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「おはようっ!ルーンガストっっ!」
 ライ麦で溢れた桶を両手で重そうにひきずりながら、リナは巨大な黒馬へとにじり寄る。………いや、本人は、テキパキと歩いているつもりなのだろうが……
 その姿を見て、鼻息荒く蹄で地面を引っ掻いていた馬の目が笑ったように見えるのは、気のせいではないだろう。
 ひねくれ者の牝馬は、ずっと主人が来るのを待っていたのだ。
「ぎゃう」
 しかし、馬は機嫌悪そうに鬣を一振りして、近づいてきたリナの手から桶を引ったくるように取り上げ、自分の足下へとおろした。
 そのまま、顔を突っ込んでバクバクと食べているのを見て、リナは苦笑する。
「ごめ〜ん。もうお昼近いんだもんねぇ。お腹空いてたんだ」
「ぎゃう」
 何を当たり前の事をとジト目を向ける馬。だが、その目の奥はやはり笑っている。遅くなっても来てくれれば、それで良いのだ。
 そんな馬の思いを知ってか、知らずか、リナはもう一度苦笑して、その身体にブラシをかけ始める。
 食事をしながらも馬は、気持ちよさそうに目を細めた。
「昨日ね……あんまり眠れなくて……寝坊しちゃったの……ホントにごめんね?」
「ぎゃう」
 仕方ないから許してやろうとでも言うように、馬は鳴く。
 それから、リナは食事の終わった牝馬の大きな体を入念に洗い上げた。



