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幻惑の中に……

アメリア編



心地よい目覚めでした。
朝日が窓からそそぎ込み、鳥達の鳴き声も聞こえます。
「いい天気……」
雲一つない青空が広がる街並みを見て、私も気持ちが良くなりました。
私の正義を愛する心を、天の神様が応援してくれているようです!
「はっ!とぅっ!!!」
がちゃん。
……正義の心の赴くままに体を動かしたとたん、何かが割れる音が。
見ると、つい先ほどまでサイドテーブルの上にあった筈の花瓶が床に落ちて粉々になっていました。
……勝手に動いて落ちる花瓶……何でこんな怪しげなものが宿屋に……?
気持ち悪かったのですが、怪我するのもいやでしたので、とりあえず片付けだけはしておきました。
さぁっ、アメリア、今日も一日頑張りますっ!

「おはようございますっ!」
食堂のテーブルには、ゼルガディスさんが座っていました。
今日は随分と早いですねぇ。
いや、早起きは健康にいいんです!
身体の健康は精神の健康につながります。これ、すなわち正義!!
ようやくゼルガディスさんも、私達正義の仲良し4人組の一員である自覚が出てきたみたいですね。
すっごく嬉しいです!
「……おはよう」
あら?なんだか、声が低い気がします。
心なしか、顔色も悪い気が……岩っぽい肌ですから、元々血色が悪いと言えば言えるのですが。
いったいどうされたのでしょう?
「ゼルガディスさん?」
声をかけると、ゼルガディスさんは、
「何でもない」
って言ってそっぽを向いてしまいました。
……何だか様子が変です。
何か、私、悪い事でもしてしまったのでしょうか……?
不安になる気持ちを押さえ、私はわざと明るく声をかけました。
「具合がよろしくないんですか?」
そして、そっと私の手をゼルガディスさんの額に当てました。
……あったかい……。
石人形(ゴーレム)と合成されて石みたいになっている身体なのに、その温もりがとても気持ち良く、私は思わずボーッとしてしまいました。
その時です。ゼルガディスさんが、私の手を払い除けたのは。

「……!!」
ゼルガディスさん、怒っているのでしょうか。
……やっぱり、以前レイクドラゴンを釣りに行った時、船の錨代わりになってもらったのがまずかったのでしょうか。
それとも、私とリナさんが古代の魔法を唱えようとした時、すっごくかわいい歌になっていた呪文の歌唱練習をお願いしたのがいけなかったのでしょうか。
ひょっとしたら、以前行った女性しか入れない街に行った時、無理矢理女装させたあげく、ノリまくってメイクしたのがよくなかったのでしょうか。
ほかにも、あれとかこれとか……。

私が一生懸命考えていると、ガウリイさんが降りてきました。
「おはようございます!」
挨拶をすると、ガウリイさんは軽く手を挙げて答えてくれました。
何か、落ち着いていないようですね。
……リナさんがいないからでしょうか?
「リナ、遅いな」
あ、やっぱり。
ガウリイさん、リナさんの事、すっごく心配してるんですね。
さすがは「保護者」って言っているだけあります。
何となく、うらやましいですね。
たとえ「のーみそヨーグルトで言った事を3歩歩いたら忘れてしまう剣術バカの食欲魔人クラゲ男(リナさん談)」であっても。
……やっぱり、ちょっとイヤかも……?

