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――――ごめんね。 あんた達には迷惑をかけたくなかったのだけど。 あたしには、『どちらか』を選ぶ事ができなかった。 自分の命を捨てるなんてまっぴらごめん。 けど、だからといって、他のものも切り捨てる事はできなかった。 負けるつもりなんて、ない。 例えどんなに確率が低かろうとも、戦うからには勝つつもりで、戦う。 それは、あたしのポリシーだから。 だけど……結果として、あんた達を傷つけてしまった。 ただ、それだけが……悔やまれて、仕方がない…… 「……ん……?」 薄く瞳を開けると、そこには金色の波が揺れていた。 「ん、起きたか?」 彼女のすぐ側で火の番をしていたガウリイが、振り向く。 パチパチと小さな音を立てるたき火を挟んだ向こう側では、アメリアやゼルガディスが毛布をかぶり、横になっていた。 「……どうした?」 「…………何か……夢、見たの」 「ふーん。何の夢だ?」 「……忘れちゃった……」 目を軽く擦りながら、リンは答えた。ただ、胸の中に切ない思いだけが、渦を巻くかのように残っている。 「そうか」 呟くと、ガウリイは娘の頭をくしゃくしゃっ、と撫でた。 「……今日は俺がずっと見張っててやるから、寝てろ」 「ん……でも……」 「いいから、気にするな。それより明日から大変なのだから、今の内に体力を蓄えておけって」 ぐい、と軽く起き上がった彼女の身体を、そっと地面へと押し戻す。 「…………ん……」 元々半分寝ぼけていたような彼女は為すがままに横になり、そのまま瞳を閉じた。 「ほら、風邪引くぞ」 ガウリイがそっと、彼女の毛布を掛け直す。 と、その時。 「……母さん……」 リンが、寂しそうな声で呟いた。 その言葉に、ガウリイが微かに顔を歪める。 「そうか……リナの夢を見たか……」 ガウリイはそのまま、空を見上げた。 厚い雲の切れ間から、微かに瞬く夜空の星。 ふとその中に赤みがかった星を見つける。 ――――リナ―――― 心の中で誰よりも愛しい存在の名を告げ、ガウリイは目を伏せた。 ねっとりと絡み付くような霧に包まれし、死の山。 遥か北の大地に、それはある。 ――――カタート山脈。 約一千年の昔に勃発した降魔戦争で、辛くも水竜王を破った魔王シャブラニグドゥの住まう場所。 自身は厚き氷に閉ざされようとも、主君の望みを叶えるためにその部下達がうごめく、闇の地。 この世界における、魔族の本拠地……と言っても過言ではないだろう。 常の者ならばその雰囲気に呑まれ発狂しかねない魔郷に、ガウリイ達一行は足を踏み入れていた。 しかし…………彼らは、やはり彼らのままだった。 「……何とも薄気味悪いところですね」 「まぁ、普通人間が来るような場所ではないな、ここは。ここには魔王がいるという話だから、無理もないが」 「いきなり襲ってきたりしませんか?」 「伝説によれば、魔王は水竜王との戦いでその身を氷に封じられているはずだ。少なくとも、今俺達の目の前にひょっこりと現れることはないだろうさ」 まるでおのぼりさんのようにキョロキョロ見回すアメリアに、ゼルガディスが言う。 辺りに立ち込める瘴気は並みの人間には毒となるであろうほどであったが、彼らは己の回りに薄い結界を張り、それを防いでいた。 当然の事ながら、魔法の使えないガウリイは自分の娘に結界を張ってもらっている。 「でもゼロスさん、招待するならそれなりに配慮してくれればいいのに……例えば、この瘴気を消してくれるとか」 「……魔族にそこまで求めるか……?」 思わず呆れた目で見つめるゼルガディス。 「なら、他に……近道を用意してくれてるとか」 「そんな気の利くような奴か?」 「じゃあ、せめて食事を用意するとか」 「あいつが用意する食事なんか、食う気になるか?」 