新聞に載った関連記事


2005年3月17日(木)「しんぶん赤旗」

これではやる気でん  春闘ベアゼロ 金属大手回答

 大企業が二年連続で過去最高の経常利益をあげるもとで十六日、自動車や電機、鉄鋼、造船など主要業種の労働組合が加盟する金属労協(IMF―JC)への集中回答がおこなわれました。回答は軒並みベースアップゼロ。労働者からは、「一時金でだまそうというのか」「大もうけしているのだから、賃上げしろ」と怒りの声があがっています。

新日鉄八幡  一時金増でも“焼け石に水”
 鋼材需給の逼迫(ひっぱく)で、過去最高益を見込む鉄鋼最大手、北九州市の新日鉄八幡製鉄所では、組合側の一時金大幅上積み発表に、労働者は「賃上げは、五年連続ゼロだからな」と一様に冷ややかなようす。
 「税金や社会保険料の引き上げで一時金が多少増えたって、“焼け石に水”たい。会社はもうかって笑いが止まらないんだから、ちょっとぐらいは賃上げに回さんば」と話し合っています。
 一方、職場は増産に次ぐ増産できりきり舞い。一昨年、重大災害が続発した製鋼工場では、要員が不足し、四月から四組三交代を三組三交代に勤務変更したいと組合側に提案しています。もし実施されれば、三週間に一回、十六時間ぶっ通しで働くことになります。
 これまでも時間差をつけ、分割休憩をとっていますが、食事時間が取れないという労働基準法違反が続いています。「めしもまともに食えん状態では、また大災害が起こりかねない」と不安が広がっています。

三菱重工  一時金2万円減組合に不満の声
 長崎市の三菱重工業長崎造船所。十四日には、三菱重工労組(連合・基幹労連加盟)が早々と会社側の回答の見通しを職場集会で労働者に説明。労働者からは「組合は粘ろうともせん」との不満の声があがっています。
 「組合は、賃上げ要求はせんけど、一時金でがんばるからというときながら、(一時金は)マイナスだった昨年よりさらに二万円もマイナス。これではやる気もでん」と現場のある労働者。「会社は目先のことしか考えとらん。造船所はいったいどがんなっとやろか(どうなるんだろうか)」の声が出ていました。
 全造船三菱重工支部長船分会は十六日早朝、「回答不満には抗議行動で再検討を迫りましょう」と組合員四十人で門前宣伝。売上高が二兆円を超えているのに、経常利益がゼロとなっていることを指摘し、「『賃上げができない』となれば、経営の失敗を労働者や関連下請け企業に押しつけることになる」「職場に活力を取り戻すには、会社の資産である人材への投資を」と訴えるビラを配布しました。いつもより多くの労働者がビラを受け取り、関心の高さを示していました。

ダイハツ  要求低いから“満額は当然”
 純利益二百億円以上と空前のもうけを上げたトヨタ子会社のダイハツ。昼休みの職場集会で、実質定期昇給分五千二百円プラス「賃金政策強化金」九百円の六千百円(前年より三百円増)と一時金五・七カ月(同〇・二カ月増)の満額回答を引き出したので妥結したいと組合役員が提案。組合員が拍手で確認しました。  ある組合員が「『賃金政策強化金』って、一体何ですか」と質問すると、組合役員は「世間でいうベースアップです」と説明しました。
 会社側は「今後の投資にばく大な費用がかかるから、うちは“発展途上国”」とか、「将来のダイハツの設計を狂わすことになる」としきりにいいわけしていました。
 組合員は「もともと要求した金額が低いんやから、満額出して当たり前や」「こんなにもうけているときに、なんでもっと要求せえへんねん」との声を上げています。

