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「……は?」 我ながら間の抜けた声だと思いながら、男は聞き返していた。 暗き闇の中、男が跪いていたその先には麗しき金髪の美女がいた。 艶めかしいラインを描く脚を組み、質素だが品のいい椅子に座っている。 「だから。また滅びてしまったのよ。赤眼の魔王様のかけらの1つが」 声にやや苛立ちがこもっているように聞こえるのは男の気のせいではあるまい。 「って、『北の魔王』様が?」 「馬鹿ね。そんな筈、ないでしょう」 (いや、馬鹿と言われましても困るんですが……) 男は内心においてのみツッコむ。 口に出して言うことの愚かさは、長年の付き合いによって骨の髄まで知り尽くしているからだ。 「それでは、新たな魔王様が?」 「ほかに何があるというの」 ぴしゃりと美女に言われ、男はぽりぽりと頭を掻く。 「いや……その……『滅びた』っておっしゃるからには、その前に『復活した』っていうプロセスが必然的に存在したという気がするのですが」 「まぁ、そういう事になるわね」 「僕はそんな話を伺っておりませんが」 「そりゃそうよ。言ってないもの」 男はその言葉にどっと疲れを覚える。思わず左の肩がガクっと落ちた事を、一体誰が責める事ができるだろうか。 「あの〜……?」 「戯れ言はそのくらいにして、本題に戻るわよ」 (……話が横道にずれたのはあなたのせいでは?) 心に浮かんだ言葉をぐっと飲み込み、男は表情を改める。 「この度魔王様を滅ぼした者に、それ相応の報いを受けてもらう事になったのよ」 「滅ぼした?」 「そう。滅ぼされたのよ、魔王様は。たかが人間ごときに」 「人間にって……まさか……」 いくら7分の1とはいえ、仮にも赤眼の魔王たる者を滅ぼすことの出来る人間など、まずいない。 そんな人間離れした芸当ができるのは。 「そう。……リナ=インバースよ」 「やはり……」 リナ=インバース。 「魔を滅するもの(デモンズ・スレイヤー)」の異名を持つ者。 全てのものの母たる存在を受け入れる事を1度とはいえ許された者。 かつて赤法師と呼ばれた者を器として復活した魔王の欠片を滅ぼした者。 小さな身体に人間離れした魔力を秘め、数多くの半端ではないトラブルに巻き込まれながらもその魔力と知力と運で全てを乗り越えてきた少女は、もはや魔族にとって無視できない存在と化していた。 「……で、一体何をする事になったのですか?」 「たかが人間ごとき、魔族の力を持ってすれば殺す事などたやすいでしょう?」 「獣王様!」 慌てた口調で諌めようとする男の言葉を、美女は片手を上げる事によって制止する。 「わかってるわよ。そうやってあの娘を侮ってきたからこそ、魔王様だけでなく冥王や覇王将軍達まで滅ぼされたって事くらいは。……まぁ、他の連中はムキになってあの小娘を狙うでしょうけど」 「だったら……!」 「だから、私は方法を変えることにしたのよ」 美女は顔を引き締める。その表情を汲み、男も姿勢を正して改まる。 「あなたに、命令を与えます……」 青い空に白い雲がよく映えている……そんな天気の下、テルモード・シティは祭りで賑わっていた。 街のあちらこちらに出店が並び、人は皆浮かれ騒いでいる。 「やれやれ……」 こんな生気に溢れた場所にいるのははっきり言って気持ちの良いものではなかったが、黒色の神官衣を纏った男は人の波に揉まれていた。 (確か、このあたりで見かけたそうですが……) 必要以上にきょろきょろしながら歩くその姿は、いかにも「怪しい人っ!」といった感じである。 普段ならそのまま警備隊に呼び止められて職務質問をうけてもおかしくないところだが、幸いにも今は祭りが開催されているため、男の行動はさほど目立つものではなくなっていた。 「よっ!兄ちゃんっ!何か探し物かいっ?」 アクセサリー系の小物を並べた店を出してい男が声を掛けてきた。