「……ならないです……」 黄金竜をも一口で殺す!と言われる料理『仔羊のカオス風味マンドラゴラ添え』を想像し、思わず震えるアメリア。 一方、ガウリイとリンも呑気な会話を交わしていた。 「あ、ガウリイ!見て見て、この花変なの〜」 「どれどれ……おい?何かそれ、魔族の気配がするけど」 「へ!?」 「力はほとんどなさそうだけど……こいつ、何をエサにしてるのだろうな」 「ん……だとしたら多分、ここらの植物の『苦しみ』を糧にしてる、ってとこかな?」 不思議そうに尋ねる父親に、近くに落ちていた枯れ木でツンツン突っつきながらリンは答えた。 確かに彼女の言う通り、辺りには元気がない植物が生えている。 「人間じゃなくてもいいってか?」 「ま、そんなゼータク言ってたら、ここじゃ何にも食べられないでしょ。人間なんて、まずこんなとこ来ないでしょうし」 「なるほど」 なおも、その植物もどきの魔族?を突っつき続けるリン。それは心なしか、枯れ木の動きから逃げようとしているようにも見えた。 「ふーん、じゃこれはどうかな?…………『あ〜、お腹一杯で幸せぇ♪』」 つい先程食事を済ませ御満悦の彼女は、実に幸せそうな声で囁きかける。 すると、びくん!と、それが震えた……ような気がした。 「あ、何をやってるんですか?リンさん。楽しそうですね、私も混ぜて下さい!」 ぱたぱた、とアメリアが駆け寄ってくる。 「アメリアさん、どうぞどうぞ♪」 『あ〜、生きるって素晴らしいぃ〜♪』 わざとらしく両手を胸の前で組み、歌うように囁きかけるアメリア。 ぐにゅん、とそれが曲がる。 「へぇ、面白いなぁ?」 ガウリイが感心する。 その光景に、思わずゼルガディスがこめかみを押さえ溜息を吐いた。 「をぃ……」 「まぁまぁ、いいじゃないかゼル」 ガウリイが彼の肩をぽんぽん、と叩く。 「……この先はどんな奴等が待ってるかなんてわかりゃしないし。今のうちにリラックスしておくのも悪くないだろう?」 「そう言いながらのんびりしてるところに奇襲を受けたらどうする!」 「だったら、それは俺達が気付いてやればいいことだろう?」 あくまで笑顔で答えるガウリイ。 「……今度こそ、気付いてやる。守ってみせるさ…………同じ過ちは2度と繰り返す気はない」 「!!」 いつものような、のほほんとした笑顔。だが、その瞳には強い決意の色。 そして……愛する者を失った、悔恨のきらめき。 「…………そうか……」 ゼルガディスは、小さく呟いた。 「そうだな、俺達が守ってやればいい……ただ、それだけなんだな」 「ああ」 ニッと笑い、二人は片手を上げてパン!と軽く手を合わせた。 そんな男達の会話にはまったく気付かず、女2人はさらに植物もどきをいじめ続ける。 「盗賊いぢめは楽しいぃ♪」 「今日も愛と正義のため頑張りますぅ♪」 「お宝、お宝ぁ♪」 「正義の仲良し四人組みぃ♪」 「悪人・魔族には人権はなぁい♪♪♪…………あれ?」 「ん?どうした!?」 が、ふと不思議そうな声が聞こえ、ガウリイ達も側に寄ってきた。 「んっとね、さっきまでは面白いくらいに嫌がってたのに、段々慣れてきたみたい……つまんない……」 「おいおい……」 リンのセリフに、思わず肩の力が抜けるゼルガディス。 見ると、確かにその植物もどきは、さっきより反応が鈍い。 「慣れたのかなぁ?」 ガウリイが呟くと、アメリアの目がキラリと光る。 「ならばっ!いつまでも耳元で囁き続ければ、きっと、魔族といえどもまっとうな人間に戻すことも可能、ということですねっ!」 「……これ、どう見ても人間じゃないけど……」 「……人間でもヤだぞ、それ……」 父娘のツッコミはまるで耳に入らない様子でアメリアは一人燃え上がり、そして再びそれを更正すべく愛について語り始めた。 