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2002年12月27日(金)「しんぶん赤旗」
「声を上げれば大企業の違法正せる」
この一年 サービス残業是正へ大きな前進
労働者、家族が切り開いた成果
2002年12月27日(金)「しんぶん赤旗」
サービス残業
悲痛な告発 是正進める
労働者に残業させて割増賃金を支払わない企業の犯罪、いわゆるサービス残業の摘発、是正が、大企業職場を中心にかつてなく前進しています。
厚生労働省によると、労働基準監督署の是正勧告等を受けて企業が労働者に支払った割増賃金は、今年9月までの一年半で81億円超という巨額なものです。10月以降もNECで4500万円、トヨタ自動車グループの中核部品メーカー2社で2億円、1億7000万円など、大規模な是正が続いています。
これらは労働者や家族の告発がきっかけになったもので、この是正は「氷山の一角にすぎない」(監督官)ものです。
告発が相次ぐ背景には、リストラのもとで異常な長時間労働が横行し、「帰りは毎日深夜、休日も出勤。おかしくなりそう」「このままでは夫は死んでしまう。助けてください」という労働者や家族の悲痛な叫びがあります。
是正を促進する契機となったのは、厚生労働省が昨年4月6日にだした“サービス残業根絶”通達です。労働時間の適正な管理が使用者の責任であることを明確にし、日々始業・終業時刻を把握することを義務付けています。
日本共産党は、長年にわたり国会質問等でサービス残業の実態を告発し、改善をもとめてきました。その主張が通達に盛り込まれました。
2002年12月27日(金)「しんぶん赤旗」
「声を上げれば大企業の違法正せる」
この一年 サービス残業是正へ大きな前進
労働者、家族が切り開いた成果
残業させても割増賃金を支払わない、いわゆるサービス残業は明確な労働基準法違反。大企業を中心に日本の企業にまかり通ってきたこの違法行為の摘発、是正が本格的にすすんだのが今年の特徴でした。労働者、家族の勇気ある告発が切りひらいた画期的成果です。
大企業が勧告うけ支払い1年半で81億3818万円も
サービス残業による労働基準法37条違反で、是正勧告等をうけて企業が労働者に支払った総額は、厚生労働省のまとめによると、81億3818万円に達します。企業数は613社、対象労働者は7万1322人。期間は、昨年4月から今年9月までのわずか一年半の間です。厚労省がこのような調査結果をまとめ、発表したのは初めてです。
是正企業は、わかっているだけでもトヨタ自動車、JR、川崎重工、日立・三菱・シャープ・沖の電機各社など、日本を代表する大企業が名を連ねます。10月以降も、NECで約4500万円、トヨタグループの中核部品メーカー2社が約2億円、1億7000万円と、大規模な是正が続いています。
「申告してよかった」と語った沖電気の技術者・菅野基視さん(52)は今年9月、会社に千時間分の未払い残業代約250万円(2年間分)を支払わせました。出勤は朝八時、退社は午前一時という毎日が数カ月間も続き、休日出勤もひんぱん。でも、残業代は25時間までしか請求できず、ただ働きを強いられてきました。
過労死を息子にも心配され「もしものときの証拠に」と、実際の出退勤時刻を記録した残業メモが是正の決め手となりました。
当初は「仕事を干されるのではないかという不安や、一緒に仕事をしてきた仲間でもある上司に迷惑がかかるのでは」とためらったといいます。迷いを吹っ切ったのは、「このまま黙っていては、同僚にも今の状況を続けさせてしまう。沖電気の将来のためにもこんな状態は早くやめるべきだ」との思いでした。
サービス残業をしている当事者でない労働者の訴えで、是正されたケースもあります。
サービス残業をしていないNECの労働者・橋場伸一さん(51)らは、十数回も監督署を訪問して是正を求め、今月、100人を超える労働者の不払い残業代4500万円を会社に支払わせました。
職場は病休者が多く調査に入った監督官が「ひどいね」と驚いたほどでした。
橋場さんは「粘り強く訴えていけば、大企業を動かし違法は正せる」と確信をつよめています。
家族など労働者以外の情報提供も、サービス残業の是正に大きな力を発揮しています。
新日本婦人の会は、夫の異常な働き方を変えようと、監督署への相談・申告運動を会員の妻たちによびかけてきました。これまでに、NTTなど8件で改善や是正をさせています。
際限ない長時間労働告発する妻の声は悲痛
労働者・家族による告発が相次いだ背景には、あまりに異常な長時間・サービス残業の実態があります。「夫の帰りはいつも真夜中。残業時間は年間1500時間以上。いつ倒れてもおかしくない状態。何とか助けてほしい」(トヨタ自動車)、「土日出勤はもとより徹夜で帰宅しないことも多く、このままでは本当に過労死してしまう。万一を考え帰宅時間をメモしています」(三菱電機)…。妻たちの声は悲痛です。
過労死するような長時間・サービス残業が広がっているのは、大企業が国際競争力の強化を口実に、リストラによる人員削減や賃金コストの削減を本格的にすすめてきたからです。
「バブル時は働いただけ払われた」という大企業の労働者は少なくありません。しかし90年代後半以降、予算額にもとづいて「今月の残業は20時間まで」等と上限枠をきめ、労働者がいくら働いてもそれ以上は請求できないしくみがつくられてきました。
労働時間は労働者の「自主申告」とさせることで、監督官が調査に入ってもサービス残業が発覚しにくくなります。
