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「…ねぇ、ちょっぴし休まない?」 ある、初夏の暖かなお昼時、あたしは大きな木を見て、そうガウリイ達に声をかけた。 さっき出て来た街の安くて美味しいと評判の定食屋でお昼御飯をお腹一杯食べたので、少しずつ眠気があたしを襲っている。気温と日差しの温かさがさらにそれを後押しして、もう眠くて眠くて仕方がない。 「そうだな…別に先を急ぐ旅でもなし、休んでくか。」 ガウリイはあたしの頭をくしゃっ、とすると、微笑みを浮かべてあたしの言葉に賛同する。 …まぁ、このクラゲ頭が何を考えているのかは分からないけど… 「そこの木の下で、2、3時間昼寝して…それから街に戻って、宿をとりましょ。いい?アメリア、ゼル。」 「…思うんだが…今から街に戻り、宿を取ってそこで休んだ方が…」 「何を言ってるんですか、ゼルガディスさん。せっかくいい感じの木があるんですから、そこで休憩していきましょうよ。それになにより…」 と、アメリアはリナとガウリイの方に視線を向けた。 「もうリナさん、寝ちゃってます。」 ゼルがその言葉にリナを見ると、ガウリイに寄りかかったまま、小さな吐息を立てて眠っていた。とても、幸せそうに… 「…あれ。リナ…もう寝ちゃったのかぁ?」 ガウリイがそれに気が付いて、リナを抱え上げた。 「…仕方がないな。」 ゼルは苦笑を浮かべると、アメリアとガウリイと共に、木の下へと歩き出した。 「…あれ?ガウリイ…ここ、何処…?」 あたしはふと、隣に立っているガウリイに話し掛けた。 「…お?リナ…?お前、寝てたんじゃなかったのか?」 ガウリイは今気が付いたかのように、そう言葉を返す。 「うん…寝てたと思うんだけど…あ、ゼル、アメリア!」 「…は、ひゃいっ!な、何ですかぁ、リナさぁん…」 「…ここは…?」 あたしのすぐ傍に立っていたアメリアは驚いて、半ば寝ぼけたまま返事をする。 ゼルは驚いて倒れそうになっているアメリアを支えつつ、辺りを見回した。 「…夢の中…かも知れないわね。」 あたりは霧に包まれていて、数メートル先ですら、ぼんやりとしか見ることが出来ない。 ただ、その狭い視界の中で分かる唯一の事…それは、ここが何処かの森だという事だ。 「…とにかく、進もう。ここが何処なのか、夢の中なのかも分からんが…ただ立ち止まっているのも馬鹿馬鹿しいからな。」 ゼルはそう言うと、すたすたと先を進もうとする。 が… 「待って下さい、ゼルガディスさんっ!」 ぐいっ、とアメリアがゼルの白いマントを引っ張る。急に引っ張ったもんだから、ゼルガディスは体制を崩す。慌てて体制を立て直そうとすると… ざくっ! …と、すぐ傍にある木に、針の様な髪の毛が刺さった。 「…おい、アメリア…」 「すいませーん…」 刺さったまま、ムスッとした表情を浮かべ(想像)、ゼルは呟くようにそう咎め、それに申し分けなさそうに謝るアメリア。 「謝る必要はないわよ、アメリア。こんな霧が深い森の中で離れ離れになったら、二度と会えなくなる可能性もあるんだから、単独行動は危ないわよ。」 「…そうだな。」 と、ガウリイはうんうん、と肯く。 …う…ガウリイにまで注意されるゼルって…ちょっと可哀相かも…髪刺さったままだし… 「…ってなわけで、行くわよ。」 「はいっ!」 「…っておいっ!置いていく気かっ!!」 …ガウリイがその後、ゼルを引っこ抜いたのを、ここで付け加えておこう。 「…ねぇ、リナさぁん…何処まで歩くんですかぁ…?」 「…あたしに聞かないで…」 何時間歩き続けたのだろうか…とにかく、元気なアメリアが弱音を吐くぐらいは歩いたってことは確かね。 「…なぁ、リナ、もう少ししたら休憩を入れたほうがいいんじゃないかぁ?アメリア、もう完璧にばててるぞ?」 ガウリイの声に、アメリアの方をちらっと見る。と…ゼルに寄りかかるようにして必死に歩いている姿が見えた。 「…そうね…もう少し進んだら、休みましょう。」 あたしはそうガウリイに答え、気合を入れ直した。 実を言うと、あたしもかなりばてているのだ。 …てくてくてくてく… と、急に視界が開ける。 「…うわ…あ…」 見渡す限りの花畑。淡い水色の花だけが、そこには咲き乱れていた。 「…すごい…綺麗…」 アメリアは両手を胸の前で組む乙女ちっくなポーズをすると、さっきまでの疲れが嘘のように、ゼルの手を引っ張って花畑の中央に向かって小走りで進んでいく。 「…綺麗でしょう…?この花は、カルアストという名前の花で、4年に一度、この場所でしか咲かない、とても貴重な花なんです。」 急にあたしの後ろから声が聞こえ、あたしとガウリイが慌てて振り向く。そこにはシルフィールを彷彿とさせる、綺麗な女性が微笑みを浮かべて立っていた。 「…あら…驚かせたみたいですわね。ごめんなさい…」 綺麗な長い黒髪が、頭を下げた瞬間、いい匂いをさせてさらさらと流れる。 「…4年に一度…この場所でしか咲かないなんて…なんか不思議な力がありそうね…それはそうと、これ売ったら高く売れる?」 