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赤き神の密かな楽しみ

作:三里 桜架さん♪



「リナ」
ぎぐっ!!!
はたから見てもはっきりと分かるくらい、リナの背中は驚いていた。
ぎぎぎぎぎ
そんな音が聞こえてくるような雰囲気の中、リナはこっちを振り向く。
「ね、姉ちゃん……」
「たまに帰ってきたからって、何も今まで留守にしてた分を取り返す勢いで、面倒事を作らなくってもいいんだよ?」
呆れつつ、本っ当に心底呆れつつ、あたしはリナに告げた。
「い、いや姉ちゃん……。こっ、こっ、これには、その……」
顔を引きつらせ、力いっぱいうろたえるリナの後ろには、散乱したうちの店の商品。
そしてその中心で地面に上半身をめり込ませているのは、リナが連れて来た美形の金髪の剣士、ガウリイ=ガブリエフとかいう男(注:今は紹介された時の面影なし)。
「あ、あの、そそその……。ガウリイが姉ちゃんのことを八百屋か魚屋の売り子……じゃなくて、姉ちゃんと胸を比べられて……」
あれこれと弁解している妹の声を遮り、にっこりと一言。
「そこ、片付けたら居間にいらっしゃい。……途中で逃げ出したら……わかってるわね?」
首振り人形よろしく縦に首を振り、顔面蒼白のリナの後ろで、いつのまにか復活していたガウリイさんが、
「やっぱりリナより胸が大きい、八百屋の姉ちゃんだよな……」
ぽそり、そんな言葉が聞こえてきた。
「?! ガアァァァァウリイ、あんた……」
顔面蒼白で首振り人形だったリナが、ガウリイさんのその一言で怒りの鉄拳を繰り出そうとした。
直前。
「ガウリイさん」
にっこり私は、ガウリイさんに告げる。
「リナが片付け終わるまで、向こうの方で剣の相手してくれませんか?」
私のことを八百屋の姉ちゃん呼ばわりした報い、それなりに受けてもらわなくてはね。
例え胸が大きいといわれても、比べられた相手がリナじゃあ、誉めている事にはならないし。
「えっ? 剣の相手ですか?」
「駄目かしら?」
「いや、別にいいですけど」
リナをその場に残し、ガウリイさんを連れだって裏庭の方へと向かう。
後ろのリナは、さっきとは一転、ガウリイさんに向かって冥福の祈りを捧げていた……。


「剣はどうすんですか?」
ガウリイさんが聞いてくる。
「貴方はそれでいいわ。私はこれを使わせてもらいます」
途中、自分の部屋から持ってきた剣を取り出す。
昔、リナが見つけたといってくれた魔力剣。
今彼が持っている剣と、ランクは一緒だろう。
「手加減、しないで下さいね」
「……いやぁ、どっちかっていうとその台詞は俺の方じゃないんすか?」
「……あら」
いつ分かったのかしら。
いつも以上に気は押さえてあるのに……。
顔に出たのか、その答えらしき返事が返ってきた。
「リナと一緒にいると、いろんな奴らと会いますんでね。それで鍛えたカンですよ」
そう言って油断なく剣を構える。
隙のない、実戦で鍛えられた姿。
その姿で分かる。人間でもトップクラス、超一流と呼ばれる存在。
「それじゃぁ、遠慮なく」
そう言って、私とガウリイさんの手合わせが始まった……。

―――20分後―――
「はぁっはぁっはぁっ! ……すっすごいっ、ですね……っ」
息を切らせ、地面に膝を付いた彼が感想を述べた。
「あら。ガウリイさんも大した物ですよ」
対する私の方は、いつも通り……いや、多少乱れた髪をなおしつつ返事をする。
でも、本当にたいした物だった。正直私も、まさかここまで彼が出来るとは思わなかった。
「さっ、さすが、リナが敵わないって、言っているだけ、あります、ね……」
まだ多少、息を切らせつつガウリイさんは語る。
「ありがとうございます。じゃあ誉めていただいたお礼に、気が付いた事を指摘してあげましょうか?」
親切ぶって言ってみると、「技のアドバイス、ですか? ぜひ頼みます」と言う返事が返ってきた。
ふっふっふ……引っかかったな……。
「じゃあ、言わせてもらいますが。リナは恋愛音痴ですから、ちゃんと行動と言葉、二つを織り交ぜていかないと、あの子に貴方の恋愛感情は認めてもらえませんよ」
「……へっ?」
予定外の、予想外の言葉に、彼の顔はなんとも間抜けな顔になる。
悪乗りして、もうちょっと♪
「だ・か・ら! リナと恋愛したいんなら、もっと積極的にならないといつまで経ってもお子様の関係ですよ! なんせあの子の恋愛音痴は筋金入りですから、押し倒して一気に!ぐらいがちょうどいいんじゃないんですか?」
我ながら、何と言う事を進めてるんだか。
でもまぁ、夕べ2人で話した様子じゃリナもガウリイさんの事、結構いい感じに思っているみたいだし。
姉としては、妹に幸せになってもらいたいし。
第一、(リナが彼を好きという前提で)からかって混ぜっ返したら面白そうだし♪
なんとも当人達にとっては、はなはだ迷惑な事を私は考えていた……。

