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祈り

第5章 思わぬ再会



「リナ……さん……?」
「リ……ナ……か?」
アメリアとゼルガディスがまるで幽霊を見るような顔で呟く。
リナ達も、信じられないものを見るかのように呆然としていた。
沈黙が流れる。
「……っやっだ、アメリアぁ〜!?」
ようやく、リナが叫ぶ。ばしばしとアメリアの身体を叩く。
「どぉしたのこんな所で〜!それにしても、おっ久しぶり〜!!!」
「本っ当にリナさんなんですねっ!?」
「それ以外の誰に見えるって言うの?」
目を輝かせるアメリアに、笑顔で答えるリナ。
しかし、その姿は若々しい。
最後に会ったときに比べると大人びているものの、どう見ても22〜3にしか思えない。
「それに……あんた、ひょっとしてゼルガディス?まるで別人じゃない!岩の肌はどこにいったのよ〜!?」
そう、今のゼルガディスの肌はごつごつとした岩ではなく、普通の肌であった。
合成獣であったころの面影は、もはやどこにも無くなっていた。
「いや、これは……まぁ、色々あってな……。それより、お前ら一体今までどこで何してたんだ!?」
「そうですよ、リナさん、ついでにガウリイさんっ!」
ガウリイはついで扱いである……。
「え……っと、話せば長くなるんだけど……ん、……何?」
ガウリイ、と呼ばれた剣士がリナのマントの裾をつんつんと引っ張っている。
いやぁな予感に襲われながら、リナが彼の方を向く。
そんな彼女にガウリイはそっと尋ねた。
「なぁ…………こいつら、知り合いか?」

ぷちっ。

「爆裂陣(メガ・ブランド)!!!!」
「あ〜れ〜……」
爆風に吹き飛ばされていくガウリイ。
「あ〜ん〜た〜は〜っ!そこまでお約束なボケをかますんじゃないわよっっ!!!」
怒髪天をつくリナ。
そして、その2人を、ゼルガディスとアメリアが深い深いため息をつきながら見ていた。
「変わっていないといえばそうなのでしょうけど……」
「あの旦那らしいとは思うが……」
「……まさかとは思っていましたけど……」
「……やっぱり、忘れられていたな……」

「ったく、あいつのクラゲぶりは全っ然治っていないんだから!」
盛大に文句を言うリナ。
「らしいというか何というか……」
ゼルガディスはすっかり疲れきった様子である。
「それより、リナさん。無事でいるなら、どうして今まで連絡してくれなかったんですかっ!」
半ば涙を浮かべながら、アメリアが叫ぶ。
「私たちがどれくらい心配したか、わかってるんですか?」
「……ごめん、ごめん。……でも、こっちにも事情があって……」
「どんな事情だか知りませんがっ!リナさんは……」
「アメリアさん!」
何かを言いかけたアメリアの声を中断するように、女性の声が響いた。
そこにいるのは、神官衣を着た二人の女性。
一人はまだ若い。もう一人は割と歳を取っていたものの、貫禄のある美しい人だった。
声を掛けたのは、歳を取った女性の方。その姿に、リナは見覚えがあった。
「……シルフィール?」
リナの声に、彼女が反応した。
「まさか……リナさんっ!?」
言うなりリナの方に走ってくる。
「リナさんっ!!!お久しぶりですっ!」
まるで少女の頃に戻ったような笑顔。
リナ達に再会できた事がよほど嬉しかったのか。
「それにガウリイ様も……。……リナさん、まさかこれは……」
リナの魔術に吹き飛ばされ、足元でピクピクと痙攣している男の姿に気付いたようだ。
ジト目でリナを見る。
「え?あ、いや、これは、その……ま、いいのよ、こいつの事は!」
「よくありませんっ!怪我してるじゃありませんかっ!」
「舐めとけば治るって、こんな傷」
「不衛生ですっ!」
「あーもう、後で治しとくって……」
「……あの、私が治します……」
そこにひょっこりと現れたセラ。
そう言うと、ガウリイに回復呪文をかけ始めた。
その頬がほのかに赤くなっている事に気付き、ゼルガディス達は
(……これはまずい事になったかもしれない)
と思った。
……さすが親と同じ血を引いているだけある。
「とりあえず、ここでうだうだ言ってても仕方がありません!とりあえず私の家へ行きましょう!」
指を天高く向け、アメリアが高らかに宣言する。
「そーねぇ……たしかにここじゃ落ち着かないわねぇ」
「わたくしもいろいろお話をききたいですわ。行きましょう」
回復魔法で傷を治してもらったガウリイを含め、暗い山道を皆が歩き始めようとする。
そのとき、
「あの……」
セラが遠慮しがちな声を上げた。
「どうしたの?セラ」
シルフィールが優しく声を掛ける。
「あの……アストールさん達、置いていってはいけないのでは……」
はっとして皆が後ろを振り向くと、そこには未だリナの術にかかったまま動けずにいるアストールとジュリアの姿があった……。

