リナ編へ アメリア編へ ゼル編へ 小説トップに戻る

幻惑の中に……

ガウリイ編



俺の部屋の前を見知った気配が通り過ぎ、俺は目が覚めた。
(……リナ?)
窓を見ると、まだ暗い。真夜中のようだ。
リナがこんな夜中に部屋を出た……便所か?
「……寝よう」
再び瞼を閉じようとしたとき。

ぎいぃっ……。
宿屋の扉が微かに音を立てた。

「あいつ……また盗賊いぢめかぁ?」
俺の旅の相棒である少女は、夜中に盗賊団を襲うのが好きである。
俺達の旅費がなんとかと言っていたような気がするが、よく覚えていない。
まぁ、あいつの趣味みたいなものだろう。
「しかし……万が一何かあったら、保護者失格だからな……」
俺は急いで服を着替え、彼女の後を追った。

「おー、やっとるやっとる」
俺の前方にある山のあちこちが燃え、時折火花が散っている。
まずまちがいなくリナの仕業だろう。
「この様子なら放っておいても大丈夫かな」
俺は、その辺に腰を下ろした。

……どのくらい経ったのか、よくわからなかったが。
轟音が消え、火も収まってきたようだ。
俺は近くの木に身を潜め、気配を隠した。
ここで姿を見せると、後でうるさいからなぁ……。
しばらくすると、案の定俺の前を小柄な人影が通り過ぎていった。
何やら、多くの荷物を抱えているようだ。
……あ、荷物が1つ落ちた。
この音から察するに、金貨の入った小袋といったところか。
すると、その人影は、器用にバランスをとり、落ちた小袋の紐を腕に引っかけ、そのまま去っていった。
何っつーか、あいつは金とか宝物についてはがめついからなぁ。
とりあえず俺はリナに気付かれないよう、彼女の後を追って宿屋へと帰った。

「おはようございます!」
朝食をとるために下の食堂へ降りた俺に向かって、アメリアが声を掛けてきた。
右腕をあげ、それに答える。
……リナ、まだ来ていないな。
辺りには栗色の髪の少女の姿はない。
まったく、盗賊いぢめなんかして夜更かしするからだ。
「リナ、遅いな」
あとちょっとして来なかったら、先に朝食を食べるぞ。
そんな事を俺が考えた時。

「おっはっよぉ〜っ!!!」
元気の良い声で叫びながら、リナが階段を降りてきた。
昨日の盗賊いぢめで、機嫌がいいのだろう。
思わず苦笑してしまった俺は、返事を返す。
「ああ、おはよう」
「おはようございますっ」
アメリアも元気な声をあげる。
「……」
が、ゼルは黙ったままだ。……あの日か?(笑)
ふと、リナがゼルの方を見ている。
どうしたんだろう?
と思ったとたん、リナはゼルの背後に回っていた。
「……な〜にシケた顔してるかなぁ〜?」
「うわっ!」
どんっ!と大きな音がしたと思うと、……お゛い。ゼル、テーブルに半分埋まってるぞ。
どうにか身体を起こしたようだが……テーブルに結構な数の髪の毛が刺さったままだ。
痛くないのかなぁ……?
「リナさんっ!何てことするんですかっ!」
アメリアがリナを怒鳴りつけている。が、リナには全く応えていないようだ。
「ごめん、ごめん。だ〜ってゼルがあんまり暗いから」
ぶりっ子ポーズで言っている。本気で悪いと思っていないな、こいつは。
まぁ、とりあえずゼルも生きてるようだし、いいか。
俺はメニューを見る事にした。
あ、チキンのAセットがうまそうかも。

「おばちゃーんっ!!!モーニングAセット10人前っ!あとBセット5人前もよろしくっ!!!」
あっ!俺が狙っていたAセット!!!逃してたまるかぁっ!!!
「あ、俺も同じのを頼む!」
リナだけにいい思いをさせてたまるものか。
「私はCセット3人前をお願いしますっ!」
「……」
ゼルは無言だ。
「ほらゼル、あんた何頼むの」
「コーヒーだけでいい……」
リナの言葉に、ゼルはそう答えただけだった。
……ゼルは時々、まともな食事をしない時がある。
ダイエットでもしてるのだろうか……?
「えぇっ!ゼルガディスさん、ちゃんと朝御飯食べないと身体によくないですよぉ?」
アメリアも心配している。
「そうよ、ゼル。朝御飯ちゃんと食べないと、身体がもたないわよ?」
さすがにリナも心配しているようだ。……だけど、こいつはいつも朝メシは食っていなかったような……?
……よく覚えていないから、いいか。
「……ったく、誰のせいだと……」
ゼルが呟く声が聞こえた。人生をなげたくなるようなヤな出来事でもあったのか?

「お待ちどう様ぁっ!!」
うまそうな匂いとともに、料理が運ばれてきた。
(……?)
と、リナが何となく脅えているように思えた。
視線の先を追うと……料理を運んできた男を見ている事が分かった。
……確かに、男のくせに妙にかわいいエプロンを着ている姿は変だ。
(だが、世の中にはいろんな奴がいるからなぁ……)
俺は男から料理へと視線を戻した。
出来立ての料理はあつあつの湯気をたてている。
おおっ!やはりチキンがうまそうだっ!
『いっただっきま〜すっ!!!』
皆で叫ぶと、いつもの食事が始まった。