「リナ、ガウリイさんのこと、どう思ってるの?」
夜、リナがガウリイさんを連れて帰ってきたその夜。
久しぶりのリナの帰郷に、大宴会よろしく騒ぎまくったうちの両親達と、いつのまにか上がり込んできたスポットやご近所の皆様達が加わり、我が家はものすごい状況と化していた。
それでも一通りの騒ぎは収まり、みんなが寝静まった頃、リナが台所に来たのである。
私は一人、寝酒と称して果実酒を飲んでいた所だった。
「どうって……脳みそスライム」
「そうじゃなくって……」
妹らしい答え方に、変わっていないとホッとしたのか、呆れたのか。
自分でも分からない感情と、妹の態度にくすくすと笑出してしまった。
リナが自分で新しいコップを取り出したので、それに果実酒を満たし、質問の意味の補足をした。
「彼に対する的確な評価じゃなくって、うーん……なんて言うのかなー……。彼は、リナにとってどんな存在なのか。一緒に……ましてや長く旅を続ける相手に対して、何の理由も想いも持っていないはずはないと思うのだけど?」
「理由は……あるわよ。ガウリイに新しい魔力剣を見つけてあげるって理由が……」
「でも、その魔力剣はもう見つけてしまった……。しかも、随分と前に」
理由としてあげたリナの答えに、すかさず今の状況には当てはまらない事を指摘する。
「うっ……。た、確かに魔力剣は見つかったけど、それはほら……前彼が持ってた魔力剣とはレベルが違うから、同等の物を見つけるまでは……」
しどろもどろの言葉。
リナは気がついているのだろうか?
彼と一緒に旅するために、あえて「旅する理由」をわざわざ作っている事に。
「じゃあ、想いは? リナは彼の事をどう思っているの?」
次の質問に、つかの間考えたリナは、こう返してきた。
「あいつ、あたしの保護者って言ってる割に、絶対にあたしがいないと生活していけないんじゃない? って位記憶力ナシでしょ? もう、駄目な父親持った娘の心境よ。かえって別れて旅してると、ちゃんと生きてるのかって心配しちゃうから……」
確かに、リナの言い分に大きく納得してしまう位、彼、ガウリイさんは知識・記憶力の方に問題有りだ。
でも。
「それでも彼は、リナと出会う前までは一人で旅を続けてこれたわ。彼は彼なりにこれからも旅ができる。それにリナは、もう保護者の必要な年でもない。最初出会った頃は違うとしても」
反って、『保護者と被保護者』という関係は、今のリナたちには不自然に映る。
容姿を見れば、血縁関係ではないのは一目瞭然。
そして昔と今で決定的に違うのは、……互いの年齢。
前はそれでも、リナが幼かったから問題はなかっただろうが、今は成長しきった妙齢の女。
そして、……男。
いくら本人が否定しても、周りはそう見てくれない。
ましてや、本人同士が微妙な感情を隠し持っていれば。
そんな二人を周りはごく自然に『恋人同士』として見るだろう。
実際私たち家族は、恋人同士だと信じきっていた。
ご近所の方々が乱入した理由も、『あのリナちゃんに男あり!』の噂を聞きつけたためだ。
まあ、スポットは、喧嘩を吹っかけるようにガウリイさんをからかい、リナをけなしていただけだが……。
それは横に置いておくとして、必死に否定していたリナを目の当たりにしても、それはどちらかといえば『否定すればするほど墓穴を掘る』という泥沼状態だった。
当然ご近所の皆様は信じなかったが、最後は魔力光片手の説明で納得してくれたらしい。
スポットは……隅で焦げていたが。
「リナ、私が知りたいのは、そうやって理由を付けてまで旅するリナの気持ちが知りたいの」
「だ、だからそれは……」
さっき言ったのが理由だ、そう言いたそうなリナの言葉を遮り、私はしゃべりつづける。
「いい? 親子をするにも、兄弟をするにも、それなりの理由があると私は思うの。血の繋がり、だけじゃなくってね。一緒に暮らしていくうちに培ってきた絆の方が、血の繋がりより数倍大切で、だからこそ『家族』をしていけると思う。それにその親・兄弟が嫌なら、とっとと家飛び出して、縁を切っちゃえば良いんだから」
一口、果実酒で咽と唇を湿らせ、先を続ける。
「赤の他人じゃ、なお更よ。打算、損得もあるかもしれないけれど、それだけで旅してるんなら、よっぽどの事がない限り、自分の実家にそいつを連れて帰ってくるなんて事、しないんじゃない?」
そして、今話題にしているのはリナなのだ。
嫌なら呪文の一つでも食らわして、逃げればいい。
同等の剣が見つからなくても、早々伝説クラスの魔力剣なんてものは見つからないのだから、今ある剣で納得してもらって別れてしまえばよい。
それをしない、あえて理由を見つけて旅をする、リナの気持ち。
本当の気持ちが知りたくて、なおも問い詰める私。
「本当は、簡単なのよ? 理由なんて。『気が合うから』それだけで十分だと思わない?」
「そ、それは……」
「あえてそう言わない、リナの気持ちが、私は知りたいの」
私に見つめられ、迷うように視線を手もとのグラスに落とすリナ。
しばらくそうしていたが、迷いを吹っ切るために果実酒を飲み干し、私を見返す。
「あのね、姉ちゃん。あたし、ガウリイの事・・・・・・」


