デジカメ随想(1)   「シャッター音」
 
 人はカメラを買うとき、どのような基準で機種選択をしているのでしょうか。
 ニコンやキャノンといったブランドで選ぶか、どんなレンズが付いているか、あるいはどんなレンズが使えるかで選ぶか、カメラ自体のさまざまな機能の優劣で選ぶか、コストパフォーマンスの良さで選ぶかなど、選択基準は実にさまざまだと思います。
 私はずばりシャッター音の良さで選びます。もちろんそれだけではありませんが、軽快で心地よいシャッター音がするかどうかを最も大きい選択基準としています。
 カメラはそもそも趣味性の強いものですから、良く写るなど実用的な要素のほかに、手に持ったときや眺めたときの質感も大きな要素となります。そして、その聴覚的な質感がシャッター音なのです。
 対象にカメラを向けてシャッターを「バシャッ、バシャッ」と押すとき、人は同時に対象を「バシャッ、バシャッ」と切り取る感覚を味わいます。この音とともに、対象に係る時間と空間を一瞬のうちに切り取り自分のものにする、ハンティングにも似た快感を味わうのです。
 ところが世の中には、シャッターボタンを押しても無音であったり、どこまで押せば切れるのか、ほとんど手応えのないカメラがたくさん存在しています。フィルムカメラであれば、シャッター音と紛らわしい「ジーッ」というフィルムの巻き上げ音だけがするものもあります。
 私がこの現実を気にするようになったのは、5、6年前にコンタックスG1というコンパクトカメラを買った頃からです。カールツアイスのレンズで、しかもレンズ交換ができるレンジファインダー式のこのカメラを大いなる期待を持って手に入れたのですが、これが全くシャッターの手応え感がないのです。そのころ持っていた他のコンパクトカメラも大したシャッターは付いていなかったと思いますが、G1に関しては値段が高かっただけに失望感は大きいものでした。
 メカ的なことはよく分かりませんが、シャッター音はカメラの構造そのものやシャッター方式に関係しているようです。そして、本を読んだり、自分で試したりした結果では、一番シャッター感覚が良いのは従来の銀塩1眼レフカメラで、一番感覚が悪いのがデジタルコンパクトカメラということが分かりました。
 同じ機構のカメラの中でも優劣があります。私は最近デジタル1眼レフカメラに転向し、それまでのデジタルコンパクトカメラであきらめていたシャッター音を取り戻して楽しんでいますが、キャノンイオスキッスデジタルとニコンD70では、起動時間の差などにより、D70の方がシャッター感に優れています。
 私が今一番望んでいるのは、コンパクトデジタルカメラに擬音的にでもよいから、1眼レフと同じようなシャッター音を付けてもらいたいということです。携帯性に優れたコンパクトデジカメが「バシャッ、バシャッ」と心地良いシャッター音をさせながら使えれば、デジカメ撮影の楽しみがさらに増します。
 みんながシャッター音にこだわれば、メーカーもこのことをもっと大切に考え、巷の多くのカメラにシャッター音を取り戻せるのではないかと考えます。