「おっはっよぉ〜っ!!!」
その時、階段の方からリナさんの声が聞こえてきました。
今日も元気ですね。いささか機嫌が良すぎるので、何か裏があるのではないかとつい疑ってしまいますが。
「ああ、おはよう」
「おはようございますっ」
ガウリイさんに続き、私は元気に挨拶を返したのですが……。
「……」
ゼルガディスさん、黙ったままです。
「……な〜にシケた顔してるかなぁ〜?」
あっ!リナさん、ゼルガディスさんの後ろ頭を思い切りはたいてしまいました!
「うわっ!」
ごべしっ、と音を立て、ゼルガディスさんがテーブルに頭をぶつけてしまいました!
……いや、正確には髪の毛がテーブルに刺さってて、それがクッションになったおかげで頭はぶつけなかったようです。
でも、ゼルガディスさんが頭を上げると、髪の毛がテーブルに突き刺さったままで、抜けてしまいました。
ちゃんと生え変わってくるかわからないのに。この年でハゲるなんて可哀相じゃありませんか。
「リナさんっ!何てことするんですかっ!」
私が叫ぶと、さすがにリナさんも慌てた様子で、
「ごめん、ごめん。だ〜ってゼルがあんまり暗いから」
なんて言っています。
……確かに、ゼルガディスさん、様子がおかしいですね。
でも、リナさんに反論するでもなく、ただ無言で堪えているようです……まぁ、いいですよね。
私はメニューを見る事にしました。
あ、このCセット、おいしそう!

「おばちゃーんっ!!!モーニングAセット10人前っ!あとBセット5人前もよろしくっ!!!」
「あ、俺も同じのを頼む!」
リナさん達、今日もいっぱい食べるんですね。……2人の声を聞いて、周りの人が目を丸くしているのが判りました。
「私はCセット3人前をお願いしますっ!」
そして、ゼルガディスさんは……。
「……」
あら?まだメニューを覗いてるのでしょうか?
「ほらゼル、あんた何頼むの」
リナさんが促しているのが聞こえました。
そちらの方を振り向くと、ゼルガディスさんったら、
「コーヒーだけでいい……」
なんて言ってるんですよ!
そんなっ!朝御飯をちゃんと食べないと、大きくなれない……いや、ゼルガディスさんはもう大きいという話もありますが、とにかくっ!
「えぇっ!ゼルガディスさん、ちゃんと朝御飯食べないと身体によくないですよぉ?」
私は言いました。
コーヒーだけなんて、絶対に良くないですっ!
「そうよ、ゼル。朝御飯ちゃんと食べないと、身体がもたないわよ?」
ほら、リナさんだってそう言っているではありませんか。
「……ったく、誰のせいだと……」
ぶつぶつ呟く声が聞こえます。……やっぱり私、何かゼルガディスさんの腹の立つような事をしたのでしょうか……?

「お待ちどう様ぁっ!!」
やけに大きな声で料理を運んできた人が言いました。
心なしか声が震えているような気がしますが、4人がけのテーブルに30人前以上の料理を運べなんて言われれば確かに一歩引きたくなるかもしれませんね。
まぁ、そんな事はどうでもいいんです。とりあえず、今は、この御飯を食べるのが先決です!
『いっただっきま〜すっ!!!』

そして、パクパクと食事を食べていた時です。
あ……あれ?
急に目の前が暗くなったかと思うと、私は街の中にいました。
つい先程まで、宿で朝食を食べていた筈なのに……。
しかも、気が付けば、私の格好が変になっていました。
羽根飾りの付いた帽子、ぷくぅっと膨らんだ派手な色のちょうちんブルマー。
腰に差した剣に、肩から流れるマント。
いわゆる、典型的な「王子様ルック」ってやつですね!
これで白馬がいれば完璧なのですが……いやいや、そんなことを考えている場合ではありません!
(一体ここは……?)
そう思っていた私の目の前に、3つの人影が現れました。

1人は、青い髪の美人なお姫様。
残りの2人は、いかにも悪党!って顔をした人達でした。
これは……お姫様が悪人に追われているという、お約束のパターンですね!
という事は、ここは正義の味方である王子様がお姫様を助けなければ!
ん〜っ、何ておいしいシチュエーションっ☆
はっ!馬鹿なことを言っていないで、早く姫を助けなければ!
待っていて下さい!今、この正義の使者アメリアが姫をお助けいたします!!

