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赤き神の願い

作:三里 桜架さん♪



穏やかな天気。長閑な午後。
一人優雅に『午後のティータイム』を居間で満喫していた。
あぁ、心休まるひととき♪
香茶を飲みつつ、夕方からのバイトまで、ここで読みかけの本でも読んでいようかしら……。
などと計画を立てていると、朝から魔道士協会に呼び出されていた妹が帰ってきた。
そして真っ直ぐに居間に入ってくる。
「姉ちゃん、ただいまぁ〜……」
元気のない声。
おやっ? っと思ったが、そのまま問わずに「お帰り」と返事を返す。
「姉ちゃ〜ん、これ見てよぉ」
なんとも情けない声で、リナが私を呼ぶ。
一体何事? と思いつつ、そのまま香茶を手に持ち振り返ると……。
「んげっっ!! 何そのどっピンクッッ!!」
両手に広げた真っピンクのローブ!!
しかも明るいピンクだから、何処までも目に眩しい事といったら!!
事態を飲み込めず、目を点にして軽い金縛り状態になっていた私に、ローブを抱えてげんなりとしたリナの顔が見える。
「どーしたの、それ?」
手にしたティーカップをテーブルに置き、指を差しつつ質問してみると、返ってきた返事にまた驚く。
「魔道士協会から、この色の称号もらった……」
心底嫌そうに(実際物凄く嫌なのだろう)それを持って帰ってきた理由を述べる。
「色の称号って……」
ある程度の実績を収めた魔道士に、協会から勲章のように色を授かる事があるのは知ってるけど……。
「『桃色(ピンク)のリナ』!!! あんたはふーぞくか?!!」
リナには悪いけど、指差して笑っちゃうわよ!!!
「姉ちゃん……。お願ひだから、慰めて……」
泣きにはいった妹を見て、ちょっと笑いすぎたかなーと多少反省。
「だ、だけど、良かったじゃい。色は…………まぁ何だけど、あんたの実力が認められたって事なんだから!」
「そ、そうだよね! 実力が認められたから色をもらったんだよね! …………ピンクだけど」
……………………。
「あー、えーっと……。……香茶、飲む?」
「う、うん。飲む」
台所からリナの分のティーカップを持ってきて、私とリナのそれぞれのカップに注ぎ足す。
しばしの静寂。
聞こえてくるのは鳥の鳴き声と、遠くから伝わってくる人の声。
一杯の香茶とその静けさに、お互い心の落ち着きを取り戻した。
「リナ。本当のところ、色はどうであれ、称号をもらった今の気持ちはどうなの?」
さっきリナに言った通り、称号をもらうということは、その人の実績を認められたということだ。
その称号をもらった、幼いこの妹はこれからどうするのか。
「うん……。もう誰かに付いて教えてもらうって事もないし……、どうせ、姉ちゃんは何も教えてくれないだろうし。今まで通り、術の研究してこうと思う」
随分前から、リナは1人で術の研究をしていた。
自分の部屋で魔道書を読み、町外れの森で実験の繰り返し。
だけど、その言葉を聞いて私は決心した。
「リナ、本当に強くなりたいんなら、世界を見てきなさい」
リナを、妹を手元から放つ言葉。
前から考えていた。
このままここにいるのは楽かもしれないけれど、ただ守られて暮らすより、私はリナに1人でも生きて行ける位の強さを持って欲しかった。
私は今度こそ、リナと姉妹として生きていきたかったのだから……。

遥か昔、私だったモノの記憶が、それを切に望ませていた……。


「……シャブラニグドゥ。次回会うときが……我と主の最後としたいものだ……」
静かに、ただ静かに、私はそう告げた。
この世界を守るために。
この戦いを終わらせるために。
……そして、この想いを終わらせるために……。
「……あぁ。そう願いたいものだ」
そう告げる相手、赤眼の魔王・シャブラニグドゥのなかにも、私と同じような心があると信じている。
この世界を守るために。
この戦いを終わらせるために。
……そして、この想いを終わらせるために。
たとえ最後に描く、その景色は違うとしても。
お互いに疲労しきった身体を庇いつつ、その場を後にした……。

「ふうっ……」
誰もいない部屋で、一人椅子に座り一時の休息に身を任せる。
そして、思いを馳せる。
光と影。相反する思い。
私の目指すのは、命ある景色。この世界の存続。変わりゆく光ある明日。
それが世界の在るべき姿だと信じて。
彼の者が目指すのは、静寂なる景色。母なる海への帰還。平等なる滅び。
それが世界の正しき在り方だと信じて。
先に見えるものは違うけれど、私達は『同類』だ。
互いにこの世界の為にという想いは同じ。
そして、互いに同じ母から生まれ、母の為におこなっている気持ちも……。
(次で、終わらせる……)
その決意は、自らの手で兄弟を滅ぼす決意でもあった。

それから、幾年月……。


「姉ちゃん、じゃあ行ってくるね」
青く晴れ渡った朝、町外れまで来ると、妹は言った。
声にはこれからの期待が、溢れんばかりに滲んでいる。
「いい? 判ってると思うけど、この私に泥を塗るような事したら、ただじゃ済まないからね。例え何処にいようと、見つけだしてお仕置きだから」
門出の祝いの言葉に、何故かリナは真っ青になりながら何度も頷き返した。
どうした事か、さっきのウキウキした雰囲気は何故か無くなっている。(笑)
それはさて置き、事前に用意した、餞別代りの小さな手鏡を渡す。
「?」
「持っていきなさい。お守り代わりよ」
優しくそう言うと、リナはにっこりと、本当に嬉しそうにそれを握り締めた。
「ありがと、姉ちゃん!!」
懐に仕舞い、「行ってきます!!」と元気良く言い放つと、リナは一人旅立つため、その第一歩を踏み出した。
元気良く歩き、時々振り返ってこちらに手を振る幼い妹の姿を、見えなくなるまで私はその場に佇み見送っていた。
そして、想う。
遥か昔、私だったモノが七つに引き裂いたモノ。
時代を経て、眠り続けているとはいえ、私は彼の者がそこにいるのを知ってしまった。
例え七分の一であっても、彼の者である事には変わり無い。
また再び出会ってしまったけれど、今は願っている。
あの時みたいな事は、再び繰り返したくはない。
例え、母なるあの方の定めた宿命だとしても、繰り返したくはない。
姉妹として、今度こそ一緒に生きたい。
隣にはいなくても、同じ時代を、姉妹として……家族として……。
『己の闇に、負けるんじゃないわよ。あんたは私の妹なんだから。ずぅっと、ね……』
見えなくなってしまった妹の姿に心の中で語りかけた後、私も家に戻るため、歩き出した。
いつもの……だけど妹が隣にいない、日常を始めるために……。


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