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ちゅどーんっ……。 遠くで爆発音がしたような気がして、俺は目が覚めた。 外は暗い。まだ真夜中のようだ。 気のせいか、とも思ったが眼が冴えてしまった。 窓から外を見る。 ……と、ある方角の山が赤く輝いていた。 よくよく見ると、所々で火柱が上がるのが分かった。 「……リナか……」 その原因に思い至り、俺は思わず頭を押さえた。 あの女魔道士は強大な魔力を秘めている。 自分でよく「天才美少女魔道士」と言っているが、あながち誇称でもないだろう。 まぁ、美少女云々の部分は無視して、の話だが。 ともかく、それだけの力を持ちながら、あいつはろくな事にその力を使おうとしない。 今回の騒ぎも、「悪人を成敗するだけよっ!」と言いながらも趣味半分利益半分で行っている「盗賊いぢめ」だろう。 全くよくやるものだ。俺には付いていけん。 「……寝るか」 俺はベッドに潜り、30分後には…………眠っていなかった。 「おはようございますっ!」 いつも元気なアメリアの声が響く。 「……おはよう」 我ながら暗いと思う声でアメリアに答えた。 ……結局、あれから一睡もできなかった。 何かのきっかけで眠れなくなるなんてことはよくある事だが……。 今ごろになって非常に眠い。これはリナのせいだ……後で覚えていろ……。 「ゼルガディスさん?」 心配そうに俺の顔をのぞき込むアメリア。 「いや、何でもない」 「具合がよろしくないんですか?」 そう言うと、彼女は俺の額に手を当ててきた。 アメリアの柔らかい手が俺に触れる。 「……!!」 慌てた俺は、思わず彼女の手を振り払ってしまった。 一瞬傷ついたような瞳をするアメリア。 (しまった……) 俺は後悔する……が、口には出せない。 一度タイミングを失うと、今更何を言えばいいのかわからなくなるのだ。 気まずい空気が流れようとしたその時、ガウリイの旦那が現れた。 ほっ……助かった。 「おはよう」 のんきな声でガウリイが言う。 全くこの男は、いつもほえほえしていて、何を考えているのかさっぱりわからん。 ……いや、実際何も考えていないのだろうか……。 「おはようございます!」 明るい声でアメリアが答える。……どうやら、うまく誤魔化されてくれたようだ。 「リナ、遅いな」 きょろきょろと当たりを見回しながらガウリイが言う。 そういえば……たしかにリナはまだここへ来ていないな。 やはり昨夜の件でまだ朝寝をしているのだろうか。 自分一人でいい調子だ。 ……ったく、何で俺一人でこんな目に遭わなくてはいけないんだ! 「おっはっよぉ〜っ!!!」 無意味なまでに明るい声で、リナが叫んだ。 よほど収穫が良かったのか?……あとで部屋に忍び込んで宝を奪ってやろうかと、ふと思う。 ……そんな事をしたら、半殺しくらいではすまないかもしれないので、決して実行できないが。 「ああ、おはよう」 「おはようございますっ」 次々とリナに返事を返す一同。……だが、俺は返事なんかしてやりたくなかった。 誰のせいで寝不足になったと思っている! 「……」 無言でリナを睨み付ける俺にリナがつかつかと近寄ってくる。 ……何だ?昨日の詫びを入れるつもりか?…………いや、こいつに限ってそんな事はないか。 と、その時。 「……な〜にシケた顔してるかなぁ〜?」 「うわっ!」 声と共に背中に強い衝撃を受け、俺はテーブルと必要以上に仲良くなる羽目に陥った。 ぐさっ。 硬化した髪の毛がテーブルに突き刺ささる音が俺の身体中にまで響く。 ……こ、こいつは……。 ふるふると身体を震わせながら身体を起こすと、ぶちぶちっと嫌な音がする。 針金のような十数本の髪の毛は、直立したままテーブルに突き刺さっていた。 ……俺の髪は、簡単に生え変わるものではないんだぞ!!!! 俺は思わず冥懐屍(ゴズ・ヴ・ロー)の呪文を唱えそうになり、慌てて中断した。 