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祈り

第6章 女の戦い



「ガルフ!?レイティア!?」
そう言って大声を上げたのはガウリイ。
皆の視線が彼に集まる。
そんな中、リナが慌てた表情をしたのをゼルガディスは見逃さなかった。
そして、その言葉に強く反応したのは、やはりレイティアとガルフだった。
「……私達の事、知っているんですか!?」
つつつと寄ってくる2人。
「え……あ、と、……」
とたんにうろたえるガウリイ。……説明ができないようだ。
きょろきょろとあたりを見渡し、助けを求めるようにリナの方を見る。
「はぁっ……」
深いため息を一つつき、リナも2人に向かって言う。
「久しぶりね、レイティア。ガルフ」

リナ達がレイティア達の知り合いだったらしい事を知り、驚く一同。
そんな中、皆の注目を集めながら対峙するリナ&ガウリイ、そしてレイティア&ガルフ。
レイティアは目を吊り上げながらリナに詰め寄る。そして自分の事を聞こうとしたところを、リナに制止させられた。
「わかってるって、あんた達の言いたい事は」
そして、少し罪悪感の篭った目で2人を見つめた。
「でも、あれはあたしの責任ってわけじゃないと思うわよ。突然魔族が襲ってきたから……」
「???」
「結局はぐれちゃって、返せなかったんだもの。これはもうどうしようも無いじゃない?」
(何だか、話がずれてる……?)
皆が頭に疑問符を浮かべる中、アメリアが口を出した。
「あのぉ、リナさん。一体何の話ですか?」
「え?いやほら、荷物の話じゃないの?」
「へ?」
「だから、あの時、あんた達あたし達とはぐれたじゃない。だから、結局渡せなくて……」
決まり悪そうに呟くリナ。
「ちょ……ちょっと待ってください。リナさん達、彼女達が何者か知っているんでしょう!?」
「何者って……レイティアとガルフ。双子の魔道士と魔法剣士、でしょ?」
「そうじゃなくって……彼女達の無くした記憶ですっ!!!」
叫ぶアメリアに、リナは不思議そうな顔を向ける。
「……記憶を、無くした……???」
「そうですっ!だから私達は……!」
そこへゼルガディスが割って入る。
「まーまー、ちょっと2人とも落ち着け」
「あたしは落ち着いてるわよ」
「だからちょっと待てと言っている。……リナ、この2人は記憶喪失中だ」
「へ?……そうなの?」
「そうだ。で、こいつらは自分が何者かを知りたがっているという訳だ」
「……そうなの……」
皆が俯く中、ガウリイは話の展開についていけなかったのかきょろきょろとあたりを見回していた。
そんな彼に、リナは無言でアッパーカットを食らわせた。


……半年前、リナ達とレイティア達は知り合った。
「世界中の美味しいものを食べよう!」
との事で意気投合し、半年ほど一緒に旅を続けたという。
しかし、1ヶ月前の事。
とある魔族がリナ達を襲ってきた。
その騒ぎで、リナ達とレイティア達ははぐれてしまった……。

……それが、リナの話であった。

「……という訳なの。って言っても、あたしもあんまり知らないけど。双子の兄妹だって言ってた。レイティアが魔術専門、ガルフはどっちかというと剣術の方が得意、ってくらいかな」
「他に何か知らないの?」
レイティアが尋ねる。しかし、リナは首を横に振るだけだった。
そんなリナを心配そうに見つめるガウリイ。
「……まぁ、知らないものはどうしようもないわね。で、別に聞きたい事があるんだけど」
リナ達が大した手がかりを持っていない事にがっかりしながらも、レイティアはリナに尋ねた。
「何?」
ちょっぴりびくびくしながら答えるリナ。
「さっき、ちらっと言ってたわよね。荷物がどうとかって」

ギクっ。
目に見えて顔色の変わるリナ。

「あたし達、気がついたとき、何一つ持っていなかったのよね」
「……俺は剣を持ってたけど」
「そんな細かい事はどうでもいいのよ。……で、無一文で本っ当に苦労したのだけど」

