クラミ

海の情景

北欧の知られざる作曲家をたずねて シリーズ第1弾

 ウーノ・クラミ(1900−1961)はフィンランド出身の作曲家です。フィンランドと言えば、どうしてもシベリウスばかりが脚光を浴びていますが、シベリウス以降、フィンランドから数多くの作曲家が輩出しています。そして、わかりやすく親しみやすい作品も少なからず存在します。その中で、クラミの作品は、20世紀前半の音楽を愛する人にとって、「お宝」の宝庫と言えましょう。

 北国フィンランドの作曲家と言えば、つい、シベリウスの特徴、弦楽を主体とした静謐なサウンドが聴かれるのかな?と期待してしまうのですが、見事、その先入観は打ち破られることでしょう。当時の国際的な音楽シーンにもろ影響されたクラミは、ラベル、ストラビンスキーじこみの、色彩色豊かなオーケストレーションを駆使して、フィンランドを表現しようとしたのです。

 今回紹介する「海の情景」は彼の代表作であり人気作のひとつ。彼の愛した海をいろいろな側面から描写した、6曲からなる組曲。「霧の朝」「見捨てられた3本マストの船」あたりは、ドビッシー的な印象派サウンドを堪能できます。「キャプテン・スクラプチナット」では、ファリャを思わせるスペイン風な楽想が、私たちの耳を楽しませてくれるでしょう。そして問題の終曲。誰がどう聞いても、ラベルのボレロ。確かに、ショスタコの交響曲第7番や、吹奏楽ファンならご存知の兼田敏の「交響的音頭」(一応、私は兼田先生の孫弟子である)が、ラベルの発想を真似している。「水戸黄門」や大河ドラマ「武田信玄」がリズムを真似している。しかし、クラミの場合は、そういった方法論ではなく、旋律の動き、そしてオーケストレーションを真似てしまい、一聴にしてバレバレで、盗作ギリギリの感が強い。パリから遠く離れたヘルシンキで1931年に初演され、きっとラベルは知らなかったとは思うが、知ったらそれこそ、小林亜星じゃないが、著作権侵害で訴えたのかも?この部分だけでも聴く価値はありそうです。

 その他、彼の代表作「カレヴァラ組曲」第1曲「大地の創生」は、「春の祭典」を下敷きにしており、第2曲「春の息吹」は、「火の鳥」のある一節を思い出させます。そうかと思えば、弦楽器とピアノのための「ピアノ協奏曲第2番」では、その編成が示すとおり、ショスタコの1番のピアノ協奏曲の影響を思わせ、特に終わり方は、思わず吹き出すほど、雰囲気が似ています。
 きっと、すべての作品が何かに似ているという訳ではないでしょうが、彼はよっぽど他人の影響を受けやすいタイプだったのでしょう。オリジナリティーが無い!なんて批判せずに、この曲のもとネタは何かな?と考えながら聴くのも楽しいと思います。
 国内版CDはまだ少ないようです。私の入手したのは、フィンランド独立80周年記念企画、フィンランディア・レーベルの「ウーノ・クラミの個展」2枚組。ここで紹介した曲はすべて入ってます。あと、ナクソスからも出ているようです。来年の生誕100年は、派手にお祝いしてあげたいなぁ。

(1999.2.20 Ms)


 

「隠れ名曲教えます」へ戻る