そんな事をすればリナと同レベルまで堕ちることになってしまうし、なにより冥懐屍ごときで心臓に鋼鉄の毛が生えているあいつに効くとはとうてい思えなかった。 「リナさんっ!何てことするんですかっ!」 アメリアがリナに文句を言っている。ガウリイの旦那は……物珍しそうにこっちを見ているだけだ。 まったく、リナがリナなら、旦那も旦那だ。人の事を何だと思っているんだ。少しはアメリアを見習え。 「ごめん、ごめん。だ〜ってゼルがあんまり暗いから」 全然反省の色の無い笑顔でリナが言う。……本当に一度ぶっ飛ばしてやったほうがいいかもしれない。 「おばちゃーんっ!!!モーニングAセット10人前っ!あとBセット5人前もよろしくっ!!!」 「あ、俺も同じのを頼む!」 「私はCセット3人前をお願いしますっ!」 皆が次々に料理を注文していく。 「……」 俺としては、昨晩の盗賊いぢめでかなりの収入があったであろうリナのおごりでフルコースでも注文してやりたい気分ではあったが、いかんせん睡魔が強烈で、食事どころではない。 「ほらゼル、あんた何頼むの」 リナが俺に聞いてくる。 『ドラゴン料理のフルコース!!』とでも言ってやりたかったが、今の調子では無理だ。 「コーヒーだけでいい……」 とりあえず眠気だけでも何とかしない事には、今日の旅は辛いものになるだろう。 「えぇっ!ゼルガディスさん、ちゃんと朝御飯食べないと身体によくないですよぉ?」 とたんにアメリアが不安そうな声で言ってくる。……健気な娘だ。これであの正義オタクでさえなければ、なおいいのだが……。 「そうよ、ゼル。朝御飯ちゃんと食べないと、身体がもたないわよ?」 リナもそう言ってくる。 ……しかし、アメリアと同じような事を言っている割には、ちっとも心配そうに聞こえないのは何故だ?俺がリナに腹を立てているからではないだろう……ない筈だ。 じーっと4つの目が俺に向かっているのを感じ、俺は落ち着かなくなった。 えい、くそっ!2人して俺の顔を覗き込むのは止めてくれ! 「……ったく、誰のせいだと……」 どうせ言っても分かりはしないと思いつつ、俺は小声で呟いた。 「お待ちどう様ぁっ!!」 しばらくして、注文した料理が届いた。 持ってきたのは、いかつい顔をした中年の男。やけに可愛らしいひよこエプロンなんかをつけているあたり、まともな神経の持ち主とは思えない。 少しは驚いたがそんな事で眠気が薄れる訳もなく、俺はコーヒーカップに手を伸ばした。 『いっただっきま〜すっ!!!』 他のやつらの能天気な声が響く。……畜生、俺だってまともな朝飯が食いたいぞ!!!! そして、再度襲ってきた眠気に思わず目を細め、慌てて目を開けた時。 俺は、薄暗い建物の中にいた。 つい先程まで宿の食堂にいた筈だったのだが……。 それに、この建物には見覚えがあった。 ある男の下で働いていたときのアジトだ。 合成獣と化した、呪われし場所。 二度と思い出したくなどなかったのに。 その時、俺の目の前に影が現れた。 1つは、邪妖精(ブロウ・デーモン)。 1つは、オーガ。 そして……俺の身体をこんな風にした張本人、赤法師レゾ。奴がそこにいた……。 あいつは既に死んでいる、筈だった。 が、現に俺の目の前にいる奴は紛れもなく本人だ。ずっと奴に利用されていた俺には分かる。 コピーかもしれないとかなんとかいう考えは俺の頭から消え去っていた。 ただ、俺をこんな身体にしたあいつに復讐せずにはいられなかったのだ。 口の中で呪文を唱える。 「氷の矢(フリーズ・アロー)!!!」 その‘力ある言葉’に導かれ、数多くの氷の刃が奴らを襲っていった。 ……が、奴らは氷の刃を簡単に避けてしまった。 レゾが、俺に向かってなにやら叫んでいるようだが、その言葉は俺には届かなかった。 許すものか……貴様がこの俺にした仕打ちを! 続いて呪文を唱えようとしたとき、邪妖精が炎を放つ! 俺は避けようとして失敗し、身体が火に包まれてしまった。 