すりーぴーほろん

第四章




 真上から照りつける太陽。
 快晴の空は、待ち人の瞳の色。
 リナは、馬の影に身を寄せて、そんな事を考えていた。
 そこは昨日、彼女がガウリイと共に過ごした廃墟である。
 時間に遅れた事を謝ろうと、急いでやってきたにも関わらず、その場所には誰も居なかった。
 ほっとしたのも束の間。
 約束の時間から、二時間を過ぎても、ガウリイは姿を現さなかった。
「遅いね……ガウリイ」
 ポツリと呟く声に元気がない。
 もしかして、怒って帰ってしまったのではないだろうか?
 時間にルーズな子とは、会ってくれないんだろうか?
 不安に蝕まれる自分の心が解らない。
 何故、会ったばかりの男がこんなにも気になるのか。
「な〜う」
 そんなリナを慰めるように、ルーンガストは顔を寄せる。
 その大きな顔を撫でながら、リナは深く溜息を吐いた。
「もう来てくれそうに無いね」
 いつの間にか、捜査よりも、彼に逢う事を重要視していた自分に気付いて、自嘲する。今、やらねばならない事は、他にあるのだ。
 太陽はその位置を、少しずつ傾けていく。
 これ以上は待つ事が出来ない。
 リナが諦めて、ルーンガストの手綱に手を伸ばした時、蹄の音が近づいて来た。
「ガウリイ?」
 喜んで振り向いた彼女の目に映ったのは、駆けてくる芦毛の馬。
 近づくにつれ、それが目当ての人物でない事に気付く。
 馬は、彼女の前まで来ると止まった。
「………お前がリナか?」
 それは顔色の悪い銀髪の男だった。
 顔色と同じくらい目つきも悪く、男にしては華奢な印象の体つきをしている。
 男は、馬から下りようともせず、リナを見下ろして、不機嫌な声を出した。
「ガウリイは来ない。それを伝えに来た」
「え?」
 リナは動揺する。
 見も知らぬ男が使いにきたという事は、彼に何かあったのでは無いだろうか?
 もしや、連続通り魔殺人の被害に………
「ちょっと、ガウリイはなんで来れないの?それに、あんたは誰なの?まさか、ガウリイに何かあったんじゃないでしょうね?黙ってないで教えてよっっ!」
 恐ろしい考えに至り、彼女は彼を問いつめる。 
 些か、リナの勢いに押されて、彼は苦笑いを浮かべた。
「よくしゃべる女だな」
「余計なお世話よっっ!それよりどうなの?」
 強気な口調とは裏腹に、微かに震えながら、両手を握りしめる少女。
 男は大きく溜息を吐き、
「俺はゼルガディス、隣町の保安官だ。ガウリイはちょっと抜けられない用が出来て、外出している」
 それを聞いて、リナは安堵した。
 事件に巻き込まれたわけではない。
 そして、こうして、使いを寄越すという事は、少なくとも、ガウリイは自分を嫌ったわけでも、無かったのだ。
「………ニューヨークの捜査官だそうだな?」
 そんなリナに水を差すように、冷たい声が響く。
 小さく頷いた彼女を、氷のような目が射抜いた。
「事件に首を突っ込むな。あれは俺の仕事だ」
 にべもなく言い放つゼルガディス。
 一瞬、呆気にとられていたリナは、その言葉の意味を理解して、頭に血が上った。
「なっ!?何よっっ!その言いぐさっ!あんた達の手に負えないから、あたしが派遣されたんでしょ?自分の無能を棚に上げて、逆恨みも甚だしいわっっ!」
「………無能だと?何も知らん小娘が、勝手な事を言ってくれるな」
 顔を歪め、吐き捨てるように彼は言った。
「あら、あたしは本当の事を、教えてあげてるだけだわ。役立たずの保安官殿」
 バカにしたリナの物言いに、今度こそ怒りを露わにしたゼルガディス。
 その様子に、リナは身構えたが、彼の動きの方が早い。
 思わず、目を閉じて歯を食いしばる。
「ぎゃうっ!」
 次の瞬間、ゼルガディスとリナの間に、大きな影が飛び込む。
 彼の馬は、それに恐れをなし、棒立ちになった。
「うわっっ!」
 片手を手綱から離していた彼は、そのまま、馬から投げ出され、背中を強かに打ち付けて、うめき声を上げる。
 主人を放り出して、走り去る馬。
 立ち上がろうと足掻くが、痛みの為か、動きの鈍いゼルガディス。
 巨大な黒い馬は、そんな彼の上に、今にもその蹄を叩きつけようと、後ろ足で立ち上がった。
「やめてっっ!ルーンガストっっ!」
 呆然とその様子を見つめていたリナは、慌てて、ルーンガストを止める。
 その声に、不満そうに一度鼻をならし、それでも馬は大人しくなった。
 ゼルガディスは、大きく安堵のため息をもらし、辛うじて上半身を起こすと、今一度、リナを睨みつける。
「暴れ馬にじゃじゃ馬か……良い取り合わせだ」
 ルーンガストの背を撫でながら、落ち着かせていたリナは、その言葉に、振り向いた。
「お生憎様。あんたと違って、この馬は主人の危機に際して、尤も効果的な行動を起こしただけだわ。あんたみたいに失礼なヤツを保安官にするくらいなら、この馬の方が余程役に立つってものよ」
 二人の間に、また剣呑な空気が流れる。
 沈黙は暫し、彼等の間を漂い、ゼルガディスによって霧散した。
「口の減らない女だ」
 言いながら立ち上がる。存外に丈夫な質であるらしい。
 リナは、思い切り顔を顰めて、舌を出す。
 その子供っぽい仕草に、ゼルガディスは呆れたように溜息を吐き、ピーッと口笛を吹いた。
 程なく、逃げ出した筈の馬が、草原の向こうから駆けてくる。
 その手綱を取り、ヒラリと飛び乗ると、馬首を返して、もう一度リナに向き直り、
「まぁ、良い。一つだけ忠告してやろう。ガウリイに近づくな」
 リナが何か言い返す前に、彼は馬に活を入れ、走り去ってしまう。
 後には、ただ呆然とするリナと、心配そうに、彼女を気遣うルーンガストだけが残されたのだった。
「何よ……あの失礼な男は……」









