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セデュース国・セデュースシティ。取り柄のない街ではあるが、旅の中継地点として、賑やかなところでもあった。 そんな街の市営会館の3階大会議室では、少々物騒な議題で盛り上がっていた。 「これが私の立てた作戦です。何か質問はありますか?」 ごつい体に柔和な顔、一見すると好々爺といった感じの男が、ぐるりと周りを見渡す。 「この資料の信憑性は確かなんだろうな?」 「昔、同じ様な計画を立てて見事に失敗した例もあったはずだが」 「こんな事をするより、アレが通り過ぎるまでおとなしくしていた方が無難じゃないのかね」 口々に消極的な意見が飛ぶ。男は軽く手を挙げてそれを制し、 「まあまあ、いくら何でもそういっぺんに聞かないでください。 えーまず、資料の信憑性ですが、これは私の部下を使い調べさせました。一番重要な弱点の部分については、かなり高い確率で本当だといえるでしょう。 それと、以前失敗したデュラン・バルザークの奴は雇った魔道士がアレの仲間だったという事が敗因ですな。その点、この計画では少数精鋭。信頼の置ける私の部下しか使いません。最後に」 一息ついて続ける。 「アレが、アノ女がいる限り我々に平穏な未来はない」 市営会館1階ロビー。そこにある会議室使用者一覧表。3階大会議室の欄には、こう書かれてあった。 『リナ・インバース対策実行委員会』 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 魔道士姿の少女と傭兵姿の青年が、セデュース・シティへと続く街道を歩いていた。 少女の歩みはかなり早く、青年はその後ろを、首を傾げながらもついていく。 しばらくすると、青年はポンと手を打ち、 「あぁ、あの日か」 バシーン!! 「ガウリイ!あんた唐突に何言い出すのよ!!」 スリッパを握りしめた少女が、真っ赤な顔で怒鳴る。 「リナが最近、機嫌が悪いからどうしたのかと思ってな」 青年−ガウリイはニッと笑う。少女−リナはますます真っ赤になった顔で、 「何にもない!」 「だったら何でそんなに怒っているんだ?」 「だ・か・ら、なんにもないからよ」 「?」 「この前の街で引き受けた仕事は、内容の割りに金額が低かったし、名物だって言う食べ物は恐ろしくまずいものばかり。そして!一番腹が立つのは、最近追い剥ぎや盗賊達が全然出てこない!!」 「おいおい」 「声に出して言ったら余計に腹が立ってきたわ。ストレス解消に竜破斬(ドラ・スレ)でもぶっ放そうかな」 そう言うとリナは本気で呪文の詠唱に入った。 慌てて止めに入るガウリイ。 「わー待て待て。竜破斬だけはやめておけ。そっそうだ、急げば今日中に次の街に着くんじゃないか?そうすればお前の好きなふかふかの布団で寝られるし、そこで仕事を受ければ懐も暖まるだろう」 ガウリイの言葉にリナは心底驚いた顔をして呟く。 「ガウリイがまともなことを言ってるわ。明日は槍が降るかもしれない」 「お前なあ・・」 こめかみを引きつらせてガウリイは呻く。 「そう言うことならとっとと行くわよ。ほら掴まって」 ガウリイがしがみつくと同時に呪文が発動する。 翔封界(レイ・ウイング)! ガシャーン! ガラスの割れる音が真夜中の宿に響きわたる。 「リナ、大丈夫か?!」 剣を片手にガウリイは、リナの部屋に飛び込む。そこで目にしたものは。 床に座りこみ真っ青な顔をしたリナ。その肩は微かに震えている。そして、窓から投げ込まれたと思われる、無数のナメクジ、ムカデ、蜘蛛、ゴキブリ・・・・・ 「リナ、大丈夫か?動けるか?」 さっきとは違う、優しい声で話しかける。しかしリナは僅かに首を横に振る。 ガウリイは、ナメクジ達を踏まないように気を付けて、彼女の所までたどり着くと、腰を抜かして立てないでいるリナをそっと抱き上げる。 しがみつくリナの頭をそっと撫でながら、彼は自分の部屋へと入る。 「ほら、こっちのベッドで寝てろ。荷物は俺がまとめといてやるから」 まだ青い顔のリナは、素直にコクンとうなずくとベッドへ潜る。 ガウリイはリナの部屋へと戻り、荷物を片付け始める。 