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光の剣。かつてサイラーグの魔獣ザナッファーを一刀両断したという、魔族をも切り 裂く伝説の武器。 だが人々は知らない。この剣もまた魔族であることを。この剣が、伝説の勇者などに似合わぬ魔剣であることを。 **************
「よくやったガウリイ。これで今日からお前が我がガブリエフ家の家宝、光の剣の持ち主だ」 父にそう誉められたとき、自分は泣いていたように思う。 いや、涙は流れていたが、泣いてはいなかったのかもしれない。悲しさと憎しみ、そして恐怖を感じる心は、この剣を継承するにあたっての試練の際に凍り付いてしまったのだから。 それらが正常に働いていれば、あるいはオレは父を責めただろうか。母に泣きつき、家宝をドブにでも捨ててしまっていただろうか。 だが現実はそうはなっていない。光の剣はあの年より、常にオレと共にある。 皮肉といえば、皮肉だ。これほど忌み嫌うものに、オレは何度命を救われたことだろう。 そう、あの時だってそうだった。 **************
原因はなんだったのか、よくは覚えていない。たぶん倒してくれと頼まれた魔導士が、魔族と何かしらの契約を結んでいたのだろう。魔導士を倒した後、そいつと戦うことになった。よくあることだ。 魔族に契約の主が死んだことによっての敵討ちなどという念はさらさらないことは言うまでもない。ただ奴は欲しているのだ。あの世の住人となった魔導士の代わりに、負の感情を吐き出してくれる別の誰かを。 馬鹿馬鹿しい、とオレは思う。 よくあることだ。そうしてどいつも、光の剣の前にあっさり滅びてゆくのだ。 「お前の感じる恐怖を、ゆっくり時間を掛けて味わってやろう」 魔族が言う。 「そいつはありがたいね、何しろここ数年間、恐怖なんて感情自分にあったことすら忘れちまってる生活が続いてたんだ」 オレが応じる。 さわさわとはずれのおと。放たれる瘴気を本能敵に避けたのか、辺りに生き物の気配はない。 どうでもいいことだ。 懐から針を出し、刀身と柄を分解する。 「光よ!」 吼えて地をける。魔族の一つしかない目が大きく見開かれる。 刃が届く寸前、空間を渡って攻撃を回避したのだろう、背後へと出現した気配に返す刀で斬りつける。 ガッ! 腕に衝撃を感じ大きく後ろに跳び間合いをとる。 痛みはなかった。ただ、自分の右手がまるで置物のようにぼとりと地に落ちる音を聞いた。 一瞬の間をおいて、斬られたのを思い出したのか慌てて傷口が鮮血をあふれさせる。 「ほう、この状態で笑っているとは。我に敵わぬことをやっと悟っての諦めの笑みか」 そうだな、何故なんだろう。 獲物の光の剣は、切り落とされた右手がしっかりと握ったままなのに。このままでは間違いなく、出血多量で死を迎えるというのに。 ・・・・・嬉シイ。 何が? ・・・・・良カッタ、オレハ、マダ・・・ ・・・生きている。 ああ・・・そうだ、まだ、オレから流れる血は熱い。もうとっくに・・・何もかも、冷え切ってしまっているのに、血だけは、馬鹿みたいに熱い。 だが、それがどうした?それだけで、わけもなく安心するなんて。 血が・・・・熱い 「止血をしても無駄なことだ。人間風情が過ぎたおもちゃを持つものではない。だが・・・せっかく面白いものを見せてくれたのだから、・・・そうだな、とどめはお前の剣で刺してやるとしよう」 懐に常に常備している布で傷口を縛っているオレに、少々不快感を表して喋りかける魔族。 長いいびつな腕が、オレの右手から光の剣をもぎ取り輝く刃を生み出す。 「腕を切り落とされても悲鳴一つ上げないというのは大したものだが、それもいつまで続くかな?」 くっくっく・・・とどこにあるかも分からない喉を震わせる。 「よく喋る奴だな」 「何?」 「あんただよ、あんた。さっきから1人でべらべらと。挙句の果てには何がおかしいんだか1人で勝手に笑い出すしよ。魔族ってぇのは皆独り言が好きなのか?」 「な・・・・んだとっ?」 .. 「はっきり認めたらどうだよ、オレが怖いってな。おそらく初めてなんじゃないか?傷つけた奴に苦痛どころか喜びの感情を浴びせられたのは。今までは全員、あんたを恐れ、与えられる苦痛に悲鳴を上げ、思い通りに死んでいってくれてたんだろう」 「人間というのは、骨の髄まで愚かな生き物のようだな」 目をすっと細目ふん、と鼻で笑って見せる魔族。図星を刺されたことのごまかしか、単に余裕を見せただけか。 だがオレは取り合わない。今だ止まらない血と反対に胸のどこかが凍り付いていて、その冷たさが自分の頭をひどく冴えさせていた。 「ついでだ、オレのお喋りにもちょっと付き合わないか?」 「下等生物の声に耳を傾ける義理はない」 「まぁそう言うなって。その光の剣のことなんだが、そいつにはちょっとした言い伝えがあってな。・・・まあ、伝説の武器にはよくつきもんの、“持ち主を選ぶ”っていうやつさ」 「言い伝えがあてにならんことを実証できたな」 なんだかんだと言いつつオレの話に乗ってくる。