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とにかく火気厳禁!

1998/08/22



 今日は朝早くから、電動芝刈機の音で目が覚めた。どうやら、私の家の裏にある山の木を切り倒しているらしい。時計をみると、まだ6時だった。何でこんな朝早くから騒音を撒き散らすのだ、と思ったが文句は言えなかった。
 本当の事を言うと、6時という時間は私にとって特別早い時間という訳ではない。普段は6時前に起き、6時半には家を出て会社に向かっているのだから。ただ、一日の3分の2を会社で過ごすことの多い私は、貴重な休日くらい朝寝をしたいのだ。
 そんな訳で今日は朝から非常に眠たい。やはり、自然に目が覚めるまで寝ておきたいと思うのは決して私だけではないと思っている。
 それを痛感したのが3ヶ月前の出来事。真夜中に、家のチャイムが鳴り響いて目が覚めたのだ。虚ろに目を開けた私の耳に聞こえたのは、近所を駆け回っている(としか思えない)複数のうるさい足音。そして、パンッ、パン!!という音。ただ事ではないのは一瞬で悟った。人の走る音、パンパンと響く音……私は、誰か拳銃を持った奴が発砲しながら逃走しているのではないかと思った。
 「そんな冗談みたいな事が」と思われる方もいるかもしれない。けれども現に十数年ほど前には、うちの近所である男が日本刀を振りまわして人を切りまくったという悲惨な事件が発生している。いくら私の家が田舎にあるといえど、決して事件が起こらない訳ではないのだ。
 そんな訳で、我ながら薄情だと思ったが、うちの父親(と思われる)が慌てて家を飛び出していく音を聞きながら、私は布団の中から出ようとしなかった。……命が惜しかったのだ(笑)。しかし天の神様はそんな事を許さなかった。母親が私をたたき起こしたのだ。そして話を聞いたところ、「裏山が火事よ!!!」。私は一瞬で飛び起きた。
 私の家は、山のすぐ側にあり、しかも遮るものなど何もない。はっきり言って、火がちょっとこちらに向かうと、私の家まで巻き添えをくらうのだ。それは困る……と私は思った。やはりパニックを起こしていたのか、考えていたのは(机の中のへそくりと預金通帳は守らねば!)(せっかくゲームでパーティを鍛え上げたのに、それがパーになる!!)(千冊以上はある本、むざむざ燃やしてたまるかぁっ!)といった、くだらない事ばかりであった。
 とりあえず私は、パジャマ姿のまま家を飛び出した。すでに人は10人ほど集まっていた。燃えていたのは私の家から約50mほど離れた山の中。竹が燃えた時に「パン、パンッ!」とうるさい音を立てるので発見が早く、火は7m四方ほどにしか広がっていなかった。
 皆、家からバケツを持ってきており、水を汲んでは火にぶっかけるといった作業を繰り返していた。もちろんそんな事で火が消える筈などないのだが、せめてこれ以上燃え広がるのを防ごうとしていたのだ。水は、私の家からホースを伸ばし、現場から30mほどのところから汲む事になった。ただ、水源は2つしかなく、水もなかなか溜まらないので皆焦っていた。
 消防車が到着するまでの時間が、何と長く感じられた事か。実際、通報から到着まで15分はかかっていた。しかも現場の横の道が細かったため、消防車は手前に車を止めており、ホースをたくさんつながないと届かなかったため、到着から更に数分待たされる事になった。だが、ホースがつながれるとさすがに消防車の威力はすさまじく、わずか1分で鎮火された。
 その後、警察や消防隊の人達から色々質問を受けたりしたので、結局落ち着いたのは明け方の4時だった。もちろん次の日(いや、その日というべきか)も仕事があったのだが、2時間しか睡眠時間は残されていなかった。僅かな時間を寝たところで、余計に身体が疲れるだけと思い、私は残りの時間を読書に費やした。
 そして仕事に行った。体調はもちろん悪かった。休み時間は机に突っ伏して寝ていたが、それでも足りず、早退して1時間ほど早く家に帰った。帰り道、傾きかけた陽の光が眩しく、目を細めるたびにそのまま目を閉じて眠りにつきたくなる衝動を押さえるのが大変だった。家に帰ると、着替えをする間も惜しく、そのままベッドに倒れ込んでしまい、そのまま次の日の朝まで私は起きなかった。……12時間眠ったためか、次の日の目覚めは最高だった。
 結局、あの火事は放火らしい、という事に落ち着いた。犯人が判らない以上、落ち着いたと言えるかどうかは疑問なのだが、とりあえず平和が戻ったといえるのだろう。
 ただ、こんな事が二度と起きないよう、裏山の木を切り倒す事になった。1度には無理なので、時々行っているようだ。そういうわけで、(お願い、せめて8時過ぎからにして……)という私の祈りも届かず、今日も今日とてうるさい音が鳴り響くのだった。


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