戯言トップに戻る ごみ箱に戻る

とある昼食時の悲劇

1998/08/26



 私が勤めている会社の食堂は、割と色々なメニューが揃っている。基本メニューは1週間を周期として日々変わっているし、定食や値段の高いおかずは周期などなく変化していく。まだ時折、何とかフェアとか言って、普段とは違ったメニューが組まれることもある。
 最近の私のお気に入りは、ツナおろしスパゲッティ。冷たい麺の上にツナと大根下ろしとハムとしそが乗っていて、それに醤油風味のたれがかかっているものである。暑い夏にぴったりなメニューである。値段は約290円也。
 しかし、ごくたまに変なメニューが組まれることもある。大抵の場合それは新商品であり、1回メニューに並んだ後姿を消すのが常である。だが、1度だけ悲惨な事があった。
 当時の(いや、今でもあるのだが)人気メニューの1つに、「カニ玉」があった。ご想像の通り、カニを玉子で閉じたものに中華あんがかかったものである。この料理がメニューに並んだ日には、その他のおかずの売り上げが半減していたのではと思われるほど、皆がそれを注文していたのだ。
 カニ玉がメニューに並んだある日のこと。私は大抵5人で昼食を取っていたのだが、その日は私を覗いた全員がカニ玉を注文していた。さすがに5人全員がカニ玉を食べている姿は不気味かと思い、その日はカニ玉を諦めうどんを注文した。
 皆が「カニ玉にしなかったんだ〜」と私に言い、虚心故にメニューを変えたことをほんの少し後悔したが、トレイにうどんを載せた状態でいまさらどうしようもなかった。私達は空いている席に着き、早速食事を開始した。
 その時のことである。1人が、「からい!」と叫んだのは。
 すると、次々に皆が「これ、からい」と言い始めた。試しに私も1口もらって食べてみたが、とてつもなく塩辛かった。どう考えても、塩の分量を間違っているとしか思えなかった。
 そのカニ玉は、うちの食堂で作られたものではない、と思う。多分どこかで買ってきたものを温めて出しているのだろうから、食堂のおばさんに責任はないだろう。しかし、カニ玉以外におかずを注文していなかった者達は、カニ玉もご飯も食べられず、また誰を責める事もできず、非常に悔しい思いをした事だろう。事実、一人うどんをすすっていた私に対する皆の視線がちょっぴり冷たかったのは私の気のせいではあるまい。
 そして、その日は、カニ玉を注文した人のほとんどは半分以上残す羽目になった。この世界にはろくに食べる者もなく苦しんでいる人達が決して少なくないのだから、あまりといえばあまりの所業かもしれない。皿の上に大半が残ったまま回収されていくカニ玉に、私は哀愁を感じずにはいられなかった……。
 とりあえず、その日は売店のパンやおにぎり、そして飲み物が数多く売れたようだった。そして、人気商品であったカニ玉は、その後半年ほどメニューから姿を消したのだった……。


戯言トップに戻る ごみ箱に戻る