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真っ赤な夕日はすでに沈んでいた。 鬱蒼とした森の中、一組の男女が歩いていた。 「……着かねーぞ」 「んなの、あたしの知ったこっちゃないわよ」 空腹のせいか、2人の足取りは重くなっていた。 「ま、無事街に着いても、なぁ……」 「……金がないと、ねぇ……」 無一文では、食堂にすら行けない。 お腹が空腹を訴えて久しいが、その欲求を満たすことはできない。 しばらく無言で歩き続けた2人だったが。 ぽんっ! レイティアが手を打った。 「そーだっ!ガルフ、あんたのその剣売りましょうよ」 「いっ!?」 突然の爆弾発言に目を向くガルフ。 「なんか見たとこ魔法剣っぽいし」 見たとこも何も、デーモンぶった切ったからには間違いなく魔法剣である。 「お、おい」 「そうすりゃ、とりあえず当面のご飯代くらいは手に入るわよ」 魔法剣ならばかなりの値がつくのだが、お腹が空いているせいか食事方面にしか頭が向かないらしい。 「ちょっと待て!」 レイティアはまるで聞いていない。 「よし、決ーまーりっと♪」 「勝手に決めるなぁ!!!」 ガルフの悲痛な叫び。ここで彼はささやかな抵抗を試みた。 「これ売っちまったら、どうやって身を守れっていうんだ!」 「魔法があるでしょ」 「うっ……」 あっさりかわされてしまった……。 そう、あれから2人は、自分が使えそうな魔法を色々試してみたのだ。 デーモンなどに襲われた時、さっきのように都合よく呪文を思い出すとは限らないからだ。 自分の事は思い出せないくせに、呪文は次々と頭の中から湧き出してくる。やはり身体が覚えていたのであろうか。 それによって分かったのは、ガルフもある程度の魔法を使えるが、レイティアの方がさらに強力な魔法を使える、という事だった。 ……その実験の結果、ガルフの火炎球(ファイアー・ボール)で森が丸焼けになったとか、レイティアの竜破斬(ドラグ・スレイブ)で山が1つ無くなったとかちょっとしたアクシデントがあったものの、あとは概ね平和だった。 二人の口論は続く。 「でも、俺はたいした攻撃魔法は使えないって!大体、火炎球でデーモンは倒せねーよ!」 「そこは根性で……」 無茶を言うな、レイティア。 「どんな根性だ、どんな!?」 「バンダナつけて、増幅器付けて……」 「……いったい何の話だ?」 「んもー。だったら、あたしが守ってあげるわよ。高く付くけどね」 「冗談じゃないっ!」 「子供じゃないんだから、駄々こねてんじゃないわよ。ったく、世の中判ってないわねぇ」 「んな世の中があるかぁぁぁ!!!」 ガルフはほとんどキレる寸前。哀れなり。 「あんまり興奮すると血圧が上がるわよ」 「誰のせいだっ!」 「ま、あたし達が失くした記憶になんか関係あるかもしれないから、とりあえず取っとこうか」 「ほっ……」 安堵のため息をつくガルフ。 と、その顔が瞬時に険しいものに変わる。 すらり、と剣を抜く。 「囲まれてる、な」 「10ちょっと、かしら」 背中合わせになり、周囲に気を配る2人。 そこに現れたものは……。 「よーよーよー。こりゃまた別嬪な姉ちゃんじゃないか」 「優男の兄ちゃん、有り金とその女置いていきな!」 「そうそう。命がおしけりゃなぁ」 そこに現れたのは下卑た顔をした男達。 夜盗であった。黄金のお約束パターンである。 明り(ライティング)の明りで見える限りでは、12・3人ほどいる。 やれやれ、といった感じの2人。 そして、レイティアが金の髪を掻き上げつつ鼻で笑う。 「そりゃ、私が絶世の美人だって事は認めるけどぉ」 「独りで言ってろ」 思わず呟くガルフ。 しかし。 ごんっ。 レイティアの肘鉄がガルフの脇腹にヒット! 「……ってめーっ……」 抗議の声は無視。 「あいにく、あんた達の言う事聞く気なんて無いのよ」 あくまで強気なレイティア。虚勢でも何でもなく、これが地なのだから怖い。 しかし夜盗も余裕である。 「いずれ気も変わるって、くっくっ」 「そうそう。いやよいやよも好きのうちっていうだろ」 ちょっと違う気がするが。 はぁ……。 深いため息をつくレイティア。 「あーあ。知らねーぞっと」 ガルフが心底哀れそうに言いつつ、そっと彼女から離れる。 その行動を盗賊達が訝しく思う間もなく。 レイティアは片手を上げ、そして……攻撃呪文の花が咲いた。 「ちっ、こいつら何にも持ってやしねぇな」 「全く。人を襲うくらいなら少しは先立つものを持ってなさいっていうのよ」 2人は夜盗の持ち物を漁っていた。 襲ってきた夜盗はすでにほぼ全員くたばっている。 「まぁ、裕福な暮らしができないからこんな事してるのだろうがな」 「でも、ちょっとくらい溜め込んでてもおかしくないと思うけど?」 