ぎくぎくっ。

「あ、あの、レイティアちゃん、……目が怖い」
思わず口調がぶりっ子になるリナ。しかし、レイティアの追求は厳しかった。
「気がついたら何も無い森の中で、いきなりデーモンに襲われるわ、何とか倒したけれどお腹は空くし。
街に行って何か食べようと思ったってお金が全然ないのよねぇ」
まるで獲物を目の前にしたヘビのようにリナを追いつめるレイティア。
「ね〜ぇ。何か知ってるぅ、リナさ〜ん……?」
笑顔で問い掛けているが、目は笑っていない。
皆、チロチロ、と口から伸びる長い舌が見えたような気がした……。
「……あぅ……ごめんなさい。あたしが持ってました……」
ついに降参、リナは白旗を上げる。
「分かればいいのよ」
すっかり強気のレイティア。
「で、荷物は?」
「……ない……」
「何ですってぇっ!!!!!」
どんっ!と机を叩くレイティア。
「いや、だからさぁ……魔族に襲われた後であんた達いなくなっちゃったじゃない。とりあえずその辺探してみたけど結局見つからなかったのよね。で、……ほら、人の荷物運ぶのって、結構大変じゃない?……だからさぁ」
「まさか、売っぱらってごはん代にすべて消えたとか??」
シト目でリナを睨むレイティア。
「う…………ぢつは、その通り……」

げしっ!!!

「い……痛ひ……」
「やかましいっ!」
力いっぱいリナの頭をどつくと、レイティアは鼻息荒く叫んだ。
「何てことしてくれるのよ!」
彼女のあまりの態度に、当事者であるガルフも口が出せない。
「ったく!!!あなた達のせいで苦労したんだから、ちゃんと責任取ってもらうからね!とりあえず今度街の超高級レストランでフルコース20人前奢ってもらうからね!」
唖然とする一同。
「……レイティアさんって、性格がリナさんそっくり……」
「いや、ひょっとするとリナを上回るかもしれん」
アメリアとゼルガディスが半ば放心しながら言った。
「う……う……だから会いたくなかったのにぃ……何でこいつらの事だけ覚えてんのよあのクラゲはぁ……」
リナの呟きが、呆れ返っている周りの者の耳に低く届いた。


「こっちも聞かせてくれる?ゼル、あんたどうやって元に戻ったの」
レイティアにフルコースを奢る事と相応の金を返す事を約束させられたリナが、興味津々といった顔で尋ねた。
昔、共に旅したときはゼルガディスは合成獣であり、岩のような肌を持っていた。
それが今では、ごく当たり前の肌になっている。
『ミックスジュースを元に戻すことは出来ない』
かつて旅をしていたとき、ある男がゼルガディスに言った言葉。
それと同じように、合成獣となったその体を戻すことは出来ないのだと。
そんな限りなく低い可能性を求めて旅を続けていた彼がどうやって元に戻ったのか。
この話はシルフィールも詳しくは聞いたことがなかったらしく、こちらも興味深い顔である。
「ふぅ……」
ため息を一つつき、彼は話し始めた。

「……あれは、お前達と別れて半年ほどたったときの事だ。俺の前に、光が現れた」
「光……?」
不思議そうな顔をするシルフィール。
「最初は、明り(ライティング)のように思ったのだがな。よく見ると人の形をしていた」
「人って……妖精みたいなものだったのですか?」
「いや……」
何故か赤面するゼルガディス。
「何?何なの、ゼル?」
「……いや、何でもない」
あのときの光り輝くものが妻・アメリアに似ていたことを思い出したのだが、彼はそれをリナ達に話すつもりはなかった。からかわれるのが目に見えていたからである。
「で、そいつは俺に言った。『元の体に戻りたくはありませんか』と」