あたしはちょっぴし、女の人の美しさに戸惑いつつ、そう尋ねた。 「…さぁ…ここでしか咲きませんから…どこか他の所に持っていったら、枯れてしまうと思いますわ。」 微笑みを浮かべ、それに答える。 「…ここに人が訪れること事態、殆どない事ですのに…4人も同時にいらっしゃるなんて…嬉しいですわ。」 「…はぁ…」 あたしとガウリイは、困り果てたようにそう答える事しか出来なかった。 「ねぇねぇリナさん!この花、とってもいい匂いしますよ!」 はしゃいでそう話し掛けるアメリアに、女の人は微笑みを浮かべた。そして花畑の中に入っていくと、花を1輪づつ摘み、私たちにそれを手渡していった。 「…あの…?」 あたしやアメリアが、女の人に問い掛けようとすると、女の人は微笑みを浮かべてそれを打ち消した。 「…カルアスト、という名前には、泡沫、という意味が込められています…貴方がたがこの花園に来ることが出来たという事は、この花園の管理者としての素質があるという事なのです。」 「…管理者だと…?」 ゼルが眉根をよせて、女の人の言葉を繰り返す。 「はい。貴方がたにはこの先、辛く苦しい戦いが待ち受けています。ですが…この花園の管理者になるのであればそれもありません。それに…貴方のその姿も、元に戻る事もできるでしょう。」 「…な…っ!」 ゼルの顔色が変わる。それはそうだ。旅の目的である、もとの姿に戻ることが、ここではいとも簡単に出来ると言われれば… 「…よくわからんのだが…つまり、この花畑のかん…なんだかになって、これから起こる辛く苦しい戦いから逃げろって、そう言ってんのか?」 「…簡単に言えば、そうですわね。」 と、女性はあっさりとガウリイの言葉を肯定する。 「この花園は、泡沫の夢の中にあるのです。自分の望みは全て叶いますし、不老不死ですわ。」 その言葉に、アメリアはびしいっ、と女性を指差した。 「不老不死…ってことは、あなた…」 「…魔族、ではありませんわ。私は、この花園の管理者です。」 あ、アメリアが指のやり場に困ってる… 「…ま、とにかく…あたしはその言葉に乗るつもりは無いわ。この先辛い戦いがあろうが、あたしはあたしのやり方で生きてくんだから。」 「…俺も、リナに賛成だな。」 ガウリイが、あたしの頭をぽんっ、とたたくとそう言う。 …とは言えども…実はそれだけではなかったりする。 今、この花園の管理者となって不老不死になったとしても…きっとそれを故郷のねーちゃんは許してくれないだろう。ぜったい、この花園まで追っかけて来て…あぁ、考えるだけで恐ろしい。 「…確かに。俺も自分の力で元の姿に戻るほうがいい。」 ゼルも苦笑を浮かべつつ、あたしの意見に賛成してくれる。 「悪を蔓延らせたまま、ここに留まるなんてこと、私にはできませんっ!」 …アメリアらしい… 「…そう…ですか…残念です…」 女の人は、一瞬本当に寂しそうな表情を浮かべたが、すぐに微笑みを浮かべる。 「…あなたがたは…本当にパートナーを愛してらっしゃるんですね。」 「なっ…!」 あたしとアメリアは、顔を真っ赤にしてうつむいた。 …ガウリイとゼルは、どうしてるんだろうか… でも、とってもじゃないけど顔を見る気にはなれなかった。 「…では…もし機会があったら、また4年後にお会いしましょう。この泡沫の花園で…」 「…ん…?」 目が覚めると、そこは大きな木の下だった。 あたしはガウリイに後ろから抱きかかえられるような格好で、眠っていたようで…驚いてガウリイから離れる。 ふと、隣を見ると、ゼルとアメリアが向かい会って、仲良く眠っている姿があった。 「…夢…かぁ…」 「…ん…どうやら、夢じゃなかったみたいだな。」 ガウリイは背伸びすると、微笑みを浮かべてそう言った。 「…へ?ガウリイ、何で夢じゃなかったって言いきれんの?」 あたしは少し頬を赤く染めながら、そう尋ねた。 「ほら、お前さんも花を持ったままだろ?かる…なんだかっていう花。」 と、ゼルとアメリアが目を覚ましたらしく、上半身を起こして背伸びをした。 「…リナ、ちょっとこっち来いよ。」 「…ん?何ガウリイ。」 あたしがガウリイに近づくと、ガウリイはその花をあたしの髪の毛に、カルアストの花をさした。 「これからも、一緒に旅を続けよーな、リナ。辛い戦いがあったとしても、さ。」 「…そうだな。」 ゼルもそう、ガウリイの言葉に肯いた。アメリアもにこやかに肯く。 …これからも…ずっと… ふと、あたしの手の中で咲き続けている花を見て、思った。 この、争いばかりが起こる世界…どこが泡沫でないといいきれるのだろうか…と。あたし達がこのまるで泡沫のように儚い現実の中で戦っている間、彼女はずっと一人で過ごしていくのだろう。泡沫の花達と、泡沫の夢の中で… 作者様からのコメント:
「カルアストという花…私が考えたものです。
フィブリゾとの戦いを控えて、揺れ動いているリナ達の心と、その決心。
この世界が泡沫と言い切れる人がいるのか…という問いかけが、個人的に気に入ってます。」 |