頭に巻いた派手な赤紫チェックのバンダナが、それをつけている者のセンスを疑わせる。 「彼女とはぐれたのかい?そりゃぁいけないなぁ彼女怒っちゃうよ?そうだそうだ、何かアクセサリーでも買っていきなよ、彼女のご機嫌を取るのも男の役目だぜ?」 何やら勝手に決め付けられているようだったが、案外それがまるっきりの見当違いとも思えなかったため、男はくすりと笑った。 「いえいえ、結構ですよ。ところで、ちょっとお伺いしたいのですが……」 「おっ、何だいっ!?」 「このあたりで、何か大騒ぎが起きているところをご存知ありませんか?」 「……はぁ……?……騒ぎって、そりゃ今祭りなんだからどこも騒いでいると思うが……」 意味不明の質問に思わず間抜けな声を出しつつも、律義にその質問に男が答えようとする。 その時。 どか〜〜〜〜んっ!!!!! 彼らから少し離れたところで爆発が起こった。 「ひ、ひえっ!……な、な、何だぁっ、今のは、一体!?なぁ、」 アクセサリー売りの男が驚き、同意を求めて尋ねようとする。 が、つい先程まで彼の目の前にいた筈の男の姿は、影も形もなくなっていた……。 ざわざわざわ。 「いいかげんにしてよね、全く!」 ぱん、ぱんっ!と手をはたきながら、淡い水色のエプロンドレスを着た少女が呟いた。 長い栗色の髪を上げポニーテールにし、白のリボンで止めている彼女は、なかなかの美少女だった。……しかし。 「く……くそ……よ、よくも……」 彼女の足元には、ズタボロになった酔っ払いが数人転がっていたりするあたり、かなりの違和感がある。 「あんた達に付き合ってやる義務もつもりも、全くないんだからね!」 ざわざわざわ。 と、ふと少女があたりを見回し、自分達の周りに人垣ができていることに気付く。 しかもその人垣は、皆自分を見つめているようで……早い話が、注目を集めていたのである。 (や……やばひ……) 少女は一瞬だけ顔を引きつらせるが、すぐに顔を赤く染め、 「あ、やだ、どうしよう……あ、あははははっ♪」 笑って誤魔化しながらその場を猛ダッシュで去ってしまった。 ……何だったんだ、今のは……??? 人々は疑問に思ったが、そのうち興味を失ったのか人垣は崩れ、皆あちらこちらに散らばって祭りを楽しみ始めた。 そんな中、黒衣の神官は一人怪しげに微笑む。 「……やっと、見つけましたよ……」 たったったっ……。 明るい色のエプロンドレスを揺らしながら、少女は人の波をかき分け走り続けた。 入り組んだ道を書けぬけ、路地裏に入ったところで足を止め一息つく。 (あ、……あぶなかった…………ふぅ) 祭りを楽しみたいという思いで街に繰り出した彼女だったが、まさか酔っぱらいに絡まれるとは思わなかった。 皆浮かれているとはいえ、あまり目立つことをするのは彼女にとってまずいのだ。 たとえ彼がここに居ない、と分かっていても。 「それにしても、さっきの男ども!……今度あんな事したら竜破斬(ドラグ・スレイブ)食らわせちゃる!」 そんなことをすれば彼女自身がまずい目に遭うのだが、頭に血を上らせた彼女は気付かなかった。 しばらく休んだ後、そろそろほとぼりも冷めただろうと街の大通りへ向かうべく歩き始める。 その時、 「リナさんじゃありませんか。いやぁ、奇遇ですねぇ」 よく知っている声がすぐ側で聞こえた。 彼女はぎぎぎ……とゆっくり振り向いた。 にこにこと笑顔を絶やさない、黒髪の神官がそこにいた。 (げっ!!!!) 彼女の顔が、まずい相手に会ったと雄弁に物語っている。 「どうされたんですか?こんなところで、しかもそんな格好で……」 「ゼ……ゼ……ゼ……」 「おや?具合でも悪いんですか?それはいけませんねぇ。ここは一発、僕と不死の契約でも結んでみませんか?病気なんか気にしなくてもよくなりますよ〜?」 とんでもないことをいけしゃーしゃーと言う男に、彼女は指を差して叫ぶ。 「ゼロスっ、あんた、何でこんな所にっ!いったいどっから湧いてきたっ!!」 