「しっかし、これだけいるとさすがに気味が悪いな・・・・・ん?」 先程は気が付かなかったが、窓枠の下に紙が貼ってある。 『この村から出ていけ』 ここはセデュース国リーザス村。後半日ほど歩くと、首都セデュースシティという所だ。夕べ遅くにこの村にたどり着いたリナ達は、ここに宿を取ったのだ。 寝不足気味のリナとガウリイは、朝食を摂りに階下の食堂へ降りてきた。 「おっちゃーん、とりあえずAセット5人前ね」 「俺はAからCまで3人前ずつな」 注文を済ませ席に着くと、リナは小さくため息を付く。 「ガウリイ、夕べはごめんね。ベッド占領しちゃって。床じゃ痛かったでしょう」 「俺は大丈夫だから、気にすんな」 ガウリイは軽い口調で返す。そこに、 「あのー。傭兵と魔道士の方、ですよね?」 突然背後から声がかかる。 「そうだけど、何か?」 振り返るとそこには、初老の男が立っていた。 「仕事を依頼したいのですが」 その男−宿の主人で、名前をレイダムという−の言うには、最近盗賊が出没して困っているという。どうやらこの村全部を、盗賊団のアジトにしようと企んでいるらしい。 盗賊を恐れて、ほとんどの住人は首都へと引っ越してしまったのだと言う。 「わかりました。引き受けましょう。それで報酬の方ですが・・・」 宿を後にした二人は村外れまで来ていた。 「リナ、火の方はもういいぞ」 ガウリイは、水面に手製の釣り糸を垂らしているリナに声をかける。 「わかった。今行く」 二人は釣り上がった魚を串に刺し、たき火の周りに立てていく。 なぜ食事を終えたばかりのはずの二人がこんな事をしているかというと・・・・ 「それで報酬の方ですが・・・」 「それがですね。本来なら金貨の20枚30枚支払わなければならないのでしょう が、村がこの有様ではそんなに蓄えがありません。 そこで、今後一切の宿代と食事代がタダ、というので何とかなりませんか? もちろんこの件が片付いた後も、この村にお立ち寄りの際にはお二人の宿泊費はいただきません」 「じゃあついでに、昨日ガウリイが壊した、ドアの修理代もチャラね」 「それぐらい構いません。ありがとうございます。それでは料理が出来上がったみたいなので、どうぞごゆっくりとお召し上がり下さい」 そう言うとレイダムは奥の部屋へと引っ込んだ。 リナは早速、鶏肉のオレンジソース掛けを口に放り込み、 ・・・・・・・・・・・。 その場で固まる。 ガウリイは、と見ると、同じようにサーモンサラダを一口食べた状態で固まっている。二人は顔を見合わせると、コクンとうなずいた。 リナは口早に呪文を唱える。 こっそりと破弾撃(ボム・スプリッド) ガゴーン!!! 宿屋のドアが弾け飛ぶ。 「あいつらもう攻撃してきたの?しょうがない、ガウリイ行くわよ!」 「おう!」 そのまま二人は、いるはずのない敵を追って宿を飛び出していった。 「それにしても、あの料理の不味さったらないわね」 魚が焼けるのを待ちながら、リナはぽつりと呟く。 「ああ。アレならこの間の街で食べた『名物・岩トカゲの巣スープ』の方がよっぽどましだな」 「あーあ。先に料理食べてから仕事受けるんだった」 「でも降りないんだろう?」 「まあね。一度受けちゃったし、それに盗賊団をこのままにしておく訳にもいかないしね」 リナは小さく肩をすくめる。 「さて、そろそろ焼き上がったかな」 「リナ!」 魚に手を伸ばしかけたリナを、ガウリイは押し倒す。 「なにすんの・・」 真っ赤な顔で抗議しかけたリナの目の前を、火の矢(フレア・アロー)が通り抜ける。 「どうやら本物の盗賊どもが来たようだな」 ガウリイは素早く体制を立て直すと、剣を抜いて火の矢が飛んできた林の中へと駆け出す。 リナは呪文を唱えながら辺りを警戒している。 しかし、敵の気配はもう消えていた。 「今回はただの脅しみたいだな」 ガウリイが一枚の紙を片手に戻ってきた。 「『早くこの村から手を引け。さもなくば次からは命がないと思え』なんて書いてあるぞ。・・・おい、リナ聞いてるのか?」 リナはガウリイとは逆の方向を見たまま、肩を震わせている。 ガウリイはリナの見ている方に目をやって、ようやく理解した。 