「そもそも愛とは、人間の持つ最も素晴らしき感情のひとつであり、子孫を残すためのみならず、種族全ての和睦をも司るもので…………」 さすがに彼女の『愛の説教』は辛いのか、植物もどきがうねうねと身体を揺らす。 「……おい、アメリア。もういいだろう?いつまでも遊んでないで、さっさと行くぞ」 「え〜っ、ゼルガディスさん、待って下さいよ!あともうちょっとで更正しそうなのに」 「するか、馬鹿。そう見えたとしても、単なるフリだ。根本は魔族のままだ。ちょっとしたきっかけで、元に戻るに決まっている」 言うなり、アメリアの襟を掴んでずるずると引き摺り始めた。 「あ〜ん、わたしがせっかく正しき道を教えようとしてたのにいいぃぃぃ……」 「だったら、ゼロス相手にでもやってくれ。多分無理だろうが」 にべもない言葉を返すゼルガディス。 「……ま、そろそろ飽きたし、行こっか」 「だな」 リンとガウリイはそんな二人を微笑ましく見ながら軽く頷き合い、再び先へと進み始めた。 それからどれくらいの間、歩いたのだろうか。 どこまで進んでも、変わり映えのない景色。 自分達は、ひょっとしたら同じ場所をぐるぐる回っているのではないか…… そう思ってしまうほどの長い時間、彼らは歩き続けた。 ふと、霧の白で埋め尽くされた視界に、新たな色が増える。 闇紫色の靄が現れたと思うと、それは瞬時に人の形を取った。 途端に晴れる視界――――僅かほど離れた場所に、何やらの岩穴らしきものが見えた。 そして、紫の闇が声をかけてくる。 「ようこそ、いらっしゃいました」 肩に下げた大きな鞄。右手に持った大きな錫杖。 そして、警戒する彼らに笑顔で話し掛ける者……それは、言わずと知れたゼロスに他ならなかった。 「出たな、生ゴミゼロス!」 「……ガウリイさん。その呼び方は、止めてもらえると僕としてはありがたいのですが……」 情けない表情のゼロス。このような姿だけを見るととても獣将軍には思えないが、真の実力はゼルガディス達もよく知っている。少なくとも、まともにぶつかればやられるのはこちら……という程度の事は分かっていた。 ……しかし。 「生ゴミ……ぷぷぷ」 ゼロスの後方から、押し殺したような、けど耐え切れずに吹き出したといった感じの笑い声が聞こえる。 すると、ゼロスはおもむろに振り返り、背後にいた小さな人影に向かって思い切り錫杖を叩き付けた。 ごいんっ!!! なかなかに派手な音を立てたと思うと、それは小さな悲鳴を上げる。 「何するんだよぉ、兄ちゃん。痛いじゃん!!!」 頭に大きなたんこぶを作り、涙目で非難の目を向けるゼーレが、そこにいた。 「人の事を笑った罰ですよ、ゼーレさん」 向ける笑顔はにこやかなのに、目は笑っていない。心なしか、顔がひくついているようにも見える。 「別に兄ちゃんのことで笑ったとは言ってないのに……」 『いや、バレバレだって。今のは』 ゼーレの言葉に、思わずリン達一同はパタパタと手を振りツッコミを入れる。 「兄ちゃん、やっぱ僕の事いじめて楽しんでるでしょ!」 「そんなことはありませんよ、はっはっは」 「……母さんから聞いたもんね。兄ちゃん、僕のせいで一度痛い目に遭ってから、冷たくなったって。それまでは可愛がってたのに、って母さん言ってたよ」 じろりと睨み、口を尖らせながら言うゼーレ。その言葉に、ゼロスの身体がぴくっと震えた。 「へぇ、お前さんでもそんな目に遭うんだ。人は見かけによらないって本当だなぁ」 「あのねぇ、人じゃなくて魔族でしょコイツらはっ!!!」 すぱこぉぉんっ!!! ガウリイが心底感心したように言うと、リンのスリッパが彼の頭を直撃する。 「痛ひ……」 容赦の無い攻撃に、思わず涙を目に浮かべるガウリイ。 「……それにしても毎度思うんだが、どこから出したそのスリッパっ!」 