俺は慌てて身体を地面にこすりつけるようにしながら、呪文を唱えた。 「浄結水(アクア・クリエイト)!」 決して多いとはいえない量の水が宙に現れる。だが、服についた火を消すにはこれで十分だった。 ……はっきり言って、石人形(ゴーレム)と合成されてなかったら重傷を負ってるぞ……。 この呪われた身体に助けられた事は何度もある。だが、だからといって奴を許す事などできない! 俺はレゾに向かって突進した。 ……お前に言いたい事は山ほどある。 確かにお前は辛かっただろう。 生まれた時から一人闇の中、ただの一度も光を感じる事はなく。 お前の力は強大で、数多くの人々を救う事ができた。けれども、その力でお前自身が救われる事はなかった。 人々の感謝の声すら、お前にとっては苦痛だったかもしれない。 だが…………いくら俺がお前の孫だか曾孫だからといって、ほとんどだまし討ちのようなやり方で手駒にするべきではなかったんだ!! 俺は確かに力を欲していた。誰よりも強くなりたかった。 だが、こんな合成獣となってまでの力など、欲しくはなかったのに!! せめてもう少し……もう少し、普通のやり方で俺に接してくれたのならば、俺もお前を助けようと思ったかもしれないのに。 魔術勝負では、いくら合成獣である俺でも奴相手に勝ち目は薄い。 肉弾戦ならば、少しは勝機があるだろう。 そう思い、おれはレゾへと体当たりした。 そしてそのまま馬乗りになり、奴の首へと手をかけようとした。 レゾは抵抗するかのように身をよじったが、俺は手足で奴を押さえつけた。 (許さない……許さない……許さない……!!!) 激情に身を任せ、再び手を伸ばした時。 俺の耳に、呪文が飛び込む。 「風魔咆裂弾(ボム・デイ・ウイン)!!!!」 そして、爆風が襲いかかってきて……俺は見事に吹き飛ばされてしまった。畜生! 爆風が収まると、そこには怒ったような顔のリナ(心なしか顔が赤いように見えるのは気のせいか?)、ズタボロになって目をまわしているガウリイの旦那、そして頬を染めた状態でひっくり返っているアメリア、そして半壊した建物があった。 ……何が、どうなったんだ……? くらくらする頭を抑え、立ち上がろうとした時、リナの声が聞こえた。 「……ちょ〜っと来てくれるかしらぁ?」 これは……非常に危険な状態の声だ。そっちを見ると……リナの前に、おどおどした魔道士風の男が逃げ場所を探すかのようにきょろきょろしている。 その時、俺はこの魔道士が何かを知っていると直感した。逃がす訳にはいかない! すぐ側に落ちていた銀製のナイフを投げつけ、呪文を唱える。 「影縛り(シャドウ・スナップ)!」 ‘力ある言葉’に導かれ、男は硬直したまま動かなくなった。 「さ〜あ、何をしたのか、とっとと白状してもらおうかしらぁ?」 リナの言葉に殺気を感じたのか、男が彼女から目を逸らしこっちを見る……が、慌てて俺から視線を外す。 俺の眼(恐らく据わっているだろう)に恐れたのかもしれない。 「あたしの機嫌がいいうちに、何もかも喋った方がいいと思うけど?……火の矢(フレア・アロー)」 「ひいぃぃっ!!!」 リナが放った火の矢に、魔道士の顔は完全に蒼白になった。 しょせん、ザコだな。 しかし、こいつらが何をしたのか、聞き出さなくてはならない。 ……そして。 料理に幻覚剤をいれたり、夢幻覚(イリュウジョン)の魔法を使ったりして俺達の同士討ちを狙った事を知った俺達が、こいつらを半殺し……いや、本気で殺す一歩手前までにした事を責める奴などいないだろう。 結局、あのレゾはやはり本物でなかったらしい。 が、死んでいると分かっている筈のあいつを見て逆上してしまうあたり、俺もまだまだ修行が足りん。 とりあえず、一連の騒ぎの元々の原因がリナの盗賊いぢめにあったのだから、詫び代わりに何かしてもらわない事には割に合わんな。 そして俺達は、次の街を目指して旅立ったのだった。 ……あの時俺が襲いかかったレゾの正体は……知らないほうがいいのだろうな、多分。 |