 リナは、森の中をルーンガストに乗って、歩いていた。
 昼なお暗い森の奥は、入り組んだ迷路のようになっていて、リナは迷わないように、注意深く、周りの木々に印を付けながら、進んでいく。
「ガウリイに近づくな……か」
 さっきの失礼な男。
 確か、ゼルガディスと言った。
 彼の言葉がリナの頭の中を何度も巡る。
 いったい、どう言う意味なのか?
 やはり、ガウリイは事件と何らかの関係があるのだろうか?
 物思いに耽り始めた彼女を背に乗せて、ルーンガストの歩みは遅い。
 主人の思考の妨げになるのを恐れているかのように。
 ただゆっくりと進んでいた馬の足が、いきなりピタリと止まった。
 不意の事に、リナは顔を上げる。
 辺りを窺っても、ルーンガストの足を止めるような障害物は見あたらない。
 どこまでも同じ、代わり映えのしない森が広がるだけ。
「どうしたの?」
 彼女は、馬に語りかける。
 すぐには反応しなかった馬の耳がぴるると震えた。
 そして……
「ぎゃうっ!」
 くいっと手綱が引っ張られる。
 思わず、くっと力を込めて、手綱を握り尚した、その途端、
「きゃぁぁぁぁぁっっ!」
 ルーンガストは、全力疾走し始めたのだった。
 リナは慌てて、その太い首にしがみつく。
 馬が注意を促さなければ、落馬していたのは間違いないだろう。
 まわりの景色が、流れるように過ぎていく。
 横を見ると酔いそうで、リナはしっかりと前だけを見据えた。
 その先に、何か動くモノがある。
 金色に輝く何かが、木々の間に見え隠れしている。
 間違いない。ルーンガストは、あれに向かって走っているのだ。
「ガウリイっっっっ!」
 リナは、力の限り、前を行くモノの名を叫ぶ。
 その声に気付いたのか、それは馬上でゆっくりと振り返った。
 逞しい身体に、甲冑を着込み、手にはキラリと光る抜き身の剣。
 兜から伸びた金色の髪が、風に踊る。
 果たして、それは間違いなくガウリイであった。
「あんた、こんなとこで、何してんのぉ?」
 振り向いた彼に違和感を感じながらも、ルーンガストのスピードを緩め、彼女は彼に問いかける。
 その様子の異常さに気付いていながら、変わらぬ笑顔を向けて。
 瞬間、ガウリイは無造作に剣を振るった。
 一閃した煌めき。
 リナの目には、そうとしか映らない。
 突然、ルーンガストが、数歩退いた。
 どぉっ!と大きな轟音とともに、大木が、今リナのいた場所へ倒れてくる。
「ガウリイっっっ!?」
 再度の呼びかけには、何の反応も示さず、森の奥へと走っていく。
 彼は、自分に気付いた筈だ。
 だが、あの目は、見知らぬ者を見るような……
 混乱する頭。
 しかし、彼女には、何をするべきか解っていた。
 それは、捜査官として培われてきた勘。
 彼は、何かを知っている。
「ルーンガストっっ!追うわよっっ!」
「ぎゃうっ!」
 言われるまでも無い。
 彼女の馬は、すでに、倒れた大木を飛び越え、目標に向かって走りだしていた。
 リナは、言いしれぬ不安を抱いたまま、無我夢中で、その背にしがみつく。
 ルーンガストは速い。
 大きすぎる体から受ける愚鈍な印象は、間違いである。
 彼女は、間違いなく、そこらのサラブレッドなど、蹴散らす程のスピードを持っているのだ。
 普通に考えて、この牝馬の本気の走りから、逃れる事の出来る馬など、そうは居ないであろう。
 しかも、背中に乗せている人間からして、ルーンガストに有利であった。
 向こうは、屈強な、傍目にも軽いとは言い難い大の男を乗せている。方や、こちらは、女性としても華奢なリナを乗せているのだ。
 自ずと勝負は見えていた。
 だが……
「………どうして……追いつけないの……」
 絶望的な言葉が、リナの口から漏れていた。
 そう、まるで重さを感じさせない走りで、彼女を楽々と引き離していくガウリイ。
 その姿は、程なく森に遮られ、見えなくなってしまった。
「………ぎゃうぅぅぅぅ……」
 悔しそうに追走を諦めるルーンガスト。
 リナにもそれがルーンガストのせいでは無い事が解っている。
 あの……ガウリイの馬が異常なのだ。
「ぎゃう?」
 馬の息が荒い。
 リナは、それに気付き、慌てて、その背から飛び降りた。
「大丈夫?」
「なう」
 安心させるように、一声ないて、ルーンガストは、頭を垂れた。
 リナは、彼女の背中を撫でながら、辺りを見回す。
 闇雲に走ったせいで、今、自分が森のどの辺に居るのか解らない。
「お水……探してくるね。ここで待ってて」
