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「な……一体、何が……」 魔王の5人の腹心に次ぐ力の持ち主であるゼロスではあったが、この状況をすぐに把握する事は不可能というものであった。 だが、リナの身体を引き裂いた羽根が、次第に人の形へと姿を変え、ようやく何が起こったのかを理解する事ができた。 そして羽根は完全にその姿を変えた。リナを殺し、また獣神官を茫然とさせるという2つの偉業を成し遂げた存在が彼の目の前に現われ、歓喜の声を上げる。 『やった……やったぞ!!ついに……ついに、あのリナ=インバースを殺ったぞ!!!』 魔族とは思えないほど純白に輝くそれに、ゼロスは全く見覚えが無かった。 そして、何も無い空間から、別の魔族が現れる。こちらは蒼い、爬虫類に似た姿をしていた。 『くくく……やったな……この俺達がっ!』 嬉しそうに笑う二体の魔族。 『これで、覇王様もきっと喜んで下さる!』 『まったくだ!』 その魔族の嬉しそうな声に、ゼロスは何故か己の中に負の感情がふつふつと芽生えるのを感じていた。 『おや……ひょっとしてあなたは、獣神官どのではありませんか?』 完全に人間へと変化した白き魔族がゼロスの存在に気付き、恭しく頭を下げる。蒼き魔族もそれに続いた。 『こんなところでお会いできるとは思いませんでした。しかし!我らは覇王様配下の者です。そして、ついに!あのリナ=インバースの抹殺に成功…………ぐはぁっ!!!!』 二体の魔族が吹き飛ばされる。 皆まで言わせず、ゼロスが手にした錫杖で突き飛ばしたのだった。 『な……何をなさるのです、獣神官どの!!』 当然の事ながら、白き魔族が抗議の声を上げる。 『この‘魔を滅するもの’リナ=インバースの抹殺は、我ら魔族に下った使命ではありませんか!』 蒼き魔族もゼロスに叫んだ。 だがそんなことには全くお構いなしに、ゼロスは冷たく見下ろすだけだった。 『ゼロス殿!』 「……気に入らないんですよ」 『は!?』 「こんな結末……僕は気に入らないんですよ」 高位魔族が持つ、圧倒されんばかりの‘気’が全力で放出された。 その衝撃でちょうどリナ達が倒れているところを境に、あたりの瓦礫が吹き飛んだ。 『き……気にいらないって……』 二体の魔族の目に恐怖が漂う。さして力の無い下級魔族に、ゼロスの‘気’はそれだけで脅威となるものだったのだ。 だがゼロスは、もはや彼らを見てはいなかった。 「……こんな事、他の魔王様が許そうとも、僕は許せません。きっと、獣王様も分かって下さるでしょう」 そう、ゼロスは目の前で獲物を横取りされたような気分だった。 楽しみは、これからだったのだ。 これから、リナを交えた、楽しい楽しいゲームが始まるはずだったのだ。 恐怖と絶望という、甘い闇に彩られた楽しいゲームが……。 「リナさん……こんな最期は、許しませんよ?」 遠い目をして呟くゼロス。 「そう、あなたは……僕の、楽しい玩具なんですから…………永遠に、ね……」 こんな簡単に死んでもらっては、困る。 ……あの男の後を追ってもらうのは、困る。 ゼロスの心の中に、リナに対する異常なまでの執着心があった理由は、本人すら知らない。 「……そうですね。生き返らせたほうがいいでしょうね……」 そう言うとゼロスは己の目の前にいる魔族達を無視し、リナの方へと振り返った。 すると……その紫の瞳に、紅き光が映った。 「な……何ですか、これは!?」 ゼロスの目の前……リナ達の倒れていたところで、強烈な朱金の光が輝いていた。 その眩しさに目が細まる。 「一体……何が、起こったのですか……!?」 ともすれば押しつぶされてしまいそうなプレッシャーに耐えながら、ゼロスは何が起こっているのかを見極めようとしていた。 徐々に……徐々に光の渦に慣れてきたとき、ようやくその正体らしきものが見えてきた。 それは朱金の光の固まり……いや、人の姿をした光であった。 