目は相変わらず人を見下しているところから、どうせ死ぬのだからせいぜい言いたいことを吐き出すことだなという態度がありありとうかがえる。分かりやすい奴だ。 「ところがそうでもなくてな。なんせオレは、一応ちゃんと試練を受けてそいつを継承したんだから。上の2人が失格してね」 「ほう」 気のない返事を返しつつ手の中で光の剣を弄ぶ魔族には、その試練を乗り越えることは出来ない。 この剣を使えるのは、ガブリエフ家の名を継げる者は、いつの時代も1人しか存在しないのだ。 「馬鹿馬鹿しい試練さ。たった一言、前継承者が発するだけ。それで、オレがそいつを持つことになっちまった」 そう、たった一言の親父の声で、証明された。オレが化け物だということ。兄弟の中でただ1人、異様だったということ。 「そのようだな、お前が持つことになったところを見ると。人間というのは、お祭りが好きな種族だ。・・・・さて、そろそろ話すのも飽きた。いいかげんその口から悲鳴を奏でて欲しいのだが」 「じゃ最後に。そのお祭り好きの性格から、光の剣最後の継承者として、次のものに引き継がせるその『言葉』を言わせてくれ」 魔族はオレの言葉に面白がって声を上げる。 「ほぉう!?魔族である我に、光の剣を継承させようというのか!」 しょせんは同じだ、こいつも。普通に斬られて逝った奴らと何らかわりばえはしない。オレの手を切り落としてくれたのだから、それなりに手応えがあってもいいんじゃないか? どうでもいい、その仲間か、お前も。 恐怖でも苦痛でも怒りでも悲しみでも構わない。この凍りついた心を溶かしてくれる感情を誰かに与えて欲しいのに。 「ああ、構わないぜ。人であろーとなかろーと、善人だろうと悪人だろうと。代々続けられてきた試練を乗り切ることが出来た者、そいつがその剣を持てる」 「気に入ったよ、人間。お前は相当な変わり種だ。見逃してやらんでもないが、そうするとこちらとしてもセオリーに反する。せめて苦しまぬよう一思いに殺してやることにしよう」 そりゃどーも、と呟いた返事は魔族に届いたのかどうか。 「光の剣をしっかり握って・・・そう、落としたりするなよ。本当にあほらしいとは思うが、これのほかにオレのやることないんで、数秒間付き合ってくれ。では問おう。汝は光の剣を持つ気があるか?」 「無論」 笑いながら答える。完全に遊びのつもりなのだろう。 「それに伴っての業を背負う覚悟はあるか?」 「口先だけならば」 魔族の答えに神妙そうにつくろっていたオレの顔も思わず緩む。形式上の受け答えだ、口先だけで「はい」と言っても良いものを。 「では試そう。汝が光の剣にふさわしい器の持ち主か否か」 いったん言葉を切り、唇を濡らす。 「喰らい尽くせ!ゴルンノヴァ!!」 何かを叫ぼうとしたのだろうか。魔族の口と目が大きく開いてオレを見つめ・・・そして消えていく。 ざあっ・・・・・と、虚空に散る黒い塵。 からん、と地に落ちた光の剣を腰に収め、妙な弾力のある自分の右手を拾い上げる。 「・・・やれやれ、また見事にやってくれたもんだな。近くに大きな街があるから ちゃんとくっつくだろうが・・・おかげで今回の依頼料がパアじゃないか」 すでに跡形もなく消滅した魔族のいた場所を振り返る。 「残念だったな、光の剣を継承できなくて。オレはちゃんと言ったぜ。“試練”だってな」 街への道を早足に歩き出す。手を治してもらうのは、なるべく早い方が良い。 「この剣は、どうしてオレを選んだんだろうな」 目の前で兄達の精神を食らい尽くし、死人同様に追いやったごたいそうな家宝。この剣そのものが魔族と知ったのは試練と称した契約の時。 代々続けられてきた悪夢を、オレはこれ以上続けたくはない。オレで終わりでいいのだ、こんな思いをする者は。 契約を交わしているとはいえ、よくもこんな人食い剣と生活しているものだ。我ながら時々ぞっとする。 だがそれは、本当にオレがただの継承者だったからか?・・・・たまに、剣の声が聞こえるような気がするのは、オレの気のせいなのだろうか。 **************
人とはつくづく勝手なものだ。光の剣が手にあることに今は感謝している。これがなかったら、到底あいつを守ってやれない。 「ねぇ、光の剣研究するからちょっと貸して(はぁと)」 「持ち逃げするからだめだ!」 命令しないと喰わないとはいえ、それでも不用意に触らせたくない。 「ガウリイ、本当にいいの?光の剣シーリウスに返しちゃって。あんたの家宝でしょ」 「ま、元々あっちの世界のもんだし」 未練はないさ。そりゃ、お前との旅に対魔族用の武器が欠かせないことは重々承知してるが・・・。 子供が欲しいかもなんて、考えている最近は特に、あの馬鹿馬鹿しい儀式をやりたくなくて。第一あんな試練、母親が許しちゃおかないだろうしな。・・・・・なあ、リナ? **************
「オレはガウリイ。見ての通り旅の傭兵だ」 「あたしはリナ。ただの旅人よ」 あの少年の日から心を覆っていた氷の層は、確実にこの時から溶け始めた。 そう、全ては、この日から・・・・・・ **************
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