そう思って勇ましく駆けつけようとしたとき、突然目の前に氷の矢が!!!
慌てて身を捻ると、なんとか避けることができました。
どうやら、お姫様が身を守るために呪文を唱えたようです。
……けど、私まで攻撃するとは……きっと、恐怖のあまり敵味方の区別が付かないのですね!
「姫っ!私は味方ですっ!ご安心下さいっ!!!!!」
けれど、その声が届いているのかいないのか、彼女は動こうとはしませんでした。

その時、先ほどのお返しとばかりに悪党の1人が炎の呪文でお姫様を攻撃!
あぁっ!お姫様に命中しちゃったぁっ!!
彼女、地面を転げまわって苦しんでいます!早く助けなければ!!
慌てて私が近付こうとすると、お姫様の服に燃え移っていた火が消えました。
……一体どんな技を使ったのでしょうか。
いやっ!きっと、正義を愛する心が炎を消したんです!……あれ?正義の心って燃えているんですよね……?
ま、まぁ、とりあえず無事みたいですから、今度こそこのアメリアが助けなければ!
待っていてくださいね、姫!

そして、私がお姫様に近付いていった時。
いきなり、彼女が私に飛びついてきました!
そんなに怖かったのでしょうか。
いえ、でも大丈夫。この正義の使者アメリアが来たからには、あなたを必ず悪の手から守ってみせます!!
……って、あの、そんなに勢いよく飛びつかれると、私もちょっと……、あの、で、……あぁっ!バランスが保てないぃっ!!!
そのまま私はお姫様に馬乗りされた格好で倒れ込んでしまいました。
(重たいなー。ちょっと上からどいてもらいたいのですが……)
そんな私の重いとは裏腹に、彼女、全然動いてくれませんでした。
それどころかっ!!
私に、顔を近づけてきましたっ!!!

えっ!?あのっ!?
ちょっと、この体勢はやばいのではないでしょうか。
まだ悪党がそこにいるのに、こんな事……ではなくてっ!!!!
女同士でこんな事をするなんて趣味、私にはありませんし……あ、でも今の私の格好は王子様ルックですから男に見えても仕方がない……じゃなくてっ!!!
出会ったばかりでこんな事は駄目でしょうやっぱり最初は健全なるおつきあいから……でもなくって!!!
私は女の人とこんな事したくないんですぅ〜っ!!!!
バタバタ暴れる私を押さえつけたまま、お姫様の手が私の顎へと寄ってきます。
あぁこのままではイケナイ世界に入ってしまいます!
誰か、誰か助けてぇぇっっ!!!!!!

その時、天に私の願いが通じたのか、
「風魔咆裂弾(ボム・デイ・ウイン)!!!!」
‘力ある言葉’が響き渡り。
……私達は吹き飛ばされて、意識を失ってしまいました。

……気がつくと。
心底いやそうな顔をしたリナさん、ボロボロになって気を失っているガウリイさん、そして同じくボロボロになっていて苦しそうな顔をしているゼルガディスさんの姿と。
そして、ほとんど瓦礫と化した建物が、私のまわりに広がっていました……。

何が起こったのか、良く分かりません。
ただ、リナさんが宿の人を締め上げたところ、朝食の中に幻覚剤が入っていたとか魔術師が幻覚(イリュウジョン)の魔法を使ったとか何とか。
……何故私達がそんな目に会わなければいけないのか、私にはさっぱり理解できませんでしたが、とりあえず人の食事に薬を盛るなんて、言語道断の悪です!
私達は宿の人達を捕らえてお役人さんに裁きを与えてもらう事にしました。

とりあえず判った事は、幻覚の薬と魔法の影響で、リナさん達が別の者に見えたらしいという事でした。
あの時、他の皆さんが何を見て、どんな事をしたのか、誰も何もおっしゃいませんでした。
私も、何も言いませんでした。
あのとき私を押し倒したお姫様……彼女がいったい誰なのか……考えたくなかったのです。
よし!さっきの事は夢です!そうに違いありません!だから、私が気に病む必要なんて全くないのです!!
無理矢理自分に言い聞かせると、私はリナさん達と次の街へと旅立つ事にしました。


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