「……こ、こいつら……よくも……」 「氷の矢(フリーズ・アロー)」 まだ意識のあった夜盗をあっさりと氷漬けにしたのち、レイティアはいい事を思いついた。 「ねぇガルフ?こいつらがここに現れたってことは、きっとアジトが近くにあるってことよね?」 「ま、そーなんじゃねーの」 「そこに行けばお金がたくさんあるはずだわ!」 ごべしぃっ! 思い切りこけるガルフ。 「おい……まさか」 「アジトに溜め込んだお宝をぶんどれば懐が暖まるわ!ナ〜イスアイディア!」 「ちょっと待て!そりゃ犯罪だぞ!」 「だって、こいつら私達を襲おうとしてたのよ?その償いはさせなくちゃ」 「いや、だから」 「きっと金銀財宝が山のように……ふふふふふ」 すっかり妄想モード突入のレイティア。 「止めとけって、俺はまだ牢屋になど入る気はない」 ガルフは必死に止めようとする。しかし。 「ばれなきゃいいのよ、所詮は相手も悪党だし」 「おい゛……そういう問題じゃぁないだろ……」 とりあえず、2人は先を急ぐ事にした。 レイティアは、夜盗のアジトを襲う事にまだ未練を残していたが、 「んな事したら斬り殺すぞ」 という、剣を構えたガルフの説得(殺気付き)にしぶしぶ応じたのだった。 「……ったくぅ、何で夜盗の持ち物漁るのは良くてアジト襲うのは駄目なのよ」 「あいつらは現行犯だからいいんだっ!」 訳の分からない理論を振りかざすガルフ。 「あ〜あ、今度こそ金とか食料持った盗賊でもやってこないかな〜」 レイティアがそう思った時。 道の先に、再び人の気配を感じる。 思わず顔を見合わせる2人。 「あっちが襲ってくる場合は、別に構わないのよね……?」 「……そうだな」 空腹が判断を鈍らせたのか、相手を盗賊だと決めつけ。 にまぁ。 怪しげな笑みを浮かべ、二人は前方の闇へと向かう。 一方。 レイティア達と同じく、夜の森を歩いていた男女。 彼らも、前方から近付いてくる気配を感じていた。 「2人……だな。気配を隠そうとしているみたいだが」 「では、悪ですねっ!きっと、善良な旅人を襲う盗賊に違いありませんっ!」 「いや待て、ジュリア」 「いいえ、アストール兄さん。ここで悪を見逃したとあれば末代までの恥っ!早速成敗しなければ!」 「だから、それは相手を確認してからにしろと……」 ジュリアと呼ばれた少女は聞く耳を持たない。 「さぁ、かかっていらっしゃい、盗賊達!いつでも準備はオッケーです!」 動きやすそうな拳法着に身を包んだ少女は、目の前の闇を睨み付ける。 ため息を1つつき、少女を止めようとした少年アストール。 しかし、ふと立ち止まる。 (前からやってくる気配は……普通ではない?) 殺気……というのとは少し違うみたいだが、悪意というか、なんとなくイヤなものを感じる。 (これは……ただの旅人などという訳ではないな) 少年は黙って剣を抜いた。 「ふっふっふっ、相手もやる気みたいねぇ。覚悟しなさい、盗賊ども」 前方の気配が変わった事に顔を綻ばせるレイティア。 これじゃどっちが悪人だかわからない。 「2人……しかし、なかなか強そうだな……」 ガルフは油断無く剣を構え呟く。 そして2人は、一気に走る! 「来ます!」 前方から迫り来る気配に身構えるジュリア。 呪文を唱え始める。 そして……。 「火の矢(フレア・アロー)!」 「氷の矢(フリーズ・アロー)!」 2つの呪文が炸裂し…… ぱきぃんっ!!! 軽い音を立てて消える。 「くっ!」 レイティアは呪文の効果が消えた事に舌打ちする。 「……相互干渉!?」 炎系と氷系の魔法を衝突させると、お互いに消えてしまうのである。 「……ったく、森の中で火の呪文使おうって馬鹿がいるとは思わなかったわ!」 山をふっ飛ばした本人が何を言うのか。 とりあえず、彼女は再び呪文を唱え始める。 「ひ?え?何で?どーなったの!?」 何が起きたのか判らず、慌てるジュリア。 どうやら彼女は、魔法の相互干渉のことを知らなかったようだ。 しかし魔道士風の少女が更に呪文を唱えているのを見て、自分も再び詠唱を始めた。 きいぃん!! 2人の少年の剣はまともにぶつかっていた。 押しても相手に効きそうにないと分かり、ガルフは剣に込める力を一瞬緩め、すかさず剣先を変え相手に襲いかかる。 それをかろうじて受け流すアストール。 そこを狙ってガルフの剣がきらめく! だが、慌てて体を捻ったアストールの服の一部を切り裂いただけだった。 「……やるな」 「……そっちこそ」 どうやら、お互いに強い相手と戦うことに多少なりとも喜びを感じているようだ。 2人は間合いを取った。 「魔風(ディム・ウィン)」 レイティアの呪文が先に炸裂した! 強烈な風に押され、近くの木に叩き付けられるジュリア。 