その小さな姿に何故か見覚えがあるような気がして、ゼロスは錫杖を構え一歩、そしてまた一歩と近付いていった。 すぐ側まで来て手を伸ばしかけた時。 (……痴れ者が!!!) 聞いたもの全てが震え上がるような声が、あたりに響き渡った。 ゼロスはその迫力だけで後方へと吹き飛ばされる。 「この声は、一体……」 そしてもう一度、光を見つめる。そして、ようやくその正体に気付いた。 「……ひょっとして、リナさん…………いや、まさか……魔王様!?」 そう。 その朱金の光と纏った者は、先程白き羽根の魔族に殺された筈のリナの姿をとっていた。 しかし、その声は冷たく、紅き瞳にはいつもの生気が見られない。 しかも、この強力な力……決して人の持ちうるものではなかった。 ゼロスにとって懐かしさすら感じる、力の波動。 そんな力を放つ事の出来るものは、この世界の闇を統べるもの……赤眼の魔王シャブラニグドゥしかいない。 しかし、下級魔族の2人には、それがいったい何なのか……判らなかった。 『な……何だ、これは!』 『あ……う……うわあぁぁぁっ!!!』 『彼女』の放つ‘力’に怯え、がむしゃらに魔力弾を放つ。しかし、それらは全て朱金の光の中に消えていった。 『ひ……ひぃぃっ!!!』 自分達の攻撃が全く効かない事を知り逃げだそうとしたが、『彼女』は彼らを許さなかった。 (……愚か者め……己が王の存在、忘れたか!) そう言うと、その腕から伸びた光が、逃亡しようとするものを貫いた。 『あ……ぁ……』 微かな叫び声を残し、下級魔族達は簡単に消滅した。 「ルビーアイ様!」 ゼロスの叫びに、『彼女』はゆっくりと振り向いた。 (……ゼロスか。久しいな) 「魔王様……まさかリナさんを器に復活されたとは……」 頭を垂れ跪く獣神官に、『彼女』は軽い笑みを向けた。 ふと、宙を向き、呟く。 (……分かっている) 「……ルビーアイ様……?」 顔を上げ、怪訝そうな目を向けるゼロスを、『彼女』は完全に無視した。 (お前の望みは、分かっている。だから……だから、泣くな……) まるでそこにはいない『何か』と話しているかのように聞こえる。しかし、そこには何の気配も感じられない。 (お前の好きなようにすれば良い……だが、ゼロスは滅ぼすなよ……) その独り言に自分の名前が、しかも物騒な単語と共に聞こえ、ゼロスは慌てて魔王の名を呼んだ。 しかし『彼女』はゼロスのほうを見て僅かに微笑むと、 (ゼロス……あれを、怒らせるなよ?) 意味不明の言葉を残し、赤く光る目をゆっくりと閉じた。 「ルビーアイ……様……?」 目を閉じたまま動かなくなった『彼女』に、ゼロスは恐る恐る声を掛けた。 だが、反応は無い。 そして……『彼女』は、ゆっくりと、目を開いた。切なくなるような、赤く輝く瞳が現れる。 しかし、その目はゼロスを見ていなかった。視線の向けられている先は、先程ゼロスの力で吹き飛ばされた瓦礫の山であった。 『彼女』がそっと手を伸ばすと、瓦礫があたりに飛び散った。そして……宙に浮く、金髪の男の身体だけがそこに残った。 『彼女』は男に近づき、手をかざした。手のひらに現れた朱金の光が男の身体を包んでいく。 「な……何を……?」 ゼロスが茫然と呟くが、『彼女』は振り向きもしなかった。ただ、光をかざすだけ。 そして、ゆっくりと……男の身体の傷が塞がっていった。 折れ曲がった骨が、元の形へと戻る。 しばらく後には、その男は土気色の肌さえなければ生きていてもおかしくない程度までに身体が修復されていた。 (ガウリイ……) 『彼女』がそっと呟いた声に、ゼロスの目が驚愕に開かれる。 「……まさか……」 (……ガウリイ) 『彼女』は両の手で男の頬を包みこむと、そのまま頭を落とした。 どこまでも優しく、そしてどこまでも深く、口付ける。 二人を繋ぐ口から生命の息吹が流れ込んでいき、そして。 ……男の身体が少しずつ血色を取り戻していく。 ──自分は今、何を見ている? ──この目の前の光景は、いったい何なのだ? ──魔王様は、いったい何を考えている? ゼロスの疑問に答えるものは、いなかった。 