「そんな事気にしちゃ駄目だってば♪」 父親の抗議に、リンはにっこりと笑って答えた。 「……まったく、変なとこまでリナに似て……ぶつぶつ」 そして父娘漫才の横では、これまた魔族が何やら不穏な空気を湛えた会話を交わしている。 「そうですね……あの時は本当に大変でしたよねぇ……?」 その時の事を思い出したのか、ゼロスの顔がひくつく。 「あなたがむちゃくちゃに『力』を発揮してくれたおかげで……」 そして両手を握り、ゼーレの頭を挟み込み、 「群狼の島の下級魔族は半滅……」 ぐりぐりぐり!と手を回転させながら力任せに押さえこんだ。 「痛い痛い痛いっ!!!」 ゼーレの悲鳴など、まるっきり無視である。 「この僕ですら、力の大半を一時的にとはいえ失ったこと、決して忘れませんよぉ?」 「僕が覚えていないことなのに、知らないよ〜…………だから兄ちゃん、痛いってばっ!!!」 ぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐり。 「痛い、痛い、痛い〜〜〜っ!!」 「……おい。漫才見せるために俺達を呼んだのか……?」 怒りに身を震わせながら、ゼルガディスが呟く。 と、ゼロスが振り返り、再び彼らの方を向きやった。 ちなみにゼーレは頭を抱え込んだまま、何やら唸っている。 「すみませんね。僕としたことが、危うく本題を忘れるところでした♪」 「……聞きたくはないが、どうせ聞かせるつもりだろう。いったい、何だ」 「えっとですね、」 言いながらゼーレの頭上に手をかざした。と、その手に明るい光が集う。 すると、ゼーレがきょとんとした顔をし、立ち上がった。どうやら、受けたダメージを回復していたらしい。 「ゼーレさん。獣王様からの命令です。…………あなたの手で、彼らを殺しなさい」 その言葉に、場が一瞬で緊迫のヴェールに包まれた。 「……今頃それを言うの?あの時にそう言ってくれれば良かったのに」 不満そうに言うゼーレ。 「いえ……あの時は、場所が悪かったのですよ。彼らに死んでもらうのは、『ここ』の方がいいのです」 「何で?」 「それは秘密です♪」 いつものポーズで答えるゼロスに、ゼーレは大きく溜息を吐いた。 「んも〜…………じゃ、兄ちゃん、今度こそ手を出さないでよ?」 「う〜ん……あなたが絶対に負けないのであればそうしますけどね。前も言ったと思いますが、彼らは油断できる相手ではないのですよ。少なくとも、あなたには」 その言葉にカチンと来たか、ゼーレがむくれる。 「……今度こそ、負けないよっ!!!」 「じゃあ期待してますよ。ゼーレさん」 (『あの人』の側で、『あなた』の手によって『彼ら』を殺すこと……それが、我ら魔族の願いを叶えるための引き金になるのですから) 誰にも聞こえぬ心の内で呟くと、ゼロスはそのまま宙へ身を溶かし、消えた。 「んじゃ、ま、そういうことだから、始めよっか♪」 にっこりとゼーレが笑う。対照的に、ゼルガディス達の表情は厳しくなる。 「こないだと同じだなんて、思わないでよね……っ!」 ヒュッと小さな口笛のような音が響き、途端に地面が爆発する。 「うわ……っぷ!」 大地が裂け、そこから槍状の岩が飛び出してくる。 一同は何とか避ける事に成功したが、頭から土を思いきり被ってしまった。 「や〜ん、この服新しいのにぃ」 「……そんな事言ってる場合じゃないだろう……来るぞっ!」 「土の次は……風っ!!」 ひゅっ…… ゼーレの言葉と同時に、荒れ狂う嵐が彼らを襲う! 「ちょっと待てぇっ!」 しかしガウリイの叫びも空しく、当然誰も待つことなく彼らは吹き飛ばされる。 「……やりましたね!ならば、こちらは水で行きます!!!」 爆風に吹き飛ばされ近くの木に引っかかったアメリアが、ちょっと情けない格好であるが声高らかに宣言した。 「へぇ……どうしてくれるっていうの?」 