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祈り

第7章 罪の重さ



「ガウリイ様は私がいただきます」
セラのとんでもない宣言。
彼女はその宣言を違えることなく、行動を開始した。

ある日は、大量の料理を作って彼に差し入れをし。
ある日は、無理矢理彼を連れだして散歩につきあってもらったり。
またある日などは、夜中に彼の部屋を強襲する(!)といった強硬手段を取ったこともあった。
幸か不幸か(?)未遂で済んだものの。
リナのイライラは、頂点に達しようとしていた。

「……ったく(ムシャムシャ)、……あの小娘は!(パクパク)」
あれからアメリア達の家に滞在していたリナは、たまりにたまったストレスを発散するかのように食事に集中していた。
実に30人前を平らげている。
そんなリナをゼルガディス、アメリア、シルフィールが呆れて眺める。
「……昔のシルフィールより(ゴクゴク)、……質が悪いわ……(モグモグ)」
「昔のわたくしよりって……」
シルフィールの呟きは完全に無視。
「……リナさぁん……」
「そんなにガウリイの旦那を取られるのがいやだったら、はっきり彼女に言えばいいだろう」
ゼルガディスの言葉に、思わず赤面するリナ。平静を保とうとして失敗したらしい。
「……とりあえず言ったわよ。でも、全然聞く耳持ってくんないんだもん」
「すみません、娘が迷惑をかけます……。でも、それは、リナさんが『ガウリイ様と結婚しない』なんておっしゃるからでしょう?」
「そうですよリナさん!なんであんな事を……」
「さっさと結婚しちまえばいいじゃないか、そんな顔をするくらいなら」
「……事情があるのよ……」
ぼそぼそと呟く。
「事情?一体なんだ、それは」
「……他人の事情に首を突っ込むなんていい性格してるわね」
「そりゃ、人の不幸は面白い……んげっ!!!」
「リナさんっ!首締めちゃ駄目ですよ、アメリアさん白目をむいてますっ!」
「ったく!」
とアメリアの首に回した手を離す。
「……で、一体何なんだ?」
その言葉に合わせるように、6つの目がリナをじっと見つめる。
観念したかのように、リナは小声で呟いた。
「……お尋ね者に、なっちゃうのよ……」
『お尋ね者ぉ!?』
思わず3人で同じ言葉を合唱してしまう。
「……お尋ね者って……リナさんっ!一体何をしでかしたんですかっ!!!」
「今度こそ、何か大きな犯罪でもやらかしたのか?」
「駄目ですよリナさん!罪を犯したならば、きちんと法の名のもとに裁きを受けなければっ!」
「いや、別にそういう訳では」
「リナさん、何をしたかは分かりませんが、ガウリイ様まで巻き込んでいるのですか!?」
「リナのすることだ……無銭飲食、『盗賊いぢめ』とか言っている強盗、他には呪文でもって意味もなく周りに被害を与えたってところか……」
「それなら昔も日常茶飯事だったような気がするんですけど」
「では、やはり……」
「こらこらっ!あんたら、あたしのことをどういう目で見てるのよ!」
「……至極、正当な目で見ていると思うが?」
あっけらかんとした声で言うゼルガディス。
「とにかくっ!あたしは誰とも結婚する気は無いのっ!放っといて!」
真っ赤な顔をして言うなり、リナはそっぽを向いてしまう。