長い長い時が過ぎた後、ようやく『彼女』は顔を離した。 その目の前に浮かび横たわる男は、穏やかな呼吸を取り戻している。 『彼女』の顔に、心底安堵したような表情が浮かぶ。 そっと手を下ろすと、男の身体は地面へと戻った。 「……リナ、さん……なのですか!?まさか……」 やっと……絞り出すような声を出すことのできたゼロスに、ようやく『彼女』が振り向いた。 (……何?) 声も気配も確かに魔族のそれなのに、向けられた笑顔は人間を思わせるもので、ゼロスは余計に混乱する。 「あなたは……いったい……」 硬直したままのゼロス。 すると『彼女』はいたずらを思い付いたような顔をして、人差し指をゼロスの唇にそっと押し当てた。 (……それは秘密、よ?) 微笑み、呟く。 「リ……ナ……さん……?」 (……冗談よ) 力の抜けそうなそのセリフに、ゼロスの肩ががくっと落ちる。 「あのー、……!!」 さらに反論しようとしたが……先程とはうって変わった厳しい眼光に貫かれ、ゼロスは再び硬直した。 (あたしが何なのか、教えてあげるわ。あいつ……もう一人のあたしがそうしろって言うからね……) 朱金の光を纏うものは、ゼロスのすぐ側で囁いた。 (あたしは……リナ=インバース=シャブラニグドゥ。人間の魔道士にして、赤眼の魔王の欠片たるもの。そして……) 『彼女』は両腕を、ゆっくりとゼロスに向けて伸ばす。 (そして、全ての存在の母たる、『金色の魔王』の意志と力を受け継ぎし存在(もの)) 「……あの……お方……の!?」 (時の流れに埋もれ、永遠をさすらい、この世界の行く末を見届ける存在……それがあたし……) 『彼女』の手のひらが、ゼロスの頬をそっと包み込む。 (神と魔による中途半端な争いによってバランスを崩しかけているこの世界……今はまだ、壊すわけにはいかない……) 「……!!」 ──そう。それが……それこそが、『彼女』がここに存在する理由。 「神」と「魔」の、壮絶な争いの末の決着がつくまで、「世界」を見届け、そして守り続ける存在……それが、『彼女』。 すべては、ロード・オブ・ナイトメアの心のままに……。 (だから……「神」にも「魔」にも……あたしという存在を知られる訳にはいかないのよ……) そう言う『彼女』の瞳は凍り付くかのように冷たく、ゼロスは思わず一歩後ずさる。 「……僕を……どうする、つもりなのですか……!?」 しかし『彼女』は、口の端を僅かに上げ、壮絶に笑うだけだった。 その迫力に、えもいわれぬ恐怖を感じ、ゼロスは逃げようとした。……しかし、『彼女』はそれを許さなかった。 頬に回した左手をまるで抱きつくかのように首に回し、そして……残りの右手で、ゼロスの胸を貫く! 「!!!」 『彼女』の腕が己の身体を貫いたことに、痛みは感じなかった。 しかし……ゼロスを貫いたその腕は精神世界(アストラル・サイド)にある本体へと達していたのだ。 核とも言える部分を掴み取られた痛みは筆舌に尽くし難いものがあった。 「ぐ……あぁぁっ!!!」 そして、流れ込む強大な力に、ゼロスは苦悶の声を上げる事しかできない。 己を染め替えていく混沌の力に、戦慄を覚えながら。 (身体が……熱い……!!) 苦痛とも快感とも思える、ひときわ大きな波がゼロスを襲った後。 それは突然終わった。 ……はぁ、……はぁ……。 肩で大きく息をつきながら、ゼロスはその場に膝をつく。 だが、先程まで感じていた熱が、まだ身体の中で燻っているような気がした。 「……リナ、……さん……」 多少上目遣いになりながら、『彼女』を見上げると、無表情な瞳とぶつかった。 (ゼロス……あたしは、あんたを殺さない。それが、『あいつ』との約束だから) 獣神官ゼロス……彼は、創造主たる獣王ゼラス=メタリオムのみならず、さらなる主人である魔王シャブラニグドゥにとっても、お気に入りの部下であった。 (けど、あんたの『存在』に制約は加えさせてもらったわ) 「……一体、何を……?」 (簡単な事よ。あたしの事を、黙ってさえいればいい。ただ、それだけ) 「……もし、リナさんの事を喋ろうとしたら……?」 (一言呟く前に、その場で消滅するわ。ただ、それだけ) 抑揚の無い声で恐るべき事実を告げられ、ゼロスは唖然とするしかなかった。 「そ、そんな……!それじゃ、僕にこれからどうしろと!?」 (……別に何もしなくていいわ。……いいえ、何もしないで頂戴……あたしに関する事は、何も。……いい?) ただ、それだけ……『彼女』はそう言うが、ゼロスは承知できなかった。 「でも、僕は……獣王様には嘘をつけません……!」 己を創り出した、母とも言える存在。麗しき金髪美人の姿を思い浮かべながら、ゼロスは必死になって訴える。 創造主たる上司に隠し事をするなど、到底無理であった。 (……仕方ないわね……) そう呟くと、『彼女』は手のひらに力を込めた。と、そこに純白の球が現れる。 (これを、獣王に渡して……それで、納得してもらえる筈だから) 「……これ、は……?」 (渡せば分かるわ) そういうと、『彼女』はゼロスに背を向けた。 「……リナさん……これから、どうされるのですか?」 あえて人間の名で呼び続けるゼロスに、『彼女』は小さく微笑んだ。 (さぁ……また、適当に国を回るわ。外の世界に行ってみるのもいいかもね) 「ガウリイさん……は?」 彼の名を出すと、小さな背中がぴくんと跳ねた。 「このまま、置いていくのですか?……まず間違いなく、彼はリナさんを追いかけますよ。どの国へ行こうと、外の世界へ出ようと」 (……) 「ガウリイさんのカンは常識の範疇を超えてますからね。違えることなく追いつくでしょう。……そして、今回みたいに騒動に巻き込まれて……同じ事の繰り返しでしょう?」 (……何が言いたいの) 「終わりにしませんか、という事ですよ。例えば、いっそのことこの場で本当に死んでいただくとか……ぐはっ!!!!」 不用意な一言は、右腕消失という応酬で返される。 「……じょ……冗談、です……って……ば……」 (笑えない冗談は嫌いよ) つんと顔を逸らす『彼女』。 「……治して、くれないのですか……?」 (この程度じゃ倒されすらしないくせに、何を甘えた事言ってるのよ) 哀れっぽい声を出すゼロスに、『彼女』は冷たい眼差しを向けて答えただけだった。 「まぁ……それは、そうですね」 右肩を押さえながらも、ゼロスは苦悶の表情をやわらげた。 「それでは、僕は他の魔族の方にこう言う事にしましょう、『ガウリイ=ガブリエフを狙え』と」 (……な゛っ……!) 『彼女』がまともに顔色を変える。 (あたしの事を口に出すと、消滅すると言ったでしょう!?) 「でも、僕は別にリナさんの事を言う訳ではないですよ?ただ彼の名前を出すだけで。……大体、リナさん達はすでに魔族の間では有名人なのですから、彼があなたと共にいた事くらい、ちょっとした位の魔族なら誰でも知ってますよ?」 (……!) 「まぁ、僕が何も言わなくても、いずれ誰かが気付くでしょうけどね。……おや、どうされました?恐い顔をして」 (ゼロス……あんた……っ!!) 「これくらいの意趣返しはさせてくださいよね。……何なら、今この場で僕を滅ぼしますか?」 にこにことしたいつもの笑顔で微笑むゼロス。彼の心に、滅亡への恐怖は無かった。 彼にはまだやらなければならない事は多く、今滅びる訳にはいかなかった筈である。……だが……今、ここでリナに滅ぼされるのは別に構わないという思いが胸を占めていた。その理由は、彼自身を含め誰も知らない。 そんな彼に対し、リナは何かを考えるような表情で押し黙った。 「……リナ、……さん?」 (……そうね、確かに魔族ならそうしかねないわね。……だったら、あたしは……) そう言いながら、右腕を高くかざし、そして叫ぶ。 (ヴァム!!!) 『彼女』の叫びと共に、虚空から小さな何かが姿を現した。それは……剣の柄であった。 剣の柄はそのまま『彼女』の腕に収まった。