今月のトピックス

 

 January ’03

1/18(土) <響き>再発見! 弦楽器と打楽器、その響きと魅力

 前日、名古屋で用事あり、そのまま、名古屋に宿泊、翌朝は久々に芸術文化センターのアートライブラリーにて、いろいろ調べもの。ドビュッシー、グリーグ、プロコフィエフのピアノ作品のCDを聴きつつ、楽譜も確認。近代的なハーモニーの秘密、が最近気になっていたので。美しい不協和音への愛好、ジャズやら、サティ、坂本龍一から続く私の趣味でもある。恥ずかしながらドビュッシーは今まで比較的縁遠く、今回始めて、前奏曲集全曲を聴いたが、凄い衝撃。こんな美しい、また、(一部は)ユーモラスな作品、知って幸せ。今更だけど。また、グリーグが、意外と、当時としては、前衛的な和声感覚の持ち主で、フランス近代に与えた影響も大きく、また、晩年の民俗的なピアノ作品(「スロッテル」という作品)が、バルトークに影響を与えたことももっと知っておいて良さそうだ。
 昼過ぎて、これまた、久々に名古屋の東隣の長久手町へ。地下鉄の終点まで行って、そこからはバスで。大学4年の夏過ぎ、就職活動も一段落したあと、県立芸術大の作曲科の学生に和声と吹奏楽のオーケストレーションを教授頂くべく、長久手の奥のほうまで通ったっけ。自作の作品ができるたび、数ヶ月間通った。その際の課題として、ドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」や、「ケークウォーク」などアレンジしたりもした。さて、その我が恩師も、卒業後どうしたかは、知らず。その、芸大がある長久手町、豊臣・徳川の古戦場としても有名だが、2005年の万博、すったもんだの中で、主要会場となって、工事も急ピッチ。慌しく、また、渋滞の街ともなっているようだ。
 そんな、長久手町の文化の家、にて、表記の通りのコンサート。県芸大の教授で、元N響打楽器奏者の今村三明氏の企画・司会・演奏によるものということで、はるばるやって来た。演奏を聴く、よりは、お話を聞く、方に重点あり、また、興味深い実験もとびだし、また、ダジャレの連発もまた楽し、2時間半の長丁場ながら、飽きさせない、今村さんの本領発揮といったステージだった。曲目は以下の通り。演奏は、今村さんとそのお弟子さんの打楽器奏者、さらに、県芸大関係の弦楽器奏者の方々。

ソウル・グッドマン  バラード・フォー・ザ・ダンス(4台のティンパニとシンバルのための独奏曲)
ソウル・グッドマン  ティンピアナ(ティンパニとドラムセットの二重奏曲)

モーツァルト     アイネ・クライネ・ナハトムジーク
モーツァルト     セレナータ・ノットゥルナ

(アンコール)

バッハ        G線上のアリア
フィリドール     2台のティンパニのためのマーチ

(2003.1.19 Ms)

 まずは、今村さん颯爽と登場。小太鼓、ゆっくりと二つ打ち、そしてロール、フォルテからピアノ、もう一度盛り上げて、華やかなドラムマーチそして、二つ打ちに回帰。
 軽い演奏のあと、自己紹介。最初に、会場の雰囲気を和らげるよう、と、みんなで一本締め。これ、打楽器の基本です、と。タイミング合わせ、皆さんなかなかのものです、とおだてつつ。さらに、難しい音楽用語のイタリア語の話、として、「あの壁、何色だい?」「あれ、グロ」「あんだんて?」などと、軽くジャブ、年を召した方々の反応のいい爆笑。今のは速度のイタリア語。強弱のイタリア語を説明しながら、タイミング合わせだけでなく、ピアニッシモ、からフォルティッシモへの音量変化も演奏をやりましょう。指一本から五本まで、段階的に3・3・7拍子。で、「おめでとうございます!!」