 まだ息を整えるのがやっとのルーンガストを置いて、リナはその場を離れた。
 少し行くと、明らかに人の手が切り開いた道に出た。
 獣道に毛が生えたようなものだが、少なくとも、毎日のように誰かが通っている。
 リナは小道に沿って暫く進む。
 果たして、その前方に小さな小屋らしきものが姿を現した。
「……お水、貰えるかしら?道も聞かなくちゃ……」
 こんな森の真ん中にある小屋。
 樵小屋とも思えない。
 怪しい事この上無かったのだが、リナはそんな事を思うゆとりを持ち合わせて居なかった。
 ガウリイに逃げられた事が、かなりのショックだったのである。
 つまり、本人が思っているよりも、彼女は冷静さを欠いていたのだ。 
 普段の有能な捜査官としての彼女からは、考えられない事だった。
 ともあれ、彼女は迷う事なく、その如何にも怪しい小屋へと足を踏み入れた。
「すいません。誰か居ませんか?」
 扉を叩いてみるが反応は無い。
 リナは思い切って扉を開いた。
 中は薄暗く、何も見えない。
 少しずつ目が慣れてくるに従って、小屋の様子が見て取れた。
 綺麗に掃除された室内は、外観からは想像もつかない程に、整頓され、秩序を保っている。
 置かれている家具の数々も、セイルーンの家に勝るとも劣らない。
「あのぉっ!すいませんっっ!」
 リナはもう一度声を上げた。
 ここは廃墟などでは無い。
 間違いなく誰かが住んでいるのだ。
 入り口から真っ直ぐに進む廊下の突き当たりにドアが見える。
 彼女はそこまで進んでいき、もう一度ノックした。
 がちゃり。
 扉は内側から開かれる。
「あの…………?????」
 出てきた人に声をかけようとして、リナは不覚にも固まった。
「わう?」
 それは一匹のチワワだった。
 二本足で立ち上がり、少し小刻みに震えている。額の真ん中にルビーの飾り。首輪にも同じ宝石が輝いている。
 可愛い。確かに可愛いのだが????
「…………………………」
 どうして良いのか、リナには解らなかった。
 突然、チワワは部屋の中にとって返すと、再び飛び出してくる。
 その手には、器用にも一枚の板を持っていた。
『何か用?』
 板には確かにそう書かれている。
「すっごい。どうやって、訓練したのかしら?」
 リナは純粋に感心する。
 ここまでやる犬を初めて見たのだ。
 チワワは、もう一枚別の板を掲げた。
『用が無いなら帰れ』
「って、人が感心してるのに、ずいぶんな言われようね」
 ちょっとムッとする。
 もちろん、このチワワが言ってるわけじゃないのは解ってるのに、なんだか、犬に腹が立つ自分が可笑しい。
 リナは、チワワの頭を撫でようと手をさしのべる。
 それから逃げるように、チワワはよたよたと横に動いた。
 その様子は何とも可愛いらしい。
 さらに、抱き締めようと間合いを詰めた時。
「ほーっほっほっほっほっほっほっっ!人の家に勝手に上がり込むとは、良い度胸ね?」
 声は真後ろからした。
 吃驚して、振り向いたリナは、そこに一人の女を見つける。
 年の頃なら、二十を少し出たくらい。
 黒髪を長く伸ばし、背が高く、とびっきりスタイルの良い、美女である。
 うわぁ……でかい胸……
 リナは少しコンプレックスを刺激され、どぎまぎとしてしまう。
「すいません。あの道に迷ったんですけど……」
「ほーっほっほっほっほっほっほっっ!道に迷ったですって?この世に迷わない道なんて存在しないのよ?」
 妙に哲学的なセリフを吐いて、女は耳障りな高笑いをあげる。
 飼い犬にこんな手の込んだ訓練を施すような人間は、何処か変わっているのかも知れない。
「えっとぉ……いや、そういう事じゃなくて、村に向かう道を教えて欲しいんだけど」
 少しばかり、頭痛を覚えながら、リナは尚も問いかけた。
「村に向かう道?全ての道はローマに続いているのよ?だから、覚えていれば良いのは、ローマから家に帰る道だけね。そんな事も解らないなんて、子供ね、あなた」
 バカじゃないだろうか?この女。
 こっそりリナは心の中で呟いた。
「………あの……お邪魔しました」
 これ以上話しても無駄と知り、チワワを抱けなかったのは心残りだが、慇懃無礼に頭を下げて、彼女の横を通り過ぎようとする。
 しかし、
「ほーっほっほっほっほっほっほっっ!勝手に人の家に入っておきながら、何ごとも無く帰れると思ってるの?覚悟なさいっっ!リナ=インバースっっ!」
 女は両手を前に突き出し、意味不明の言葉を囁いた。


