アルヴェーン

スウェーデン狂詩曲第3番 作品47

 北欧の大作曲家と言えば、ノルウェーのグリーグ、フィンランドのシベリウス、デンマークのニールセン、あたりは常識としてすらすらと名を挙げることが出来るでしょう。しかし、北欧最大の国力を持つスウェーデンはどうでしょうか?作曲家を一人挙げようにも、ちょっと戸惑うのではないでしょうか?
 今回紹介するのは、その空白を埋める作曲家、アルヴェーン(1872−1960)です。シベリウス、ニールセンより7年年下なだけであり、いわゆる現代的な難解な作風ではないので安心を。彼の代表作は、何といっても「スウェーデン狂詩曲第1番・夏の徹夜祭」です。文字通りお祭り気分の楽しい作品。あのシンセサイザーの大家、富田勲氏の作曲家としての最大?のヒット作「今日の料理(ご存知、NHK教育の長寿番組)」と、かなり似ているメロディーラインは一度聴いたら忘れられないでしょう。超個人的思い出としては、小学校の頃、午後9時前のNHK「名曲アルバム」で初めてこの作品を知り、大変気に入ってすぐさま全音ピアノピースの安いビアノ譜を購入し愛奏したものです。偶然テレビをつけっぱなしにしていると「今日の料理」のテーマ音楽が聞こえ始め、似てるな!と一聴にして思いました。ちなみに「今日の料理」も打楽器奏者である私は木琴の重要なレパートリーとして愛奏しております。

 さて今回は、その第1番は「隠れ」てはいない、堂々たるポピュラー名曲なので当然取り上げず、第3番を紹介しましょう。
 狂詩曲(ラプソディー)は自由な形式によるため、テーマの展開方法といった、ペートーヴェン、ブラームス的な作曲技術を楽しむ必要は無いわけです。次々と現れては消える楽想に身をゆだねて、難しい理屈なしに音楽そのものを楽しめばいいのです。
 冒頭のソプラノ・サックスの悲しげな独白から何と心に染みることでしょう。続く、ほのかにグリーグを想起させる、優しく無邪気な(そして、めまぐるしい転調がちょっと滑稽な)軽快な2拍子の舞曲。さらに、ドとソの空虚5度の通奏低音の連続が民族的な素朴さをかもし出す、スキップリズムにあふれた楽しい3拍子の舞曲。そして、曲想はガラリと替わり、緩やかに切々と嘆き節を歌うエレジーを経て、曲は急速な3拍子の短い旋律を繰り返しつつテンポをどんどん上げて切迫感に満ちたクライマックスへと導かれてゆきます。その頂点で一気に勢力は衰え、冒頭のソプラノ・サックスが再現し、静かに曲は閉じられます。
 20分ほどの全曲を通し、やはり北欧の他の大家と同様、一種の冷たさのようなものは持続して感じ取れます。

 この曲(あるいはアルヴェーンの作品)のポイントは、美しい旋律、そしてまた、美しく、幅広く、表情豊かな管弦楽法の冴え、だと思います。例えは悪いですが、仮にニールセン「北欧のマーラー」であれば、アルヴェーン「北欧のリヒャルト・シュトラウス」と考えていいかもしれません。とにかく、純粋に無心に音楽を楽しめるわけです。このあたりが、評価の低さ、知名度の低さなのかもしれませんが・・・・。しかし、何かにつけ頭でっかちになりがちな20世紀の音楽の中で、彼の作品は一種、オアシスのような位置にあるようにも思います。もっと知られて良い作曲家だと信じています。

 私自身、まだまだ彼の全体像は把握できていませんが、他のお薦めとしては、北欧ヒーリング・ミュージックの代表作の一つ、「グスタフ=アドルフ二世」からのエレジー。そして、女性と男性の歌手によるボカリーズ(母音唱)を主役にした交響曲第4番(通称、シンフォニア・エロチカ!性的交響曲とでも訳すのか!確かに男女が、アー、アーと呼び交わすのは妖しげであった)を挙げておきます。
 最後に、ちなみに彼は画家としても大成しているとのこと。色彩的な管弦楽法は北欧の他の大家をしのいでいる、とも言えます。ただし、あまり作品に文学的、哲学的なものは反映してないのかもしれません。やはりそこに日本での評価の低さの最大の理由が潜んでいるのかもしれません。

 付記・・・私の昨年の新婚旅行での話。コペンハーゲンのとある楽譜屋で、ミニチュア・スコアのコーナーに表紙が破れシミのついたこの「第3番」の楽譜を見つけました。値札も無く不安でしたが珍しさもあって購入したところ店員さんが、半額でいいよ、と言ってくれました。500円程度で手に入ったのです。最近、「第1番」も日本の輸入楽譜屋から取り寄せましたが、3,000円以上です。あーぁあーぁ。

(1999.3.21 Ms)



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