「……人をゴキブリみたいに言わないで下さいよ」 「あんた、人じゃないでしょっ!!!」 「ま、まぁ、それは置いといて……大体、何でって言われましてもねぇ。大きなお祭りみたいでしたからどんなものかと興味を持って」 本当は彼女を捜しに来たのだが、それは言わない。 かつてゼロスが売ったタリスマンの波動を追えばすぐにでも見つけだすことができたはずなのに、リナが魔術で隠蔽したのかそれは不可能だった。 ようやく会うことができたのだが、そんな苦労をゼロスは彼女に悟られたくなかった。 「嘘付けっ、このスカタン魔族っ!あんたが何でもないときに現れるわけ無いでしょ、この不幸の宅配便がっ!!!」 「あはははは、不幸の宅配便とはまたひどい言われようですねぇ」 にこにこと、笑顔を崩さないゼロスに、リナは必死な顔をして詰め寄る。 「……で?実際、何しに来たのよ?」 「えっと、まぁ確かに、リナさんとまったく関係がないって言ったら嘘になるんですけどね」 「だったらキリキリ吐けっ!」 ゼロスの首根っこを掴みぐいぐいと締め上げるリナ。 しかし、ゼロスにはそんなことではダメージを与えられるわけもなく、彼は人差し指をリナの唇にそっと押し当て、 「それは秘密です(はぁと)」 などと平然と呟いた。 たちまち顔をその瞳と同じ色に染め、リナは慌ててゼロスから離れる。 「な……な……な……何するのよぉっ!!!」 そんな彼女の様子をくすくす笑いながら見つめていたゼロスは、ふと尋ねた。 「そういえば……僕がリナさんにちょっかいをかけると、いつもならガウリイさんが邪魔しに来ていましたけど……今日は来ないんですね」 びくんっ。 リナの身体が一瞬震える。 おや?とゼロスは思う。 「他の皆さんは一体どちらにおられるのですか?」 その質問に、リナはすぐには答えなかった。 歯を食いしばり、何かを我慢するように震えている。 そんな彼女の放つ負の感情に歓びながらも、ゼロスは彼女を見つめ、答えを催促した。 「……ちょっと訳があってね。今、あたしは一人旅をしてるのよ」 言うなりリナはゼロスにくるりと背を向け、歩き始めた。 ゼロスはさも当然のように彼女の後を追った。 ざわざわざわ。 街の喧噪の中、エプロンドレスを翻し早足で歩いていくリナ。 そしてその後を、ゼロスが悠然と歩いていく。 「リナさん」 ゼロスが声を掛けるが、リナは無視して先を歩き続けた。 むろん、彼女にもこんな事でゼロスを誤魔化せるなどとは思っていなかった。 「リナさんってばっ!」 だが今は、そっとしておいてほしかった。 「リ〜ナ〜さ〜ん?」 1年前、あまりにも色々なことがありすぎたのだ。 「お〜い、リ〜ナさんってばぁ」 そう、あまりにも、色々な…… 「もしも〜し、リナさ〜んっ♪」 「やかましいっ!!!人が考え事してるんだから、ちょっと黙っててよねっ!!!」 後ろからしつこく掛けられる声に辟易し、リナが振り向き怒鳴った。 「やっと振り向いてくれましたか」 「……あのねぇ」 にこにことしたゼロスの顔を見て、リナは深い深いため息を付いた。 「まぁ……リナさんが言いたくないっていうんだったら、何も聞きませんけどね……」 その言葉に、リナが再び固まる。 (それに、あなた一人の方が僕にとっても都合がいいですしね) 自分の上司からの命令を思い出す。 『――ゼロス、あなたに命令を与えます。あの人間の娘を……リナ=インバースを、我々魔族の側へ引き入れなさい』 まともにやり合えば、彼女は信じられないほどの能力を発揮し、高位な純魔族すら滅びへと導く。 ならば、味方にしてしまえばいい。 元々彼女は魔の力を扱う黒魔術師だ。闇に接することの多い彼女なら、機会さえあればその心を闇に閉ざすことも不可能ではないのだ。 問題は、リナの仲間達であった。 たとえ彼女が苦しみ、心が闇に染まりそうなときでも、彼女を光へと導く者達。 ゼロスが受けた命令に最大の障害となるであろう者達の不在は、彼にとってかなり都合が良かったのだ。 『何なら、あなた自身があの娘を虜にしてもいいのよ?』 