……アタシハ、コノ世ノ法デハ裁クコトノデキナイ程ノ罪ヲ犯シタ。
  優シイ言葉ニ甘エテ、決シテ許サレヌ事ヲシテシマッタ……。

小さな小さな呟きは、誰の耳にも届かなかった。

そのとき、ジュリアが息を切らしながら部屋に入ってきた。
「父さん!母さん!見て、見て!」
なにやら手紙のようなものを持っている。
「どうしたの、ジュリア?」
「あのね、セイルーンのお城で、パーティがあるんだって!」
「パーティ?」
「そう!えっと……明日セイルーン城にて舞踏会を開催します、ですって!父さん、母さん、行きましょうよ!」
セイルーン王家の紋章入りの手紙。
その手紙には、案内文の他に、国王でありアメリアの父親であるフィリオネルの私信も書かれていた。
『愛しいアメリアへ。最近お前が王宮に来てくれないから父さんは寂しいぞ。舞踏会を開くから、是非子供達と一緒に来るがいい!父は楽しみに待っておるぞ!』
……どうやら、娘会いたさだけに舞踏会を開催したようである。とんでもない国王であった。
「ね、ね、母さん。行きましょうよ!」
目を輝かせながら尋ねるジュリアに、アメリアは微笑む。
「そうね……なら、みんなで行きましょうか」


「……舞踏会?」
部屋に全員を集め、アメリアが舞踏会への参加を説明した。
「そうです。父さんが開いてくれました。あ、参加するのにあたし達はべつに費用はいらないそうですから、是非皆で行きましょうよ!」
「あ、でもあたし達、着ていく服が……」
「あ、その事でしたら気にしなくてもいいですよ。ドレスとかはお貸ししますから」
「もちろん食事も、出るんですよね?」
レイティアが確かめると、アメリアは頷いた。
「よっしゃぁっ!」
「よしっ!いっぱい食うぞ!!!」
とたんに意気投合して叫ぶ双子達。
「きっと、城のパーティなら、いいものが出るよなぁ」
「あぁ……愛しいニャラニャラの踊り食いっ!!!」
「ニョヘロンの焼き肉も捨てられないよな……」
「いや、でもミルサー料理!これは絶対に外せないわっ!!!」
「腹一杯食えるならなんでもいいっ!」
リナとガウリイが加わり、そこはたちまち食事の話題で盛り上がった。
「……なんて言うか……そっくりですねぇ」
「さすがは『御馳走』のため共に旅をしていたと言うだけあるな……」
「変わっていませんね、リナさん達……」
呆れるゼルガディス達。
さらにアメリアが手紙を読む。
「え〜っと、『なお、当舞踏会は、男女一組のペアでご参加下さい』……」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、セラがガウリイの腕を掴む。
「ガウリイ様っ!私と一緒に参加して下さいねっ!」
「あ゛?」
状況がよく分かっていないガウリイ。そこへたたみかけるようにセラが続ける。
「明日の舞踏会、是非エスコートして下さいね(はぁと)」
にっこりとしたとびきりの笑顔。勢いに押され、思わずガウリイは頷いてしまう。
「約束ですよ。では、明日お待ちしております!!……」
言うなり駆け去る彼女。リナの報復を恐れたのかもしれない。
「へ?……何だったんだ?」
のほほんと尋ねるガウリイ。……やはり何も考えていないのか。
「……ちったぁ状況を把握しなさいよねっ、この脳味噌ヨーグルト男!」
ごんっ!!!
怒り心頭に達したリナのエルボーアタックが炸裂!ガウリイは轟沈した。

「っふっふっふ、ざけんじゃないわよ……」
「リナ……」
「リ、リナさん……目が据わってます……」
あまりの迫力に気圧され、思わず一歩後ずさるアメリア。
「……ガルフっ!」
「は……はいっ!!」
「あんた、あたしのパートナーになってパーティに出なさい!!」
「いっ!」
とたんに青ざめるガルフ。……確かにリナの相手はご遠慮願いたいところだろう。
「え……あの……いや……その……」
「文句あるの?」
ガルフは彼女の眼光に逆らうことは出来なかった。口がパクパク動くが、反論の言葉は出てこない。
そんな彼に助け船が現れた。
「駄目ですっ!ガルフさんは、私と一緒にパーティに出るんですっ!」
ガルフの腕を掴んでリナに反論するのは、ジュリアであった。
(た……助かった……)
声には出さす安堵のため息をつく彼を後目に、リナは今度はアストールの方へと向く。
身の危険を感じた彼も慌てて、横にいた少女の肩を抱く。
「悪いが……俺はレイティアと出る事になってて……」
「ちょっと待って……ふがふが」
そんなこと聞いてないと言いかけたレイティアの口を塞ぎつつ、ガルフは乾いた笑いをあげる。
「……」
残る男はただ一人。リナの視線がその男に向かう。
ゼルガディスは思わず冷や汗を流した。が、
「そんなにびくつかなくたっていいでしょ。……いくらあたしでも、人の旦那を横取りしようなんて思わないから」
とのリナの言葉にひとまず安心したようだ。
「リナ……」
申し訳なさそうに声をかけるガウリイ。
沈黙が流れる。
「……しゃーないか……」
諦めたような声を出す。
「……ガウリイ!明日はちゃんとお土産持って帰ってきてよね!」
言うなり、部屋を飛び出す。
「おい、ガウリイ」
「……分かってる」
ゼルガディスの言葉に、慌ててリナの後を追うガウリイ。
その後を、複数の影がそっと付いていったのを彼は知らない。


