99年12月23日(祝) 「バイク関係エッセイ読み比べ」
休日にバイクに乗っているだけでは足らず、通勤の途上等で読む本にもバイク関係のものが混じることがある。
最近、現在最も人気のある、賀曽利隆、寺崎勉、斉藤純の3氏の著書を読んだが、それぞれに著者のバイク観や人生観などが表れていて面白かった。以下、簡単な読後感を記してみたい。
(加曽利 隆「中年ライダーのすすめ」・平凡新書)
中年となってバイクに乗ることの楽しさや意義、注意点、どういうバイクを買えばよいかなど、中年ライダーになるためのノウハウが、著者の実体験も踏まえながら、懇切に紹介されている。
中年ライダーになることを勧めている本であるから、まだバイクに乗っていない人を読者として想定しているように見える。しかし実際には、既にバイクに乗っている人たちが、この世界では有名な「カソリ」の名前に惹かれてこの本を買う場合が多いのではないか。
この人のツーリング記録はいくつか読んでいるが、その他についても触れた著書ということで大いに興味があった。
著者のツーリング体験の紹介の部分は、既にこの著者の他の著作で知っていることばかりである。「バイクによる世界一周」、「日本一周」、「サハラ砂漠横断」、「バイクで越えた1000峠」等々。本に書き、アピールするためにも、このように距離や数にこだわるツーリングを重ねてきたのだろうが、とにかくそのエネルギーはすごい。これまで124カ国を回ったという。走行距離も50万キロを超えるというが、すべてを無事故できたというだけでも偉大な記録である。
その、ツーリングの神様、鉄人カソリが、社会人も含む3人の子供を持ち、50歳を目前にして胸の腫瘍の手術をしたり、心臓発作に見舞われたりした人ということはこの本ではじめて知った。そういえばこの人は普通のサラリーマンの容貌をしている。我々と同じ仲間なのである。仲間の代表として、いつまでも神様でいてほしい。
この本で特に役に立ったのは、中年ライダーの健康管理に関する8箇条である。「飲み過ぎるな」とか、「ウエイト・コントロールを徹底しよう」など、いつまでも元気でバイクに乗るための注意は私も実行したい。
(寺崎勉「野宿ライダー、田舎に暮らす」山海堂)
バイクで行くキャンプにあこがれて、この著者が書いた「新・野宿ライダー」という本も持っているが、まだキャンプに行ったことはない。この手の本は、読んで空想しているだけでも結構楽しい。その元祖・野宿ライダーのこの人が、やはり私のあこがれである「田舎暮らし」の本を書いたというので、すぐに求めて読んだ。
北海道出身で東京暮らしを経た後、奥さんと一緒に山梨県の南アルプス近くにある廃屋を借りて移り住む。家の手入れ、部落の人たちとのつきあいなどが淡々と綴られている。バイクの話はあまり出てこない。田舎暮らしの不便さも楽しさとともに、著者の肩肘を張らない、対象と溶け込む自然体の生き方がよく表してある。
この著者の真骨頂は、上辺だけを飾った薄っぺらい「都会性」や「贅沢」といったものを拒否した信条や生活スタイルにある。「Out Rider」’99年9月号にこの人が書いた「長良川遡行」という文章を読んだとき、商業主義化が行き着いた観光鵜飼いのむなしさや、アトピーの少年の孤独に対する思いやり等の記述に、少なからず感銘した。
バイクは日本の道路交通において弱い立場の乗り物であるし、乗り手は少数派である。時代の主流に一歩置いているようなところがある。私がこの人の文章に共感するのは、この立場性の共有にある。
この本の終章近くに出てくる、12年間一緒に暮らした愛犬モクが死んだとき、秘密の河原で材木を積んで火葬に付すくだりは特に感銘深い。
(斉藤純「オートバイ・ライフ」・文春新書)
寺崎氏を田舎派とするならば、この人はまさしく都会派のライダーだ。この本には、いわば、オートバイ乗りの美学のようなものが散りばめられている。ウエア、グローブ、ブーツ等々へのこだわり、オートバイによる旅のあり方等々・・・。著者は、オートバイそのものの価値にもこだわる。外観、音、鼓動等々。機能を追求すれば形は美しくなるというが、物の選択をいい加減にしてはいけないのである。
この本の各章にはコラム欄もあって、そこにはオートバイと映画、オートバイと文芸作品などが語られており、オートバイに係る著者のうんちくを知ることができる。オートバイが単なる道具ではなく、いかに文化的な存在であるかが分かる。
著者は少し前、Out Rider誌に何ヶ月間か読み切りの掌編小説を書いていたが、毎号、カッコ良いライダーが登場し、そこはかとない哀愁を残して終わる佳作ばかりであった。ただ、私は、これらの小説に登場するライダー達が、たとえば私が伊豆スカイラインを自分としては精一杯の速度で飛ばしているとき、それ以上の速度で追い抜いていく(しかも追い抜きざまにわざとエンジンを吹かして驚かす)若者達とイメージがダブって、若干のなじめなさも感じていたが・・・。
それにしても、オートバイ乗りの世界を一般社会との関係の中で、いささかの気取りをもって描いたこの本は、オートバイ乗りの自尊心を微妙にくすぐるものとなっている。
(まとめ)
寺崎氏的な泥臭いバイクの乗り方、斉藤氏的なカッコ良いバイクの乗り方、賀曽利氏的ながむしゃらな乗り方、いろんな乗り方があり、しかもそのどれもが魅力的である。それだけバイクの奥深さがあるということだろう。私としては、やや主体性がないが、今後のバイク人生でこれらのどれをも追求して行きたいと思う。またバイクに乗ろう。