意味深な笑顔で囁いたゼラスの顔が、彼の脳裏に浮かんだ。 ガウリイすらも側に置かず一人で旅をしているというリナ。 (何があったのかは分かりませんが、今がチャンスかもしれませんね) 魔族特有の、妖しく冷たい笑みに、リナは気付いた様子はなかった。 「しかしリナさん、その格好よく似合いますねぇ」 昔のリナだったら絶対に着なかったであろう、ひらひらの、いかにも『女の子』の服。 「そう?……ありがと」 ちょっとはにかみながらリナが答える。 「ホント、馬子にも衣装ってよく言いますしねぇ」 「……ゼーロースー……」 「おや、どうされました、リナさん?」 (呪文の一つでも飛んできますかね) ゼロスはそう考えいつでも防御出来るような態勢に入った。しかし、リナが取った行動は彼の予想外だった。 大きな赤い瞳を潤わせ俯き、両手を胸の前で組み合わせる。 「ゼロス、ひどいわ……」 「……ひっ!!」 思わず小さな悲鳴がゼロスの口から漏れる。全身に寒気が走り、鳥肌が立ったように思えた。 「あたしだって女の子なのに……」 必殺、美少女ぶりっこ。もちろん、リナの演技である。 強烈な精神攻撃を受け石と化したゼロスをみて、彼女はほくそ笑んだ。 「……リナさ〜ん……お願いですから、そんな心臓に良くないことをしないでくださいよぉ」 しばらくしてようやく石化状態から脱したゼロスが、心底疲れ切った表情で彼女に訴えた。 「あんたが失礼なことを言うからでしょうが。この可憐なる乙女に向かって」 「……誰が可憐なのですかねぇ」 「何か言った!?」 ため息混じりに小さく呟いた言葉は、エルフ並みの聴覚を持つリナの耳にはっきりと届いていた。 「何でもないです……」 物凄い形相で睨み付けるリナに、ゼロスは冷や汗をかきながら必死に首を振る。 ざわざわざわ、ざわざわざわ。 祭りの喧噪が、一段とひどくなった気がした。 「おや?何かあったんでしょうかねぇ」 耳を澄ますと、若い女性がきゃーきゃー騒いでいる声が聞こえる。 「何かイベントでも始まったんですかね……おや、リナさん?」 横を歩いていた筈の少女を見ると、顔色が悪い。 足を止め、身体が震えている様子が見て取れた。 「リナさん?一体……」 ゼロスがリナの肩に手を置いたとき。 「リナぁっ!!!!」 彼もよく知っていた声が近付いてくる。 やがてその声の主は辺りの群衆をかき分け、リナとゼロスの前に姿を表した。 長い金髪。青い瞳。 かつてリナの保護者として彼女と共に旅をした男が、息を切らせ立っていた。 「リナ……やっと、会えた」 「な……何で……ここに……」 「さっき、通りで栗色の髪の女の子が魔法をぶっ放したって聞いてな……絶対、リナのことだと思った」 疲れた表情で、だがどこまでも優しい瞳でガウリイは言った。 「もう、逃げたりしないでくれよな……」 そう言ってリナに向かって手を伸ばす。 しかし、リナはいやいやをするように首を振るだけだった。 無言で一歩、後ずさる。 「リナっ!」 僅かに声を荒くするガウリイ。 二人の間に、苦しい沈黙が降りる。 「おやおや……何だかお邪魔な雰囲気ですかねぇ」 「……ゼロス!?お前、何故ここに!?」 ゼロスの呟きに、ガウリイは初めてその存在に気付いたかのように驚く。 「いやですねガウリイさん、僕はずっとここにいましたってば」 目前の少女に気を取られ、その他のものに目がいかなかったのだろう。 恐ろしい形相で睨み付ける男に向かい、ゼロスは不敵に笑う。 「……って」 ふと、リナが呟く。 「え?何です、リナさん?」 「連れてって……遠くへ……今すぐ」 「リナっ!?」 ゼロスの服を掴み掠れるような声で呟くリナに、ガウリイが叫んだ。 「……仕方ありませんね」 淡々と、だが嬉しそうに言うゼロス。 慌ててガウリイが二人の元へと駆け寄る。しかし。 ふわっ……。 その目前でゼロスとリナは空間へと溶けてしまった。 ガウリイはその光景が信じられず、いつまでも立ちつくしていた。 