「父さんも母さんもひどいです!私達の事忘れるなんて!!!」
帰り道、半泣き状態でジュリアがゼルガディス達を責める。
「ごめん、ごめん」
「いや、まさかこんな所でこいつらに会えるとは思わなかったからな」
「でも、だからって私達の事を放っていくなんて、ひどすぎます!」
「本当ねぇアメリア。駄目じゃない、子供を捨てていくなんて」
「捨ててません!大体、リナさんっ!私の子供たちに、一体何をしたんですかっ!」
突然矛先を向けられ、戸惑うリナ。
当然の質問といえるが、彼女はそっけなく答える。
「何をしたって、この子達がいきなり襲ってきたのよ!あんまりにも鬱陶しかったから、ちょっと静かにしてもらっただけよ。
竜破斬(ドラグ・スレイブ)かまされなかっただけマシだと思ってよね」
リナがいうと冗談には聞こえないから怖い。……本気かもしれないが。
「でもっ!この人達、罪無き旅人を襲っていたのよ!母さん達はこんな悪人と知り合いだったんですか!?」
「だ〜れ〜が〜悪人ですってぇ!?」
深く深くため息を吐くゼルガディス。彼女の趣味を思い出したのだ。
「……盗賊いぢめ、か……」
彼の科白を無視し、リナはジュリアに向かって言う。
「い〜い?罪無き旅人ってのはこのあ・た・し。それをあいつら盗賊が襲ってきたのよ。
それを撃退しただけなのに、勝手に悪人扱いされるなんてたまったもんじゃないわ」
「でもっ!あの男の人を脅してたじゃないですかっ!」
「それは気のせいよっ!」
……絶対に気のせいではない。
「しかし、シルフィール。お前さん、何故ここに?」
リナ達の漫才を無視し、ゼルガディスが尋ねると、シルフィールは表情を硬くした。
「それが……また、神託が降りたのです。ここに大変なものがいる、と」
「なるほど……確かに『大変なもの』はいたが……」
「……どういう意味よ、ゼル」
エルフ並みとも言われる耳で自分の悪口を聞き、リナがゼルガディスへと詰め寄る。
「そして、それが、以前感じた波乱に関係するものだとも。だから、わたくしはここへ来てみたのです」
「『波乱』に関係しているだと……となると、やはりリナか」
「人を厄災発生器みたいに言うんじゃないわよっ!」
「ただ旅するだけですぐに魔族がらみのやっかいごとに巻き込まれるお前が……違うのか?」
「うっ……」
過去の出来事を思うと言い返せないあたりが悔しいリナ。

「いや、違う、父さん」
ここで、アストールが口を挟んだ。
「俺達、さっき、魔族に襲われたんだ。多分、それが『波乱』だと思う」
「魔族ですって!?」
驚くアメリア達に、アストールが説明する。
「あれは、多分純魔族。セイルーンの王家がどうとか言っていた」
「……よく無事だったなぁ」
ガウリイが感心している。
確かに、純魔族と相対するには、相当の腕がないと無理である。
アストール達兄妹も強いが、怪我もなく無事でいることができたのが不思議だった。
「あ、それなんですけど」
ジュリアが続ける。
「何か変な人が助けてくれました」
「……変な人?」
「ええ。男の人のくせに、口に手を当てて『それは秘密です』なんて言ってるんですよ」
「……それって、まさか……」
「それに、自分を『謎のプリーストです』なんて言ってました。頭がおかしいんですよ、きっと!」
思わず顔を見合わせるリナ達。
その時、虚空から声が響く!