 と、雰囲気を作って、まず1曲。緩やかで、ソフト・マレットを使った部分、そして、木バチで、サスペンデッド・シンバルもジャカジャカ鳴らす中間部。そして冒頭の回帰。バチによる音色の違い、わかりましたか?と。ここから、ティンパニに関するレクチャー。ざっと以下の感じです。
 今年なにどし?子供が素直に、ひつじぃぃ!と。何て鳴く?めぇぇぇ。うん。じゃ、羊年にちなんで、「うん、めぇぇ」といきましょう。と、ティンパニでジャジャジャジャーン。ベートーヴェン「運命」第1楽章のパッセージ。でも、この交響曲、珍しく、楽章と楽章が、休みなく続くんです。3,4楽章のブリッジで、今のジャジャジャジャーンのテーマが、かすかに、ティンパニのソロで奏でられます。まずは、ソフト・バチ。でも、ちょっと聴き取りにくいかな。じゃ、もっと固めのバチでどうか?次は、ウィーンフィルの使うバチで。チョット強烈な響きかな。今村さんが、N響で使ったのは、このバチ。楽器の特性、ホールの特性によって、いろいろバチを替えるんです。これから、オケ聞く時は、こんなことにも気をつけてみたらおもしろいでしょう。
 ベートーヴェンに続く、交響曲作曲家といえば???そう、ブラームス。彼の1番は、20年以上かけて、念入りにかかれたもの。その冒頭は、C(ド)の音の連続。これも、バチによってこんなにかわるんですよ。
 それでは、ティンパニ大好きな作曲家は???ベルリオーズじゃないかな。まず、「ベンベヌート・チェルリーニ」序曲。3台のティンパニ、3人で1個づつ担当。こんな発想、誰もしません。続いて、「幻想交響曲」第4楽章。遠雷の描写は、4人で。さらに、「レクイエム」12人も!!最後の審判の場面。N響で日本初演した時は、今村氏も出演したとのこと。
 響き、の話に戻りましょう。その響きを止めたらどうだろう。やはり、ベルリオーズ。「幻想」続く第4楽章。ギロチンに向かう行進の足取りが、こんな具合。特製の布切れを置いて音の響きを止めた音。不気味な雰囲気をだそうとしたんだろうか。マーラーの1番、第3楽章の冒頭も、葬送の足取りの重さは、このミュートされたティンパニの響きです。
 さらに、ティンパニ好き作曲家、ストラビンスキー。「春の祭典」いけにえの讃美。「火の鳥」カッチェイ王の魔の踊り。木バチの強烈なバチバチいう音。特に「火の鳥」の例、フェルトのバチとの差が歴然でしょう。

次は、小太鼓編。(2003.1.26 Ms)

 続いて、小太鼓のいろいろな奏法。
 小太鼓の活躍する曲といえば・・・・やはりラベル「ボレロ」ですね。同じリズムを延々160回あまり。それも少しづつクレシェンド。気の遠くなるような曲です。今村さんもN響で何度も演奏されたそうですが、指揮者のすぐ前、でやらされることもしばしば。この最初の最弱音の叩き方。指揮者によっていろいろ注文もある。普通にバチで叩く、とこんな風ですが・・・・。爪で叩いてみたり、コインで試したり。こういった場合は途中で控えの奏者にやらせてバチを持ち替えとなります。私の感想としては、爪はなかなか均等に叩きにくい。コインは音もしまった感じで随分良し。その他、片手で叩くという酷な要求も(サバリッシュでしたか?)。これはかなり大変。左右の音の違いが気になるとかで。あと、フランスの奏者から聞いた奏法として、最初は、バチの一番あたまの部分を持って、やや押さえつけるような方法で。音量を大きくするにしたがって、じょじょに叩きながら長く持ち、通常のスタイルに移行する。これはスマートな方法といえる。
 さて、小太鼓の構造上の特徴として、小太鼓を小太鼓たらしめているのが、裏面にはられた響き線。これをはずした響き。結構カッコ悪いですね。和風。大相撲の始まりのような。この響きを好んで取り入れたのが、バルトーク。「管弦楽のための協奏曲」第2楽章。さらに、「2台のピアノと打楽器のためのソナタ」では、鼓面の中央と端を叩き分けるという指示もあります。微妙な響きの差、ここまでこだわったのは、バルトークが始めてでしょう。ただ、この響き線をはずした響き、皆さんも、馴染んで聴いているはず。特に、今日おみえの方、年配の男性も多そうですが、・・・・と言いつつ、響き線なしの楽器で、リムショットもいれつつ、器用にルンバなどミディアム・テンポのラテン・リズムのパターンを・・・・さらに「チョットだけよォ」などとオチも喋って会場爆笑。おじ様方、お楽しみの際にも、響き線なし小太鼓はバックで鳴り続けていたのでした。