祭りの喧噪の中、いつまでも…………。 「これで良かったんですか、リナさん」 テルモード・シティから遙か遠くに離れた小さな村。 その入り口で、ゼロスはリナに尋ねた。 「……良くない」 その言葉に、ゼロスは思わずコケる。 「あ、あの……あまりあっさりとそう言われましても……」 「だって、荷物忘れてきちゃったんだもん」 なるほど、今のリナは荷物らしい荷物を持っていない。 「宿屋に置いてきちゃった……」 「それでは、僕が取ってきましょうか?」 「へ!?」 思いがけない申し出に、リナが驚く。 「僕でしたら、すぐにあの街へ戻れますし。それに、リナさんは今あの街に戻りたくないでしょう?」 「うーん……でも、あんたがそんなこと言うと何か裏がありそうな気がしていけないのだけど……」 「やだなぁリナさん、他人を信じられなくなったら人間おしまいですよ?」 「……魔族のあんたには死んでも言われたくない……」 あはははは、とゼロスが乾いた笑いをあげる。 「まぁ、とりあえず宿で待っていて下さいね」 そう言い、ゼロスはリナに数枚の金貨を手渡す。 彼女がそれを受け取り頷いたのを確認すると、ゼロスは再びテルモード・シティへと戻るため空間を渡った。 ざわざわざわ。 夜になってもテルモード・シティの祭りは終わってはいなかった。 月が雲に隠れているが、あちこちに明り(ライティング)の魔法がかかっているため、大通りは明るい。 そんな喧噪を無視し、ゼロスは明かりも人通りも少ない裏通りへと入っていく。 「えっと……確か、ここですね」 リナから教えられた宿を見つけると、ゼロスは彼女の泊まっていた部屋へと向かった。 ぎぎぃ。 少々立て付けの悪くなった扉を開けると、きしんだ音がした。 と、真っ暗な部屋の中に見知った気配があることにゼロスは気付いた。 「おやおや、こんな所で何をなさっているんですか、ガウリイさん」 暗闇の中、ベッドに座り何かを抱え込んでいる男に向かい、声を掛ける。 「……貴様こそ、何しに来た」 低く厳しい声で、ガウリイは答えた。 「僕ですか?僕はただリナさんに頼まれて、荷物を取りに来ただけですが」 厳しい瞳を向ける男に、偽りの笑顔で対峙する男。 雲が切れ、静かな月光が部屋の中に差し込み二人の姿をほのかに照らす。 緊迫した空気が流れる。 「その荷物、渡してもらえますよね?」 「……断る。これは、俺があいつに直接届ける」 「リナさんはそれを望んでいないと思うのですが」 「……っ!」 ガウリイが辛そうに顔を歪める。 「やっぱり、ですね。……ガウリイさん、一体リナさんに何をしたのです?ここまで徹底的に避けられるなんて余程のことでしょうに」 「理由があるなら、俺の方こそ知りたい。あいつは……いきなり、俺達の前から姿を消したのだから」 固く拳を握りしめるガウリイ。 「必死に探して、探して……ようやく見つけても、そのままあいつは姿を消しちまう……何故なんだっ!!」 「……嫌われたんじゃないですか?」 意地悪い笑みを浮かべ、ゼロスが言う。……本当のところ、リナがガウリイを避ける理由に心当たりが無いわけではなかったのだが、それをこの男に教えるつもりは毛頭なかった。 「貴様っ!」 凄まじいまでの殺気をガウリイが放つ。しかしゼロスは平然として、軽く錫杖を振った。 「……ぐっ……!!」 とたんに、ガウリイの身体は麻痺したかのように動かなくなってしまった。 ゼロスはそのまま彼の元へと向かい、リナの荷物を奪う。 そして彼に向かい、にっこりと告げる。 「明日の朝には動けるようになると思いますよ。今夜はそこでじっくりと休んでいて下さい、ガウリイさん」 そして、再び空間を渡ろうとしたとき、ゼロスの耳に小さな呟きが聞こえた。 「…………リ…………ナ……」 (あの状態で口がきけるんですか……ホント、人間離れした執念ですねぇ) あの調子では夜半にでも動けるようになるのではないかと半ば呆れながら、ゼロスは今度こそ空間に溶けたのだった……。 |