先程の火の矢を受けて、魚が全て消し炭と化しているのだった。 「ふっふっふっふ。上等よ、このリナ・インバースに喧嘩を売った事を、末代まで後悔させてやるわ!!」 二人は森の中を走っていた。一旦宿に戻って、レイダムさんに盗賊団のアジトらしき場所を教えてもらったのだ。 「それにしても・・・・・」 リナの後ろを走りながらガウリイは呟く。 「俺、今回出番ないかもな・・・」 森の中には、野盗どもが放ったのであろうゴブリン、オーク、中にはスケルトンやゾンビまでもいた。それらが行く手を阻む。 しかし、完全にキレているリナの敵ではない。 走りながらもその口から呪文が途絶えることはなかった。 烈閃槍(エルメキア・ランス)!氷結弾(フリーズ・ブリッド)!青魔烈弾波(ブラム・ブレイザー)!氷の矢! 一応ガウリイも抜き身の剣を下げてはいるのだが、それよりリナの呪文の方が早かった。 そうこうしている間に、アジトらしき洞窟を見つけた。 「ここね!あたしのお魚さんを丸焦げにした連中のいるところは!!」 そのまま中に飛び込もうとしたリナの足が止まる。 ガウリイは訝しげに思い、前方を見る。そして納得した。 目の前には昨夜と同じ、いや、それ以上の数の虫達が蠢いているのだ。 「ふはははは!さすがのリナ・インバースも恐怖で動けないか」 洞窟の中から聞き覚えのある声が響く。 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 「お、お前は宿の主人の・・・・なんだっけ、名前忘れた」 ガウリイは呟いてチラリと横を見ると、リナは下を向いたまま肩を震わせている。 そんなリナの様子を見て、さも嬉しそうに話を続ける宿の主人レイダム。 「我々はこの日のためにお前の弱点を調べ上げ、寝不足と空腹に追い込んだのだ。 しかも万全を期するためにゴブリンどもをけしかけ、魔力を消耗させるという念には念を入れた計画を立ててな。 それにしても、これだけのナメクジやゴキブリどもを集めるのは苦労したぞ。しかし、その苦労もお前を倒すことによって全て報われると言うものだ」 レイダムは完全に自分の計画に酔いしれていた。 そのため気がつかなかった。リナが肩を震わせながら呟いている言葉の意味を、そしてガウリイが慌ててリナの後ろに回ったことを。 「ふはははは!!これでリナ・インバースは動けない。やれ、お前達!」 レイダムのかけ声と共に洞窟の奥からゴブリン、オーク、仲間の盗賊達、魔道士も出てくる。 その時、 竜破斬!!!!! 増幅版竜破斬によって虫達と共に吹き飛ばされるレイダム達。 「よくもこのリナ・インバースを騙してくれたわね!おまけにあんな不味いものまで食べさせて!ほら、寝てんじゃないわよ!」 烈火陣(フレア・ビット)!爆術法(グレイボム)!風波礫圧破(ディミルアーウィン)!! 吹き飛ばされ、地面に着く前にまた吹き飛ばされ、すでにレイダムは意識を手放していた。 「手出ししなきゃもう少し長生きできたものを・・・」 ガウリイの言葉は、もちろん言われた当人には聞こえていなかった。 ズタボロにされながらも、かろうじて息のあった盗賊達を引きずり、二人は宿へと帰っていった。 「さてと、レイダムさん。依頼内容であった盗賊団はしっかりと壊滅させました。 確か報酬は『宿代と食事代がタダ』でしたよね。今の時期は何が美味しいかしら」 髪を銀に染め、ただならぬ殺気を振りまきながらも、にこやかにリナは言う。 ガウリイは、そんなリナと、意識のない盗賊どもを見比べて、大きくため息をつくのだった。 その後、街から一流の料理人が呼び寄せられ、リナの体力が回復するまでにかかった諸経費により、盗賊団のお宝は銀貨一枚残らなかった。 因みに、リナは村を出る日に役所へ行って、レイダム達を引き渡したのだった。 勿論礼金を貰うことを忘れてはいない。 教訓「触らぬ破壊神リナに祟りなし」 「君子リナ・インバースに近寄らず」 作者様からのコメント:
「ガウリイの活躍の場面が無いのは、ひとえに私が戦闘シーンが書けないから。ネメシスの意 ギリシア神話で人間の無礼な行為に対する神罰を擬人化した女神 (広辞苑参照) 復讐の女神(某漫画参照)」 |