解説
組合員の声聞かず“再生”ない
 今春闘は、自動車や電機などの大企業が軒並み史上最高益をあげるといわれるなか、ここ数年、賃上げゼロを強いられてきた労働者の期待はふくらんでいました。
 一方で、日本経団連は「ベア(ベースアップ)要求をめぐる労使交渉はその役割を終えた」として“春闘終えん”を打ち出し、賃下げ攻撃をいっそう強め、それを打破できるかどうかが最大の攻防でした。
 労働者の期待とは裏腹に、連合は昨年十一月の中央委員会で早々とベアの統一要求を見送り、業績好調の自動車、電機など主要労組で構成するIMF―JC(金属労協)も続いて統一ベア要求を断念しました。
 労働者にとって心がはずむはずの集中回答日。電機大手の労働者に聞くと、「もう決まっているから何もない」とさめた答えが返ってきました。
 なかでも一兆二千億円もの最高益を見込むトヨタの三年連続のベア要求の見送りは、労働者に冷水を浴びせる決定打となりました。「どんなに利益を出しても、賃金は上がらないのではないか」(電機労働者)という雰囲気を広範囲につくりだし、要求の芽さえつみとりました。
 いうまでもなく、企業業績の回復の裏には、無法なリストラや賃下げ、下請けいじめ、そして長時間・過密労働で血のにじむような労働者の日々の貢献があります。これらの努力に応えるのが企業の社会的責任であり、労働組合の役割です。
 ところが自動車や電機など大企業労組の多くが組合員の要求を聞く職場集会も開かず、一部の組合幹部が決めた春闘方針にそって労資交渉に臨むのが常態化しています。これでは組合員が自らのたたかいとして集中回答日に期待に胸ふくらませるわけがありません。
 連合やJCは、定期昇給の確保など現行賃金体系を維持したと評価しているものの、個別賃金化が強まる成果主義の導入で、実質賃下げになる労働者は続出しています。
 しかも労働者はリストラによる人員削減と、サービス残業(ただ働き)の温床となっている裁量労働制の導入で、いっそうの長時間、過密労働を強いられています。
 電機連合の生活実態調査でも、「貯金の取り崩しでやりくりしている」労働者は、三十代までは二割程度、四十代前半で三割弱、四十五歳以上では四割弱におよびます。生活実態とベアゼロとは大きな落差があります。
 JCの交渉では、企業の業績回復を背景にした一時金の上積みが労資交渉の焦点になり、史上最高額を引き出した労組もあります。しかし、一時金は生活を恒常的に支えるものではありません。今後、業績次第でいくらでも下がります。
 連合の笹森会長は、「組合の再生」をことあるごとに呼びかけます。いくら面倒でも組合員一人ひとりの声に耳を傾ける努力を続け、組合員の要求を反映した方針を練り上げる以外に「再生」はありません。
 これで春闘が終わったわけではありません。賃上げ・労働条件の向上をはじめ、低賃金で苦しむ中小企業の労働者や労働組合もない未組織労働者の賃金底上げ、パートなど賃金格差の是正や均等待遇を求めるたたかいがかつてなく盛り上がりをみせています。広範な労働者が手を結び、財界・大企業の賃下げ攻撃をはね返すたたかいこそ、国民生活と日本経済再生への道でもあります。(中村隆典)


2005年3月17日(木)「しんぶん赤旗」

最高益でも賃上げなし
トヨタなど大手、春闘回答


 自動車や電機、鉄鋼、造船重機など製造業大手各社が十六日、金属労協(IMF―JC)加盟の労働組合に〇五春闘の回答をいっせいに出しました。
 上場企業合計の経常利益が二年連続して過去最高を更新する見込みのなかでの春闘。JCのホワイトボードに書き込まれるのは「賃金体系維持」の文字の列。大企業労組が、大もうけのなかでもベースアップ(賃金のかさ上げ)を要求しない異常な結果です。
 一兆円をこえる純利益が昨年に続き確実なトヨタのトヨタ労組が賃上げ要求を放棄したのを典型に、自動車総連では、メーカー十一社のうち日産とヤマハ発動機が「賃金改訂原資の確保」という名目で賃上げ要求をしているだけです。
 デジタル家電など「業績好調」の電機産業労働者でつくる電機連合は、十七の主要組合すべてが賃上げ要求見送りです。
 一方、賃上げ要求見送りと引き換えに、「過去最高額」をめざすと各労組が組合員向けに宣伝してきた一時金では、満額か、満額近い回答が相次ぎました。“いくら業績が良くなっても賃上げはしない”と労働者の要求に挑戦する日本経団連の主張通りの結果です。
 愛知県豊田市内のトヨタの社宅では、「夫はこれだけ働いているんだから、一時金の満額回答は当たり前です。どうして組合は賃上げを求めないの」「一時金は最高額というけれど、業績が悪くなればすぐに下がる」と労働者の妻が話します。
 労働者同士を競わせる成果主義賃金や、税金・社会保険料の負担増で実質的な収入減にさらされている労働者と家族の間では「わずかばかりの一時金の増額でお茶を濁すなんてとんでもない」との声が広がっています。


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