「頭がおかしい、とはひどいですねぇ。せっかく助けて差し上げたのに」
何もない空間から、先程の神官がふわっと現れた。
相変わらず、にこにこと笑っている。
「……ゼロス!!!」
瞬間的に殺気を放ち、剣を抜くゼルガディス。
アメリアも厳しい表情をしている。
それとは対照的に、リナは挑戦的な顔をしていた。
「……久しぶりじゃない、ゼロス。どうしたのよ?」
「よー、ゼロス、久しぶり」
何も考えているとは思えない様子で、ガウリイも軽く挨拶する。
「ゼロス。貴様、一体何しに来た!」
「あなたのお子さんを助けて差し上げただけじゃないですか。そんな怖い顔をしなくとも」
「貴様がただの親切でジュリア達を助ける筈がないだろうが!」
「おやおや、嫌われてしまいましたねぇ」
困ったな、といった表情のゼロス。

「……一体、あの人は何なんですか?」
ジュリアが誰とも無く尋ねると、リナがそれに答えた。
「獣神官ゼロス。獣王ゼラス=メタリオムの唯一の配下である高位魔族よ」
「魔族だと!」
アストールの目が光る。
「……しかし、あいつから魔族の気は感じないぞ?」
「魔族ってのは、その力が大きくなるほど、……人間に近くなるわ。魔族の気を隠すのも半端じゃなくなるの」
リナの言葉に、ジュリア達兄妹、そしてシルフィールの目も険しくなる。
そんな中、
「いやぁっ、怖い!」
どさくさ紛れに、セラはガウリイにしがみついた。……結構いい性格しているかもしれない。

「ゼロスさん。一体、何のつもりなのですか?」
「……僕が、素直に言うと思いますか?」
相変わらずの笑顔でゼロスは答えた。が、
「言わないと……どうなるか、分かりますね?」
どこから取り出したのか、メガホンを構えるアメリア。
それを見て、とたんにゼロスの顔色が変わる。……どうも、過去にイヤな思い出でもあったらしい。
「わ……わかりました、言いますよ言いますよ。僕が今回彼女達を助けたのは、取り引きの材料にするためだったんですよ」
「取り引き?」
胡散臭そうな4つの目がゼロスを見つめる。
そんなゼルガディス達に、ゼロスはぱたぱたと手を振る。
「あ、っていってもあなた達と取り引きするわけではありませんよ。相手は……リナさんです」
「リナと!?…………それだけはやめたほうがいいのでは……はぐぅっ!」
リナのラリアートがゼルガディスに見事に決まる。
「さて、……いったい何の取り引きかしら?」
当のリナは、余裕の微笑みである。
「決まっているじゃぁありませんか。とぼけないで下さいよ。……あ・れ、解いてくださいよぉ」
にっこりしながら言うゼロス。しかし、その額に冷や汗が流れている事にアストールは気付いた。
「やだ」
これまた、にっこりしながら即答するリナ。
「そう言わずにお願いしますよぉ。あれのせいで、僕の仕事にも支障がでているんですが」
「魔族の仕事なら、別に支障が出たってかまわないでしょ」
にべも無いリナ。
その他の者は、会話の内容について行けず、ただ呆然としていた……始めから話を聞いていなかったガウリイを除いて。
「……リナ。おまえさん、また厄介事に首を突っ込んでいるのか?」
半ば睨みながらゼルガディスが問う。
「そうです!また、何か厄介な事に……まさか、あの呪文の封印を解いて、暴走させろとか言う事ですか?」
アメリアが青ざめる。

あの呪文……それは、「重破斬(ギガ・スレイブ)」。
金色の魔王ロード・オブ・ナイトメアの力を借りた魔法。
制御を誤れば、この世界そのものを破壊しかねないもの。
かつてリナは、ガウリイの命と引き換えにこの呪文を使う事を強要された。
そして、呪文は暴走したのだ。
その時は数多くの偶然が重なり、世界はこうして無事にある。
また、かつての仲間が赤眼の魔王として目覚めたとき、彼女はこの呪文を用いて魔王を倒した。
その時は暴走する事はなかったが……。
やはり、2度と使うべき魔法ではなく、彼女はその呪文を封印した筈だった。