楽しそうに笑うゼーレ。 「こうですっ!!…………浄結水(アクア・クリエイト)!!!」 ばしゃん。 小さな音を立てて宙に水が現れ、そしてそのまま地面に落ち、小さな染みを作って消える。 「…………」 「…………」 「…………」 「……………………で……?」 「え?あ、だから、水ですけど」 『阿呆かああぁぁぁぁっ!!!!』 ゼーレを含む残り4人が思わず叫ぶ。 「…………な〜んて、ね♪」 にぱっと笑うアメリア。ゼーレの隙をつき、魔法を発動させる。 「必殺!姉さん直伝、覇王氷河烈(ダイナスト・ブレス)!!!」 「……うわっ!」 慌ててゼーレが黒い布で巻かれた両腕をクロスさせる。そしてその身体が凍り付いた直後、 「はっ!」 鋭い気合の声と共にゼーレの身体から鋭い『気』が放たれ、周りの冷気を吹き飛ばした。 だがその瞬間、ゼルガディスとガウリイがゼーレに肉薄する! 「……させるもんかっ!」 ひゅっ…… ゼーレの身体が淡い光に包まれた瞬間。 2人の男は渾身の力を込めて剣を叩き付けた。 しかし、己の能力で斬撃は防げても、その衝撃までは防げなかったらしい。 ゼーレはそのまま後方に吹き飛ばされてしまった。 ぐわきっ!! ガラガラガラ…………。 鈍い音をたて、岩壁に叩き付けられるゼーレ。 そして岩壁はもろくも崩れ、すぐ側にあった穴を大きく広げた。 そこから漂う冷気に、ゼーレはおろか離れたところにいたガウリイ達まで思わず身震いした。 「何……ここ……?」 ゼーレも知らない場所だったらしく、明らかに不審な目を向けている。 ガウリイ達の姿をちらりと見ると、そのままその岩穴へと姿を消していった。 「ガウリイ」 「分かってる。追うぞ!」 一行はゼーレの後を追い、岩穴へと向かっていった。 「明り(ライティング)!」 リンの魔法により、暗い洞窟に輝きがともる。 ゼーレの姿は、そこには無かった。 「奥に、行ったのか?」 「そうみたいですね……それにしても、ここ、寒いです!」 アメリアは腕を抱えガタガタ振るえている。 そう、岩穴の中は、一面の壁を氷が覆っていたのである。 「それにしても……何だろうな、ここ」 ガウリイは平気そうな顔で、きょろきょろ辺りを見回している。 「そんなの、知らないわよ……それよりガウリイ、怪しいとこないか、ちゃんと確認してよ?」 「分かった」 いくら明りの魔法を使ったとはいえ、視界が完全になったわけではない。 そこは、超人的な視力を持つガウリイの出番となっていた。 「ん……あっちの方に、奥へ行く道がありそうだぞ」 「あっちって、こっち?」 「ああ」 見ると、暗闇の中に、奥へと進めそうな穴がリンの目でも微かに確認できた。 「行きます?」 「あぁ」 「えぇ」 リンの言葉に、ゼルガディスとアメリアは頷いた。 慎重に歩を進め、やがて彼らは広い空間へと続く入り口まで辿り着いていた。 「……ここで、奴が待ち構えている可能性もあるな」 「気を抜いてはいけませんね」 辺りを警戒しながらそっと中を覗き込む一同。 そして。 「…………???」 確かに、そこにゼーレはいた。 しかし、侵入者を待ち構えていたわけではなく。 無防備にも背中を向け、厚い氷の壁を半ば惚けた顔で見上げている姿が、そこにあった。 「これは、罠か……?」 訝しがるゼルガディス。 しかし。 『…………!!??』 彼のその思いは、すぐに飛んで消えてしまった。 ガウリイの上げた大声によって。 しかし、ゼーレがその声に反応することはなく、またその声を聞いた一同も立ちすくんでしまった。 「ガウリイさん……?」 アメリアはガウリイの叫んだ言葉が理解できず、ギギギと顔を向け、小さく呟く。 そして、数瞬の間を置き。 ガウリイが、再び叫んだ。 1度目のそれとは違い、確信を込めた響きで。 『……リナ!!!!!』 |