途端、眩いばかりの赤い刀身が現れる。 「!!……それは……烈光の剣?……しかし……」 目の前の赤い光にゼロスが呆然と呟くが、『彼女』はそれを無視した。 (ヴァム……命令を与えます。この男……ガウリイ=ガブリエフを主とし、彼を守りなさい) 赤い刀身が一瞬、瞬きをするかのように輝きを増す。 そして、『彼女』は剣をガウリイの側へと置いた。手を離すと同時に、赤き光は消滅する。 「リナさん……それは……」 (……ヴァーミリオン・ノヴァ。朱光の剣。あたしが創った剣よ) 振り向きながら『彼女』が答える。 (烈光の剣を真似て創ったものだけど……結構、似てるでしょ?ガウリイならきっと、うまく使いこなせる) 「まぁ、確かにそうかもしれませんが…………結局、あなたは彼に甘いのですね。なぜこんな回りくどいことを?記憶を消してしまえばいいでしょうに」 半ば呆れながらゼロスが言う。 (……記憶があろうが無かろうが、魔族に狙われる可能性は変わらないでしょ?だったら、身を守るためのものは必要だわ。それに……) 『彼女』はそっと俯く。 (それに、我が儘だってのは分かってるけど…………ガウリイだけには、……あたしのこと……忘れて欲しくない……) その横顔に、透明な滴が零れ落ちる。 『彼女』が一体何者なのか……ゼロスは、ようやく理解できた気がした。 魔族には決して流すことの出来ない涙。 人間には決して持つことの出来ない瘴気。 相反する魂を内に抱え、矛盾無く存在できる者……それは、『あの方』の力を与えられし者に他ならない。 確かに『彼女』の言うとおり、『彼女』は『あの方』の意志を受け継ぎし者なのだ…………と。 (長話が過ぎたようね。……あたしは、もう行かせてもらうわ) そう言うと、『彼女』の身体から朱金の光が消え失せる。 そこに現れたのは、この町でゼロスが出会ったばかりのリナの姿。魔王としての瘴気や金色の魔王の気配は完全に消され、人間にしか見えない。 「じゃあね、ゼロス」 赤い瞳を輝かせて、リナは言った。 「あ、そうだ!あんたには永遠に、あたしの便利なアイテムとして利用させてもらうからね!」 「……な゛……ちょっ……」 慌てふためくゼロスに、リナはいたずらっぽい瞳を向ける。 「だって、何かあたし、あんたの玩具にされそうだったみたいだし」 「き……聞いてたんですか!!!」 どうやらリナが『死んでいた』ときのゼロスの暴言を、余すところ無く聞いていたようである。 「……当ったり前でしょ!自分の悪口言われて、黙ってられないわよ。……それじゃ今度こそ、バイバイ」 リナは軽く手を振り、そして……夜の闇へと消えていった。 「う……ん…………こ、ここは……?」 瓦礫に囲まれた中、ガウリイが目を覚ました。 辺りを見回し、その惨状に目を細める。 と、すぐ側にある魔族の気配を感じ、とっさに身体を起こす。 「いやですねぇ、そんなに警戒しないでくださいよ、ガウリイさん」 「……ゼロスか……」 心底いやそうな顔をして、ガウリイが睨み付ける。 そして……辺りに探し求めていた気配が無いことに気付く。 「ゼロス……貴様、リナをどこにやった」 「さぁ?」 「とぼけるな!!!」 爆発させるように殺気を放つと、ガウリイは己の傍らにあった剣を無意識のうちに掴み、身構えた。 ぶぉん…… かつてはよく耳にしていた音が聞こえ、赤い刀身が姿を表した。 それを見て、ガウリイが今更ながら、驚愕に目を見開く。 「こ……これは……?」 そんな彼の様子を面白そうに見ながら、ゼロスは小さく笑った。 「ガウリイさん、とりあえず『それ』はあなたのものになったようですよ」 「……どういう……事だ?」 「……さぁ。あ、それと、リナさんですが、……」 とたんにガウリイの瞳が険しくなる。 「あなたは彼女に捨てられたようですけど、……彼女、僕には心を許して下さったようですね」 特大の笑みで、彼にとっての死刑宣告を告げる。 ガウリイの心に、信じられないと思う驚愕心と喪失心が生まれる。 (正体を知った僕を生かしておいてくれただけだから、本当のところはちょっと違うのでしょうが……まぁ、これくらいの意地悪は当然許されますよねぇ) ガウリイの放つ負の感情を堪能し、ついでにその力で右手も復活させる。 「あぁ、美味しかった。ごちそうさま」 言って、その身を宙へと浮かべる。 「……ゼロス!答えろ!!……リナを……リナをどこにやった!!!!!!!」 必死の形相で叫ぶ男に、ゼロスは笑みを浮かべ……ただし目だけは笑わずに、答えた。 「……それは秘密です♪」 そして黒衣の神官は、喚き続ける男を残し、精神世界(アストラル・サイド)へと消えていったのであった。 そして、群狼の島。 「獣王様、ただ今戻りました……」 部下の声に、心地よい眠りについていた獣王ゼラス=メタリオムは目を覚ました。 「お帰りなさい、ゼロス。首尾はどうだったの?」 優しく問いかける主人に、ゼロスは跪き答える。 「申し訳ありません……失敗しました」 その言葉に、ゼラスは眉をひそめる。 「また、覇王の命にて彼女を狙った魔族も滅ぼされたようです……」 うなだれたまま顔を上げようとしないゼロスに、ゼラスはそっと手を伸ばした。 途端に、違和感を感じる。 「……ゼロス……あなた、何をしたの……?」 「そ、それは……リ…………ぐはあぁぁっっっ!!!」 『彼女』の名を告げようとしたとたん、ゼロスの全身を強烈な痛みが襲う。 その存在を危うくさせるような痛みに耐えきれず、彼はあたりを転げ回った。 「ゼロス……ゼロス!!!」 慌てて声をかける主人の声も耳に入らない。 ただ、ひたすらに……全身を引きちぎるような痛みに、目を閉じ身体を抱えるしかなかった。 「ゼロス、待っていなさい!今……」 ゼラスは苦しむゼロスに手をかざす。その先に現れた光が、ゼロスを優しく包んでいく。 ほんの僅かに痛みが治まったような気がした。そして、ゼロスは必死になって呟く。 「……せん…………言い……ません……よっ…………だからっ……」 その祈りが届いたのか、つい先程まで彼を襲っていた痛みは瞬時に消え去った。 だが、その身が受けたダメージは残り、ゼロスは大きく息を吐いた。 「ゼロス?……大丈夫なの!?」 「大……丈夫……です……それ、より……」 苦しそうに言うと、ゼロスは懐から小さな珠を取り出した。 白く輝くそれを、獣王に手渡す。 「これ……は?」 「獣王様に……渡せと……そうすれば……わかる、から……と……」 そしてゼラスはその珠をまじまじと見つめる。 そして、一見何でもなさそうに見えるそれが、とてつもない魔力を秘めている事に気付いた。 魔力を吸収し、そして増幅するという特殊な効力。その中に、微かに混沌の力を感じる。 「これ、は……」 と、その時、彼女の頭に声が流れる! ――これは、あんたの部下を借り受ける駄賃よ―― そしてゼラスも、ようやく、彼女の部下が厄介ごとに巻き込まれたことを知る。 本来ならばとても許せることでは無かったのだが、……今回は相手が悪すぎた。 「……わかったわ、ゼロス……」 その声に、ゼロスは顔を上げる。 「あの娘は、『あの方』を味方に付けた……そういう事なのね……?」 だが、ゼロスは答えない。答えればどうなるか、ついさっき思い知らされたばかりである。 「ならば、私は……私達は、放っておく事にしましょう…………この件からは、手をひくことにするわ……」 言いながら、苦しみ傷ついた部下を優しく抱きしめる。 その優しさに身を委ね、ゼロスはそっと目を閉じた。ゼラスの紡ぎ出す言葉を子守歌にして。 「ゼロス、あなたは『あの方』に囚われたのかもしれない……けど、あなたは間違いなく私の部下でもあるのよ。どうか、それを忘れないで……」 ――そして、完全に破壊しつくされたテルモード・シティ。 ここにも、眩い朱金の存在に囚われた者が一人、空を見上げていた。 己にとって、ただ一つの星を追い続ける者。 しかし、彼が求め続けた存在と再び出会うのは、それから1年後の事であった―― |