ぱくぱくぱく……。
目の前のサラダをつつきながら、俺は密かに横の気配を探る。
よし、隙ができた。おりゃっ!!!
俺の手に握られたフォークは狙い違わず、リナの皿にあったソーセージを奪っていた。
すぐさま食う。……うまいっ!
視線を感じて横を見ると、……おぉ、リナが睨んでいる。
と、リナが俺の目玉焼きに手を出した。
ちょっと待て!……あ゛〜〜〜っ!!
だったら、こっちのベーコンよこせっ!
2〜3枚まとめて突き刺すと、リナがナイフで阻止しようとする。
甘いわっ!
俺はもう片方の手にあったナイフでリナのナイフを牽制し、フォークをそのまま口へと運んだ。
と、リナが俺のチキンに手を出した。
……やばいっ!それだけは奪われる訳にはいかないっ!!!
おれは慌てて戦闘態勢に入った(笑)。


ふと気が付くと、俺の横でチキンの取り合いをしていたはずのリナの姿が無かった。
ゼルガディスも、アメリアもいない。
食事を乗せていたテーブルも、そして食堂も他の客達もいない。
それどころか、俺の周りには鬱蒼とした森が広がっている。
(あれ……何だここは……それに、リナ達は……)

その時、俺の周囲に3つの気配が現れた。
慌ててあたりを見まわすと、そこには狩人が1人と、2匹の小柄なクマ。
そのクマを見ていると、俺は急に腹が減ってきた。
……そういや、食事の途中だったんだよなー……。

と、その時、俺の目の前に氷の矢が数多く現れた!
何故こんなことになったのかはよく分からんが、氷付けになるのは勘弁したかったのでとりあえず避けた。
しかし、狩人が狙っているくらいだから、このクマはかなり美味いのかもしれない。
よし、あの狩人を手伝って、俺も獲物を分けてもらうことにしよう。
と、クマの咆哮があたりにこだました。

(おわ!?)
今度は炎が現れた!
炎は狩人へと一直線に向かっていき、狩人は火だるまになった。
地面に転がって必死で火を消そうとしている。
慌てて助けようとすると、その身体にまとわりついていた火が消えていた。
どうやって消したんだろう!?
それに、炎を吐くクマ……こいつ、本当に美味いのか!?
しかし狩人は無言のまま側にいたクマにつかみ掛かっていく。

クマは逃げようとはしなかった。
狩人の突進を受け、そのまま……倒れ込んだ。
さすがにこの期に及んでは暴れているようだが、そこは狩人がうまく押え込んでいるようだ。
と、狩人はいきなりそのクマに食いついていった。
俺はぽん、と手を打つ。
なるほど、生で食うのが美味いのか!
……しかも生きているうちか。はっきり言って命懸けだな、こりゃ。だが、美味そうだな。

……ぐー。
腹が鳴ったその時、俺はようやくもう1匹のクマの存在を思い出した。
「おーい、こっちは俺がもらうぞ〜」
一応狩人に声を掛け、おれはぼーっと突っ立ったままのクマへと向かって行った。
俺の食欲を感じたか(笑)、そのクマは逃げようとする。
逃がすかっ!俺の朝メシっ!!!
そのまま俺は体当たりし、クマを押さえつけた。
……えーっと……たしか、そのままかぶりつけばいいんだったっけ……?
クマの両腕をこちらの腕で押え込んでいる以上、口が届くのはやはり胸のあたりだ。
できれば、ナイフでちゃんと皮をはいで食べたいんだけどなぁ。
でも、あの狩人もそのまま食い付いていたしな。
そのまま顔を埋める。

……柔らかい。

これだと、いけるかもしれないな。
ますます暴れ始めたクマを押さえるため更に力を加えながら、おれはクマを食べようとした。
クマは低く唸っているが気にしない。
それでは、いっただっきま…………。

「風魔咆裂弾(ボム・デイ・ウイン)!!!!」

俺のすぐ側で聞きなれた声が響く。
(ぐあぁぁっ!!!)
強烈な衝撃を感じたかと思うと、俺はそのまま気を失ってしまった……。


気がついた時、俺の目の前には怒り心頭に達したといった感じのリナとゼル、真っ赤な顔をしたアメリアがいた。
また、リナ達の前には恐怖におののく男達の姿がある。
「おい、リナ……何があったんだ?」
尋ねる俺に、リナが叫ぶ。
「こいつがっ!こいつらが、あたしたちにっ!」
極度の興奮状態にあるせいか、何を言っているのかさっぱりわからない。
「おい、ガウリイ。お前、今変なものを見なかったか」
リナとは対照的に、割と冷静そうな声をかけてくるのはゼルだ。しかし、その口調の中には紛れも無い怒りが含まれていた。
「変なものって……何か、突然みんながいなくなって……」
「それだ。それが、こいつらの仕業だったって事だ」
???
「何だかよく分からんが……」
俺は腰を上げ立ち上がった。そして剣を抜く。
「こいつらは、俺達の敵だ、って事だな」
「そういう事よっ!!!」
リナの叫びを引き金として、皆がその男達に襲いかかっていく。
見る間も無く、その食堂は地獄絵図へと変わっていった……。


結局……一体何がどうなったのか、俺にはさっぱり分からなかった。
リナから「あんたはどーせくらげだから」とか言われるかと思ったが、彼女は何も言わなかった。ゼルやアメリアも同様。
とりあえず、皆が消えてからの事は幻だった……ってことくらいはなんとか理解できたが。
(あれが、幻ねぇ……)
あの時感じた柔らかな感触は、とても幻とは思えなかったのだが。
しかし、誰も何も言おうとしない。ひたすらに、歩きつづける。
気にならない事も無いが……ま、いっか。
少々遅れぎみになった歩調を速め、俺もリナ達と次の街を目指した。


リナ編へ アメリア編へ ゼル編へ 小説トップに戻る