トン、トン。
リナが借りている部屋のドアをガウリイはノックした。
「……」
しかし返事はない。
ため息をつき、無言のままドアを開ける。
……リナは、ベッドの端に腰掛けていた。
「リナ……怒っているのか……?」
「……別に」
何気に呟くリナ。ガウリイには、彼女の表情を読みとることは出来なかった。
「あの子の誘い、断ろうか?」
「……駄目よ。一度約束したものを反故にするなんて」
勝手に決めつけて押しつけるものを約束というのだろうか、との疑問は口に出せないガウリイ。
リナは、所在なさげに足をブラブラと動かしている。
「それにね。本当は、彼女の好きにさせる方がいいかもって思って」
「……リナ?」
「あたしには……ガウリイを縛る権利なんて、本当は無いの。あたしの我が儘で側にいてもらってるけど……それがガウリイを、駄目にしてしまった気がする」
リナの表情が崩れる。
「……」
「確かに昔、ガウリイは一緒にいてくれるって言ってくれた。あたしはそれが嬉しかった。……でも、本当にそれで良かったの?結婚なんか出来ない。誰にも祝福なんかしてもらえない。……陰でこそこそと生きて行くしかない」
言いながら、その瞳に涙が少しずつ溜まっていく。
「……リナ」
「ガウリイ……今なら、まだ間に合うよ。すべてをやり直して、普通に生きて、幸せになれる……きっと」
「リナ!!!!」
ほとんど半泣き状態の彼女を、ガウリイはたまらず強く抱きしめた。
「……言ったはずだ。俺の望みはただ一つ。……お前が側にいる事だと」

遠い日の約束。
たとえ世界中のすべてを敵に回し、その身が地獄に落ちようとも、絶対に譲れなかった願い。
強くて、そして弱いこの少女を守ると誓ったあの想いは、未だ薄れることはない。

「忘れるな……お前のいる場所は、俺の側だ」
「……ガウリイ!」
その力強い言葉に、リナの眼から涙が溢れ出す。
そして、彼の身体を強く、強く抱きしめる。
「ごめん……ガウリイ……分かってる……分かってるけど……!!」
涙が止まらない。
「アメリア達に会えて良かった。あの子達が幸せって事が分かって、本当に嬉しかった。でも」
そっと俯く。
「……苦しいの。辛いの。ここにいるのが……。自分が何をしたのか、思い知らされる……」
大きな胸に顔を埋め、リナは泣きじゃくる。
「リナ、お前のせいじゃない……お前のせいじゃないんだ……」
必死に彼女を慰めようとするガウリイ。だが、その腕が包む少女の身体の震えは止まらなかった。

その頃。
かすかに開いたままのドアの陰に佇む者達がいた。
「ねぇ、兄さん、あれって……」
「……あぁ……」
「どう見ても、あの2人デキてますよねぇ」
「セラもあきらめた方がいいのに」
「でも、今のあいつに言っても聞くかなぁ……?」
そう言いつつ、こっそりと部屋から離れていく。

「……リナ、明日の舞踏会が終わったら、ここを出よう」
ガウリイの囁きは、去りつつあるドアの外の4人には届かなかった。


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