『火炎球っ!』



ばぐっ!



 炎が弾け、爆発する。
 間一髪、横に飛んで避けたリナは、しかし、熱風を受けて顔を顰める。
 何だ……今のは……
『森の奥には魔女が棲んでるんです』
 アメリアの言葉が頭を過ぎった。
 しかし、その魔女が何故……
「…………どうして………あたしの名前知ってんのよっっ!」
 油断なく身構えながら、狭い小屋の中に退路を見いだそうと動く。
「知れた事っ!彼に聞いたのよ」
 そんなリナの前に大きすぎる胸を張って、女は答えた。
「彼?」
 オウム返しに呟くリナ。
 何故か、いきなり、モジモジと頬を染める魔女。
 リナは、得体の知れない悪寒が、背中を駆け抜けるのを感じた。
「やぁねえ……リナ。そんな事はハッキリ聞くものではなくてよ?」
 吐き気を伴った悪寒は、尚もリナを苦しめる。
 もしや、妙な術をかけられたのではあるまいか?
「……あのねぇ……何、そんな知人みたいに話しかけてくんのよ、あんたはっ!」
「ほーっほっほっほっほっほっほっっ!知れた事っ!ここであったが運の尽き、もはやわたしとあなたはお友達でしょ?」
「んなわけあるかぁぁぁぁぁぁぁっっ!」



すぱこぉぉぉぉぉぉぉんっっ!



 可愛くほっぺに人差し指をつけた魔女に耐えきれず、懐のスリッパが炸裂する。
「……リナちゃん……痛い……」
「うっさいわいっっ!だいたい、なんで、『お友達☆』なんつってるヤツが、いきなり攻撃呪文たたき込んでくんのよっ!」
「あら。そんなの軽い挨拶に決まってんじゃない」
「んな挨拶、いやじゃぁぁぁぁぁぁぁっっ!」
「変わったわね……リナ」
「変わるもなんも、あんたと会うのは、初めてでしょうがっっ!」
「そう?」
「そうよっっ!」
「ほーっほっほっほっほっほっほっっ!どっちでも良いわ、そんな事。だいたい、そんな細かい事気にしてると小さな胸がもっと小さくなるわよ?」
「なるかっっっ!んなもんっっっ!」



げぼぐぅっっ!