「……汚したくないんですよ、アイツを」
しばらく経って唐突に、ガウリイさんが話した。
「あいつを大切にしたいんです。汚れていないアイツのままで、いて欲しいんです」
息を完全に整え地面に座り込んだまま、ガウリイさんが心の内を話す。
「大切で、守りたいから……だから、俺……」
地面を見つめたまま、悲しそうに、辛そうに語る。
「……手を、出さないんですか?」
こっくり、静かに頷く彼。
「俺からも、守ってやりたい……」
それが、彼が今まで見守ってきた理由。リナに対する彼の気持ち。
でも……。
「……どうしてですか? そんなに忌み嫌う事なんですか? 女が男を知るのは」
私はガウリイさんじゃないから、ガウリイさんの気持ちを全部理解したつもりはないけれど。
「人が人として生まれてきたのなら、それは自然な事なんじゃないんですか? 確かにまだ、幼すぎる子供が相手じゃ問題ですけど、リナはもう分別がつく年です。ちゃんと自分で考えられ、自分の行動に責任を持てるくらい精神も成長しました。ただ変わる事を恐れ、今のまま守り続ける事が、本当の愛情なんですか?」
恋愛は、愛情はひとつだけじゃない。
私が言った事が正しいというわけじゃない。
でも言わずにいられなかった。
ガウリイさんは、そんな私の意見にうっすらと寂しく笑って返答してきた。
「ルナさんは、俺が今までどんな事をしてきたのか、知らないから……。リナを好きな気持ちは、誰にも負けない。でも、汚したくもない。俺がリナを手に入れて、それでリナを汚してしまうなら……、俺は我慢する。……俺は汚れきってるから、そんな俺からも守ってやりたい……」
私は静かに、彼の元へと歩み寄った。
そして……。
ぐさっっっっ!!!
自分の頭頭より上に持ち上げた剣を、ガウリイさんの顔面前、鼻先に落としてやった。
落ちた剣先は、彼の股の間にのぞいた地面に突き刺さっている。
「なっっ?!! あっ危ないじゃないっすかぁぁぁっ!!!!!」
完っ全に度肝を抜かれ、顔を引き攣らせつつ叫ぶ彼。
だけどそんな事、知ったこっちゃない。
「なぁぁぁにが、『俺は汚れてる』よ! リナだってね、旅の魔道士なんてことやってたんだから、それなりに『自分は汚れてる』って思う様な経験をしてるわよ! でもね、そんな経験をしたから、今のリナがいるんじゃない! どんな嫌な、目を背けたくなるような経験をしても、そのどれもがただ一つでも抜けてれば、それは『今いる自分』にはならないのよ!」
反対に言えば、今いる自分になる為には、そんな経験をしなくちゃならないとい事。
過去の嫌な経験を否定するということは、今いる自分を、今いる相手を否定する事。
そして、人を好きになると言う事は……。
「そんな『今いる』相手を好きになるって事は、そんな過去の事も全部ひっくるめて好きになるって事なのよ!」
それが私の恋愛論。私が考えた愛情に対する結論。
「……ってまぁ、そんな私の考えを、ガウリイさんに押しつけるつもりはないですけど」
最後の最後にちょっと付け足す。
勢いに固まったままのガウリイさんの股の間から、突き刺さった剣を抜き取り、実に軽く言い放つ。
「間違わないで下さいね。ガウリイさんを受入れるかどうかは、リナ次第なんですから。貴方ではなく、リナが判断して決める事なんですから」
剣を鞘に収め、手を差し出して彼を地面から引き上げる。
「私の意見も今後の参考にして、後はガウリイさんがよぉっく考えて下さい」
そしてそのまま、彼を置いてすたすたと立ち去る。
「あっ、そうそう」
家へ入るドアの入り口の前で立ち止まって、もう一言付け足す。
「リナ、あれで結構もてますよ。分かってるとおもいますけど。トンビに油揚げ、なーんて事にならないといいですね。私はリナが幸せなら、別にガウリイさんじゃなくてもいいんですけど」
他人事みたいに(実際他人事だが)無責任に発言し、不安だけ煽って本当に今度こそ立ち去る。
これで『八百屋の〜』という発言の仕置きは完了♪