なぜ、『それ』が彼の前に現れたのか、ゼルガディスには知る術はなかった。
『それ」の質問はただひとつ、元の体に戻りたいかどうか、だった。
だが、本当に合成獣となったこの体を戻すことができるのか、かなり怪しかった。

「『それ』が、本当に俺を元に戻してくれる気があったのか、疑わしかったさ。ひょっとしたら『それ』は魔族で、何か目的があって、更に状況を悪くするだけなのではないかとも思った」
……しかし、元に戻れるかもしれない、という誘惑には勝てなかった。
ゼルガディスは、『それ』に答えた。「元に戻せるものならば戻してほしい」と。

「そのとたん、急に眩しくなって、何も見えなくなってしまった。意識が遠のいて……」
その後、どうなったのかはゼルガディスは覚えていない。
気が付くと、彼はベッドの上だった。
そこは彼が滞在していた宿屋の、『それ』と出会った、自分の部屋。
宿屋の女将が言うには、彼は3日ほど意識不明だったという。
医者も呼んで診療してもらったが、特に原因は分からなかったとの事だった。
(医者に診てもらった……だと!?)
己の岩と化した身体を見られた、と思って彼は慌てたが、彼の目に映ったのは小麦色の両腕。
顔を触ると、柔らかい感触があった。
……そう、赤法師レゾの手によって合成獣となる前の、普通の人間だった己がそこにいた。

「だから、はっきり言って、なぜこのように元に戻ることが出来たのか……俺にはわからない。結局『それ』が何者なのかも、何の目的があってこんな事をしたのかも。
元の身体に戻っても、しばらくの間は実感できなかった。夜寝る時も、朝には岩の身体に戻ってしまうのではと何度も思ったさ。」
だが、身体は合成獣に戻ることはなく。
彼の身体を元に戻した『それ』も再び出会うことはなかった。
「……それで、その人間の身体で、アメリアを迎えに行ったんだ?」
からかうような目つきでにやにや笑うリナ。
とたんに、ゼルガディスとアメリアは赤面する。

「へぇ……ゼルガディスおじさまとアメリアおばさまに、そんなすてきなお話があったんですね……」
夢見るような顔でセラがため息を付いた。
「やっぱり、運命の出会い、っていうものだったんですか?」
その言葉に、ゼルガディスはそっぽを向いた。……どうやら、照れているらしい。
真っ赤な顔で苦笑しながら、アメリアがそっと頷く。
「いいですねぇ。でも、私にも、そんな出会いって、きっとありますよね……」
そう言いつつ、セラはガウリイの方をそっと見る。
そのとたん、リナの顔が険しくなる。明らかな嫉妬の顔。
「……セラ、やめておけ。その旦那は、俺より年上だぞ」
ゼルガディスの言葉に、セラが少し驚いた顔をする。
「えっ?ガウリイ様って、そんな年なんですか?……どう見ても20代ですよ」
(奴の名前に『様』をつけるのは遺伝か?)
ゼルガディスは誰にも聞こえないように、内心で呟く。
「そういえば、そうですよ。リナさんはともかくとして、ガウリイさんまで若いままなんて」
魔道を扱うものは、その力を持って老化を遅くしたり、寿命をある程度まで延ばしたりすることが可能であった。
リナほどの力を持つ魔道士ならば、若い姿のままであるのは理解できるのだが。
アメリアの問いに、リナはあっさりと、
「あ、こいつも私の魔力で若いままにしてるのよ。天才魔道士のあたしなら、このくらいのことはできるわよ」
と答えた。
「普通はできないと思いますけどぉ」
「そりゃ、あたし程の腕がなくっちゃねぇ♪」
ちなみに、残りのメンバーで姿が若いのはアメリアだけである。
ゼルガディスは元の身体に戻った時点で邪妖精の魔力が消えたため、ほとんど魔法を使えなくなってしまったし、
シルフィールは、自然のままに年をとることを望んだ。
アメリアは……子供の頃のままの純粋な心がそうさせるのか、本人は意識していないのだが年をなかなかとらなかったのである。
「大体、こいつが年をとったら、ただの役立たずじゃない!」
「……リナさん……それはちょっと言い過ぎでは……」
シルフィールが窘めようとするが、
「まぁ、この旦那の取り柄は剣の腕と外見だけだし……」
「年をとって剣の腕が落ちて、また顔も悪くなったら……ガウリイさん、確かにいいとこないですよねぇ」
「そーでしょ?そうなったらこの脳味噌クラゲ男、生ゴミゼロスよりも使えなくなっちゃうじゃない」
本人の前で酷いことを平気で言うリナ達。
しかし、当の本人は平気な顔である。……果たして、今の会話をちゃんと聞いていたのかどうか、かなり怪しい。