 再度、リナのスリッパが閃いた。
「………ふっ……流石ね……リナ……」
「何が、流石よ、何がっっ!?」
 額に青筋押っ立てて、リナは魔女を睨み付け、くるりと踵を返した。
 …………こいつ……真性のバカだ………
 そのまま、魔女を放って、リナは小屋を出ていこうとする。
 その足に、先ほどのチワワがしがみついた。
「ちょ……ちょっと、離しなさいよ」
「わふ」
 もこもこのふわふわが足にまとわりついてくるのを、無碍にも出来ず、リナは足を止める。
「よくやったわ、ペス。ちなみに、ペスとは、犬と言う意味よ?」
「だから何よ」
「知識をひけらかしたに決まってるじゃないっっ!」
 ふんぞり返る魔女。
「ふ〜ん」
 全く興味の無いリナ。
「いや、もう少し感動してくれても良いと思うんだけど……」
 これでいじけるなと言うのが、無理だろう。
 魔女はいじいじと床にのの字を書き始めた。
「あんたよりは、この犬の方が数倍賢そうだけどね」
「ほーっほっほっほっほっほっほっっ!笑止っ!ペスはお手すら出来ないバカ犬よっっ!」
「でも、さっき客の対応までしてたわよ?」
「わたしが魔法で操ってるに決まってるじゃない。あんまり役に立たないから」
「…………………………動物保護団体から、クレームが来そうね」
「内緒にしてね☆」
「知るか!とにかく、あたしは帰る」
 リナはいつまでも終わりそうにない不毛な会話に辟易として、仕方なしに、そこはかとなく力を込めて、足にまとわりつくチワワを蹴り飛ばした。
 犬は、壁にぶつかり、きゃんっと一声高く鳴く。
「まぁ、良いわ。それより、森の外れの風車小屋へ行った?全ての謎はそこにあるわよ」
 小犬を抱き上げて、意味深なセリフを投げる魔女。
 しかしリナは、その言葉を考える事もなく、さっさと扉を閉ざし、帰っていったのだった。









「ふぅ……何だか、それとなくひどい目に遭ったような気がするわ」
 トボトボとルーンガストの所まで戻ってくると、誰かが、馬を撫でている。
 人影は、リナに気付いて、大きく手を振った。
「リナさ〜んっっ!ひどいですぅっっ!置いて行くなんてっっ!」
 アメリアの明るい声に、滅入っていた気分も少し、上昇する。
「アメリア。どうして、ここが解ったの?」
「はいっ!正義の勘ですっっ!」
 うっ!
 何やら、さっきの魔女と変わらないような気がしてくる。
 リナは大きく溜息を吐いた。
「何処へ行ってらしたんですか?ルーンガストさんが寂しそうでしたよ?」
 馬に『さん』付けな所が、彼女らしい。
 少し笑いをかみ殺して、リナは答える。
「あんたの言ってた魔女に会ってきたの」
「ええええ?良いなぁっっ!あたしも会いたかったですぅっっ!ねぇ、どんな人でした?」
「どんなって………思い出したくもないわ………」
「………そんなに怖かったんですか?」
「…………ある意味ね………」
 リナの答えに困惑気味のアメリア。
 はてなマークの乱舞する彼女を見つめながら、リナは全く別の事を考えていた。
 それは、様子のおかしかったガウリイの事。
 あの時は、すっかり気が動転して、まともに思考する事が出来なかった。
 しかし、今ならば解る。
 あのガウリイは普通では無かった。
 虚ろな眼孔は、青空の色よりも、夜空の色に近く、動き自体も妙にぎこちなかったように思う。
 鋭かったのは、剣を振り回した時だけ。
 あの時、ルーンガストが動いてくれなければ、確実にリナは大木の下敷きになり、大怪我をした事であろう。いや、運が悪ければ死んでいたかも知れない。
 本当に、あれはガウリイだったのだろうか?
 あの天使のような青年だったのだろうか?
「リナさん?どうしたんですか?」
 気付けば、心配そうに顔を覗き込むアメリア。
 リナは、小さく苦笑した。
 そして、彼女に答えようと口を開きかけた時………

「うひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっっ!」

 暮れかけた森の中に、悲鳴が響き渡った。
「何ですか?今の声………」
 呆然としていたアメリアには構わず、リナはルーンガストに飛び乗ると、走り出していた。
「あ〜んっっ!待ってくださいよっっっ!リナさ〜んっっ!」
 後ろから慌てて追ってくる気配。
 しかし、リナに待つ気はない。
 あの悲鳴は、確かにさっきの魔女の声。
 あれ程の攻撃呪文を使う魔女に、悲鳴をあげさせる者とは?
「………ヘアレスホースマン………」
 我知らず、呟きが漏れた。
 程なく、目当ての小屋が姿を現す。
 リナは、転がるようにルーンガストの背から飛び降り、そのままの勢いで小屋の中へと駆け込んだ。
 そこで彼女が見たものは………
「………やられた………」
 そう、間違いなく、先ほどまで、魔女の頭で傲然と揺れていた、艶やかな黒髪が、散っていたのである。
 リナは、素早く辺りに目を走らせる。
 先ほどと変わらず、整然と整えられた部屋。
 その中の違和感を、見つけださなければ。
 ……何か……何か手がかりがある筈だ。
 悲鳴から、いくらも時間は経っていない。
 入り口で、犯人にぶつかる事も無かった。
 どう考えても、死体を運び出す時間は無い。
 リナは、部屋の中を見回し、人の身体が入りそうな、大きなクローゼットや、衣装箱。テーブルの下などを隈無く調べる。
「リナさ〜んっっ!何があったんですかぁ?」
 暢気なアメリアが、部屋へ入ろうと扉を開いた。
「動かないでっっ!アメリアっ!」
「え?」
 扉を開けたポーズのまま、思わず硬直するアメリア。
 そんな彼女に、リナは手短に説明する。
 まず、鉄則、現場の維持。
 そして、彼女が探しているもの。
 アメリアは、注意深く中へ入ると、邪魔にならぬよう、リナをサポートする。
 しかし、目当てのものは、一向に見つからなかった。
「…………いったい……どんな魔法なの?」
 リナは、途方にくれた。
「やっぱり魔法だったんですね」
 嬉しそうなアメリア。
「って、そうじゃなくてね……」
 目眩を覚えるリナ。
 だが……
 そう、魔法は存在した。
 リナは手の中の黒髪を握りしめる。
 この髪の持ち主は、何もない空間から、炎の球を産み出したのだ。
 幻覚やまやかしでは無い。
 確かに、熱を感じ、家具を焦がしたのだ。
 怪異は実在している。
「………ねぇ、アメリア?魔法ってのは、物体を消したり出来るものなの?」
 もしも、ヘアレスホースマンが、死体を魔法で消し去ったのだとすれば、最早ここに手がかりは無い。
「え?………さぁ……でも、魔法って言うくらいだから……出来るんじゃないでしょうか?」
 魔法……
 不思議な現象。
 だが、何かの法則に基づいているような気がした。
 あの魔女は、何と言っていたのか?
 あの不思議な言葉。
「………魔法……か」
 溜息とともに、呟きがリナの唇から漏れた。
「ぎゃうっっっ!ぎゃうっ!ぎゃうぎゃうぎゃうぎゃうぎゃうっっ!」
 とその時、外からルーンガストの只ならぬ鳴き声!
 思わず顔を見合わす二人。
 だが、それも一瞬。
 リナは外に飛び出していた。
「ルーンガストっっ!どうしたのっっ!?」
「ぎゃうっっ!」
 聞くよりも早く、リナの襟首を牝馬はくわえると、自分の背に放り投げる。乗ったのを確認して、ルーンガストはまた矢のようなスピードで走り始めた。
 リナは、ルーンガストの背中で、確信している。
 馬は、何かを見つけたのだ。
 事件に関する何かを。
 暫く走るうちに、剣戟の音が聞こえてくる。
 馬のいななき。
 男の怒声。
 さっきの保安官の声だ。
 真っ暗な森が途切れる。
 満月は辺りを真昼のように照らし出す。
 倒れながらも、剣を離さないゼルガディス。
 しかし、防戦一方なのは、明らかだ。
 大きな男は剣を振り上げる。
 そして…………………………


「ガウリイっっっっっっ!」
 

 リナの絶叫が、すっかり暮れ果てた草原に、響き渡った。



《解説という名の感想、もとい戯言(笑)》
 ……オカルトな話のはずなのに……あんまり恐くない……(笑)
 やっぱりルーンガストがいい味出してますね。
 リナを大事にしているとことか、もうぷりてぃ♪♪♪(笑)
 さてさて、この話の最終話はやはり1ヶ月後に掲載!
 しかも、毎度のごとくこのページには掲載されません(^^;
 もし、未だ全て見つけてない方は…………
 …………と、とにかく頑張ってくださいませぇ……(滝汗)
by ちび☆   


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