また、成果主義賃金の導入によって、「残業時間が多いのは能力がない証拠。査定に響く」と脅し、労働者に自己規制させています。一定時間を超える残業が数カ月間続くと格下げされ、年間賃金が大幅にダウンする制度も少なくありません。
各労働局や監督署は、投書や電話による情報提供型が増え是正の力になっているとのべ、「投書や電話をする際は、追加情報の確認ができるように氏名・連絡先を明らかにしてほしい」といいます。「守秘義務があり、本人の承諾なしに当事者の氏名を会社に伝えることはなく、当事者が特定されないように調査を行うので安心してほしい」としています。
日本共産党の追及と提案が大きな役割
重大な企業犯罪であるサービス残業が大企業で横行していても、政府はこれまで積極的な手だてをとらずにきました。
職場労働者による実態調査や告発の運動と連携して、日本共産党は国会質問などで長年にわたってサービス残業の問題を追及しています。2000年3月には「サービス残業根絶法案」(注1)を国会に提出しました。
厚生労働省が翌01年4月にだした“サービス残業根絶”通達(注2)は、日本共産党の法案内容を生かした画期的なものでした。
通達は、労働時間の管理責任が使用者にあることを明記し、労働者の始終業時刻の把握を義務付けています。これまで大企業では、労働者自身に時間管理をさせる「自己申告制」によって、多くの企業が責任を逃れてきました。これを具体的に制限したものです。
この通達にもとづいて厚生労働省が本格的に監督、指導にのりだしたのがこの間の大きな特徴です。
日本共産党国会議員団は、ことし一年もサービス残業告発の流れをつくる大切な役割を果たしています。
沖電気の菅野さんの残業実態を国会質問でとりあげた、吉川春子参院議員は厚労相に「調査する」(3月)と約束させました。井上美代、八田ひろ子両参院議員が政府に提出した質問主意書にたいする答弁書は、家族等による情報提供も「監督指導を実施する」(2月)と回答しています。また、多くの議員が国会質問や交渉、申し入れ等を通じて改善や是正をすすめています。
小泉首相は「政府としても、いろんな場を通じて改善にむけ各企業、サービス残業をなくすように、今後より一層指導していきたい」とのべています(八田議員にたいする答弁、12月9日)。
職場では、三菱電機の三菱伊丹党委員会が、家族の訴えや職場アンケート等で集めた職場実態を監督署に情報提供し、今年四月、過去2カ月間で700人分の残業代7000万円を支払わせています。会社は、上限枠を撤廃したり管理職の教育など、改善を迫られました。
サービス残業根絶は03年の切実な課題
サービス残業の根絶は、今年の大きな流れを引きついで、2003年の重要な課題です。
この間のサービス残業是正は、企業がすすんで行っているのではなく、追及され逃れられなくなったからです。監督署の指導にもとづいて違反企業が行う是正措置や割増賃金支払いのための労働時間調査の意味を、労働者にきちんと説明しない企業も少なくありません。
サービス残業の是正がすすんでいるとはいえ、ごく一部です。これを根絶するためには、通達の徹底だけでなく日本共産党が法案に示したように、法律で規制することが必要です。違反企業名の公表や制裁金を労働者に払うなど、サービス残業が企業にとって割に合わないものにしていくこと、決定的に不足している監督官を大幅に増やすことが求められています。
「サービス残業をなくせば90万人の雇用創出になる」と社会経済生産性本部が試算したように、雇用問題を改善するためにもサービス残業の根絶は急務です。
(注1)「サービス残業根絶法案」(日本共産党国会議員団、2000年3月28日発表)
(1)使用者に実際の労働時間を把握し、記帳する義務を負わせます。記帳していなければ、それ自体が法違反として罰せられます。不正な記載を許さないために、労働者のチェックを受けさせる制度も盛り込んでいます。
―こうすれば、監督官が調査に入れば、ただちに違法を摘発することが可能になります。
(2)サービス残業が発覚したら、使用者は労基法で定められた割増賃金とは別に制裁金を労働者に支払わなければならないとしています。
―これによって、サービス残業が使用者にとって割に合わないものになります。
(注2)厚生労働省通達
厚生労働省が2001年4月6日に出したサービス残業(ただ働き)解消に向けた通達「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」は、かつてなく踏みこんだ内容となっています。
「使用者に労働時間管理を適正に把握する責務がある」ことを明確にし、「労働日ごとに始業・終業時刻を使用者が確認し、これを記録する必要がある」としています。
自己申告制について、使用者がとるべき措置を次のように定めています。
(1)適正な自己申告をしても「不利益な取り扱いが行なわれることがないこと」を労働者に説明すること
(2)使用者が把握した労働時間が実際の労働時間と合致していないと労働者や労働組合から指摘を受けた時は、「実態調査を行なう必要がある」(注)
(3)使用者は労働時間の適正な申告を阻害する要因や措置がないか確認し、ある場合は改善すること。阻害する要因や措置とは、申請できる残業時間数の上限設定や、残業時間削減のための社内通達、残業手当の定額払いなど
(注)使用者の改ざんを許さないための措置。実際には、使用者がみずからの記録(台帳)を労働者側に示すことで、適正か否かを明らかにせざるをえず、事実上労働者の閲覧権(開示請求)を認めたものといえます。
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