あ と が き

 

 「続・そばの香り」を自費出版して以来、ほぼ十三年がたつ。十三年かけて書いたものがやっと三十五編だから、一年に二

編か三編といったペースである。これでは遅筆の域をはるかに越えて、遊んでいたと思われてもしかたがない。そんなにのん

びりと何をしていたかというと、もちろん遊びもしていたが、推敲に時間をかけていたのである。

 だれにも先生につかずに文章を勉強するには、すこし遠回りでも、書いた文章を何度でも客観的に読みなおし、徹底的に推

敲するのがいいと自分では思っている。さいわい原稿のしめきりに追われているわけでもなく、時間はたっぷりあるのだから、

納得のいくまで推敲することにした。

 そうこうしているうちに、世の中、インターネットが急速に普及してきたので、今までに書いたものも含めてすべての文章

をホームページで発表してみようと思いたち、ホームページ「そばの香り」を開設した。ホームページだと自費出版とちがい、

ほとんど費用がかからない上に、日本だけにかぎらず世界中の人に読んでもらえると考えたのである。

 と、理屈はそうだが、実際には無名の個人がひっそりとホームページを開いたとしても、おいそれと人が覗きにきてくれる

わけではない。人を集めるためにはそれなりの宣伝がいる。しかし、それもあえてせずに自然にまかせてみた。

 するとどこでどう探しあてたか、大学の先生や電機メーカーの技術屋さんや主婦などといった方々からときたま反響のメー

ルを頂いた。それで十分である。一度に爆発的に訪問者がこなくても、少なくてもいいから着実にふえてくれればいい。と呑

気にかまえていた矢先、文芸社からの熱心なすすめがあり、思いもかけずこの本が出版されることとなった。

 この本の装丁に関しては、一昨年亡くなった母が画き遺した日本画の中から幾つかを使用した。母には生前から、本の装丁

やホームページ用といっては何枚かの絵を頼んで画いてもらったが、亡くなってからも今回また世話になった。母への追悼を

かねるとともに、母の作品をすこしでも世の中に紹介する手助けになればと思う。

 またこの本の出版にさいして文芸社の山田一慶氏、白石孝次氏ほか皆様に多大なお世話になった。心からお礼を申し上げた

い。

 

              平成十三年六月 しとしと雨を聞きながら  著者