「それにセラ、ガウリイ様にはリナさんが……」
シルフィールが娘を止めようとかけた言葉に、リナは思わず突っ伏した。
「あ゛……あ゛の、……シルフィール?」
「そうですよ、セラさん。ガウリイさんにはリナさんって人がいるんですから、邪魔しちゃだめですよ」
「アメリアの言うとおりだ。……止めとけ、リナに殺されるぞ」
「……あ゛のねぇ……ちょっと、人の話を……」
誰も聞いてはくれなかった。
「それに、私最初に思ってたんですけど、ガルフさんとレイティアさんって、てっきりリナさん達の子供じゃないかって……」
「そうですね、アメリアさん。なんか雰囲気とか性格とか似てそうですし」
「髪の毛とか眼の色も同じだな……」
「ねぇリナさん、本当は隠し子なんじゃないですかぁ?」
さっきの仕返しとばかりに、からかうように尋ねてくるアメリア。
そんな彼女に、リナは真っ赤な顔をして叫んだ。
「何でそうなるのよ!勝手に決めつけないでよね!……大体、あたし達、……別に結婚してるとかそういう訳じゃないんだし……」

『え゛え゛っ!!!!!』
思わずシルフィール、アメリア、ゼルガディスの声がハモる。

「そっ、そんなぁ、リナさん」
「だからっ!こいつは勝手にあたしに付いてきただけ!……とりあえずは使えそうだから側に置いてるだけなの!」
「リナさん、それは……」
「こいつはただのパートナーっ!……あたしは結婚する気なんてないのっ!誰ともっ!」
にべもなく言い放つリナ。しかし、その顔は何故か辛そうだと、ゼルガディスは気付いた。
ガウリイに小声で話しかける。
「おい、ガウリイの旦那。それは本当か?」
「そうだ。俺達は別に結婚してるとかそういう訳ではないからな」
「よくそれで彼女の横にいることができるな……生殺しじゃないか」
「……いいさ。彼女が俺の側にいてくれるのなら」
その言葉にハッとするゼルガディス。
……昔、リナが姿を消したときのガウリイの悲痛を思い出したのだ。
「俺達はずっと一緒にいる、それで十分さ。結婚とか言う形式的なものはどうだっていい」
「……」
昔からこの男はかなりプラトニックなところがあると、ゼルガディスは思っていた。
しかし……これは、彼の想像以上である。
彼は、感心するより先に呆れ返ってしまった。


アメリアやシルフィールがリナに事の真相を問いつめているとき。
決意を胸に秘め、きつい眼差しでリナを見つめた少女がいた。
「……なら、私がいただいてもよろしいですのね?」
清楚な顔をして、かなり大胆なことを言う。
母親であるシルフィールの方が、かえって赤面して慌てている。
「……駄目よ」
「勝手なことを言わないで下さい。結婚する気もないくせに側には置いておくなんて、あまりにも酷すぎます」
「……それは……」
「私、負けません。今は無理でも、必ずガウリイ様の心を振り向かせて見せます。……その方が、今の状況よりは少なくともガウリイ様のためだとも思いますから」
きっぱりとリナを見つめ、セラは高らかに宣言した。
リナは、何も言い返せなかった。
彼女の言うことは、確かに正しかったのだから……。


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