「それは……止めるべきだ」
「そうです!……駄目ですっ、リナさん!それだけはっ!」
シルフィールも慌てて言う。
この呪文の恐ろしさに一番最初に気付き、リナに警告したのは彼女であったから。
しかし。
「何言ってるの。違うって」
リナは明るく言い返す。
「ゼロスが言ってるのは、……呪いの事よ」
『呪いぃ!?』
皆の声がハモる。
「いや、ね。相手の命を束縛するって呪いを昔ちょっと研究してみたんだけど、試してみたくなっちゃってさ〜」
笑顔のリナ、しかし言っている事はあまりにも恐ろしい事である。
「まさか人間に試すわけにいかないから、とりあえず手ごろなところでゼロスにしてみよっかなって思ったのよ」
(そんなものを手ごろに試すな!)
周りの者は皆青ざめながらも、心の中で突っ込んだ。
「……そしたらさ、何だか旨くいっちゃったみたいで。もはやゼロスの生殺与奪権はあたしにあるのよねぇ♪」
『……』
皆、絶句している。
「だからリナさ〜ん、そろそろ僕を開放してもらえませんか?」
「だからぁ……い・や(はぁと)」
「そんなぁ」
あまりにも情けない声を出すゼロス。
皆が唖然としている中、
「だってあんたはあたしの便利なアイテム・その2だもん♪」
にっこりと微笑む彼女。
リナの気が変わらないのを悟り、ゼロスはため息を一つつき、再び宙へ浮かぶ。
「仕方ないですね……まぁ、あなたが僕達の邪魔をしないだけ、良しとするしかないですね……」
意味不明な言葉を残し、彼は虚空へと消えた。

「……魔族をも縛る、呪い、だと……?」
ゼロスが消えた後。
ゼルガディスがリナに詰め寄った。
「あいつにしか使っていないのか?」
「そうだけど?」
「うまくいったのだろう?だったら、何故それを使って魔族を滅ぼさない!?」
「ちょっと待ってよ、ゼル」
「そうですっ!私もそんな呪いの話を聞いた事はありません。何故、皆に知らせて活用しようとしないんですか?」
「アメリアさんの言う通りですわ、リナさん。人が魔族に襲われるのは今も昔も同じ。それさえあれば、殺される人も少なくなるはずでは」
次々と責め立てる口調で言ってくる。
そんな3人に、リナは自虐的な微笑みを返した。
「……だったら、高位魔族をも滅ぼす事が可能だから、重破斬の存在を公表しろって言うの……?」
その言葉に胸を突かれるゼルガディス達。
暴走すれば、ほぼ確実にこの世界をも滅ぼすであろう呪文。
普通の魔道士が使える代物ではないが、魔族が鍵として狙う呪文だけあって、公表する事はできない。できるはずがなかった。
「しかし、それとこれとは」
「違わない。同じ事なのよ。……大体、重破斬と同じで、この呪文は誰にでも使えるわけではないわ。多分、この世界であたししか使えない。だから、これでいいの」
リナは俯きながら答えた。そして、それ以上何も言おうとはしなかった。
本来人間が持つべきではない力を手に入れた……重破斬の存在と同じように、彼女は苦しんでいたのだろう。
(だったら、そんな呪い、最初っから研究なんかしなければいいのに)
セラは思ったが、とても口に出して言える雰囲気では無かった。

その後、皆はアメリア達の家に向かい、森を歩いていた。
道中は平和だった……いや、
「道が暗くて怖いから」
といってガウリイの腕を放そうとしないセラと、怒気を孕んだ目で彼女を睨むリナとの間に火花が生じていたという一幕があったが。
しかし当の本人であるガウリイは何も考えていないようで、それをゼルガディス達ははらはらしながら見ていた。
そして家に着き。
ゼルガディスは皆を部屋へと案内した。
そこには、留守番を言い付かっていた兄妹の姿があった。
「あ、リナさん、ガウリイさん。この人達は……」
アメリアが2人を紹介しようとした矢先。
「ガルフ!?レイティア!?」
大声を出した人がいた。
思わず皆の注目がその人に集まる。
……ガウリイ=ガブリエフのもとへと。


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