(2003.2.8 Ms)

 その他、打楽器からは離れていろいろお話。ホールの響き。ベルリンフィルのホールは最高なのだが、でも一夕一朝に出来たわけではない。ステージの高さの調整など(今見ると、指揮者が下の方から出てくる作りだが、ステージの高さを途中で何度も変えた為という。)試行錯誤の後、今の素晴らしい響きがある。東京サントリーホール。こけら落としは最悪。とにかくステージにいて他の奏者の音が聞こえず苦労したという。ステージ上で、オケ全体の把握が出来ないのが奏者にとっては致命的欠陥のホールになる。しかし、今ではサントリーも改善されている。名古屋の芸文はいかに。響き過ぎ。やややりにくい。
 その、話の流れから、後半、弦楽器の特集では、いきなり冒頭、反響板なしで演奏開始。私の個人的感想としてはやはり、音の密度、というのか、音の密集度・集中の度合い、が低く感じられ。こんな試みは始めて経験だったのだが、続けて反響板を下ろしての演奏があり、反響板の効力が、あるなし聴き比べてよくわかる。
 弦もいろいろ実験。G線上のアリア、ヴィブラートなしではどうか。あと、アイネ・クライネを題材に、アルコの変わりにピチカートでやったら?ベタ弾き(テヌート)VS、飛ばし(スピッカート)。上げ弓ばかりVS、下げ弓ばかり。などなど、聴き比べ、見比べ。奏者を困らせる無理難題も。
結構、笑える場面も多々。ただ、興味深かったのは、個々人が好き勝手にボウイングを決めて演奏すると、見た目も笑えるが、やはり、アンサンブルの乱れが気になる(ワザと、下手さを強調したのかもしれないが)。合わせにくさは、視覚的にも明かで、大事な事と再認識。
 最後は、弦とティンパニによる作品で、セレナータ・ノットゥルノ。2群の弦楽合奏とティンパニだなんて、バルトークを150年先取りしたかの発想。一度生で聴きたかった作品の一つ。おおいに満足である。第1楽章、弦のピチカートの背後で、弱奏のティンパニのリズム・ソロが聴かれる。いい雰囲気だな・・・・・。ただ、第2,3楽章でのティンパニの存在感が希薄なのが楽曲上、残念だけれど。
 アンコールは、G線上のアリア、ヴィブラート付きで。さらに、ティンパニの二重奏(2台づつ)で、フィリドールのマーチ。何でも、バロック時代にベルサイユ宮殿で演奏されたものらしい。実用的な近衛兵の行進曲ということか?二人の奏者が、それぞれ、GとC、そしてEとGの音に調律、延々、ハ長調の主和音の鳴り響く単調なものながら、リズムの掛け合いは、なかなか面白く楽しく聴けた。

 オケの演奏を聴く・見る際、打楽器のバチの選択や、弦楽器の奏法のいろいろなども注意していただければ、さらに面白く感じられると思うので、また今日のことを思い出していただければ、という最後の今村さんのお言葉。こういう試みによって、皆さんの音楽への興味も深まるでしょうし、打楽器への関心も高まるのでは。帰り際、今村さんの今日のお話のレジュメまで用意され、今回のこの記事でも多いに参考とさせていただいた。彼の熱意、心配りには感銘。
 そう言えば、私の高校時代、NHK−FMの平日朝のクラシック番組のゲストとして彼が出演、今回と同じような話も含め、打楽器の裏話など興味深く聞いていた思い出と重複。マーラーの交響曲第3番冒頭の大太鼓の深遠なソロや、かたや、モーツァルトのドイツ舞曲「そりすべり」の音程付きの鈴など、も当時の私に響くものがあり、彼との出会いが、私の血肉になっていることもあって、今回の機会は個人的な幸福感をも感じさせた。そのFM番組でも紹介された、ノットゥルノ、およそ20年の時をひとまたぎ、私の心に響きわたったのだ。

(2003.3.4 Ms)

 


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