ホルスト

日本組曲 作品33

 もう、一発屋と呼ばないで!シリーズ第1弾

 「惑星」で超有名な、ホルスト。この1曲だけで、音楽史上に名を残しているように思われている。しかし、これだけの名曲を書き上げる力があったのだから、他にも素晴らしい曲があるに違いない。弦楽器奏者なら、グリーンスリーブスの引用で知られる弦楽オーケストラのための「セントポール」組曲。管楽器奏者なら、有名クラシック作曲家による貴重なレパートリー、吹奏楽のための組曲が2曲。この辺りが妥当な選択だろう。

 が、ここでは、意表をついて、「日本組曲」を紹介しよう。「惑星」とは違って、10分ほどの小品だが、作品番号でいけば、「惑星」の次の作品となる。実際には、「惑星」作曲の途中に、日本人ダンサーの委嘱によって書かれたらしい。その女性ダンサーが、日本民謡を歌って聴かせ、ホルストがそのメロディーをもとに作曲。ねんねんころりよ、の子守唄も、少々音程が外れて登場する(桜の木の下の踊り)。ダブルリードを主体としたオーケストレーションが雅楽を思わせる、儀式の踊り・・・。「水星」の中間部と同じ発想で、短い旋律をオーケストレーションを変えて繰り返す、人形の踊り・・・。しかし、特筆すべきは、序奏である。メロディーは確かに、日本風だが、ハーモニーが、いわゆる日本的な五音音階に基づかない現代的な感覚で、違和感を覚える。しかし、慣れてくると何とも心地よかったりする。長調と短調をさまよい、落ち着かない浮遊感を味わううちに、宇宙的な広がりさえ感じてくる。第1次大戦中の話だ。一般的なイギリス人にとって、日本の存在はまだ遠く、宇宙の彼方と同じぐらいの距離感を感じていたのだろうか・・・(単に、「惑星」用のネタを流用しているだけのような気もするが)。

 当時のヨーロッパは、浮世絵の大流行を始め、ジャポニズム全盛の時代だった。音楽界も、「蝶々夫人」は言うに及ばず、ストラヴィンスキー、ラベル辺りも日本、または中国を題材とした作品を残している。そんな中、生で日本の民謡に接して書かれたこの作品は、他の作品に比べれば随分、誤解に陥らず、想像にまかせずに、日本らしさを伝えているのも確かだ。日本人としてもっと、大切にしたい、聴いてもらいたい曲である。

 なお、日本音楽界の重鎮、伊福部昭の10代の作品にも「日本組曲」があるが、日本人にとっては、日本的素材がそのまんま日本的に扱われすぎで聴いていて恥ずかしい気もする。ホルストの方が、洗練されていて聴きやすいかも。最近、国内版のCDも出たようだから(「惑星」とのカップリング)、是非聴いてみては?

(1999.2.16 Ms)


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