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2005年3月6日(土)「しんぶん赤旗」日曜版

欧州労働事情
日本の労働者が見た これが、あのトヨタ?
短い労働時間 残業も上限規制



 欧州と日本の働き方にはどんな違いがあるのかーー。トヨタの子会社、ダイハツの技術労働者の柴田外志明さん(55)は、2月末の11日間、フランス、ドイツ、イタリアの自動車工場を訪問しました。その実感をリポートしてもらいました。



フランス・トヨタのヴァレンシエンヌ工場のCGT労組幹部らと懇談する柴田外志明さん=左端

 ●3交代勤務
 成田空港から10数時間、パリ近郊のドゴール空港に到着。初めての欧州に胸が高鳴りました。
 なにしろトヨタがフランスに初めてつくったヴァレンシェンヌ工場などの労組や従業員委員会の代表と懇談できることになったからです。
 私は、開発部門の技術者として36年闇、働いてきました。共同開発のために、トヨタヘ長期出張したこともあります。
 ヴァレンシエンヌ工場は、パリから新幹線で約1時間半、ローカル線に乗り継いで約30分。ベルギーの国境近くの田園地帯にありました。日本の小型車、ヴィッツと同じ車種(現地名でヤリス)を生産しています。
 同工場のCGT(フランス労働総同盟)代表のエリックさんら3人と、工場近くの事務所で懇談しました。
 「約3200人が8時間労働の3交代で働いている。正社員は約2700人。非正規労働者は約500人で、契約期間は1年半です」
 ダイハツでもトヨタでも日本は2交代制です。2交代制で、長時間残業を行えば事実上、24時間稼働になり、要員が少なくてすむからです。
 フランスでは、労働者・国民のたたかいで実現した週35時間制と年間180時間の残業の上限規制があると説明。日本並みの労働条件をねらうトヨタの攻撃に押し込まれながらたたかうエリックさんは明快に答えました。「仏トヨタでは、年間1600時闇しか働きません」
 日本との違いに驚きました。ダイハツでは、年間2200時間を超えているからです。
 日本は、週40時間制で、労働基準法には残業の上限規制はありません。厚生労働省が、年間3360時間という限度基準を示しているだけです。
 「日本のトヨタでは、残業が年間360時間を超える労働者が1万人もいて、大問題になっている」と報告。実際、ヴィッツを生産している日本の工場では、1日3時間も残業をしたり、北米向け工場では、月2回も休日出勤しています。
 今度はエリックさんらが驚く番でした。両手を重ねてほおの下に持っていき、眠るしぐさをしながら、「日本の労働者はいつ寝ているんだ!」。
 週休2日のエリックさん。マイカーのトランクには、三輸車が入っていました。子どもや家族を大切にしている姿が目に浮かびました。



 ●カイゼン
 日本の生産現場では、「ムダがないか」とストップウオッチとビデオで労働者の動作分析が行われています。カイゼン(改善の意味)という名前の労働強化です。
 私は、仏側にこう話しました。「ある工程で、5人で作業をしていた。1人をイスにすわらせて作業からはずし、4人で作業をさせる。当然、ラインのスピードに追いつけずトラブルが発生します。そのトラブルをなくして4人作業にする。日本では、これを"人さらい"といいます」
 間髪を入れずに仏側から「おお、カイゼン」と日本語が返ってきました、、仏でも、動作分析をし、カイゼンの名前で労働強化をしていたのです。エリックさんらが、「そんなに急がせるな!」と抗議すると、トヨタ側は「解雇するぞ!」と脅してくる、といいます。
 同工場では、過密労働のために健康を害して退職する労働者がこの5年間で500人以上にのぼっているといいます。
 エリックさんは、「トヨタはばく大な利益を健康にまわせ」とたたかっています。
 トヨタ流のカイゼンは、ほかの自動車工場におよんでいました。ドイツのダイムラークライスラーの従業員代表委員会のスタッフ責任者、ガブリエルさんは、いいます。
 「われわれは、人減らしのカイゼンは認めていない。たとえば塗装した車にほこりがかぷらないようにカバーをするカイゼンを労働者がした例がある。生産性があがったので一時金として30%を労働者に還元させたこともある」



 ●非正規も同一
 ダイハツでは、期間工や派遣、請負、パートなど非正規労働者が3割を超えています。時給は、正社員の半分から3分の1程度の低賃金で、生産が落ちれば契約を打ちきられます。.
 ダイムラークライスラーのガブリエルさんは、ドイツのたたかいをこう語りました。
 「非正規労働者はゼロが望ましいが、われわれは4%以上入れないという労働協約を結んでいる。同一労働同一賃金を要求し、非正規労働者の時間当たり賃金を、正規労働者と同じにしている」
 トヨタは、ヨーロッパと比べ劣悪な労働条件を日本の労働者に押し付け、1兆円の純利益をあげています。トヨタなど大企業の横暴を規制して、ヨーロッパ並みの労働条件を実現するために頑張りたいーーそうした強い思いでヨーロッパを後にしました。

 ◇ ◇ ◇ ◇
 柴田さんが欧州を訪問したのは、全労運と協力・共同し、労働運動の総台的研究をしている労働総研の「3カ国調査研究団」(8人)に加わったものです。



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