「あれ? 姉ちゃん、ガウリイは?」
散乱させた商品の片づけを終わらせたリナが居間に来た頃、私は一人香茶を飲んでいた。
「リナ、遅いわよ。……ガウリイさんはさっき、客間の方に戻っていったわ」
そう。彼は私が戻ってしばらく後に、何だか少し気落ちしながら(笑)、泊まっている客間の方へと戻っていった。
「ふーん、そう。……で姉ちゃん、ガウリイの腕はどうだった?」
「なかなかの剣の技術ね。しかも実践で鍛えてあるから戦闘のセンスも素晴らしい物があるわ。」
なかにはいるのだ。技術は素晴らしいが、実戦経験が無いために試合じゃないと駄目な奴とか。
ルールがないと勝てない。そんな人間は、決して命のやり取りは出来ない。
「……その他には、何をやったの?」
彼を連れ出した理由を察していたリナは、恐る恐ると聞いてきた。
「別に。……どうして?」
ガウリイさんが部屋に戻ったということが、私がガウリイさんに何かやったとリナに確信させているらしい。
私の前の椅子に座りながら、なおもしつこく聞きにくる。
「姉ちゃんがガウリイの発言に対して怒ったのは分かってる。姉ちゃんを怒らせたガウリイが悪いんだもの。だから……そのお仕置きとして、姉ちゃん、何をしたの?」
昨日の会話の内容が、頭の中でちらついているらしく、不安の眼差しでこちらを見つめてくる。
よほど自分の気持ちが知られるのは善しとしないらしい。
いや、自分以外の人が、自分の気持ちを彼に伝えるのが嫌なのか……。
どちらにしろ、私はリナの気持ちを知ってしまった人間だ。
リナが警戒するのは、当然の事なのだろう。
だから、言う。
安心させるために。
「大丈夫よ。昨日の話は、何も言ってないから。リナの気持ちは、一切伝えてないわ」
「……本当に?」
「本当に。それとも何? この私の言う事が、信じられないって言うの?」
ちょっと脅しまがいの言葉を言うと、リナは「滅相もない!!!」と言い、そのまま居間を逃げ出した。
そう、私はリナの気持ちを何一つ彼に教えていない。
ただ……、彼のリナに対する気持ちを煽っただけで。
後は彼が考え、リナが答えを出すだけだ。
そして私は……高みの見物と洒落込むだけ!
何せ田舎は、娯楽が少なくってねぇ♪

追記。
リナには改めて今晩の夕食作りを命じ、それを商品を散乱させた罰とする。


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