「やりました、ねっ!」 しかし直後に復活している。 「……な、何なのこいつわ……」 ちょっぴり冷や汗をかくレイティア。あれだけの衝撃を受けてすぐさま立ち上がるなど、並みの頑丈さではない。 「お返し、行きます!火の槍(フレア・ランス)!」 (だ〜っ!!!また火の魔法かっ!!!!) 本気で慌てるレイティア。 避けたとしても、火事になること間違いなしである。 「……、誘蛾弾(モス・ヴアリム)!」 恐ろしいまでの早口で呪文を放つ! これによって炎は消し去られた。 「いいかげんにしなさいよねっ、この盗賊風情が!」 叫びつつ距離を置く。 「何を言うんです!そっちこそ、盗賊のくせして!」 叫び返すジュリア。 (へ…………?) ……。 思わず沈黙が流れてしまう。 お互いに指を差し、恐る恐る尋ねる。 「あんた達、盗賊、で、しょ……?」 「あなた達、盗賊じゃ……ないんですか?」 相手が『悪』だと思い込んでいた2人。 「……」 「……」 「……ガルフ!」 「……アストール兄さん!」 少女達は猛ダッシュで走り出した。 2人の少年は戦いつづけていた。 キン、キイィンッ! 剣の打ち合う音が響く。 剣の腕は、ガルフの方が上であった。しかし。 「明り(ライティング)!」 強力な閃光が一瞬だけほとばしる! アストールは、魔法をも絡めて攻めてくるのだ。 魔法にそれほど強くないガルフは、そのため苦戦を強いられていた。 光に目の眩んだ彼は、目を閉じたまま、遠ざかる。 (このままじゃぁ、キリがない……) 相手の気配を探りながら、ゆっくりと眼を開けるガルフ。 しかし……そこで見たものは、黒髪の少女にタックルを食らっている、つい先ほどまで戦っていた筈の魔法剣士の姿。 「へ……どうなってるんだ?」 呟いたのも束の間。 「戦うの、ちょ〜っと待ったぁ〜っ!!!」 声と同時に、後頭部に強い衝撃。 「だあぁっ!何すんだよ、レイティア!」 本日3回目の攻撃を受けた頭をさすりながら、怒るガルフ。 「だからちょっと待ってって言ったの!」 「だったら何で殴るんだ!?」 「もののはずみよっ!!」 「はずみで人の頭を殴るなぁっっ!」 「済んだ事をぐだぐだ言わないの!それよりっ!」 ……とりあえず、休戦が成立した。 「……判りました。レイティアさん達は、先程襲ってきたという夜盗と私達を間違えたわけですね」 ジュリアがため息をつきながら言う。 肩の下で切り揃えた黒髪に、ぱっちりとした目元。なかなか愛くるしい少女である。 その横では、彼女の兄と名乗る剣士の少年、アストールが不機嫌そうな顔で立っている。 彼はやや青みがかった黒髪。短めに切ってあるが、涼しげな目元に合っているというか何というか。 とりあえず、レイティアは素直に謝る。 「ごめんねぇ〜。ついつい、ね」 ちなみに、盗賊から金品巻き上げようとした事は黙っている。 「……ったく、人騒がせな」 「でも驚いたのはこっちも同じだぜ?」 少年達はぶつぶつ文句を言っている。 「まぁそれはともかくとして。えっと、アストールさんにジュリアさん、だったっけ。どうしてこんな夜更けにここに?」 ぱたぱたと手を振り、話題を変えようとするレイティア。 「あ、それなんですけど。夕方くらいに、いきなりこの辺の森に火があがったんですよ」 ひくっ! 思わず顔のひきつるガルフとレイティア。 「それに、その後、轟音とともに山が吹っ飛んだな。あれには俺もびっくりした」 ひくひくっ! 「きっと悪人の仕業に違いないって思って、確認しにきたんです」 ひくひくひくっ! 「お前さん達、何か知らないか?」 ぶんぶんぶん。 慌てて、生きた首振り扇風機と化す。 (い……言えるわけ、ない……) 額に落ちる汗に、目の前の2人が気付かない事を祈るレイティア達であった。 「ご、ごめんね。あたし達にはわかんないや。それより……」 自分達が記憶喪失になっているらしい事を告げる。 それも、さまざまな修飾をつけて、不自然すぎない程度に哀れっぽく話す。 レイティアほどの美女が熱演(?)すれば、確かに回りの者は同情してくれるだろう。 それを証拠に、ジュリアは眼に涙を浮かべうるうるしているし、アストールもちょっと顔を赤くしてレイティアを見つめている。 「まぁ……それは大変ですねぇ」 手に握ったハンカチで潤む目頭を抑えながら言うジュリア。 「難儀な事だな」 アストールは少しそっぽを向いて言った。 「そうなの。で、お願いがあるのだけど……」 レイティアの「お願い」の言葉に、意味も無く胸を反らすジュリア。 「困っている人を助けるのは正義の使者の勤め!このジュリア、何でもお力になりましょう!で、一体何ですか?」 「お腹空いた……。何か……食べるもの分けて……」 「……」 「……」 |